四話
「……じゃあお前達以外、皆それに飲み込まれていったというのか!?」
叫んだのは、王国の将軍だった。アーチス・オズ将軍と、その他の三人の将軍……王国の将軍が全員そろった形で、報告をしたセトさんに叫んだのだ。
「外からかなり呼んだんだぜ、でも全員聞こうとしやがらねえ」
「本当か?」
「こんなのにうそっぱち言ってどうすんだよ。こちとらとんでもない物だってわかったから、拡声魔法でこんなダミ声になったくらい怒鳴って、戻って来いって言ったのに」
そういうセトさんの声は、普段の軽やかな低音と大違いのざらざらばきばきの声である。
いかにセトさんが、そして私達が必死に城門の中の人々を呼び戻そうとしたかが明らかだろう。
「お前達は何を持って、その人食い街とやらの情報を知ったのだ」
「そこから逃げ出した奴の話を聞いて。位置的にその人食い街が出現する場所だってのはつかめてたからよ」
「人食い街だとどうしてわかった」
「そんなの、ギルドの受付やってるシルヴァから、ちょっと小耳に挟んだくらいでまとめた情報さ。なんでも、突如街が現れて次の日には消えててうんたらかんたらとか、村がある場所がでかい街になって戻ってきたら誰も居ない村に成り果ててたとか」
「その情報を、大神殿のギルドの人間達は知っていたと思うか」
「聞いてない奴の方が多かったから、昨日全員丸呑みされたんだろうよ」
「……カークス・コミ将軍。たしかその依頼を、ベガ達の登録していた街のギルドにしていたのはあなたでしたよね」
「ああ、誰も戻ってこない状況を重く見たギルドマスターが、依頼を撤回するように指示を出し、これ以上戦力が減るのはと判断し、依頼を引き上げた」
「サーロス・ソギ将軍、どう判断します?」
「ベガ達は、もしかすると同じように人食い街を見つけ……失踪した元々の仲間達の捜索もしようと、そちらに入っていったのでは。そして何らかの状況に失敗し、帰還が叶わない事になったのでは」
「死んだと思われますか、ターノス・トン将軍」
「うちの大隊長達に所持させている、生き残りの指輪が輝いているのだ。死んでいれば生き残りの指輪は光を無くし曇る。彼等は状況はわからないが、生きているだろう」
「生き残りの指輪ってなんですか」
「指輪をはめている人が死ぬまで、つながった核の指輪が輝き続ける魔法の指輪。そんな難しい魔法を使って作られたわけじゃないから、軍とかで遠方のあれこれをする人間の代表に渡される事が多い指輪ね。そして単純な術だから、そうそう途切れない」
「へえ……」
私はそんな物がこの世にあるのだと驚いた。私がそれを魔王討伐の際に持っていたら、ヘリオスは私が生きているとわかっていただろう。他の三人の仲間だった彼女達も、生きているから探さざるを得ないという姿勢になり、話し合いの場が設けられたかもしれない。
全ては可能性の話で、そんな過去じゃなかったから今があるわけだ。
私達はあの後、まんじりともせずに夜をその場で明かした。野営をして、交代で見張りをして、魔性がありがたい事に寄ってこなかったから、日が昇ってからもベガ達の痕跡を探し、昼頃やってきた兵士達が、私達四人以外誰も居ない事を聞いてきたので、見た事を話すと、こうして四将軍との謁見となったのだ。
話す代表は、チーム代表のセトさんだ。
それにしてもセトさんは、四将軍相手にも雑な口調を崩さない。……敬語を知らない可能性が見えてくるけれども、それを不敬だと言う余裕も、四将軍にはない様子だった。
「報告を感謝する。痕跡が見つかったとは言いがたいが……これはベガ達の捜索に対しての重要な報告になると判断した。依頼遂行完了として、金貨を全員分で百六十枚支給しよう」
