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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第四部 前編 分割掲載

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四話

「やーいうすのろ!! のろま!!」


私はある日聞こえてきた子供達の声にぎょっとした。うすのろ、のろま、と言われているのはアフ・アリスで、本人は何も気にしている様子のない態度で、隣を歩く神官のおじいちゃんに歩く速さを合わせて、大荷物を台車で引っ張りながら歩いていたのだ。

これでうすのろという理由が全く分からない。

それ以上に、子供達の言葉はあまりにも失礼だ。

本人が気にしていない様子でもあの子達を怒鳴りたくなるほどの暴言だった。

君達、君達のご飯に使う香草を、一体誰が丁寧に育てていると思っているのだ。

君達の祝日に食べさせてもらえる、柑橘類の砂糖煮の材料である果物の面倒を、丁寧に行っているのが誰だと思っているのだ、と整列させて聞きたくなるくらいに、働き者のアフ・アリスに対して失礼な言葉である。

無論それは、隣で長い世間話や思い出話を聞かせていた、神官のおじいちゃんも同じだった様子で、かっと頭のてっぺんまで真っ赤にしたおじいちゃんが怒鳴ったのだ。


「このくそがきども!! この人に何て失礼な事を言うんだ!! 全員そこになおれ! 説教してやる!!」


この村で一番発言力のある神官が、ここまで怒ると親にまで影響が出る。

そして何より、畑で少し休憩をとっていた大人達が、速足でそんな事を言っていた子供達を捕まえて、げんこつを落したのだ。

中々痛そうなげんこつである。


「お前達!! せっかく村に来てくれた人に、何て言う失礼な事を言うんだ!! すぐに謝りなさい!!」


「村の大変な仕事をたくさんこなしてくれている、とても親切な人に何て言う事を言うの!! すぐにごめんなさいしなさい!!」


「何が悪いのかわからないなら、みっちりしっかり教えてやろうじゃないか!!」


まさか近くにいた大人が総出で怒り出すとは思わなかった様子で、子供達はふてくされた顔をしたまま言う。


「だって、そっちのうすのろ「そんな呼び方をするな!!」 ……セトのあんちゃんの仲間、あんちゃんみたいに魔性と戦ったりしてないじゃないか。あんちゃんの仲間は、魔性と戦って村を守るために、来てくれたのに、全然戦わないで、神殿の菜園でのんびりしてて」


「菜園の植物の手入れがどれだけ大変な作業かわからないのか!」


「だって草だろ、木だろ」


子供達は、アフ・アリスが神殿の菜園で働くばかりで、魔性と全く戦わないから、舐めていい相手だと思った様子だ。

いや、セトの仲間というくくりの人間で、一番舐めてかかってはいけないのはアフ・アリスだという事は、確かに戦った姿を見た事のない子供達には、わからない事だったのだろう。

しかし相手に対して、のろまだのうすのろだのというのは、どんな相手に対しても失礼な事に間違いない。

そう言うわけで、あっという間に子供達は、泣くほど大人達に怒られて、アフ・アリスに謝る事になっていた。

アフ・アリスはそのとびぬけて高い背丈で、じっと泣きじゃくって謝ってくる子供達を見下ろしていたのだが、不意に膝をついた。

そして、淡々とした声で丁寧に言った。


「戦う事だけが、仕事ではないんだ」


「……」


「私は、セト達の補助だ。セト達が有利に戦えるように、備えている側だ。戦いというものは、単に武器や魔法を振り回せばいいものでは、ないんだ」


「……」


「仲間が勝つために、色々な事をする。それも仲間の役割なんだ。だから、私が君達の前で、武器を振り回さないで、働いているのも役割の一つなんだ」


「……じゃあ、もしも、セトのあんちゃん達がいない時に、魔性が入ってきたら、あんた戦うの?」


子供の一人が、好奇心を抑えられないというように聞いてくる。

それに、彼はゆったりと頷いた。


「ああ。セトが、セトの仲間達が愛する村を、このアフ・アリスは魂をかけて守り通そう」


「あんた、出来ない事を大見得切っていうのやめたら? あんた戦わないってセトのあんちゃん達言っていたよ」


「魔性の退け方は、何も武器や魔法を打ち込む事だけではないんだ」


「あんたの言ってる事、難しくて半分もわかんない」


「来なければいいが、来たら分かるとだけ」


アフ・アリスは事実だけを言っている。事実彼はセトさん達が束になっても勝ち目のないほどの戦闘能力を有し、魔性を睨み付けるだけで退けられるだろうし、その限界はまだ未知数の、元魔王のしもべである。

ゆえに、子供達への言葉は真実で、でも子供も大人もよく分からない事だったに違いなかった。


「人にひどい事を言うと、あとあと後悔しても遅いくらいの時に、助けてもらえなくなる。……私はそれを知っている。だから、もう、言ってはいけない。私は、君達に怒っていないから」


