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巻き込まれ宇宙人の異世界解釈 ~エリート軍人、異世界で神々の力を手に入れる?~  作者: こどもじ
七人の子編

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闘技場の生き字引


 「ノア嬢が強いとは聞き及んでおりましたが、まさかあそこまで無双の剛力の持ち主とは……! どうでしょう、私と一緒に闘技場に新たな神話を築きませんかな!?」


 控え室に戻ると、デロスが興奮気味にそうまくし立てる。


 ドレヴァスを一撃で吹っ飛ばしたノアのパンチに脳を焼かれたのか、その目は少年のようにキラキラしている。


「デロスさん、それどころじゃありませんよ。これから間違いなく面倒なことになります。ドレヴァスさんはお尋ね者になるかも知れませんし、ノアは顔が売れてしまって妙な輩に目を付けられないとも限りません。正直衛兵が来る前に早々にここから立ち去りたい気分です」


 ダンはそう答える。


 そのダンの予想は当たらずとも遠からずと言ったところだろう。


 既に観客席ではトトカルチョで揉め事が起きて、怒号のような声が響き渡っている。


 その原因となった見目麗しく、なおかつ並外れた力を証明した少女と、グランドチャンピオンとして名を馳せたドレヴァス。


 こんな連中が揃ってしまっては、周りの目を引きすぎる。貴族などの権力者の目に留まるのは時間の問題だと言えた。


「おお、確かに……しかしどうしましょうかな。どちらにせよここから出るには衛兵の検問は受けなければなりませんぞ」


「坊っちゃま、本機だけがドレヴァス氏を連れて、先に"船"に帰還することを提案致します。本機だけならあらゆる不測の事態に対して単独で対処可能です。また、彼をこちらの勢力に勧誘するつもりなら、先に船の内部を見せておいた方が説明の手順を省略出来ます」


 考え込むダンたちに、ノアが無機質な声でそう提案する。


 ドレヴァスを自分たちの仲間に引き入れられないかというのは、ダンも考えていたことだ。


 あの桁外れの戦闘力と、半竜という特異な種族の遺伝子情報は手放すには惜しい。


 万が一仲間になるのを断られたとしても大したことじゃない。その場合は記憶措置を施して解放すればいいだけだ。


「よし分かった。ノアはドレヴァスさんを担いで一旦帰還してくれ。イーラは引き続き僕の護衛だ。……ただ、君もノアと同じく顔が売れ過ぎた。変な輩に目を付けられないためにも、光学迷彩で姿を消したまま同行してくれ」


「了解しました!」


 そう答えるや否や、イーラは首筋のボタンを押して姿を消す。


「うおお、なんと!? イーラ嬢が姿を消してしまいましたぞ!? なんという魔法ですかな、これは!?」


「デロスさん、今は詳しくは言えませんが、後で必ず説明しますよ。その為に、一芝居打って頂きたいんですが、ご協力頂けませんか?」


「ほほう! まったくこの歳になってこんな面白そうなことに首を突っ込むことになるとは、長生きはしておくものですな! 良いでしょう、この老体に出来ることならなんなりと!」


 そうドン、と胸を叩きながら頼もしく言うデロスに、ダンは頷き返したあと、同じく姿を消すノアを見送って、衛兵たちを待ち構えた。



 * * *



 衛兵たちが緊張した面持ちで突入した控え室には、何故か老人と子供一人がぽつんとその場に立っているだけであった。


 今回、興行に勝手に乱入して騒動を起こし、客席に怪我までさせた下手人はあの"龍鱗のドレヴァス"。


 そして、それを拳の一撃で伸した謎の美女と、破竹の勢いでグランドチャンピオンまで登りつめた、"黒き閃光"。


 誰を相手取っても超一級の戦士であることが予想された為、かなりの人数を引き連れて突入しに来たのだ。


 しかし、衛兵たちが入ってきた頃にはもぬけの殻。


 おかしな子供と老人が勝手に内部を歩き回ってはしゃいでいたのだ。


「おい、貴様ら! ここに闘技場で乱闘騒ぎを起こした首謀者、龍鱗のドレヴァス、並びに怪しい女たちも居たはずだ! どこに行ったか、隠すと為にならんぞ!」


 そう凄む衛兵に、デロスが前に出て言った。


「グランドチャンピオンと、その女二人なら、闘技場の方に逃げて行ったわ! 早くあの女を捕えてくれ! わしがせっかく手塩にかけて育てた黒き閃光まで攫われてしまったんじゃぞ!?」


