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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第五部 分割掲載

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二話

「ちょっと、あなたなんで寝ているわけ? 働きもしないのに? あなたこの村の護衛の一人として来ているんじゃないの? 役立たずに家はいらないでしょ!!」


また気を失ってしまったらしい。意識が浮上したと思った矢先に、響き渡ったのは嘲笑の声で、きゃらきゃらと笑った複数の女性の物だった。

意味がわからないと思って目を開けようとしたその時にはもう、遅くて、私は体を掴まれて、家から引きずり出されていた。

そして、優しさの欠片も無く外に、放り出されたのだ。


「小さいけど、家も自分達で手に入れなきゃならないとか、あの村長のババアって本当に意味分かんないわよね!」


「私達が何人いるのかわかってるのかしら!」


「第一陣だけで四十人よ!? それに加えて兵士団がのべ百人! 寝泊まりする場所も手配できなければ、魔性よけの範囲の中の畑は潰しちゃいけないとか! 国のために命がけで戦う事になってる私達に、魔性よけの外で魔性に神経をとがらせながら、生活しろって? ほんっとうに冗談じゃ無いわよ!」


女性達が口々に、誰かの事を罵って、家の中に入っていく。せまーいとか、ウサギの寝床とか、言っているけれども……意味が全くわからない。

私はよろよろと起き上がった。ここのところ胸の痛みは少し治まってきていているからか、意識が有る時間も増えてきていて……だからそろそろ、細かい村の手伝いをしたいと、村長さんにお願いしようかと思っていた矢先だったのだ。

それなのに、気付いたら家から放り出されたって言う状況の意味がわからない。

起き上がって、ずきりと痛んだ胸を抑えて、呼吸をゆっくりと整える。呼吸は大事だと、昔訓練で叩き込まれた事もあって、呼吸を落ち着かせる事だけはまあまあ出来るのだ。

一体何が起きたのだろうか。私は何日、意識を失ったままだったのだろうか。

そんな風に自分の事を考えていた時、周囲を見回して、違和感がありすぎる光景に目を疑いたくなった。

私達、セトさんのチームが暮らしている場所は、村の中心である神殿から、一番遠ざかった所にある、ちょっとした広い空間がある場所だ。

前はその空間にも、いくつかの建物が有ったそうだが、一度火の不始末で建物数棟が全焼したと聞いている。

その後は、住人の数がそんなに居ない事もあって、建物を作り直さなかったから、広い空き地がある状態のままだったそうだ。

時々子供達がそこで遊んだり、家族のお手伝いで、豆の選別をするために広げていたりする場所だった。

その空間に、いくつもの天幕が張られていて、……いや、天幕じゃ無い。これは移動式住居の一つだ。それも長期的に滞在するために作られている骨組みの。

それらが乱立していて、たくさんの人々が行き交っていて、とてもうるさい位だ。

一体何が起きて、ここはどうなってしまったのか。

混乱したまま周囲を見回すと、ふとそこを行き交う男性の一人と目が合った。


「ああ、君! 村の人を探していたんだ。この村の食料庫から、食料を買い求めたくて」


「あ、あの……私、違うんです……」


びっくりしすぎて、そんな言葉しか出てこなかった。それを聞いて男性は不思議そうな顔をした。


「村の建物から出てきて、村の関係者じゃ無いって変だろう」


「私はセトさん達とここに来た後方支援の者なのですが……ここに来てから胸を悪くしてしまって」


心臓が無いというのがわけがわからないだろうから、とセトさん達に、胸を悪くしたと言うように、と事前に話し合っていたのだ。

ジルダは聖剣の鞘だった事を思い出したくないだろうし、もめ事に巻き込まれたくないんだろうから、黙っているにはこれが一番、という共通の認識になった結果だ。

私の言葉に、その男性は舌打ちをした。


「なんだよ、役立たずにまで国は給金を出しているのかよ。あんた使えないな」


「……」


私だって好きで役立たずなわけではない、どこかに消え失せた心臓がちゃんと胸の中にあれば、普通の人間として生活が出来るのだ。

そして、胸を悪くしたという人間に対して、事情をまともに聞かずに、役立たずというのは、ずいぶん失礼な話だと思えて仕方が無い。

胸を悪くしたの中身が、村を守るためだったという話だったら、どう反応していたのだろうか。そうでは無いけれども、少し意地の悪い事を考えたくなった。


「あの、でも……この村の食料庫の食べ物は、お金では買えないと思います」


「はあ、なんでだよ」


「この村の食料庫は、冬に村の人間が飢え死にしないように、蓄えている場所であって、売買するために貯めているわけではないんです、だから……補給が出来ないかもしれないのに、村長さんは、食料庫の食べ物を、売る事を許可しないと思います」


「ふざけてんじゃねえよ!」


私が知っている限りの情報を、ゆっくり落ち着いて話した途端だった。男性がつばを飛ばす勢いで、不愉快だと言わんばかりに怒鳴ったのだ。


「蟲王エレドラとの最前線に、これから赴く人間達に対して、この村の人間どもはくそだな! まともな住居も手配できない、食事も満足に用意できない、接待も出来ない! この村の人間どもはなんなんだ? こっちは王様の命令で、命がけで戦いに行くってのに! 俺達が戦わなければ、あんた達だっていつまでたっても、魔性におびえて暮らすんだぞ!」


