三部 後編 全文掲載
「それにしても、こんな小さな瓶の中身で、効果が出るの? 気を悪くしたら申し訳ないけれど、私達の知っている薬とはあまりにも、大きさが違い過ぎるから」
「これは揮発性ノ高い薬ダ。瓶の口を開けて匂いを嗅ぐくらいで、効果がある。目くらましの方は瓶の中身を、地面に一滴垂らすト、広がって逃げ切れるようになる」
アフ・アリスはギザさんの言葉に対しても、ちっとも不愉快になった様子もなくそう言った。
ただ少しだけ、瞳が懐かしそうに瓶を見ている。
「私ガまともに歳を重ねていた頃ハ、一般的な調合だった。時の流れは速い」
「あんた、なんで墓守なんて言う、うま味のない仕事続けたんだ? なんでもできるなら、その当時だって引く手あまただったんじゃねえの?」
彼に対して、セトさんが理解できないと言いたげに言う。そりゃあ、お金に命を懸けているらしい盗賊からすると、アフ・アリスの言っている過去は、理解できないだろう。
実際には、魔王のしもべとか言う、とんでもない過去を隠すための嘘なんだけど。
「セト、人の過去にあまり首を突っ込むな。不快に思われがちなおまえの悪い癖だ」
フィロさんが止めるものの、アフ・アリスは大した事じゃないという調子で続けた。
「それで、守れるならば。うま味など、いらないと思って生きてきタ」
「……あんた自己犠牲精神爆発してねえ? そんなので、人生楽しい事あるのかよ」
理解の外側にいる、と言いたそうなセトさんの口調と言い方だった。
実際に、アフ・アリスのしていた事がどれだけの物だったのか、知らなければ理解できないだろうし、そんな事を誰だって思うに違いない。
魔王がいる方が、魔性たちの暴走を抑えられるという理由で、魔王の軍門に下っていたなんてとんでもない、事実は。
「……自己犠牲、カ。言われるとそうかもしれないガ、当時はそれが最善だト信じていたし、ジルダに会うまで、それを疑った事はなかった」
「ジルダが運命の女だったってわけか」
セトさんが言うけれど、大した事なんて私はしていない。あの時は、援軍勇者たちを守るために、死に物狂いで、胸の痛みに思考回路があっちこっちおかしくなった状態でも頭を回して、どうにかしただけの事だから。
それにしても、運命の女ってどういう意味だろう。聞いた事のない言い回しだ。
「それってどういう意味なの? 別に私は、運命に導かれちゃってる女の子じゃないけど」
「ああ、俺の故郷の言い回しなんだ。……出会う事で、運命ってのが大きく変わる相手の事を、運命の女、運命の男っていう。男が男に対しても言うし、女が女に対してもそう表現するのさ」
へえ……といった感じだった。そしてアフ・アリスは納得した調子で頷く。
「その意味ならば、ジルダはまさに、運命の女ダろう」
言いながら、最後の調合を終わらせたアフ・アリスは調剤の机から立ち上がる。
うん、こうして至近距離にいると、余計に彼の背丈の大きさとかがっちりした筋肉の具合とかがわかる。
深くフードを被って、緩いシルエットのウロボロスの衣類を着ているから、それらを強調しているわけじゃないけれど、近くだとオーラみたいなものが、半端じゃないほど伝わってきた。
「調剤これで全部か? じゃあ今から帰るぞ! 今日はお前たちの仲間入りを記念して、宴だ!」
「セト。宴の前にお前に必要なものが、色々あるだろう。お前のその、何度も打ち直して、もう限界の胸当てだの、手甲だのを新調しろ」
フィロさんがこれだからこの馬鹿は、何て言いたそうな視線を、セトさんに向けている。
確かに言われてみれば、彼の胸当ても手甲も、大事な装備だろうに、ぼろぼろだった。
仲間からの指摘に、盗賊は唇を尖らせた。
「まだまだ使えるだろ」
「いや、限界よ。劣化に劣化が重なっているのを何とか、強化魔法で誤魔化しているだけじゃない。その強化魔法も、そろそろ寿命よ。あんたどうして、前衛職にまるで向いていないのに、フィロや私の前に出て、盾になりたがるわけ」
