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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第四部 分割掲載

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十一話

「聞いたか、ベガが元魔王の部下の、五王の一角を打ち倒したんだとよ」


「聞いたぞ、なんでもとても頑丈な魔法の剣の力を使って、五王の一角を完膚なきまでに倒したんだとか」


「勇者ヘリオスの所在がわからなくなって久しい今、ベガこそ真の勇者の一人だ」


「ほかの聖剣の勇者達の武勇はどうだ?」


「おのおの、自分の属する国や街を守り切っているらしい。聖剣の勇者とその仲間達の強さは間違いない物だが、ベガほど身軽に色々な悪を討ち滅ぼせる男はいないとか」


酒場では数多の人間がそんな事を話している。ベガ、聞き慣れない男の名前だった。

その男の持っている魔法の剣は、一体どんな物なのだろう。

とてつもなく頑丈な剣。

ふっと意識のどこかにそれがかみ合ってくる。

魔王を倒した勇者ヘリオスの、この世で一番大切な婚約者、ジーナの心臓であった神剣もまた、とてつもなく頑丈な剣になった。

黄金に輝く、明らかに特別な力を宿す、ヘリオスを愛している事を証明する剣だ。


「あこがれちゃうわ、ベガさん! この町にも来てくれないかしら」


「聞いたところよると、ベガは魔王の腹心の部下達である五王を全て倒す様にと、王様から直々に頼まれたらしい。報酬は王様の出せる物なら何で持って話だ」


「王様だけか? 神殿側からも多額の報酬が与えられるって聞いたぜ」


「オレ帝国の皇帝からもって聞いた」


「ベガって本当に強くて格好いい男だよなあ! 魔王を倒してダズエルに向かった後の消息の知れない勇者ヘリオスよりも、ずっと頼もしいだろ」


「ちがいない! 黄金に輝く魔法の剣を携えた、聖剣を持たない実力が最強の、本物の勇者だ!」


酒場の人間達はそう言ってベガを賞賛する。

彼は彼等の会話の中に、どうしても聞かなければならない言葉が聞こえた気がして、立ち上がった。

そしてありふれた動きで、彼等の近くに腰掛けて、こう言った。


「ベガの魔法の剣の話が聞きたいんだ。酒を一杯おごるから、知っている話を教えてもらえないか?」


「おう、いいとも!」


酔っ払った男達は、女給達は喜んで、彼の申し出を受け入れる。ベガは王国でいま、一番話題のある冒険者だったのだから、その話題が気になる事は、誰でもあり得た話で、珍しくもなんともなかったのだった。


