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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第四部 前編 分割掲載

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五話

収穫祭までの間に、やる事は本当に多かった。お祭りというものの準備をした事のない私にとっては、こんなにも手間暇をかけて行う事だと驚くほかないくらいだった。

色んなものを収穫し、お祭りのための出し物の打ち合わせを行い、村のあれこれの見直しをして、売るための物の準備をして、出店するための道具を準備して……やる事は限りなく多い。

場所取りも毎年もめる物だという事で、それらでもめないようにという準備も多かった。

お店の設営予定地に杭を打って、各々の範囲を決めたりしていた。

確かに出店の設営地はもめそうなので、これも当然の仕事であるのかもしれない。

そんな風に村中が収穫祭の事ばかり気にしていても、無論普通の生活のための事は毎日続くわけで、アフ・アリスの仕事は変わらないし、私の仕事も変わらない。

セトさん達は他の村や町の警備の人達との打ち合わせがあって、出かけたりしているけれども、不思議な事に魔性はこの村には入ってこないので、大きな問題はまだ起きない。

そしていざという時は、村の人を避難させるために、私とアフ・アリスが戦う手はずになっている。

皆そろって、私のような平凡な女の子にしか見えない奴と、独活の大木にしか見えない役に立たなさそうなアフ・アリスが戦うと聞いても、大丈夫なのかという反応をしている。

皆さんが避難する間の時間稼ぎ程度なので、というと村の人達は納得するので、やはり私達は戦う人間にはとても見えないのだろう。仕方のない事だ。

そうしてあっという間に時間は収穫祭当日まで過ぎていき、村の大部分の人達が我先に、収穫祭の会場の方に向っていくのを、私とアフ・アリスは神殿の菜園の壁の上から見送っていた。


「皆とっても楽しそうね」


「収穫祭は、どの村でもきっと、楽しみな物だ」


「あなたは?」


「皆が楽しそうなのがうれしい」


「……いつも思うんだけど、あなたは優しすぎる人だ。そんな人がどうして、あんな事をしていたのか全く分からない」


「……聞かないで、ほしい」


「わかった、じゃあいつか話したくなったら話して。さて、皆今日は村に戻ってくるのは夜更けでしょう? あなたは何をするの?」



「菜園の手入れが終ったら昼寝をしようと思っている」


「いいね、それ。私も手伝う?」


「じゃあ、ジルダは鶏の卵を集めてほしい」


私は時々潰してしまう、と情けない声を出した彼に、私は笑顔で頷いた。


「わかった。卵か、確かに見えないところに生まれちゃったら、もったいない事に潰しちゃうかもしれないね」


私は彼と顔を見合せた後に、彼がどこをどう切り取っても美しいその顔を、柔らかく笑った顔にしたから、やっぱりこの顔は人によっては争いを起こしそうだな、と再認識したのだった。







「平和って本当にいいなぁ……これが旅のさなかだったらとてもこんな風に昼寝なんてできない」


「私もダ。あの役割を背負って、昼寝を行うという選択肢はどこにもなかった」


とりあえず今日の仕事になりそうな事を済ませて、私達はごろっと庭園の日当たりのいい場所に寝転がっていた。

隣を見ると、アフ・アリスが薄く目を閉じて、唇を曲線に描いているものだから、本当に一枚の絵のように、いやそれ以上に美しい物があった。これだけ美しい人は人生で一度も出会った事のない人なので、いかにこの男が見目麗しいかを再認識してしまう。


「たしかに。あなたの寝首をかきたい人は山のようにいただろうね」


「幸いな事に、私に眠りの術は効果を発揮しないものだから、そう言った事は起きなかった。ただ、私が大昔は唱えていた眠りの術は、効果てきめん過ぎたのか、向かって来た者すべてを眠らせてしまった」


「とんでもないな……」


私は聞いているだけで、いよいよこの元魔王のしもべの能力が普通に考えても、勇者相手に負けるわけがなかったのだなと思う事になった。何度も思っている事だ。


「……私は私の信念があったから、彼等を通す事を認められなかった。……手はいっそすがすがしいほど血に染まったのは事実だった」


「それを忘れなさいとはとても言えないけれど、一つ言えるなら、あなたが散っていった人たちのために毎日お祈りをしているって事だけは、けじめとしていいんじゃないか」


「私はあまりにも殺し過ぎているのに?」


ごろりとアフ・アリスが寝返りを打って、私の方を見て問いかけて来る。私はその無防備な手袋に覆われている手に、自分の手を重ねていった。


「私は今のあなたしか知らないから。あなたにとって納得のいく正しい事を言っているのかもわからない。でも、あなたがただ優しすぎる事くらいはわかってるつもり」


「……私の友達が、ジルダでよかった。いつか友達の夢が終わるまで、君を友達と呼び続けたい」


「縁起でもない。あなたも私もこれから、波乱万丈じゃない穏やかな日常があるはずでしょう」


私が思った事を言うと、彼はかすかな声で言った。


「優しいのは君だ」





そしてその日から、一週間ほど、大きな問題らしい事は起らず、最終日の夜となったのだった。

夕方、他の村の護衛の人達と交代してきた、といったセトさんが言う。


「やっぱりだ。この村周辺だけ、魔性がまるで近付いてこねえって他の村の奴等が言った」


「何かの仕組みでもあるのか、セト」


「この村みたいな弱小の村に、そんな隠しだねがあってたまるか。何度もこの村だって魔性の襲撃でつぶれてんだぞ。そんな仕組みがあったらもっと発展して一大都市になってらぁ」