「そんなうま味のない事を、俺がしているわけないだろ」
何言っているんだと言いたげなセトさんに対して、フィロさんもギザさんもあきれ顔になる。
「……」
そんな態度のセトさんを見て、アフ・アリスは何かを言おうと思ったみたいだけれど、言う言葉が見つからなかったのか、口を閉ざした。
「さて、とりあえずはあの報酬が高額な依頼を受けるぞ。お前たちが、俺一人ではだめだって言ったんだからな! ああいった 高額報酬の依頼は早い者勝ち! もしかしたらもう、受注できないかもしれないけどな」
セトさんはスキップを踏む勢いで、踊りだしそうな足取りで受付に向って、ちょうど人の切れ目って奴だったのか、あっさりと受付の人の前まで行って、依頼を受注してきた。
「お前ら、意外だぜ、まだまだ空きがあった。集合の日にちは明後日ってわけで、それまでの間に装備とか整えようぜ。まずは飯と寝る事だ!」
「セト、風呂を忘れているわよ」
「諦めろ、セトにとって風呂は極寒の中でも水って決まっているからな」
この人たちは、私が一緒だった勇者一行よりもずっと、お互いの事を容赦なく言い合える信頼関係を築いているんだろう。
……私もそれ位出来ていれば、少しは違っていて、死んだ事にされる事もなかったのかな。
考えてもどうしようもない事だけれども。
三人が歩き出す後を追いかけて、町中を歩く。この町は至る事路に細い水路が張り巡らされていて、ここに聖水が流れているのが、煌く水の色から推測できた。
「ここは、夜になると水が光るんですか」
「そうよ。聖水が流れているから、夜はうっすら輝くの、おかげでセトとフィロがどんなに酔っぱらっても、家に帰れるのよね」
ギザさんは、ちょっと呆れた声で言っている。しかし、セトさんがフィロさんにじゃれついて、おんぶしろ! とかやっているのは、町中だからできる、じゃれ合い方なのだろうと想像がついた。
「あの二人は、お酒の好みが一緒なの。だから一緒に飲みに行く回数が多いのよ。私はあんなざると枠相手に、お酒なんて飲めないから、家でゆっくり、お茶をするのが好きなんだけれどね」
くすっと笑ったギザさんは、笑い方がとても綺麗だ。
「男の友情って、女にはついていけないわ。特にあんな二人だと余計にね」
そんな会話をしつつ、道を教えてもらいながら進んでいくと、皆同じ形の、四角い背の低い建物がいくつも並んだ地区につく。
「ここが、冒険者ギルドに所属する人達が使う事が多い、賃貸物件よ。大体一つのパーティで一件借りるわ」
「建物の割に、扉が三つもあるのはどうしてですか?」
「私的な事もあるから、出入り口からして別なのよ。でも、共有部分につながっている扉が室内にあるから、ほどほどの距離感で暮らせるわ。セトとフィロは面倒くさがって同じ扉を使うし、大きい部屋にカーテンだけ使って仕切って、暮らしているから、この扉の向こうの部屋は、空いているのよ」
まずは案内しなくちゃね、と言って、ギザさんが扉を開ける。セトさんとフィロさんは、アフ・アリスの肩を叩き、男同士はこっちだって言って、連れて行く。
「……見た目に反して広いですね」
「ええ、拡張魔法が使われているから、中は割合広いの。でも外側の建物の大きさで、拡張にも制限がかかるから、とっても大きな家という風にはならないけれどね」
扉を開けたら少し通路があって、更に扉が一つある。
その奥が私室だと、ギザさんは説明した。
「この間取りは、この家は皆同じだから、これで迷わないでしょう? それで、共有部分に入る扉は、この赤色の扉なの。目立つから間違えないでしょう」
ギザさんはそう言って、赤い扉を開けた。
赤い扉の向こうは、それなりにわかりやすい台所と、皆で使うのか、大きな卓が置かれていた。
壁際にはギザさんの趣味なのか、茶缶が並んでいる。お酒の瓶もそこそこ。魔除けの干した香草が数本壁にかけられている。
そこは、一見すると普通の家の中だけれども、実際には魔法であれこれしているのだろう、と何となく察した。
