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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第六部 分割掲載

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十三話

「アフ・アリス!!」


血塗れの彼に走り寄ると、彼はまだ息が残っていた。だから私は手当たり次第に、覚えている限りの、治癒の魔法を使った。

私は全てにおいて初級止まりの能力しかない。そのせいだ、なかなか傷は塞がらないし、魔力がすぐに枯渇しそうで、目が回ってくる。


「あなたが死ぬ結末はおかしいよ!」


私は彼の片手を握り、必死に、明滅しそうな意識をつなぎ合わせて、治癒の魔法を唱える。

それを、魔王が見やった。


「……そのとききたりて かいほうされる」


呟かれた言葉に顔を上げると、魔王は真顔だった。


「確かに、人も魔性も、無益な戦いから解放されるな。アフ・アリスが神器に願った事はそれを意味する。予言という物はどうとでも受け止められる故、打つ手をいくらでも間違えられる」


「……」


聞いている余裕はない。ひゅうひゅうと言う呼吸をするアフ・アリスを、どうにか死の淵から助けなければ。

どうして私には、あの時のように霊薬が手元に無いのだろう。

……勇者一行じゃないからだ。勇者一行だったら、皆最高の物を都合してくれる。

ここで魔王を恨んで敵討ち、という方向になるのは難しい。目先の事を、アフ・アリスの救助を行う方が先決だ。

しかし。

魔王はアフ・アリスに近付くと、低い声でこう言った。


「アフ・アリス。神器を戴いたまま死ねばどうなるのかは、……お前はもう知っているだろう。エド・エリスと同じ道をたどる前に戴冠式を行え」


「話が意味不明だから! 治療の邪魔をしないで!」


私は魔王相手でも叫んだ。でも。

その魔王の言葉を聞いて、アフ・アリスがはっとして目を見開いた。そして……飛び起きたのだ。

血が滴っている。息は荒い。今にも死にそう。

なのに。

アフ・アリスは周りを見回して、真顔の魔王と泣きそうな私とその他大勢の魔性を見て……何か決めたように頷いた。


「ジルダ」


呼ばれるとうれしい気持ちになる名前を、彼がいつも通りの響きで口にする。


「戴冠式をしよう」


「そんな余裕は無いから! あなたが死んじゃう!!」


「しにそうだから」


権利の譲渡をしなければならない。


アフ・アリスは厳かにも聞こえる声でそう言い……無理矢理なのだろう状態なのに立ち上がり、一歩、一歩、さっきの階段に、のぼり始めた。


「これは古の頃、戴冠式の際に使われる天への階段だった」


ゆっくりと、必死に階段を上るアフ・アリスが言う。


「これに戴冠式を行う者がのぼり……」


彼が振り返る。そして、手に持つ神器を、私の頭にそっと乗せてしまう。


「次の権利者の頭に乗せる。……他にも手順はあるが、今の世界にはこれ一つ」


全ては風化した砂の中に消えた、と彼が言う。


「私の愛する夜明けのジルダ。……君に権利の譲渡を」


彼がそう言うと、また、空から、さっきと同じ鐘の音が響き渡る。


「正式な戴冠式が行われれば」


天の星の鐘が鳴る。

それで満足したのか、アフ・アリスの体がゆっくりと傾いて……倒れて。


「アフ・アリス?」


彼は安らかな顔をして、目を閉ざしてしまった。




いつの間にか、彼の出血も止まっている。



嫌だ、やだ、認められない、認めたくない、そんな事は信じない。

頭に神器を乗せたまま、私は恐怖に叫びそうになる頭を押さえつけ……気付いた。




この神器なら、アフ・アリスを救える。




でも、この神器が持つらしい、どんな願いでも一つだけ叶える力をそのためだけに使ったら、次の権利者がとんでもない願いを願ってしまったら、大変な事になる。


アフ・アリスの望んだ平和な世界を、なくす事になる。




「……ああ、そういう事か」


予言は正しく正しかった。

私はぼたぼたと流れ出した涙をぬぐう事もしないで、頭に乗せた神器を手に取り……神器にこう言った。


「滅びなさい、星紅頭の蔓器。永久に、二度と、二度と蘇ったりしないように!!」


私は、この時、アフ・アリスの命と、アフ・アリスの願いを天秤にかけたのだ。

私の願いは彼の命を救う事の方だ。でも彼の願いはそれとはまるで違う、世界を平和にしたいという大きな望みで。

魔性と人間がもう、争わないでいい様にする事で。

そして、私の叫ぶ声を聞いた神器は、がたがたと揺れて……色が一気に退色し、砂色に変わって、それからさらさらと砂になって手のひらからこぼれていってしまった。


「……っ、う」


私はそれを最期まで見届けずに、アフ・アリスの脇に膝をついた。


「アフ・アリス、ごめん、ごめん、ごめん……私じゃ力が足りない、助けきれない、なんで願いを叶えられるのは一度なんだろう」


アフ・アリスが答える事はない。胸は上下しない。……彼は死んでしまったのか。

私は膝をつき、彼の手を握り、もう効果があるかもわからない治癒の魔法を唱え続ける。

そんな時だ。

周りが異常に静まりかえっている事に気付いたのは。


「……あれ」


魔性が一匹も居ない。

あれだけの数を誇っていた、エスターシャの軍勢が、一匹も。

……アフ・アリスが、世界をわける事を願ったから、わけられた方に、皆行ってしまったのか。

魔王すら。


「世界を正しく救ったあなたが、どうして死ななくちゃいけないの。聖剣の勇者をたくさん殺した事があるから? じゃあ、人を見殺しにした私はどうなの」


私は涙のにじんだ声で言い続ける。でもアフ・アリスが目を覚ます事は無い。


「……あなたはあんなに苦しんだ。そのあなたが楽になる事が、死ぬ事なんておかしいよ」


聞いてくれはしないのだろう。泣きじゃくる私の声など届かない。

涙が彼に落ちる。奇跡が簡単に起きないから、私は今ほど奇跡を願った事などないだろう。


「アフ・アリス」


私が呟いた時だ。


「ジルダ!! おい皆!! ジルダがいた! 呪い解けてるっぽいぜ!!」


そんな大声が近付いてきて、私が声の方を見ると、セトさんやフィロさん、遅れてギザさんが、こっちに走って近付いてきていた。

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