六話
「まあまあ、このところ客人が大変に多い」
街に入った途端だ。いきなり頭上から、されこうべの頭をした、それ以外が布にくるまれた何かが現れたのである。
驚きすぎて変な声が出そうになった私とは対照的に、すぐさま武器を構えるのは、セトさんとフィロさんの経験の違いだろう。
「その物騒な物をしまっていただきたい物だ」
「なんなんだ、頭蓋骨やろう」
「骨と会話するとは……魔性の類いか?」
「? あんた達、わたしがそう”見える”わけかい?」
「骨以外のなんでしょう……?」
されこうべは感情などまるでわからないはずの、ぽっかりとあいた眼窩だったのに、いかにも不思議そうだという調子で問い返してきた。
わけがわからないのは私達の方であるのに、されこうべは私達をじっと眺めた後……こう言った。
「はあはあ、なるほどなるほど、星の光に浸った人々か。それではわたしのめくらましなんて、ききっこないというわけか」
「なんだそりゃあ」
「文字通りさね。そうかそうか、星が降りている村が、まだこの時代にも残っていたのか生まれたのか。いよいよ予言の成就が近いというわけか」
「言っている事の解説をしていただけませんか?」
「おお、興奮しすぎた、了解了解。星に浸った人々に、このシェーラは嘘を吐かないという制約があるわけで」
「……」
顔を見合わせてから、私達はされこうべ……シェーラに向き直った。
「この先は人食い街、イニシエルか? 何故今になって、人をのみ込む街になった? ここにのみ込まれた人間達は無事か? 彼等を帰還させる方法はあるのか? そして予言の成就とはなんだ? 一つずつ答えて欲しい」
ここでは冷静に会話が出来る、フィロさんが前に出て問いかける。シェーラは頷いた。かくんと首の骨が動く。
「この先は、遙か昔にこの世から姿を消す運命となった街、シェラーザードが存在している。イニシエルはシェラーザードがこの世から消える際に、うわべとしてできあがった街。遠い遠い昔に、偉大で哀れなエド・エリス王が作り出した建造物だけの場所だったが……そこに人が定住するようになり、聖樹がある事から、魔性すらそう簡単に近付かぬ街となり、繁栄を続けた場所だ」
「イニシエルが、うわべだけ……」
「そう。誰一人いない無人の建造物だけの土地だったが、そこに人々が移り住んで街になったというわけだ。さて、次の問いへの答え。ここは太陽がなければ力を使えぬ街。長く魔王が青空と太陽を封じたゆえに、本質たる人をのみ込む術が長らく作動しなかっただけのこと。生まれついての人食い……それは予言を遂行するため……」
シェーラが言う言葉を聞いて、私はアフ・アリスの言葉を、そして湿地帯の洞窟で見たアンデッドを思い出した。
あのアンデッドの名前は、エド・エリスだった。アフ・アリスの、親友。
イニシエルは、彼が作り出したというのか。
アフ・アリスの愛したシェラーザードを無くしてまで作った。何かしらの術で……
「はてはて、中に呑まれた人々が無事か? それは中で死なない限りは無事だろう。生と死はイニシエルが支配するものではなく、時の流れと運命が支配する物。死ぬような事をしなければ、時が流れなければ、死なないだろう。全ては予言の成就のため」
シェーラがかたかたと首を左右に動かす。されこうべが左右にカタカタ揺れる。
「そして。呑まれた誰もをこの地から解放するためには。予言が成就されなければならない。それすなわち決定された運命。予言の成就のために誰も彼もが集められた……」
謎かけめいた言葉達から、とりあえず理解できたのは、イニシエルは太陽が昇るようになって、自身の本来のあり方である、人食い街としての機能を取り戻した事と、そこから脱出するためには、シェーラの言う予言が成就しなければならないと言う事の二つだった。
とはいえ残りは謎かけすぎていて、よくわからない気がする。
「では、予言とは一体なんだ?」
「とおいとおいむかしに、エド・エリス王が愛する親友を思って、一人に出来ぬと秘された術を作り上げた。その際に天空の神のお告げを受けたのだ。今では誰もが知っている。
”時流れ、運命来たりて ほしくずのつるぎをにぎるもの からのしんぞう あらわれん。あらわれし からのしんぞうは ほしくずのつるぎをてに てんへのかいだんをのぼり ほしのかねをうちならす そのとききたりて かいほうされる」
予言を喋り始めたシェーラの声は、一気に人工物のそれに変わっていき、言い終わった後にカタンと首が動いて、シェーラはまたこちらを向いた。
「これぞ予言。誰も誰も、誰一人としてこの予言を成就していない。ゆえに街は予言のために人をのみ込む。やがて来たる解放の時のために」
「……つまりこの中に入っちまったら、もう後戻りできねえって話か? 昼の間でも?」
「いな。昼に入り昼に出て行くは可能。シェラーザードは夜に戻る。シェラーザードで飲み食いをすればそれすなわち、シェラーザードの中に居着く事。なれば街の中から出ること叶わず」
「なあるほど、イニシエルからイニシエルまでなら出て行けるが、イニシエルからシェラーザードを介してしまったら、もうイニシエルに戻れないから帰れないって事か」
「ぜ。……さて三人の星に浸る者ども、この先に向かうか、向かわぬか。今までここに着た者達は、早く休みたいと中に入っていった」
「……今日はいったん戻るぜ、教えてくれてありがとうよ」
にやりとセトさんが笑う。そして踵を返そうとするので、私もそれに続こうとして……シェーラに肩を掴まれた。
「かなしいかなしい、三人の星浸る者は帰るか。賢明賢明、しかしさみしい。……また来たまえ、次こそ中に」
私はその時、シェーラの真っ暗な眼窩の中に、見覚えのある緑が見えたような気がした。
それでも、二人が先に行ってしまうから、急いでセトさんとフィロさんの背中を追いかけて、霧の外に走ったのだった。