それから、家の設備も説明を受けて、私達は夕飯のために夜の市場に繰り出した。
「好きなものを食え!」
とありがたい事をセトさんがいう。ケチじゃなかったのって思って聞くと
「あいつは食事に制限をかけると、自分が腹いっぱい食べられないから、そこはケチらない」
という、食いしん坊な一面を教えてもらった。
+++++++++++
「お前またかよ!! だからさっさと新しい物を買えと!!」
武器店や防具店の脇には、割合修理工場があるもので、セトさんはそこに自分の胸当てを持って行って、大声で怒鳴られた。怒鳴った相手は経験豊富そうな年配の男の人で、彼はぼこぼこにへこんで、留め金も壊れて、魔性の爪痕でえぐれている箇所も相当ある胸当てを見て、怒り心頭だった。
「これは修理できんと何度言ったらわかるんだ!! この杜撰な直し方、さては資格を持っていない修理工に頼んだな!? あいつらの中には技術があるやつもいるが、大半が中途半端だと教えただろう!! これだけ壊れたら溶かして新しいものにするか、新しい物を買い直した方が安全だと、三週間前にも俺たちは教えたはずだろう!!」
「だってまだまだ使えそうだったんだし……」
「庶民の包丁と同じノリで、命を守る防具を見るな!! セト、いいか、新しい物を買え!! これは材料として引き取ってやるから!!」
「引き取ってくれんの、いくらで?」
「ここまでぼろぼろだと、溶かして素材にするしかないからな、これ位だが」
修理工の男の人はそう言って、セトさんに何か値段を示した。セトさんはうなったものの、確かに命に関わるんじゃしょうがないと、折れた様子だった。
「じゃあ買い取ってもらうわ。今から隣で新しい防具買うけど、あんたら俺に何がいいと思う?」
「お前は重たい鎧を着る仕事じゃないからな、魔法布で出来た衣類や、丈夫な胸当てを勧めるぞ、お前の持ち味はその速度と器用さだからな」
「魔法布は高額だろ……」
「だが命あっての物種だろうが。お前はどうしてそう、一番大事な物を勘違いしてるんだ……」
「そうか? 命も大事だし金も大事だろ」
セトさんはそう言って、アフ・アリスはそれを聞いて、何か考え込んでいた。
「……どうしたの?」
「魔法布か……多少丈夫にする心得ならある」
「あなたなんでも知ってるんだね」
私が感心してそう言うと、アフ・アリスは首を横に振った。
「私は、なんでも知っているわけではない。今の時代のあれこれにはとりわけうとい。今の魔法布がどれくらいの質なのかも、私は知らないままだから」
私の技術など、爪の先程度の技術かもしれない、とアフ・アリスは言った。
「でも、それでセトさんの命を守りやすくなるなら、やってみたらどうだろう」
「そんな出しゃばりをしていいのだろうカ」
「セトさんなら、すごいな、って言ってくれておしまいだと思う」
私が、今日感じたセトさんの印象を言うと、アフ・アリスはかすかに笑った。
「私も、セトならそんな事を言って深く考えない気がするな」
「じゃあ、セトさんに話して、材料を買ってもらおうよ」
まだ店は色々開いているでしょう、と言ってアフ・アリスの袖を引くと、彼はそれに素直についてきた。
そして延々と修理工の男の人に怒られて、すっかりふてた顔のセトさんは、フィロさんにぶうぶうと言っていた。
「俺そんなに命捨ててねえっての」
「他人が見たら捨てているようにとらえられるだろう」
「フィロまで言うのかよ!! 俺の速さについていける魔性なんて滅多にいないだろ? だから軽いのが一番だってのに。軽いと強度が足りないとか、ああだこうだと」
「俺はお前に死んでほしくないから、おせっかいでも言わせてもらうぞ。お前の速さは目を見張るものだが、打撃の強い魔性に打ちのめされた時、お前の装備では命を守れない時もあるという話だ。だから修理工マリオもああやってお前に対して、意見を言うんだ」
「……ギザさん、セトさんってそんなに早いんですか?」
