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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第六部 分割掲載

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三話

イニシエルがあった場所に近付くという事は、それはすなわち都から北東を目指す東の大街道を北に上っていく事になる。

魔王の居城は王国から北東の天空に浮かんでいたので、その地形的におかしな事はない。

そもそも魔王の居城は世界地図の上で眺めると、世界の中心にあったのだ。

それは魔王の居城であった城がそびえ立っていた地が、それ以上の古の時代には、神々をまつる神聖な神殿があった場所だったからとも言えるだろう。

その神殿に何者を祀っていたのかの記録は、長い長い魔王との戦いの中で消え失せてしまったけれども、地形を考えるに世界中の人々の信仰を集めていたに違いない、と言えた。


三年の歳月が流れた後の、魔王城跡地が、どうなっているのかを私は知らない。魔王が倒された最初の頃は、色々なお宝を求めて冒険者が調べ回っていると聞いていたけれども、それから、魔王の部下だった五王が魔王の座を争い、町や村を滅ぼして回っていた。

その混乱の中でもなお、お宝を求めた浪漫を求めた人々が、跡地を探索していたかもしれないが、危険度は跳ね上がっていただろう。

そこに、少しばかり近付くのが、今回のベガ達の捜索の場所だ。

アテン村との土地関係が気になるかもしれないが、アテン村はさらにさらに北に街道を上っていき、ある地点で思い切り東に向かい、隣国との国境線沿いにある湿地帯にあったのだ。

私達はつまり、アテン村に戻る経路を上っていき、ベガ達を捜索すると言う流れになっている。

ある地点とは、魔王城跡地に向かうための分岐点だ。聖剣の勇者達のために作られた分岐点で、そこから東に東に進み、三つほど村を経由してアテン村という事でもある。

この三つの村と街は、比較的無事だった。アテン村と規模が違いすぎるほど大きな所で、雇われている人達も相当な数のようだったし。


「魔王が復活したんだから、魔王城への分岐点のあたりはもめそうだけどよ……まあ捜索する場所はそこよりもずっと都に近い位置だから大丈夫か」


地図からぶつぶつ言っていたセトさんがそう言っている間にも、団体で私達はベガ達がいなくなっただろう場所を目指している。

大人数で該当する土地に向かった方が、魔性の手強いのとぶつかった時に、生き残れるという理由からだ。


「皆入り用なんだ。何しろ家賃が馬鹿にならない人間ばっかり」


「そうなんですか」


「あんた達は田舎の寂れた運のいい村の護衛をしていたんだろう? そういう所とちがって、多少大きな街も村も、逃げてきた人も暮らすようになるから、住居費用が馬鹿にならなくなるんだ。月が変わるたびに家賃が上がっているとかいう恐ろしさ」


「路上で生活する奴も出てきてて問題になってる街もある」


「街を拡大にするにしても、資源を安全には手に入れられないから、難航するしな」


同じ幌馬車を使っている、大きな街の護衛をしている人達が心底大変だという調子で言う。


「うちはおれ達だけしか、護衛の居ない村だったんだ、でも運が良いんだよな。魔性があんまり近付かない。そもそも魔性の基準で村だって思われない人数しか暮らしてないのかも」


セトさんは星の話はしない。星をここで話すと面倒だからだろう。

アフ・アリスをうしなった今、星を確実に降ろせる人が居ない事も大きいだろう。

子供達は星を降ろせる可能性が高いけれど、確実ではないのだから。


「小さいちんけな村なんだな」


「村の住人の顔を全部覚えられるくらい」


「そりゃあ小さい」


「でも村は村だから、一応護衛をつける対象にはなったんだな」


皆でそんな会話をしている間、私は幌馬車から外を見ていた。

隣に、アフ・アリスが居ない事が慣れないし落ち着かない。

彼はそれだけ、私の隣にいてくれた存在だった。

たとえ魔性に堕ちていたとしても、あの優しい心が健在だったら、彼は村で生活できただろう。

そんな事はもうあり得ない、彼は魔王に乗っ取られて戻ってこないのだ。

彼が残してくれたのは、私の胸の中の暖かな何かだけ。

自分の胸を切り開いていないから、心臓が確実に胸の中にあるかどうか、断言は出来ないけれども、聖剣の鞘というものではなくしてくれた、その事実だけが、残された事実だ。

……あと、ヘリオスを救ってくれたという事も事実かもしれない、けれども。


「止まってくれ、大体このあたりから捜索を開始しろとのお達しだ」


その道中を送ってくれた兵士の声で幌馬車が止まる。いろんな冒険者達が乗っていた幌馬車を降りて、おのおのの予想の中、何かの痕跡が残されていないのかの大調査が始められた。