「ベガの魔法の剣は、聞いたところ、ダズエルにいた武器商人から買い求めた物らしいぜ」


「黄金に輝く、何を切っても刃こぼれ一つしないって触れ込みの、それはそれは強力な剣だとか」


「聞いたところによれば、ドラゴンのうろこもあっという間に切り裂くし、魔物の鎧甲冑も粘土みたいにすっぱすぱ」


「手入れなんて何にも要らないって言う、すごい剣なんだとよ」


「……黄金に輝く?」


「ああ。日の光を浴びてキラキラ輝く、黄金の、それはそれは美しい剣だって話だ。見たことは無いけれども、見た奴が皆そう言うんだからそんな物に違いない」


「……そうか。是非ともその魔法の剣を見てみたいものだ。ベガ殿はいま、どちらに滞在しているのか、誰か聞いていないだろうか」


「ああ、それなら、今度ベガは王国と公国の国境線付近を根城にしている、五王の一角を滅ぼすって事で、そっちに向かっているはずだぜ」


「ここはそんなに遠くないから、今から出立すれば、追いつくに違いない」


「あんたも戦う事ができるのか? 出来ないならベガのお荷物になるから、凱旋の時にあった方がいいだろう」


酒場の人間達はそう言って、酔っ払いながらも彼に助言をする。

彼は仮面の奥に表情を隠しながらこう言った。


「魔物相手の戦いにだけはなれているから、ベガ殿のお荷物にはならないだろう。これでも腕には自信があるんだ」


「へえ、あんたもそれなりの腕利きの冒険者ってわけか。名前を聞いても?」


「ヘリオン」


「へえ、ヘリオンっていうのか。どっかであんたが名前を挙げたらお祝いしてやるよ」


酒場の客達はそう言って笑いながらまた、おのおのの話題に戻っていく。

彼ヘリオンはそんな客達を見回した後に、勘定を済ませて酒場を後にする。


「……君の心臓を、僕以外の誰が」


彼は小さく呟く。瞳はよどみ、濁り、ただただ得体の知れない何かが宿っている。


「ベガ。……報いを受けさせなければ気が済まない」


彼は誰にも聞こえない声で独り言を唱えると、夜の街道に一人歩き出したのであった。

それが本来ならば、どれだけ無謀な事なのか、誰も見ていないので気づきもしなかったのである。






「また痛むのか」


「本当にごめん」


「気にするな。……どこかにある心臓が、痛めつけられているのだろう。……だがどこを探せばそれが見つかるのか」


寝床でうずくまっているこちらを見て、自分の方が痛そうな顔を、アフ・アリスはした。

心臓が外にあって、それが傷つけられているなんていうのがどんな痛みをもたらすのか、彼は実際に体験は出来なくても、想像が出来る程度には思いやりがあった。


「星の術とかで探せればいいのにね」


「探すための情報が少なすぎる。星の術で探すには、もう少し心臓についての情報が必要になってしまうんだ。すまない」


彼は悲しそうだった。一度目を冷ました後、私は痛みで起き上がれない日が多くて、周りのお荷物のような状態だったのだ。

本当に、胸が、どうしたらいいのかわからなくなるほど、痛い。

これをどう説明すればいいのか、と思うほど、心臓の有る場所は痛いし、動けなくなるし、脂汗が止まらなくなったりする。

痛みのせいか、食欲もほとんど無くて、私の体は痩せていく一方でもある。

村の人達も、セトさん達も、アフ・アリスも心配してくれていて、私が死なないように色々気遣ってくれているけれども、痛みをこらえる事で一日が終わる事もある私は、とにかく迷惑にならないかと、そればっかりが気になっている毎日だ。

酷い時には、意識を失って、三日とか目が覚めなくなっている状況なのだ。


「……神殿に行った方がいいのだろうか」


アフ・アリスが考え込むように言う。私はそれにうんと素直に頷けない。

だって、どこかの大神殿とかに行けば、私がヘリオスの聖剣の鞘だった事がばれてしまう。

そうなったら、私はまた、リリーシャ姫やシンディさん、ウテナさんに命を狙われる身の上に戻ってしまうし、滅多に無い状況だから、神殿の聖剣の鞘を調べている人達の研究材料にされてしまう。

勇者を失った聖剣の鞘の女性達が、死んだ後に胸を切り開かれて、研究者達に調べまくられているのを、私は訓練途中に見た事があるのだ。

死人を冒涜するような行為だけれど、彼等も彼等で、勇者の力の源を探したり、人為的に勇者と聖剣の鞘を作れないかだったりを、王様とかから命令されて調べているのだ。

彼等の頭がおかしいだけじゃないのが、神殿のあれこれなのである。


「……神殿に連れ戻されて、ここに二度と戻ってこられなくなったら、嫌かな」


「助けてもらえるかもしれないのに?」


「私の神殿での思い出って、ろくな物じゃ無いんだ。まあ訓練と称して殴られたり蹴飛ばされたりぼこぼこにされたり、何日も徹夜を強いられたり、結構散々なんだ」


私は笑おうとして、胸がまた痛んで笑えなかった。

アフ・アリスが難しい顔をして、私を見下ろしている。

何かを言いかけた彼はしかし、その言おうとした言葉を言えない様子だった。


「……君の心臓が、見つかればいいのだが」


「誰が持っているんだろうね」


「わからない。……そうだ、近いうちにこのあたりの大きな街に、あのベガが来るのだという。仲間達を引き連れて。村長殿がよその村の人間から聞いた話によれば、湿地帯を根城にする、魔王の配下の一角、五王の一人が湿地帯の向こうに軍勢を集めているから、それを撃破しに来るのだとか」


「セトさん達、嫌がりそう」


「そうだな。私もあまりいい気分にはならない。彼等との軋轢を避けるために、私達は皆こちらに移動してきた訳なのだから」


「……その、ベガさん達が戦うってなった時の、一番の前線ってどの村になるんだろう」


「ここらしい」


「え、ここ?」


「ここが一番、五王の軍勢が集まってきているところに近いという話だ。だがその軍勢がこの村に来た事が一度も無いから、眉唾物では、という意見も村にはある」


「……そうなったら、どれくらい降りてくれた星は力を発揮するの?」


「子供達が毎日お世話をして、歌を歌って、星の力を強くしているから、今ではもうかなりの物だ。春が来て花も芽吹きだしている。双方の力が合わさっているから、銀の鐘と同等の魔除けに育っているだろう」


「ほかの村から何か言われないの?」


「星をよこせと村長が、街の町長に言われているらしいが、ここで降ろした星はよそに行ったら輝きを失う。この場で降ろした星なのだから、この場しか守らないと言う制約があるのだが……短絡的に星が欲しいと言う人々は、あまり聞いてくれないらしい」


「盗まれてない?」


「二度か三度は盗まれているが、目に見えている星が全てではないからな」


「……星の術って難しいね」


「大事な物は目に見える物だけでは無いと、星の長老達なら笑って言うだろうな」


アフ・アリスはそう言って懐かしそうに微笑んだ。

きらきらした、彼の本来の色である翡翠色の瞳が笑っている。


「……あなたは、五王の事、どれくらい知っている?」


「私は……あまり知らないんだ。あまり関わらなかったから」


「そう」


それならば、湿地帯の向こうの五王の軍勢の特徴とか、アフ・アリスはわからないだろう。

私はそこまで考えてから、またぎりぎりと胸が痛くなってきて、顔をゆがめて丸まった。


「また痛むのか」


「うん」


「……私が、その痛みを請け負えればいいというのに。……いや、もしかしたら」


アフ・アリスはぼそりとそう言ってから、何か思いついた様子だった。

それが何か聞く前に、私は胸の激痛で意識が遠のいて、焦った顔のアフ・アリスを最後に見て意識を失ったのだった。

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