彼等の会話を後ろで聞きつつ、ギザさんに聞くと、彼女は頷いた。
「驚くべき速さよ。あれだけ速く動く盗賊ってのも滅多にいないと言われるくらい。だから他の盗賊と組むと、あの速さに馴れているととろいって思っちゃうわ」
「それだけ速さに特化しているなら、余計に重量のある物を嫌うのだロう」
「ええ、セトは重い荷物が大っ嫌い。装備も軽さを一番にしてて……だから身の守りが一番低くて、それなのに前に出て私を庇ったり、フィロの援護射撃に回るものだから、私たちの中で一番、怪我が酷くなるのよね」
ギザさんは呆れ半分、心配半分っていう風にそう言った。
それを聞いていたアフ・アリスは、そうか、と小さく言って、のそのそとセトさん達に近付いて、軽い魔法布だったら自作できる、という話を持ち掛けて、ぱあっと明るくなった顔で、セトさんがひっついていたフィロさんから、アフ・アリスに飛びついた。
「お前すっげえな!! こんなにすっげえやつを加入出来て、俺は付いてるぜ!!」
「あんたの作る魔法布って、専用の染料とかがあんまりいらないんだな」
「……そうだろうカ? 色々買わせてもらってイるだろう」
「俺たちの知っている魔法布の材料と、ずいぶん違うから、セトが言っているわけだ」
それから、夜市でアフ・アリスは色々な材料を買って、セトさんは手持ちの衣装の中で、一番体を覆う衣装を魔法布にする事にしたみたいだった。
確かに、どうせなら全身を守るものを魔法布にした方がいいだろう。
「私の作ルものは、職人の品とは質も違うだろうが……ないよりいいだろう? 私は仲間に死んでほしクない。そのために、出来るこトをするのは当たり前だ」
「あんた無償の情っって感じがする男だな……だから墓守なんてやってられたんだろうけどよ」
セトさんは買い込んだ材料で、さっそく作業を始めるアフ・アリスに、いまいち理解できない、という声で言った。
「作る手順は同ジだ、だからフィロも、ギザも、作るから鎧の下に着る物、ローブの下に着る物を出してクれ」
アフ・アリスは穏やかな声でそう言い、彼等の持ってきた衣類を染料の入った鍋に沈めた。
そこに、花屋で買い求めた、大して珍しくもない、とギザさんが言う花を数本沈めて煮込んで……ぶつぶつと言葉を唱えていた。
それから、別の花を千切って入れて……それらはやっぱり、魔法布を作る手順には見えなくて。
「気休め程度に丈夫になるだけかもな、でも軽きゃありがたいわ」
とセトさんに言われるくらい、特別感のない作業だった。
そして染めた衣類を暖炉の火の中に放り込んで……流石に燃える、と思って皆止めたけれど、数分後炎の色が変わってから取り出された衣類は、どれも無事だった。
「まさか耐火布になるのか? あれだけで?」
フィロさんが信じられないっていう顔で言ったけれど、アフ・アリスはこう言った。
「私の知る魔法布ハ、そういう物ダ。今どきの魔法布は違うノだろうか」
「……耐火性の高い布は、高額だ」
「そう、カ……私は世間知らずダな」
「でも俺らのためだろ? ありがてえよ」
そういって、その日は遅くなったから、他の三人は寝る事にしたみたいで、アフ・アリスの作業を見守っているのは私だけになった。
「ああ、ジルダ。手が空いていたら」
作業をじっと見ているだけの私にアフ・アリスは柔らかい声で頼んでくる。
「その茶色の糸を、服の袖や裾に一周回しテ欲しい。どうにも、裁縫は下手なんだ」
「あ、いいよ」
それ位の裁縫はいくら何でもできるから、言われた通りに、私はせっせと染めた衣類の裾という裾に、刺繍糸くらい太い茶色の糸を、一周させたのだった。
「これは、実は細かい方が、守りガ強い」
だからそれだけは技術で変わる、とアフ・アリス恥ずかしそうに言ったのだった。
装備品とかその他もろもろの調整が終わったのは、依頼の日にちのぎりぎりだった。
はっきり言えば、集合日時の明け方。それまでアフ・アリスは延々と、魔法布を作っていたし、セトさんは防具の事で色々やっていたし、ギザさんは魔法薬の調達、フィロさんに至っては武器の研ぎ直しをしていた。