「何!? ええい、くそ! 取り逃がしてしまったか! ……おい、貴様らは捜査の邪魔だ! この先は部外者が立ち入っていい場所ではない! さっさと出ていけ!」


「なに、この闘技場を見続けて五十年のこのわしを部外者だと!? この闘技場は毎日通うわしの庭のようなものじゃ! ましてや手塩にかけた闘士を攫われた今、おめおめと引き下がることなど出来るか!」


「お前のような年寄りとガキがいたところで何になる! いいからこの二人をさっさとつまみ出せ! 捜査の邪魔だ!」


 そう隊長らしき男が命じるや否や、デロスの両腕を掴んで、引きずるように外に連れ出していく。


「離せ、離さんかぁ! わしを誰じゃと思っておる! 一日も休まずに闘技場に通い続けて五十年、生き字引のデロスとはわしのことじゃぞ!」


「爺さん、ほら暴れんなよ!」


「うわぁん! お爺ちゃーーん!」


「ほら、坊主も泣いてないで、さっさと出た出た! 大人は忙しいんだ!」


 そう言って、少年に扮したダンも外に追い出される。


「おのれ! 老人を大事にせんやつはろくな末路をたどらんぞっ!」


 そう闘技場に戻っていく衛兵たちの背に捨て台詞を吐いて、デロスは鼻息荒く闘技場を後にする。


 そのまま闘技場から少し距離を取ったのを見計らって、ダンは言った。


「イーラ、着いてきているな?」


『え、あ、あの、はい……』


 ダンの先ほどの演技と落差に未だに心の整理が追いついていないのか、イーラは狼狽えながら答える。


「いやぁ、上手くいきましたな! どうやらわしらがノア嬢の関係者ということはまだバレていなかったようです!」


「おかげで助かりました、デロスさん。少し話したいことがありますので、そこの店で休みましょう」


 そう言って、ダンは一同を引き連れて近くのカフェらしき店に入る。


 闘技場近くのカフェは人族の店員が給仕をしており、忙しなく動き回っていた。


 ダンはそれを一人捕まえて注文する。


「すいません、冷えた飲み物を三人分お願いできますか?」


「えっ、三人分でございますか?」


「はい、お願い致します」


 困惑する従業員に、ダンはなおも続ける。


 給仕の目からはダンとデロスの二人しか見えていないが、実際には三人目のイーラも姿を隠して潜んでいる。


「いやー、今日は暑いですなあ! 思わず飲み物も二人分必要になってしまいますぞ!」


「! かしこまりました」


 そうデロスのナイスアシストにより、給仕は理解出来たのか、一礼してその場を離れる。


 ちなみにダンの所有する光学迷彩の仕組みは、パワードスーツ周辺に微細なナノマシンを散布して、それによって周囲の光を屈折させて姿を隠すという構造をしている。


 故によく透明人間がカップを持ち上げると、周りからカップだけ浮き上がって見えるというような奇妙なことは起きない。


 手に持っていればそれも被覆対象として認識されるため、飲食や長物を持っても全て覆い隠してくれる。


「助かりました、デロスさん。僕の身体では二杯も飲むのは変に思われるかもしれませんし」


「なんのなんの! 大方、イーラ嬢に少しでも休憩を与えたいといったところですかな? わしとしても有望な闘士に無理をさせたいとは思いませぬ」


『あの……私この状態のまま飲んで大丈夫なんでしょうか?』


 イーラが姿を消したまま、不安そうにダンに小声で尋ねる。


 飲んだことで自分の擬態が解けてしまうのではないかと、心配しているようだ。


「問題ない。スーツの光学迷彩はある程度の日常生活が送れるように設計されている。流石に水浴びなんかしたら擬態が解けてしまうけど……それ以外は問題ないよ」


「ほほー! なんとも便利なものですなこれは! どこかの大魔術師様が作ったマジックアイテムですかな?」


 デロスはその話を聞きながら、興味深そうに今は透明化しているイーラの方を見やる。


 構造上ナノマシン散布型の光学迷彩は雨や強風などには弱いが、他には合羽のように全身を覆う装着型の光学迷彩もある為、状況によってそれらを使い分ければ問題は生じなかった。