「……じゃあなんだと思う? ジルダ、アフ・アリス、あんたたち何か思い当たる事はないの?」


「私にはないんです。何かこう、特別な結界とかを習得してませんし」


「魔性は銀の鐘の音が嫌いだ」


「……は?」


アフ・アリスがのんびりとした調子で、セトさんの持ち帰ってきたお土産の甘いパンを幸せそうにかじりながら言いだす。皆初耳の言葉で、全員の顔が彼を向く。


「銀の鐘の音だぁ? なんだそれ」


「この村の鐘は銀の合金でできていた。そして古代ウロボロスの形式で作られているから、打ち鳴らせばかなりの魔除けになる」


「おいおい……おいお前何でそれ速く言わなかった」


「誰も私に聞かなかった」


アフ・アリスがしれっとそう言うと、セトさんはしばし黙った後に考え込み、フィロさん達も顔を見合せた後に言った。


「確かにジルダには聞いてもお前に聞いてなかったぜ……とんだ盲点だった……お前聞いたら答えるのかよ」


「この村の設備の事を話して問題があるのか。私は自分の事はあまり聞かれたくはない、だが知っている事で話せる事は話す」


「おれたちの認識が悪かった、なあ、村の鐘ってどんくらいすごいんだ」


「この鐘は長くこの村の人達が祈る場だった、魔性を近寄らせない力はかなり高い。思い切り打ち鳴らせる人がいるならば、相当遠くまで魔性を退ける」


「……やべえこと聞いてるわ、でも何で今までそうじゃなかったんだ」


「この鐘は磨き上げて銀色に光る位にしないと、音の力が遠方まで広がらない」


「うわ……」


つまり真っ黒に酸化した状態では、効果などないに等しかったのだろう。

しかしアフ・アリスが磨き立てたから、本来の力を発揮して、今存分に魔性を遠ざけているというわけだったのだ。


「それっておれたちの秘密にした方がいい事だと思うか?」


「同じ鐘を他の村も町も作れるだけ、鍛冶技術があるなら。ないなら秘密の方がいいだろう。奪われる」


アフ・アリスがもう一個お土産のパンを食いちぎってそう答えた。


「そうだ、今日は収穫祭の最後だから、お前らも見に行くなら見に行こうぜ、おれ等と一緒なら絡まれてもそこまでにならない」


「いいや、私は行かない」


「私も今更顔を出してもって感じなので、いいです」


「お前らそんなんで人生楽しいのかよ」


「楽しさの前に平穏さが欲しい」


「穏やかな人生の方がいい」


私とアフ・アリスの考えはそこで一致していて、それを聞いてギザさんが言う。


「あなた達がいかに平穏じゃない人生を歩んできたかって事が伝わってくる返答ね」


「お前らがそれでいいなら、おれ等がとやかくいう事じゃあねえな、おれとフィロは後夜祭で踊ってくるわ。ギザは他の村の薬師と待ち合わせして議論するって事になってっから、おれ等いないからな。まあ明け方までには帰って来る」


「行ってらっしゃい」


「楽しんできてくれ」


夕飯という名前の軽食を平らげた彼等が、警護ではなくて遊んで楽しむために、収穫祭の会場に戻って行って、私は久しぶりにちゃんと行水するために、アフ・アリスとせっせとお湯を沸かしていた。

そしてお互いたらい一つ分のお湯で、しっかり髪の毛まで洗って、すっきりして早く寝よう、という流れになっていた時の事だった。

とんとん、と寝る支度を整えていた私達の家の扉が叩かれて、何だろうと開けると、真っ青な顔の村の女の人が立っていた。何人も。


「ねえ、セト達は!?」


「収穫祭の後夜祭で遊ぶって言って出てます」


「どうしよう! うちの子達が、どうやら暗闇の洞窟の方に度胸試しに行ってしまったらしいの!! 最近魔性が村に入ってこないから、あそこも大丈夫だと思い込んでしまったらしくて!! 助けてちょうだい!」


「あの、その前に、その、暗闇の洞窟に対しての詳しい説明をお願いします」


「あ、そうね、あなたもアフ・アリスさんもよそから来ていたものね、知らなかったの。……暗闇の洞窟っていうのは、中に恐ろしい物がいるからって、誰も中を調べた事のない、このあたりの村の人間が立ち入り禁止にしている洞窟なの。湿地帯の向こうにあって、湿地帯には底なし沼もあるのに、あの馬鹿たち!! よその村の子も何人も帰っていないっていうし! 一体何人で言ったの!! 今村の男達で、酔っぱらってないのを集めているんだけど、最終日で皆潰れてて」