皆各々必要な事をしていて、私はそれの補佐とかをしていた。
+++++++++++
そうして数日が経過して、私はチームの面々と一緒に、今回の依頼のための集合場所まで来た。
来るのはわかっていたし、それに対しての不安はなかったんだけれど……何だろう、先に集まっていた人たちの中に、こっちの顔を見て……いいや、セトさんの顔を見て途端に、顔をゆがめる人がそれなりにいるので、小声でギザさんに聞いてしまった。
「セトさん、何かやらかしてるんですか?」
「……ああ、見覚えのある人たちがそれなりにいると思ったら。こっちを見て睨んでいる人達は、前にうちのチームに入って、セトの、自分は出来るから他人も出来るだろう意識で、無茶ぶりされた人達よ」
「セトさんどんだけ無茶ぶりして、人の恨み買ってるんですか?」
「セトはね……自分が出来るのだから、他人もそれなりに使えるだろうっていう感覚がなかなか抜けない奴だからね。それで入って早々に、命の危機にさらされて、こんな所でやってられるかっていう感じで抜ける人多いのよ」
「セトさんが事前に知らせては」
「そりゃ知らせてるわよ、うちのチームは甘くないし、結構危険が多いって。でもセトがそんなに耐久性がありそうに見えないものだから、話半分って思って……後は察してって感じよ」
なるほど、と思うのは私がセトさんの事で命の危機に瀕した事がないからだろう。
セトさんを見ると、軽装で、いかにも盗賊って感じで、この身なりで命の危機って言われても、実感薄いだろうなって思うところがあった。
命の危機に瀕する回数が多い人たちは、結構がちがちに装備を整えているはず。
それは勇者一行も同じだった。皆がっつり上位装備って言われる装備でいたわけだし、ヘリオスはそれこそ、伝説に連なるような装備を使っていた。
セトさんを見て、読み間違える人が多かったんだろう。
アフ・アリスはそれも見て取ったんだろうか。
私は隣をゆっくりとした足取りで歩いて、物珍しそうに見回している男を見た。
彼は数多の冒険者たちがいるなかでも、結構目立つほど背が高くて、衣類で筋肉が目立たなくなっている事から、ひょろりとしたのっぽに見えているだろう。
弱々し気な風にも見えるかもしれない。まして、彼はセトさんお勧めの、それなりに強度のある皮で作られているフードを頭から深くかぶって、人相が分からなくなっている。
内気で、ひょろ長い男という印象を与えがちな見た目になっているのだ。
これで脱いだら相当だし、美貌は仕事の邪魔をしそうな位だとわかっているのは、私達くらいだろう。
そんな私の評価は置いておいて、セトさんを見て睨んでいる人たちの中から、一人の、経験豊かそうな人がこちらに近付いてきた。
その男の人を見て、あからさまにセトさんが嫌そうな顔になる。
「聞いたぞ、疾風のセト。お前はまた仲間に逃げられたらしいな」
「剛腕か。出ていくも行かないも、仲間の判断の結果だ。俺が意見する事じゃねえな、去っていく奴は去っていくに任せてんだよ、うちは」
「それで優秀な人材をことごとく他のチームに流している奴に言われてもな。どうせお前のリーダーとしての素質がない事が理由だろう」
「うちはそういうリーダー頂点にしたやり方じゃねえの。書類表記で面倒だから俺が仕切っているような書き方してるだけ」
セトさんはうっとうしそうだ。そんな様子を見てから、こっちの、私やアフ・アリスを見て、剛腕と呼ばれた人は、傍目から見てわかるほど、私達を馬鹿にした顔をする。
「なんだ、ついにセトのチームも堕ちる所まで堕ちたわけか。役に立つ仲間を嗅ぎつける能力だけは盗賊らしく高かったというのに。今ではあんな、ただの女の子や、ひょろ長いだけの男を仲間にするとはな」
「あいつらの実力は、俺らが知っているだけで十分だ。あんたらに披露する目的で、仲間引き連れてねえよ」
「……すまなイが、一つ尋ねてもいいだロうか」