そう言って、アフ・アリスはまた荷車をひき始め、神官のおじいちゃんが、まだ怒りが収まらないという調子で子供達をじろりと睨み付けて、


「次この人を侮辱したのを聞いたらお前達を村から放り出すからな」


そう、本気でやりかねない事を言い切り、大人達がまた深くアフ・アリスに頭を下げて、子供たちも頭を下げたのだった。

それを、染めた布を洗って、色を馴染ませる作業をしていた私や村の女性達は見ていたわけだた。


「……うちの子にも、一応注意しておこうかしら」


「いえる。うちの弟にも言っておかなくちゃ」


「村を守るために来てくれている人に、失礼な事を言うのは、あまりにも礼儀知らずだものね」


「……ごめんなさい、ジルダ。あなたの仲間にとてもひどい事を村の子供達が言ってしまって」


「彼が怒っていないなら、この話は彼にとって気にならない事なので、大丈夫ですよ。……命の恩人にあんな事を言われたセトさんの方が、子供達を吹っ飛ばしそうですけれど」


「セトの恩人なの、あの人」


「はい。セトさんに聞くと、詳細がわかる話です」


私の言葉に、女性達はそうなのね、という事で落ち着いた様子だった。


「ジルダ、その布絞れる?」


「はい」


「ぬるぬるするから、洗い沼に落とさないようにだけ気を付けてね」


「わかりました」


返事をして、私は作業中の布をぎゅっと丁寧に絞り、沼の中に落とさないように気を付けて桶に戻したのだった。

女の人達総出で染めた布は、大変綺麗な紫色に染まっていて、田舎の村で作られるとは思えない、高級品にしか見えない仕上がりである。


「これも、収穫祭の時に売るんですか」


「そうよ。収穫祭の時にだけやってくる、大きな街の人が欲しがるものの一つなの」


これは献上品になるのではないか、と思って聞くと女の人達は簡単に答えてくれる。

確かに、これだけの出来のいい紫に染まった布だったら、大きな街の仕立て屋とかが御金に糸目をつけないで買いたがるだろう。

この村のある国の、最高級の色というのは、王紫と呼ばれていて、ちょうどこの色にそっくりなのだ。

王紫を名乗るには、特殊な貝の魔物の内臓を使う事が必要最低限の条件なので、いくら色が似ていても、この布は王紫ではないけれど、似た色が欲しい人は多いはずだ。


「とってもいい収入になるのよ」


「こっちの桶のは、知り合いの商人が予約している物なの。付き合いが長いから、いい物を用意してあげてるのよ」


身内として扱われている商人なのだろう。

確かに、別の桶の布は、色の格がちょっと違うのでは、と思う位にいい仕上がりだったのであった。





「あ、収穫祭あんたらも遊びに出る?」


その夜に、毎日の見回りから戻ってきたセトさん達が、一番大きい家であるセトさんとフィロさんの家の炉の前で座って話していた時だ。

セトさんが不意に問いかけて来て、私とアフ・アリスは顔を見合せた。


「ほら、一週間後はこの村の一番近い開けた丘で収穫祭をやるんだよ。準備に二人とも駆り出されただろ? だから収穫祭に行くのかどうか、聞こうと思ってよ」


「私は行かないな」


顔を見合せた後のアフ・アリスは静かに言う。


「何で? やっぱりあれか、目立ちたくないからか。あんたのその身長の高さは、この辺の村からも町からも大量に人が集まっても、目立ちそうだもんな」


「注目を集めたくない」


「あー、何でだ? あんたの面そんなやばかったか?」


「……」


そう言えばセトさんってあんまりアフ・アリスの顔をちゃんと見た事がなかったかもしれない。

そんな事に思い至った私が、アフ・アリスの顔がものすごい整い方だと答えようとした時だ。

セトさんはひょいっと、眠る時以外いつでもアフ・アリスが被っている毛皮のフードを外したのだ。

そして、あらわになった顔を見て、固まっている。

同じように、ちゃんと彼の顔を見る事をしてこなかったフィロさんもギザさんも、固まっている。

その気持ちはよく分かった。アフ・アリスの顔の整い方は、見た事のない人の思考回路を軒並み停止させてしまうほどの神がかった整い方なのだ。

この整い方に、見事な筋肉の肉体があるのだから、造形美としては信じられないものがあるだろう。


「……これは表に出せねえ面だ。……あんたもしかして、自分の顔に注意が向かないように、首元に視線が集中するような術使ってねえ?」


「そこに気が付いたのはセトが初めてだ」


「って、本当に使ってたのかよ!? そう言う認識操作系は馬鹿みたいに集中力がいるから、日常的には使わない奴が大半だってのに」


「日常生活に支障をきたすから、使っているだけだ。今はセトが顔を見たいだろうから外している」


「……だめだこれ。収穫祭に出したらいる女の子みんな一目ぼれだわ。そして大いにもめて下手すりゃ暴力事件起きるわ」


そう言ったのは、客観的に色々なものが見えるギザさんで、息を吹き返したフィロさんが続ける。


「人間の中で一番美しいと言われても過言ではないぞこれは……」


彼は髪の毛を染めて、瞳の色も染めていても、それだけ人の視線を集中させるの間違いない、というのが共通の意見として私達の間に広まったのだった。


「あ、私もお留守番がいいです。収穫祭のお手伝いでずっと動きまわって徹夜したりしてるので、収穫祭は皆さんに楽しんでもらって、私は体を休めたいので」


「おー。じゃあフィロもギザも収穫祭の警備に回されてっから、おれも合わせて三人は会場で、村はあんたらでいいか。ゆっくり休んでくれよ」


「皆さんは疲れたりは」


「他の村や町の警備の奴らと交代もあるから、大丈夫」


「それに収穫祭というものは、いくつになっても楽しみになる祭りだから、疲れを感じないんだ」


「言えてる。特産の薬草とかを見るだけで気分が浮足立つわね」


「では、そういう事で当日はよろしくお願いしますね」


「分かったわ」


こう言った流れで、セトさんフィロさんギザさんは収穫祭の会場の警備、私とアフ・アリスは村で休憩という事になったのだった。

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