魔法の可能性
「ファイヤーボール!」
ダンは珍しく少年である"デュラン"の身体を使いながら、西大陸の平原に向かって手をかざす。
するとその手のひらから、ボッ、と野球ボール大の火球が発生して、そのまま地面に当たって燃え上がった。
「おお〜!」
後ろでは、イーラが驚いた顔で手を叩く。
「……まあ、本当はセリフなんか必要ないんだがな、気分の問題だ」
ダンはそう言って苦笑しながら、飛んできた火の粉を払う。
あの"洗礼"を受けてから数日経ったあと、ノアから"魔法"の解析が終わったということで、試し撃ちをしていたのだ。
この世界の魔法はナノマシンを素にしており、洗礼の時に体内に入れたナノマシンと、空気中に散布されているナノマシンの二つを操作して魔法を起こすようになっている。
つまりは体内のナノマシンを使って空中にホログラムとして回路図を写し出して、空気中のナノマシンがその回路図を読み取って指令通りの動きをする。
まさにロード・オブ・ザ・リングに出てきたような、魔法陣と魔法の関係が出来あがるのだ。
起こせる主たる現象は、空気中のナノマシンを同士を衝突させて摩擦によって電気を発生する"雷魔法"や、空気を激しく振動させて高温を起こして発火する"火魔法"、空気中の水分子を凝固して、冷却する"氷魔法"、ナノマシンを素早く大量に動かして突風を起こす"風魔法"などなど。
中でも一番効率がいいのが雷か風魔法だ。
雷は人体や生物に対して少量のエネルギーでも極めて有効なのと、発生が速いので実用性が高い。風魔法は単純にナノマシンを一斉に移動させるだけなので、そこまで複雑な回路を作らなくても大きな事象を起こせるので、エネルギー効率が大変にいい。
逆に言えば火魔法や氷魔法は非常に便利でもある。
火魔法はエネルギー効率は悪いが破壊力は高く、戦闘や調理などのいろんな場面で使いやすい。氷魔法は戦闘ではいまいちだが食材を冷やしたり、治療に使えたりと汎用性が高い。
また単純に発光して、空気中にレンズで収束してレーザーのように使う光魔法や、ナノマシンで光を覆って視界を奪ったり身を隠す闇魔法なんてのもある。
魔法は演算能力が高ければ高いほど複雑な魔法陣や複数を同時に描くことができ、起こせる現象の規模や手数も多くなる。
――つまり、演算能力に特化した電子頭脳との相性がいいのである。
ダンは元よりノアだって魔法が使える。というより、この星で最高の演算能力を持っているノアこそが、最も複雑にナノマシンを操れる最強の魔法使いかも知れない。
「これは……作ったのが幽魔という良くない連中なのがアレだが……素晴らしい技術だな。これを全ての人類、異種族が安全に使いこなすことができれば、どれほど人々の生活が豊かになることか」
ダンはまるであやとりのように、両手の指先をバチバチと電気で繋げながら言う。
ダンのもう一つの身体――デュランの体内には、脊髄から指先、足先に至るまで血管のような新しい"器官"が生み出されていた。
恐らく"洗礼"で飲まされたナノマシンに身体を掘り進めるようなプログラムが成されていて、体内に"魔術回路"のような通り道を作るようになっていたのだろう。
これに加えて、脳幹を弄ったり洗脳を施したりしていれば、幼い子供の身体では耐え切れず死ぬ者が出てくるのも仕方がない。
なんとも腹立たしい話だが、その害悪な点さえ除けば皆が幸せになれる技術なのは間違いない。
「これは無限の可能性を秘めているな……。よし、イーラ。少し私と模擬戦をしないか? 私が君に向かって魔法を撃つから、君はそれを避けながら私に一発入れてみなさい」
「ええっ!? で、でも、ダン様は子供の身体じゃないですか! もし私が怪我をさせたりしたら……」
イーラは不安げに言う。
ちなみに今彼女はしっかりとパワードスーツを着込んでおり、その気になれば大の男十人二十人くらいは軽く捻るくらいの力はあった。
それを分かってなおダンは不適に笑って言った。
「問題ない。この身体は所詮サブだし、壊れた所で作り直せばいい。……それに、生身の子供に戻った所で私に勝てるとは限らんぞ? ドレヴァス君にも負けたことだし、少し鍛え直さねばならんと思っていたところだ」
「むっ……そこまで言うなら、後悔しても知りませんから!」
イーラはそう言うと、パワードスーツのモードを"アクティブ"にして、半身で構えを取る。
ダンは両手をだらんと垂れ下げたまま、指先からバチバチと雷を出した。
「行きますっ!」
「来い!」
――一閃。
イーラが踏み込むと同時に右ストレートを突き出す。
ダンはそれを予め予測して躱したあと、イーラのお腹にポン、と手を置いた。
「電気接触」
「あだぁ!?」
バチン、と腹部で電気が弾けてイーラが悲鳴を上げる。
今の一瞬でダンはイーラの身体に怪我しない程度の電流を流して動きを止める。
「ふーむ、これは新しい"近接戦闘術"が出来るんじゃないか? しかしイーラ……いい加減その、熱くなったら真正面からストレート打ってくる癖は止めなさい。狙いが正直過ぎて速さがまるで活かせてないぞ」
「ううう……つ、つい癖で。っていうかその電気、もの凄く痛いんですけど」
「当たり前だ。痛くしているんだから。有効な攻めを見出だせなければまた痛い思いをすることになるがな」
そう言って、ダンがバチン、とイーラの足元に電気を落とすと、イーラは慌てて飛び退る。
「いくら君が速かろうとも電気を避けるのは物理的に不可能だ。私の演算能力なら君が接近するまでに五〜七回は電気を落とすことができる。今回の訓練は、それらを全て掻い潜って、私の身体にタッチしたら合格ということにしようか」
「ええ〜〜!?」
ダンから出された鬼畜な課題に、イーラは思わず悲鳴を上げる。
子供が相手で身体能力も見た目通りとはいえ、全く侮れる相手ではなかった。
ダンの中身は高度に訓練された職業軍人であり、電子頭脳によって制御された
戦闘マシーンである。既に魔法を高度に使いこなして、既存の格闘術と組み合わせつつある。
「…………!」
イーラは本腰を入れねばと頬を張って気合を入れる。
その後、結局イーラは三十回ほど電撃を食らわされ、ようやくの思いで合格を勝ち取ったのであった。