セトさんと剛腕さんの空気は最悪というか、剛腕さんがセトさんや私達を馬鹿にしきっていて、セトさんがそれに対してとても不愉快っていう態度をしている。
そんな中に、空気を読まないような振る舞いで、アフ・アリスが割って入ったのだ。
「なんだ、ひょろなが」
「……あなたノ剣は、疲れ果てていル。あまり硬い魔性を切らない方がいいダろう」
「はあ? 何を言い出すのかと思えば。この剣は貴重な魔法剣だぞ? 鍛冶職人たちにもきちんと見てもらっている。問題はないとお墨付きだ。変な事を言う奴だな」
剛腕さんは変な事を言い出す奴だ、とアフ・アリスを見て、馬鹿に仕切った笑みを隠さずに言った。
「こちらに対して文句をつけて、手柄を減らそうという魂胆は丸わかりだぞ、馬鹿な仲間だな、セト!」
「アフ・アリス。お前は前に出るな。……お前は補助だ。分かってんだろ」
「セトがそれで構わないなら」
アフ・アリスはほかに何か言いたそうな雰囲気になったけれども、セトさんがそれ以上相手と関わらない方がいいと態度で示すものだから、彼はフィロさんの方に寄った。
そこで私は、セトさんに対しての他の人たち……つまりセトさんのチームから抜けた人たち……の態度が、とても悪い事、不快感を示している事に気付いた。
セトさん嫌われまくってるんだな。この場合は、事前通告を軽く受け止めて、その結果命の危機って奴に襲われた事が起因していそうだ。
セトさんはそういう危ない事を黙っているっていう事は少ないみたいだし、一応危険は教えているみたいだから、なんか違うな、と内心で思った。
だって文句があるという事は、彼らは命の危機にさらされても、生きているという事で、それは……セトさん達が、彼等を守ったか何かして、命を救ったという事になるのだ。
「ギザさん、セトさん、仲間の命の危機のたびに、前に出ている人だったりします?」
「察しがいいわね。セトは仲間のために前に出るの。それでじゃんじゃん吹っ飛ばされているから、宙を吹っ飛ぶって時の受け身の仕方に特化しているの。だから余計に、軽い装備を好むんだけどね。……まあ、庇われても、仲間になったばかりの人たちは、こんなに危険だと思わなかった、詐欺だって言って、すぐにチームを抜けるのよね」
「でしょうね……」
アフ・アリスはフィロさんの剣を何か調べている。そして、フィロさんが目を離したすきに、フィロさんの剣の柄頭にある飾りの宝石かガラス玉かに、一度唇に当てた親指をあてがって、短い何か言葉を口にしていた。
余りにもさりげない動作だったから、誰も変な事しているって思わなかっただろうし、顔も隠れたアフ・アリスはあまりにも、目立たない。
そのためか、本当にひょろ長い空気みたいな男って感じだ。
擬態するの上手なんだな……と思ってしまうほどだ。
ただ、見ていた私は、フィロさんの剣の柄頭の飾りに、何か白い光が宿って消えたのをばっちりと見ていた。
彼は何をしたんだろう。後で聞いても罰は当たらないだろう。
「可哀想な人たち」
「きっとセトの口車に乗せられたんだ」
「死にそうになるって思ってないんだろうに」
「誰か教えてやれよ」
「えー、こっちまで飛び火したら厄介じゃない」
「セトがまた、仲間に逃げられればいい気味でしょう」
……結構私とアフ・アリスは同情されているな……何てそこで、周りの声から気付いてしまったのだった。
でも私達は補助で、一番後ろにいる面々なので、命の危機になるとしたら他のチームの補助の人たちも命の危機になるから、そこまででもない。
私は、今はちょっと普通よりもいろいろな武術を使える程度の女の子で、逃げ足だけは、装備品が軽い事もあって、かなり早い。
それに、勇者の肩書とかもないので、逃げるが勝ちだと思ったらすぐに逃げる予定だから、そんな怖いとは思わなかった。
「……セトは嫌われているな」
いつの間にか私の脇にいたアフ・アリスは、心底不思議だという調子でそう言った。