「ええ、そのことなんですがデロスさん。我々はあなたに隠していることがあります」


「……!? ほう、それはどういったことですかな?」


 給仕が飲み物を三人分置いて立ち去ったのを見計らってから、ダンは口を開いた。


「まず第一に……私たちは見た目通り、どこかの裕福な商家の子供と、その護衛といった関係ではありません。正体はもっと複雑なものです」


「ふーむ……それはなんとなく気付いておりましたな! 特に坊っちゃんは見た目の歳の割にあまりに利発が過ぎる! ただのお子様ではないということは薄々感じておりました!」


 デロスはカップに入った茶を飲みながら言う。


 どうやらこの老人、普段の豪快な言動とは違ってなかなかに勘が鋭いようであった。


「お察しの通り、私は普通の子供ではありません。というより、中身はれっきとしたいい歳の大人です。これはあくまで仮の身体で、別の場所からこれを操っている本体が居ます。今回色々複雑な事情があってこのような姿を取っていますが……」


「なるほどなるほど、そう言われますといっそ合点がいくというものですな! 世の大魔術師様の中にはそう言った力を持つ方もいらっしゃるということでしょう。……して、それをわしに伝えて一体何をさせようと言うのでしょうか?」


 少し声のトーンを抑えてから、デロスは改めて尋ねた。


「それなんですがデロスさん、我々と一緒に来ませんか?」


「ほう!? それは一体どういった意味ですかな?」


「正体を明かしますが……私は東大陸(アウストラシア)南大陸(サンドリア)西大陸ネウストリアにそれぞれ広大な領地を持った……まあそれなりの立場の者です。あなたに、その広大な土地を有効活用する事業を共に手伝って欲しい」


「なんと!? 三大陸を股にかけた大領主などと……この世にそのような人物がいるなどとは聞いたことがありませんぞ!?」


 デロスの言葉に、ダンは頷いて続ける。


「私が領有している土地は、いわゆる亜人と呼ばれる異種族の人々が住まう僻地です。当然、人の手が入っていない未開の地なので、人間の国ではほとんど存在も知られてはいないでしょう。……ですが、私はそのような土地を開発し、人々が集まるような繁栄した街にしたいのです」


「…………! にわかに信じがたい話ですが、それを真実だとして、あなた様は私に何をせよと仰るのか?」


「あなたのその五十年に渡り闘技場を観てきた経験を活かし、私の支配する領域にも同じようなものを建てて欲しいのです。……いえ、同じではありませんね。史上最も偉大で、巨大な建築物を作って頂きたい!」


「ほお!」


 ダンの言葉に、デロスは目を輝かせながら、テーブルの前に身を乗り出す。


「もちろん資金や労働力などは全て提供します。知識や技術などの細かな不足はこちらが調整しましょう。場所は南大陸(サンドリア)の広大な砂漠の中心。あなたは真っ白な(キャンパス)の上に自分の理想を思い描くだけでいい。それを現実にするのは私たちがして差し上げます」


「おおおお……なんと素晴らしいっ! この老体の身に余る、願ってもないお話ではございます、が……本当にそんなことが出来るのでございますか?」


 デロスは喜び半分、疑い半分と言った風に聞き返す。


 目の前の子供はただ者ではないと直感的には分かったとしても、あまりにも壮大で荒唐無稽すぎる話。


 にわかに信じられるものではなかった。


 ダンとしては作ること自体は簡単で、ローマのコロセウムを模して設計すれば、わざわざ人の意見を聞く必要もない。


 だが、現地人の意見を取り入れた独自の建築物を作ることにも意義を感じたのと、なによりこのデロス老人には世話になったので、その恩返し的な意味合いもあった。


「無理もありません。……ですのでデロスさんには、私がいつも使っている船をお見せします。それを見れば、今の突拍子もない話を少しは信じていただけるでしょう」


「船ですと?」


「ええ、これから向かいますので着いてきて下さい」


 ダンはそう言って席を立ち、三人分の会計を済ませ、デロスとイーラを連れて一端船に戻ることにした。



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