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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第六部 分割掲載

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八話

「こんな魔性は見た事も聞いた事もない」


「翼が三対ある魔性だな」


「聖典によれば、三対の翼は聖なる印だという。この魔性は聖なる属性なのか?」


「わからないが、魔性に近付いた時特有の、嫌な気配はしないな」


そんな声が聞こえてきて、私は目を覚ました。それから頭の痛みにうめいたけれども、喉の奥から聞こえてきた音は、とても人間の発する音ではなかった。


「あ、目を覚ましたぞ」


そう言ったのは知らない人達だ。私は意識を失ってからどうなったのだろう。

瞬きをして見てみた世界は、おかしな所などなさそうでもある。


「ここはどこ?」


私はそう問いかけたはずだった。でも、言葉はまるで出てこなかった。

ぎいぎいと言う音が喉から響いて、それ以上の人間らしい会話の音は一つもだせない。

そこで私は、リリーシャ姫のかけた呪いは、確かに効力を発揮したのだろうと理解した。

醜い姿におぞましい声。

私が力不足で撤回できなかった要素は、多分これらなのだろう。

そんな事を思いつつ、私は体を起こした。

じゃらりと、魔性と思われたからだろうか、鎖が重い音を立てる。


「……知性のある目をしているな。俺達の言葉がわかっていそうだ」


わからないわけがない。人間の言葉は十分に理解しているが、そうだと肯定する事も難しかった。


「まあ、だとしても、こいつも素材としてばらばらに解体するまでの話だけれどな」


言われた中身に、私の感覚として音を立てて血が引いた感じがした。

たしかにそれは、ギルド所属の冒険者達が行う事として、ありふれた話の一つだった。

生きたまま持ち帰るのが面倒な何か、を捕まえた場合。

冒険者達は、その何かを殺して解体して、ギルドの鑑定が出来る受付に持って行くのだ。

そこで、それがなんなのかわかる場合も多い。

私は……彼等からすれば、得体の知れない、ばらばらにしていい何かというわけなのだろう。そしてここは森の中、魔性を解体しても、街のように体液の処分には困らない。

冗談では無い。ばらばらにされてたまる物か。

私はセトさんの呪いをから彼を庇ったけれども、だから死にたかった訳じゃないし、素材扱いされる事も受け入れている訳ではない。

なんとかして、この鎖を外して脱出できなければ、私は魔性扱いでばらばらにされるのだろう。

冒険者達がそれをためらう事なんて滅多な事ではあり得ない。

だって、人間を殺すのにはためらいがあっても、魔性を殺す事にためらいがある冒険者は全くいないだろう。

それを私はよくわかっている。勇者だって、人間は殺せなくても魔性は殺せるのだから。


「……」


冒険者達が何事かを相談し合っている。私は自分の入れられている、携帯式の檻の中で、自分にはめられている枷を探った。

冒険者が、一時的に魔性などを入れておくための檻は、ありふれた物と言って良いだろう。

それの作りは……はっきり言って、ちょっとちゃちなようだ。

少なくとも、人間だった私は仕組みがわかるから、枷の鍵を外す事も、檻の扉を開ける事も出来そうだった。

しかし、今は冒険者達が起きているし、油断をしている様子もない。

彼等が油断するように、ここはおとなしくしておかなければ。

下手に警戒したり、暴れ回ったりすれば、向こうも油断しないだろうから、脱走の隙を見いだせないだろう。

そんな事を考えながら、私は自分の体を探った。

……ありがたい事に、腕が増えたり足が増えたりしている様子はない。

尻尾が生えてきたと言う事もなさそうだ。

手が二本に足が二本、頭がてっぺんにある……ありふれた形をしていそうだ。

よかった。これで手足が増えていたり、頭の位置がずれていたりしたら、そのかみ合わない感じで、脱走がもたついてしまうだろう。