調査は難航した。本当に痕跡らしい物を誰も見つけられない位だった。

これがどういう事実を意味するのか、考えたくない人は大勢居るだろう。

痕跡の残らない失踪は、自分の意思である可能性が高いのだ。追いかけられたくないから、証拠を残さないという奴である。


「ベガ達……自分の意思で去って行ったのか?」


「百以上の数が、自主的に? 王国の大隊長達も居たりしたんだぞ」


「少なくとも、王国の大隊長とかは、失踪しないだろう、普通」


「やってられないっていう理由で、冒険者が逃げ出すのはありふれているんだが、大隊長率いる兵士団まで、同じように逃げるとは考えにくい」


「そうだ、ベガと一緒の大隊長は誰だった」


「ファンム殿だという話だ」


「あの、異常なくらいに国王に忠誠を誓っていた? 余計に逃げ出さないだろう」


一向に成果の上がらない痕跡探しで、半日もたたないうちに皆いらだちを隠せなくなっていた。

この痕跡探しの間も、魔性が襲ってきたりしていたのだから当然だ。

その魔性達は確かに、五王軍に率いられた様な物では無かったけれども、疲労させるには十分な数だった。

これは一日で皆依頼を降りそうな気配がする。

そんな中でもセトさんは鵜の目鷹の目といった具合で探し回っている。ギザさんも、探索の術を使って、見つからない痕跡を探し回っている。

私も、突出した物がなにも無いなりに探している、その途中での事だった。


「あー、疲れた。このあたりに何年か前まであった、イニシエルがあればいいのに」


誰かが大声で言ったのだ。それに、口々に同意する冒険者達。


「イニシエルがあれば、休憩も出来たのに」


「聖水が流れているあの街が、今も残っていたらなあ! きっと安心して休める場所になっていたし、こんな面倒な依頼をしなくて済んだのに」


「おいしい依頼だと思っていたのに、何にも見つからなさすぎる!! あーあ、どこでも良いから、休める街が出てきてくれないかな」


彼等の考えは同意できる部分が多分に含まれている。

でもそれは、人食い街を呼び寄せる条件だった。


「……」


「……」


「……」


「……」


私達は視線をやりとりした。逃げ出すかどうするかという視線だ。


「逃げんぞ」


この場で私達の決定権を持つセトさんが、ぼそりといい、私達は抜き足差し足、その場から離れようとした。

イニシエルが人食いの街だと話しても、ここの冒険者達は信じないだろうという総意からだ。

だって彼等はイニシエルが平和で安全だった頃を知っているから、イニシエルを求めるわけで、ここで声高に、あそこが実は危ないのだと言うのは、頭のおかしい連中扱いされる。

ここでの私達の最善は、この場から速やかに離れて巻き添えを食わないようにする事。


「探す場所をちょっと変えようぜ! あっち行こうあっち」


ここでセトさんが、芝居がかった声で大声で宣言する。


「そうだな、ここは皆もう探しているから、向こうも見てみよう」


「向こうで探索の術をかけた人居るのかしら。ああ、ジルダ、こっちに来てちょうだい」


「はい」


私達は嘘くさいけれども、ぎりぎりおかしくない調子で、その場を怪しまれないギリギリの早さで遠ざかったのであった。

そしてそれは正しい選択だった。


私達が向こうを探すと言って、ベガ達が失踪したあたりに一番近い林を探して、やっぱり痕跡がないと言い合って、夕刻前に、兵士達が連れてきてくれた元の場所に戻ると……


「一人も、この場所に戻らないってあり得るか?」


「全員人食い街にのまれた、と言う結果なのだろう」


「まだ夕刻前よ、夕日が沈む前なら、街から出てこれるはず」


誰も、だーれも居なかったのだ。そして。


「……あれ、城壁と城門じゃないですか」


私は見つけた一点を指さした。三人が私の示した方を見る。

そして。


「城門の向こうで、いろんな奴が酒盛りしてるぜ」


「盛り上がっているな。……あれは、王国の兵士の紋章だ。これは幻覚か?」


「あの街の中に、皆残っているのかしら? ちょっとまって……あんた達、早くそこから出てきなさい!! 危ないわ!!!!」


安全な距離を保ちつつ、ギザさんが拡声の魔法で門の向こうで騒ぐ、冒険者達に声をかけたけれども、誰も、誰も門の外に出てきてくれなかった。


「危ないです、戻ってきてください」


「そこから出てこい! まだ間に合う!」


「出ろ、出ろ、出ろ!! 日が沈む前に!!!」


ギザさんに拡声の魔法をかけてもらって、私達も必死に呼びかけたけれども、……けれども、酒盛りに浮つく人々は一人として、戻ってきてくれず。

日が沈んだその瞬間に。


「うわっ」


「なんだ! 急に霧が」


「これ、魔法を強制的に打ち消す力が宿った霧だわ! なんて力なの!」


「何も見えません!!」


突如深い霧があたりを覆い、霧が晴れた月夜の今。


「街が……」


「消えてしまった……」


「嘘……」


「これが……」


人食い街。私達は街があった場所がなにも無い荒野となっているから、ぞっとして顔を見合わせたのだった。

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