「そんな気前が良くていいのかよ。……あんたら、おれ達に何をさせたいんだ? この情報をべらべら喋るなって口止めなのはわかるけどよ、破格すぎる」
セトさんが四将軍を睨むような警戒した瞳で見ている。アーチス・オズ将軍が代表としてか、頷いてこう言ってきた。
「そうだ、諸君らには秘密裏に、人食い街に呑まれたのであろうベガ達および、冒険者達の救出活動を行って欲しいのだ」
「無理じゃねえのか」
「諸君らは何かしらの対処法を知っているのだろう。解決策ではないのだろうが」
「……金額は?」
「成功したならば、全員に白金貨五十枚分を追加で支払う」
「はあ!? 二世代遊んで暮らせる金額じゃねえか!!」
これにセトさんの目の色が変わる。金貨のさらに上の価値を持つ白金貨は、庶民が一生お目にかかる事の無い、希少価値の高すぎる貨幣で、十枚あれば一生質素に食べていけるとまで言われるのだ。
それを五十枚。明らかに金額が高すぎる。
だがそれは同時に、この依頼が超がつきそうな程厄介だと証明する様な物だった。
セトさんがつばを飲み込んだ顔をする。きっと再建する村の事とかをぐるぐる考えたのだろう。
「さらに、お前達に英雄の称号を。それから王国の貴族の称号であるエメラルドロッドを授けよう」
「セト、受けるな。異常な高額さだ」
「……将軍様達、それほどの報酬を支払いたいのは何故でしょうか?」
目がギラギラと輝きだしたセトさんを止めようとするフィロさん。
警戒心で目が光るギザさんの問いかけに、アーチス・オズ将軍がこう答えた。
「ベガ達には、何としてでも、魔王を倒してもらわなければならない。聖剣の勇者が聖剣の鞘とともに次々と殺されていく今、勇者になりたがる強者がほとんどいないのだ。聖剣がないのに戦えるわけもないと。そんななか現れた、勇気と欲望のあるベガ達には、何としてでも復活した魔王を倒してもらうしかないのだ」
他に手を上げそうな人間がいないから、色々な物を背負わせざるを得ない。
ベガが居ないと困るから。ベガを人々の希望にしたいから。
行方不明になったベガ達、鮮烈なる雷のチームが戻ってきてもらわなければ困るのだ。
だが、ベガ達が行方不明だけならまだしも、変な街に飲み込まれて戻ってこないと言うのが世間的に広まったら、国中の希望を持っていた人々を絶望にたたき落とす事になるし、もう希望がないとなったら、人間はどこまでもおかしくなれる。
この国のために、ベガ達が戻ってきて、魔王討伐に向かってもらわなければならないのだ。
それが今の発言でよくわかった。それはセトさん達も同じだっただろう。
「受けようじゃねえか」
「セト」
「セト!」
「ベガ達に、してもらおうじゃねえか、魔王討伐。こちとら素行の最低なあいつらが、それくらいやってくれないと、困るぜ」
そのために見つけなけりゃな、とぎらついた瞳でセトさんが言い、私達を見た。
「付き合わなくて良いぜ、おれだけで」
「今更何を言う。俺はお前と一蓮托生というやつだ」
「これであんたに死なれたら目覚めが悪いわ」
「やれる事をしましょうよ」
セトさんだけだとすぐに無茶をするだろう。それに……私達はアフ・アリスの教えてくれた情報が少しだけ手元にあるのだ。
それにセトさんだけが行方不明になったら、アテン村の優しくしてくれた人々に顔向けができない。
そんな思いで言った私や、彼と付き合いがもう十分に長い他の二人は、私よりもセトさんの無茶に付き合うつもりで居るようだった。
「ただし、その報酬の話は違えるんじゃねえぞ、契約書を作ろうぜ」
これだけの報酬なのだ。契約書無しには話を進めない姿勢のセトさんは、正しい姿勢に違いなかった。
こうして私達は、超高額の報酬をもらう契約を結び、”人食い街に呑まれた人々の救出”を秘密裏に行う事になったのだった。




