表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第四部 分割掲載

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/82

九話

「ねえねえ本当に、ここにお星様がおりてくるの?」


「アフ・アリスじゃないから断言できないけれど、彼は下ろせるって言ってたよ」


アフ・アリスは子供達に、毎日花の術を使うために植え直した植物に、水をやる事を頼んでいた。

彼が一人で何でもやっていたら、もしもの時に再現が出来ないからと言う話だった。

彼は一人で何でも出来そうだけれど、自分がいなくなったら総崩れ、という未来だけは避けたい様子だった。

それも気持ちがよくわかる。……聖剣ありきの、魔王討伐は、聖剣が折れたらその時点で詰みだったのだから。

私が死にかけて、痛みに苦しんで、それでようやくなんとかなるという戦い方が、いかにもろい物だったのかを、私はよくよく知っている。

……そこで考えたくなってしまったのは、神剣のある場所の事だった。

ヘリオスが持っていた、私の心臓だと言われている神剣は、一体どこに消え失せてしまったのだろう。

その答えは誰が持っているのかもわからない。

ダズエルでの戦いで紛失したあれのありかなど、私にわかりようもない。私はあの後すぐに檻の中に入れられてしまったのだから。

胸を触ると鼓動が聞こえる。……心臓はやはりここにあるのだろうか。

そんな内心を子供達は知る様子もなく、降りる星の事を話している。


「お星様って赤色なのかな」


「銀色キラキラかもよ」


「青いと良いなあ」


「きんぴか!」


星が降りるなんていうのは普通にはもう聞かない話だからこそ、子供達が楽しみにするのだろう。

アフ・アリスは今は菜園の世話をしている真っ最中で、鐘があった場所に私が案内するように頼まれたのだ。

私が元々は聖剣の鞘だったと聞いても、村の人達の対応は変わらない。

この村の人達には、聖剣の鞘なんて、遠い世界の話であり、関係のない事なのだろうと、私はうっすら感じ取っている。それくらい彼らにとって、魔王が倒されるとか、そういうのは縁遠い世界だったに違いなかった。


「ねえねえ、ジルダ姉ちゃん。アフ・アリスはなんで色々めずらしいの?」


「時の止まったお墓に暮らしていたからかな」


「アフ・アリスはひとりぼっちだったの?」


「きっとそうだね。だから村の皆が優しくて親切だと、うれしくなっちゃうって」


「アフ・アリスは強い?」


「さあ、どうだろう」


私はできる限り、アフ・アリスの事を詳しく言わないようにしていた。色々知っているけれども、言ってはいけない事がいくつもある、彼はそんな人間なのだから。

そもそも、魔王のしもべだった彼は、もはや人間の枠でもないのかもしれないけれども。

そう考えた時に、私の心臓があった場所がずきりと痛んだ。

この痛みには覚えがある。

……心臓である聖剣が体外に出て、何かと打ち合ったときの痛みだ。

私の心臓は、まさかもしかして、今、胸の中にないのか?


「……!」


「ジルダ姉ちゃん、顔色悪いよ、休んだら?」


子供達が不安そうに見上げてくる。私は大丈夫と強がって、皆を鐘のある場所から降ろしたのだった。


……確実に心臓があるのかないのかわからないのに、生きているように動いている私もまた、人間とは違うなにかになったかもしれない。

胸の痛みから頭をよぎったのは、恐ろしい考えだった。


「……私は」


なになんだろう。

色々考えても答えは出てこない。それでも言えるのは、誰かに危害を加えて楽しむ生き物ではないという事だ。


「……ヘリオス」


私の心臓……聖剣をどこにやってくれやがったの?


その問いかけに対しての答えなど、どこにあるかもわからない物だった。





「聞いたか? あの鐘をどうしたって、魔性よけになりゃしねえって噂」


私の胸が覚えのある痛みを覚えたその日の夜、帰ってきていたセトさん達の情報収集の結果、村から持ち出された銀の鐘をどうやったところで、魔性よけにならない状態だと言う事がわかった。

それはどういう意味なのだろう。

アフ・アリスは銀の鐘の音を魔性が嫌うと言っていたのにだ。


「アフ・アリス、何を黙っている?」


慎重に問いかけてきたのはフィロさんで、視線だけが強く疑問を訴えてきているのがセトさんとギザさんだ。

アフ・アリスはゆっくりと香草のお茶をすすりながら言う。


「何も。私は銀の鐘の音を、魔性達がことのほか嫌うという事を知っているが、どうしてほかの地域に移された銀の鐘が、魔性を退けないのかは知らない」


「あんたが知らねえなら誰も知らねえな」


セトさんが真顔で言う。色々言われたのかも知れなかった。


「……ほかに、銀の鐘の事で知っているのは?」


問われたら答えるとわかったギザさんが、問いかけてくる。それにアフ・アリスはこう言った。


「私の知っている銀の鐘は……その村で一番力の強い人間が打ち鳴らしていた。それくらいしかわからない」


「なんか意味のありそうなネタだな。事実この村で一番強いのは、おそらくアフ・アリスだろ」


「私ごときが強いと言われるのは、妙な気分になるのだが」


「馬鹿いえ。あんたの花の術も星の術も、おれらからすりゃ規格外だ。その規格外の力が、鐘に影響を与えていても驚かない」


「……そうか」


アフ・アリスはそういう物かもしれないと言いたげに目を瞬かせた後に、こくりと頷いた。


「私も完全な百科事典ではないから、知らない事もきっと多い」


それでも、彼は大事な物のためにいくらでも力を使う、そんな生き方しか出来ないのだろう。

……私が、心臓を武器として勇者に渡す以外に、生きる道がなかった事と同じように。

そう考えると、心臓のあった場所がまたぎゅうぎゅうと痛くなって、ぐっと唇をかみしめて、私はやり過ごそうとした。

やり過ごすのは慣れているから、大丈夫だと思っとのに。

だが。


「ジルダ、顔色が悪い。どこか痛むのだろうか」


私の顔色に、アフ・アリスがすぐさま気がついて、そう言ってきたのだ。


「うわ、マジで土気色してんじゃねえか、具合が悪いならさっさと休もうぜ、立てるか?」


「な、なんとか……」


と私は言おうとして、立ち上がったは良い物の、その瞬間に胸に激痛が走って、そのまま倒れ込んで、意識が真っ暗になったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