そんな事を怒鳴られても、私はこの村のあれこれを取り仕切る人間ではないから、何も手助けは出来ないし……

この村は、たしか……セトさんが教えてくれたけれど……


「この村、護衛の冒険者も増員できないくらいに、貧乏な村なんで……皆で食べていくので精一杯と、聞いたような覚えが……」


「村長もそう言っていたけどな!! そんなわけがあるかよ! 普通は前線の近くってのは命知らずどもがひしめくから、金が動く環境だ!! 金も女も飯もな! それだってのに貧乏だあ!? どっかにいい物を隠しているんだろう!」


その男性の怒鳴り声に、そうだそうだと何人もの、男女関係ない声が同調する。

多勢に無勢だ、でも私には何も出来ない。

どうしたらいいのか……ここを切り抜ける方法は……と考えた時だった。


「ああ、アルタイル。その女の子を怒鳴っても仕方が無いだろう。お見受けしたところ、セトの所の可哀想な家政婦だ」


不意に人混みが割れたと思うと、大柄な男性が一人現れて、私の前でにやにやと笑った。

見覚えはある。……ベガだ。

セトさんを見下している、あの、ベガだ。

彼がどうしてここに居るのだろう。私は慎重に口を開いた。


「お久しぶりです。どうしてここに来たんでしょうか。あなた方のチームはセトさんがお嫌いだから、ここに来ようとも思わないのでは無いですか」


ベガのチームの腕利き達は、大半がセトさんのチームに入った後に、忠告を話半分で聞いて、実際に命がけの状況になって、セトさんに守られた後に、話が違うと怒ったり、恨んだりしてセトさんのチームを抜けた人達だと聞いている。

そんな人達の集団なのだから、セトさんの方が離れていった後を、追いかけるとはとても思えなかったのだ。

そんな私の疑問に、ベガが答えた。


「ここは、蟲王エレドラの軍勢と一番近い人間の居住地なのさ。よってここを、王国の陛下が最前線として使う事を決めた」


「エレドラの? そんな話は初めて聞いたような気がします」


「そうだろうな。この村の人間達は実にのんきだ! 夢物語のように、星だの花だので魔性が寄りつかないなどと寝言を言ってばかり! どうせセト達がこそこそと影で魔性を退治しているだけなのだろう」


ベガも、アフ・アリスの遠い過去の知恵を信じない様子だった。確かに、星も花も、聞くだけなら意味不明だろう。


「そしてセト自身も、この村の出身なのだから、ずいぶんと村の人間と癒着している様子だな。我々には全く用意されない、あらゆる物を用意してもらっている」


それは、セトさんがここに来る前に、ここに連絡していたから、用意してもらえた物ばかりだろうし、何しろ人数が大違いなのだから、出来た事では無いだろうか。

私は心の中でそう思った。口に出すと何が起きるかわからない事もあって、黙っていたけれども。


「まったく。まともな家をあの逃げ足の速い盗賊風情に用意するなら、我々が来る時のために、森を切り開き、家を用意しておくべきだというのに」


このあたりの湿地帯は、家の土台をどうにかする際には不向きで、だから村をこれ以上広げられないと、村長さんや、隣の村の関係者が言っていると、私はここでふと思い出した。

……隣の村の人達が、この村が魔性が寄りつかないと聞いて、移住したいと持ちかけてきているというのだ。

確かにそういう事を考えたいのは道理だが、と村長さんは前置きして


「このあたりの湿地帯は、土台が良くないから、あんまり森を切り開いたり、湿地帯を干拓したりして村を大きく出来ないのさ。建物がうまく立たないんだよ」


そう言って、実際にセトさん達を護衛としてつれて、村とのぎりぎりの境の土地を調べさせて納得してもらったと言う話だった。


「小さいから、割とどこにでも逃げ出せるのがうちの強みだけどよ、これ以上は広がんねえんだよな、仕方ない話で」


と言うのがセトさんの言葉で、フィロさんが苦笑いしていた。

だが、そんな事情はベガにとってはどうだっていい話だろう。


「……兵士達からは、住人に出て行ってもらって、ここを最前線の土地として使えないかという意見すら出てきているくらいだ」


「出て行った住人はどこに行けばいいのでしょうか」


「そんな事は、我々の考える部分では無いな! それこそ、このあたりに詳しいだろう、村長やセト達が相談し合う事だろうな」


ベガはそう言い、ぐっと手を握りしめた。


「ここで、エレドラの軍勢を討ち果たせば……リリーシャ姫の夫となり、王国の最も栄えある人間として君臨する事になる。セト達にも、私達への口の利き方に気をつけるようにと、伝えておいてくれ」


「……リリーシャ姫はヘリオスがお好きではないのですか?」


思ってもみなかった野望を聞いた私に、ベガが言う。


「陛下は、見事エレドラを討ち果たした暁には、あの世界一の麗しさであらせられる、リリーシャ姫を妻として与えると断言なさった。王は約束を破るまい」


……ヘリオスが好みのリリーシャ姫は、あなたの顔面は好みでは無いと思いますよ、と言う忠告は、出来なかったので、私はのろのろとその場を後にして、とりあえず働いて居るであろう、アフ・アリスの所に行くべく、神殿に向かったのであった。

その時、すれ違いざまに、ベガの腰の剣がちらりと見えた。



その剣は、私の記憶にあるベガの剣とは違っている気がして、そして、なにより、とんでもなく光り輝く、純金が発光しているような黄金の剣、だった。

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