「……この村の子は何人見当たらないんだ」


「五人!」


「……荷車が必要かな? きっと歩けなくなってますよそれ」


「荷馬車は動かせないわよ!」


「私が運ぶ。誰か、セト達を呼び戻してもらえないだろうか。彼等がいれば私の手が空いていなくても、魔性の相手が出来る」


アフ・アリスが、いつ被っていたのか、いつものフードを被った状態で立ち上がっている。私もすぐに着替えて出る支度をする、と彼女達に伝えて、急いで着替えた。元々衣装の種類なんてないから、大した着替えにもならないので、すぐに身支度は終わったのだ。


「皆そこだと思う?」


「……その湿地帯で何人かは動けなくなっていると思う。夜の、魔性の力が本領を発揮する時に度胸試しなんて事は、してはいけないと教えられなかったのか」


言いつつ、アフ・アリスは手のひらを広げて、その手の中に光が集まっていて、何かをしていた。


「何しているの?」


「調べている」


「聞いた事ないんだけど」


「今日は星がよく出ているから、星の術の手間があまりかからない」


「そっちか……」


昼なら花の術の方が有利で、夜で星が出ているなら星の術の方が使いやすい、とあっさりアフ・アリスは言ってしまったのであった。

そして、私達が準備をして、アフ・アリスが手押し車を持って村の出入り口まで出た時の事である。

知らせを聞いたセトさん達が、駆け付けたのだ。


「アフ・アリス! まじかよ、うちの弟もいないとか聞いちまったぜ!」


「ギザは酔いが回って動けないから、俺達だけでも来た。ジルダとアフ・アリスだけには任せられない」


「後から他の村で、見つからないガキの事聞いてから他の村の護衛達も来るって事になってる。もう出発か」


「あまりのんびりはしていられない。ぬかるみに足をとられた状態で、魔性に襲われたら、あっという間に丸呑みだ」


「だろうな! ……って、お前のその手のひらなんだよ」


「星の術で子供達の事を探している。やはり言われた通り、あの湿地帯の方にいるのは確実だ」


「お前そんな真似も出来てんのかよ、ほんと万能だな」


「万能ではない。死人は蘇らせられないからな」


「冗談きついぜ……じゃあ行くぞ!! ちなみに役に立つかわからねえけど、おれの弟は十三歳、おれと同じ髪の色と肌の色で、ちょっと丸い!」


セトさんの言葉に、アフ・アリスが頷いた。


「探すのにとても役に立つ情報だ」



そんなやり取りのあと、私達は大急ぎで子供達がいるであろう湿地帯に、進んだのだった。







「もともと収穫祭の最後の夜は、祭りの会場と村以外は行き来するなって言われてんのに、うちの馬鹿!」


「なにか言われでもあるのか、セト」


「ある! 祭りのにぎやかさに、このあたりで死んだ古の亡霊が誘われて、出るって話があるんだ。大昔に何人も子供が行方不明になったから、全部亡霊に誘われてあの世に連れてかれたんだろうって話になってな、ある年からそう言う決まりになってたんだ。ってのにうちの馬鹿! 度胸試しは別の日にしやがれ!」


「大半は湿地帯に飲まれて死んでいるだろうがな」


「……アフ・アリス、何か見えんのか」


「聞こえないのか、子供の嘆く声が」


「……お前そんな物も聞こえる耳してたのかよ……」


「聞こえないならその方がいい、子供達はまだこの土地で神の御許に行けずに、泣いている」


「神官とか連れてきた方がよかったか?」


「それより前に、子供達を見つけよう。……こちらで術に反応があった、行ってみよう」


弟が行方不明と聞き、平静ではいられないセトさんが喚くように怒鳴っている。その声で魔性の低級なのは近寄らないので、魔除けにはもってこいかもしれない。

弟がそうならさぞ心配だろう、とフィロさんはセトさんが無駄に体力を使わないように気を使っている。

アフ・アリスはそれをあまり気にせずに、行くぞといった風に手押し車を動かして先導している。

それにしても、松明の灯りだけでかなり暗くて、足元が不自由だ。

ギザさんがいれば灯りの魔法を使えるので、ここまで不自由じゃないのに。

私が何度目かわからないくらいに転びかけたその時だ。


「ああ、忘れていた。普通は見えないものだった」


ぽつりとアフ・アリスがそんな事を言い出して、今まで子供たちを探すために開いていた手のひらに、ふうっと息を吹きかけた。

するとそこからぽわぽわとした光の玉が無数に生み出されて、ふわふわと私達の周りをまわり始めたのである。


「おい、何でお前光の魔法まで使えんだよ!?」


「昔取った杵柄という奴だろう」


「もはやなんでもできすぎてぶっ飛んでんな」


「いいだろうセト。明かりがある方が探しやすいし、子供達から見ても見つけやすいだろう」


弟の事が心配過ぎるセトさんの声は剣呑だったものの、フィロさんの当たり前の言葉に、怒りはいったん引っ込めたのであった。

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