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巻き込まれ宇宙人の異世界解釈 ~エリート軍人、異世界で神々の力を手に入れる?~  作者: こどもじ
七人の子編

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女神の戦士


 怒号のような歓声が闘技場内に響く。


 それも無理はないだろう。何故なら今日は最も盛り上がる、剣闘の序列一位の戦い。


 血に飢えた観客は、極限まで鍛え上げられた強者同士が命のやり取りをすることを最高に期待していた。


 ましてや今日は剣闘と拳闘の序列一位同士の戦い。


 剣闘側が勝てば現状維持だが、間違って拳闘側が勝てばグランドチャンピオンが生まれるのだ。


 賭けのオッズも最高に盛り上がる中、番狂わせに期待するなという方が無理であった。


「両者互いに見合えッ!」


「…………!」


 審判にそう指示され、イーラは緊張した面持ちで闘盆の中心に向かう。


 対するは異形の剣豪。


 "無形のカスパリウス"――そう呼ばれた男は、見上げるような"のっぽ"であった。


 その身長はイーラにして一・五倍はあろう。


 元の身体のダンやドレヴァスもイーラからすれば見上げるような大男だったが、これは桁が違う。


 身体こそヒョロヒョロと枯れ枝のように細く見えるが、南方人の褐色肌に、薄っすらと覆われた全身の筋肉からは、決して非力ではない確かな力強さを感じさせた。


 カスパリウスは、格子状のフルフェイスのヘルメットの奥からコフー、コフーと息を乱しながら、首を傾げながらイーラのことを見下ろした。


「小さいネ……マダ、子供? 大丈夫? 当たると、痛い。血が出るヨ? 死ぬヨリ、降参、シナイ?」


「?」


 その異形の大男は、ネイティブではないのか、片言で余りに小さいイーラのことを心配するように言う。


 こんな職業だがきっと根は善良な男なのだろう。しかし、イーラはそもそも西大陸語が分からない。


 なのでその降伏勧告は空振りに終わった。


「おい、余計な私語は慎め!」


 審判はそうカスパリウスを咎めたあと、コホンと咳払いして言った。


「武器の使用、その他諸々の使用一切を認めるッ! ただし観客に危害を加えた時点で負けだ! では互いに構え!」


「…………!」


「…………ハァ」


 そう言って離れていく審判に、イーラは緊張した面持ちで半身で構え、方やカスパリウスはガッカリとため息をつきながら剣を構える。


 カスパリウスの得物は、いわゆるフランベルジュと呼ばれる波形の剣であり、実戦というよりむしろ観賞用に使う方が多い。


 しかし実際には、斬った傷口をその特異な刃の形でギザギザに抉るなどという、非常に残酷な特性を持つ刃でもあった。


 それを両手に一本ずつ、指の股に挟んで握り込み、ダランと両手を垂れ下げた特異な構えをしていた。


「始めッ!」


「シッ!」


 そう開始の合図が入った瞬間――イーラは即座に踏み込んで綺麗にワン・ツーをお見舞いする。


 これだけの体躯、長引くと不利と見て速攻をかけたのだ。


 見た目は少女でもパワードスーツで強化されたイーラの膂力は、岩をも砕き大の男も容易く昏倒させる。


 カスパリウスはそれをまともに受けてフルフェイスのヘルメットを凹ませて、思わず尻もちをつく。


 その瞬間――闘技場内に怒号と歓声が響き渡る。


「うおおおーっ!? イケるぞ! 本当にグランドチャンピオンが出るんじゃないか!?」


「バカヤロー! このでくのぼうが! テメーにいくら賭けたと思ってんだ!?」


 そう騒ぎ立てる観客たちを他所に、カスパリウスはヨロヨロと剣を杖にして立ち上がる。


「重イ……速い……子供、違ウ。相手、戦士……」


 カスパリウスはそう言うと、先ほどまでのやる気のなさは消えて、全身から闘気を漲らせて再び構えた。


(浅い……身長差があり過ぎて倒しきれない!)


 イーラはそう歯噛みしたあと、今ので仕留めきれなかったことを後悔する。


 雰囲気の変わったカスパリウスは、それこそ山のように巨大な敵に見える。


 全身の筋肉をギシリと引き絞り――長い手足をまるで鞭のようにしならせながら、剣を振り下ろした。


イーナンナルトゥ(女神の加護を)ッ!!」


「…………!」


 ドバンッ! と地面が爆ぜるような超威力の振り下ろしから間髪入れずに、もう一本の手で横薙ぎを入れてくる。


 奇しくもイーラがかつて崇めていたのと同じ神、イナンナの名前を叫びながら振り下ろされる一撃は、パワードスーツの上からでも両断しかねないほどの威力を秘めていた。


 カスパリウスのリーチの長さはもはや反則的ですらあった。


 元々の高身長に、剣の長さと踏み込みも含めると、その間合いは五メートルを超える。


 その上鈍重でもなければ非力でもない。


 遠心力をフルに使って、直撃すればフルプレートメイルでも真っ二つにしそうな殺人的な一閃が、決まった型を持たない異質な角度から次々と飛んでくる。


 戦士として完成形ですらあった。


「ノア、最悪相手をショックガンで撃って気絶させる用意をしておいてくれ。出来るだけイーラの決意に水を差したくはないが……」


「了解しました」


 予想外の強敵に、客席のダンも冷や汗をかきながらそう指示を出す。


 ノアならイーラに命の危機が訪れたとしても、即座に相手を妨害することが出来る。


 流石にイゾルデのように縦横無尽に動く俊敏さはないものの、あの長い腕から繰り出される一閃は危険だ。


 まともに受けたらパワードスーツごと真っ二つにされる可能性がある。


 手足の欠損くらいならすぐさまエンキのジッグラトに連れていけば直せるが、即死したらもうどうしようもない。


 イーラは動体視力と反射神経に優れているのでまともに受けることはないが、万が一があり得る相手であった。


「やあッ!!」


「…………!」


 イーラはその斬撃を皮一枚で掻い潜って、カスパリウスの懐に踏み込んで渾身の蹴りをお見舞いする。


 カスパリウスは手甲で受けたものの、そんなことでイーラの蹴りを防げるはずもなく、ゴキリと嫌な音を立てて腕がおかしな方向に曲がる。


「うぐあっ!?」


「はあああああッ!!」


 その隙を見逃すイーラではない。


 相手が大きく前傾に体勢を崩している間に、その顎めがけて掌底をカチ上げた。


「がっ……!」


「もう一発っ!」


 最後に倒れてくるカスパリウスの首筋に手刀をお見舞いしたあと、ようやくその巨体が地に沈んだ。


 しばらく闘技場内がシン、と静まり返ったあと、理解が追いついたのが、ザワザワと少しずつ声が上がり始める。


「そこまでッ! 勝者、黒き閃光のイーラ!」


 やがて審判がそう言って右手を上げた瞬間――爆発的な歓声とともに、闘技場内が揺れた。


ものすごく唐突ですが本日より連載再開します

週に2~3話くらいのペースで更新出来たらなと思います~

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