罪深き都
※胸糞注意です
『まだこんな所に残って居たのか! さあ、もう大丈夫だ。皆出ておいで』
「…………!」
ダンがそう異種族共通語で話し掛けると、奴隷の少年少女たちは、恐怖で身を寄せ合いながら檻の隅に固まる。
そのほとんどが獣人族だが、見たことがない、額に第三の目のようなものが付いた種族も見られた。
しかしそのどの子供もガリガリに痩せこけ、ダンは痛ましい気持ちで見つめていた。
『大丈夫、私は敵じゃない。君たちを助けに来たんだ。イシュベールという名前に聞き覚えはないか?』
「…………!」
「イシュベール! イシュベールが来てくれたの!?」
ダンがそう名乗ると、その第三の目を持った少年が声を上げた。
『そうだ。私は皆からそう呼ばれている。だから君たちの味方だ。一緒にここから逃げよう』
「イシュベール……本物だったら助けて! この子が、この子がひどい怪我なの!」
『なにっ?』
ダンはその子供に懇願されて、檻の鍵を無理やりねじ切ったあと、中に入る。
するとそこには、両手両足の骨を砕かれて、舌を切り取られて虚ろな目でパクパクと口を開いている、少女の姿があった。
『なん……だ、これは……!? 酷すぎる……何処かで大怪我したのか!?』
「ううん、違うの……この子、獣人の子たちのリーダーみたいな感じで、他の子が叩かれてるのを見て、庇ったり反抗したりしてたら生意気だって……」
『見せしめだというのか……!? 子供相手になんと惨いことを……!!』
ダンは久方ぶりに全身が震えるほどの激しい怒りを覚えたあと、その子を優しく抱き上げる。
『大丈夫、大丈夫だ……。全部元通りにしてあげるからな。私は凄いんだぞ? なんたって神様なんて言われてるからな。新しい身体だって作ってあげられる。辛い記憶は全部忘れて、今はゆっくり眠りなさい』
「…………」
ダンはそう言って、少女の首元にプシュッ、とナノマシンのカートリッジ型注射器を刺す。
こうすることで、ショック症状は免れるのと、鎮痛効果や解熱作用なども期待出来る。
その子は舌すらも抜かれているのか、虚ろな目でパクパクとがらんどうの口を開いたあと、痛みが消えて安心したようにゆっくり目を閉じた。
『どこまで腐っているんだ? この国は……少なからず浄化が必要だな』
ダンは低い声でそう告げたあと、鎖に繋がれた子供たちを解放して、一緒に外に出る。
外は既にバケツを引っくり返したような大雨となっており、順調に火が消し止められていた。
しかしその時――
「あっ、き、貴様! それはわしの商品だぞ! 混乱のどさくさに紛れて盗むつもりだな!?」
ダンが外に出ると、陰険そうな痩せぎすの男が、唾を飛ばしながらダンに因縁を付ける。
その両側には、顔に入れ墨を入れた、ガラの悪い男たちが護衛として後ろに控えていた。
「おやっさん……こいつ、どっかで見たことが」
「この野郎、まさかあの時に奴隷市場を潰したやつじゃ……!?」
「間違いねえ! あの黒い変な鎧! あの時の野郎だ!」
そう言って、後ろの男たちはダンの姿を見るや否や、臨戦態勢に入る。
「そうか……貴様があの時の奴隷盗人! また性懲りもなく私の商品を狙いに来たのか!」
『この子を虐待したのは貴様か?』
ダンは自分でも驚くほどの冷たい声になりながら、空いている方の右手にハンドガンを握る。
「うん? それがどうした。そのガキは高貴なわしの手に噛みつきおったからな。躾として両手足を打ち砕いてやったまでよ。そのおかげで増長していた他のガキどもも大人しくなって助かったわ……いぎゃっ!」
ダンは無言でその男の向こう脛を撃ち抜く。
これ以上は聞くだけで不快になると思ったからだ。
「ああああ! 足が、わしの足がぁ! 貴様ら、何をやっておる! 早くその盗人を八つ裂きにせんか!」
「野郎、舐めてんじゃねえぞ!」
「ぶっ殺してや……ぐぎゃあ!?」
剣を抜いて襲い掛かってくる護衛らしきチンピラどもに、ダンは無言で次々と手足を撃ち抜く。
ダンの射撃精度はほぼ百パーセントであり、例え動いている的であっても撃ち損じることはほぼない。
よって、剣を持って襲い掛かってくる人間など、装填している弾数の分だけ無力化してしまえるのだ。
『君たちは阿呆か? 私相手に、正面から突っ込んできても的になるだけだ。これを機にチンピラ稼業は引退して真面目に働くことだ』
ダンはそう告げたあと、這いずって必死に逃げようとする奴隷商の男を転がすように蹴り上げたあと、胸元を踏みつける。
そして額に銃口を突きつけた。
『先ほどの言葉、もう一度私の前で言ってみろ。もし言葉を誤れば、この筒が火を吹いてお前の頭は果実のように弾け飛ぶことになるぞ』
「は、ひぃぃぃぃ!」
ダンの脅しに、奴隷商の男は喉を引き攣らせながら絶叫する。
「わ、私は、商人だ! 自分の商品をどう扱おうと私の勝手だぁ!」
『……それが年端も行かぬ子供だとしてもか?』
ダンは一切感情を見せない、冷徹な声で淡々と詰める。
奴隷商の男は、恐怖ではひはひ、と息を荒げながらも、震える声で言う。
「あ、亜人など、ケダモノと一緒ではないか! 何故そんなものを少々傷つけたくらいで、私が責められなければならない! り、理不尽だぁ!」
『そうか……よく分かった。――死ね』
ダンはそう言うと、容赦なく引き金を引く。
その瞬間――ガチン! と音が鳴り、男は恐怖のあまり失神した。
顔面が弾けているような様子もなく、ただ白目を剥いて気絶している。
『……この銃の装弾数は八発だ。運が良かったな。お前のような滓でも私は殺さん、文明人だからだ。……だが、二度と変な気は起こさぬよう枷は掛けさせてもらう』
ダンはそう言ったあと、ノアに通信を繋ぐ。
『この奴隷商の男に"精神安定化処置"を施してくれ。横で倒れているチンピラどももだ。この手の輩は自由意思を持ってもろくなことをしない』
『了解しました』
ダンはそう指示を出したあと、子供たちを連れて広場に向かう。
奴隷商を倒したことで、子供たちも最初よりダンに心を開いてくれていることだけが救いだった。