とにかく、隙を見つけなければ。私はじっと膝を抱えて、話し合う冒険者達を見つめて、時が来るのをじっと待った。





冒険者達は、誰が私を解体するかでもめているらしい。見聞きした事が過去一度としてない魔性だから、どういう反撃をしてくるかがわからないからであるようだ。

それは用心深くて、冒険者としてありふれた対応であるわけだが、それは私にとって時間稼ぎになってちょうど良かった。

冒険者達は押し付け合いに白熱していて、私の方を見なくなったのだ。


「あんたが見つけたんだろ」


「あなたが檻に入れたんじゃ無い」


「お前が金になりそうだって言い出したんだろう」


「内臓の位置がわからないんだから、解体に失敗したらどうする。最上級の素材の可能性だってあるだろう」


素材扱いされている側としては、とても嫌な気分になる会話は、これまたありふれた会話でもあった。

人間は人間以外に対して、これくらいの事を余裕で言えるのだ。

彼等は押し付け合いに白熱していて、私の方から意識がそれている。


「……」


私は音を立てないように、足につけられた枷を慎重に外した。

……大神殿の訓練で、鍵開けの技術を教えられた時は、こんな事は何の役に立つんだとすら思ったけれども、この技術がある事に感謝したくなった。

これで逃げ出せるのだから。

続いて私は、これも音を立てないように、そっとそっと、檻の鍵を開けて、抜き足差し足、外に出ようとした、その時だ。

がっちゃん! と。

想定していない音を立てて、私の出てきた檻が縮んだのだ。

そしてその音を聞いて、冒険者達が一斉にこちらを振り返る。


「魔性が檻から出てきた!」


「すぐ捕まえろ!」


「空を飛ばれたら追いつかないぞ!」


「どうやって枷も檻の鍵も外したんだ!!」


振り返った彼等が武器を構えて迫ってくる。私は今度は殺される可能性が高い、と言う初歩的な事くらいはわかるから、死に物狂いで走り出した。

空の飛び方なんて知らないから、地べたを走るほかない。

そして……背中にあるらしい、翼が、色々なところに引っかかって、とても……とても邪魔だ! 藪もすり抜けられないほど引っかかる。

足が遅すぎる訳じゃ無いのに、翼のせいで逃げ切れないかもしれない。

私はとにかく、走り続けて、でも……誰かの投じたのだろう投げ縄に、背中の翼が引っかかり、思い切り転んだ。


「!」


顔を打ち付ける。痛い。すぐに起き上がらなければ、と思うのに、続いて投げられた投げ網が体に巻き付き……完全に動きを封じられた形になった。


「飛べないのか、こいつ」


「木が生い茂っていて、空に上がれなかっただけだろう」


「また逃げられたら大損だ、先に翼をもいでおこう」


「にしても、純白の綺麗な翼ね。素材として申し分なさそうな感じしかしない」


冒険者達はそう言い、……解体のためののこぎりを取り出してくる。完全に私は物扱いをされているだろう。

死にたくない。逃げなければ、にげださなければ、魔性として殺される訳には!!

私は待ってくれと叫ぼうとしたのだけれど、声は出てこない。リリーシャ姫の渾身の呪いは有効だ。大嫌いな私を殺す術としては完璧だろう。

誰も人間を殺したと思う事なく、私を殺せるのだろうから。


「!!」


投げ網でまともに動けなくて、芋虫のように這いずって、しかしのこぎりが迫ってきた、その時だった。


「……あ」


何が起きたのか、瞬間的にはわからなかった。いきなり、冒険者達が肺から息が全部出た、みたいな音を立てて、それから。

ばたばたと、倒れたのだ。


遅れて、血しぶきが飛ぶ。

地面にだらだらと血だまりができあがっていく。

それらを気にせず、歩み寄ってきたのは。


「!!」


驚くほかない光景だった。

だってそこに立っていたのは。


アフ・アリス。……いや、魔王のしもべ?


呼びかけたはずの声は、やっぱり人間の発する音ではなくて、ギャアギャアという音にしかならなかったのだった。

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