「納得がいかないの? あっちのチームの人達も、そっちのチームの人達も、セトさんの仲間になった後に、命の危機に瀕した人達なんだってさ」
「瀕しても、命があるならば、恩人かもしれないだろう。セトからは、死人を出す臭いがしない」
「なんかよく分からない判断材料ね」
「仲間がどんどん死んでしまう人間は、独特の匂いをしている事が多い。たまにいるのは、死神を憑りつかせている人間ダ。憑りつかせてしまっていたら、どうしても死なせてしまウ」
「死神なんて概念を言われても……」
「死神は、イる」
「……」
アフ・アリスは強い声で言い切ったから、彼の知る世界の中では、そういう何か、魔性とも違う物がいるのだろう、と納得する事にした。
いるいないは、証明が面倒だったりするからね。
「セトは」
「セトさんは?」
「守護者の匂いがする」
「……なんだかいっそうわからない事を言い出した……」
「分からないなら、それでいいと思う」
アフ・アリスはそんな風に言って、険悪な空気になっているセトさんと剛腕さん、割って入ってなだめているフィロさんを見ていた。
そして集合場所で、依頼主の代理人……依頼主が国王だったから、代理人は驚く事に一国の将軍だった……が現れて、自己紹介をした。
「私はこの国の四将軍の一人、アーチス・オズだ。知っている人も知っていない人も覚えておいてくれ。今回の依頼の内容は簡潔に言うと、”闇の水晶の破壊および闇の水晶を守る魔性の撃破”だ」
簡潔すぎるくらい短い内容で、でもそれが恐ろしく厄介なのは、単語からもわかる気がした。
事実、アーチス将軍の説明を聞いて、青くなる人は多かった。
闇の水晶とは、魔性たちの力を二段階も三段階も高める強力な闇の輝きを放つ水晶で、このあたり、つまり王都北の山脈の魔性達が、ごっそり強化されているのは、この水晶の力によるところなのだという。
山脈の魔性達が強化されるとどうなるか。それは、この国の大動脈の一つ、北の街道を行き来する事が困難になるという事であり、更にこの強化の結果なのか、この国の北の町や村が相当数、滅ぼされつつあるのだという。
命からがら逃げてくる人達は多く、なんとか王国の北方地域の安全のために、闇の水晶を破壊したいのだとか。
既に何度も王国の兵士団が破壊しようとしたらしいけれど、兵力が足りなかったのか、それとも強化された魔性達が強すぎたのか、並の兵士団では歯が立たなかったらしい。
その全滅回数が三回を超えたから、王国はいっそ魔性と戦い慣れた腕利きの冒険者達とも手を組み、なんとか闇の水晶を破壊すると方針を決めたそうだ。
斥候部隊の決死の努力の結果、闇の水晶の周りの事とか、守っている魔性の事ととかは調べられたそうで、そこから一気に、作戦会議に移る事になった。
でも、あまり細かい作戦を作っても、急な出来事に対応できないってわけで、破壊部門と、魔性達を引き付ける囮部門と、それらの補助部門に分けられる事になった。
破壊部門の面々は、気付かれないで確実に闇の水晶を破壊する事を目的とし、囮部門は魔性たちの目を引き付けるために、派手に暴れまわる事を目的としている。
そして補助部門は、囮部門に近いように配置された。怪我とか不慮の事態が多いのは、きっと囮部門の方が多いという判断の結果だった。
そして、破壊部門にセトさんは加わって、囮部門にフィロさんとギザさん。補助部門に私とアフ・アリスが回される事になった。
「あんたみたいにひょろ長い男は、目立つだけ目立って周りの邪魔だな!」
「団長可哀想だから言うのやめてあげてよ!」
「そうそう、セトの仲間なんだから」
剛腕さんがアフ・アリスに絡んでいたけれど、絡まれている中身がよく理解できなかったのか、それとも受け流すだけ大人だったのか、アフ・アリスは何も言わなかった。
だからつまらなかったんだろう。さっさと剛腕さんと、その仲間たちは彼から遠ざかった。
「悪いな、恨む相手を間違えてる奴らで」
「……セトは自分と組むと危ないと言ったのだろう」
「まあな、でも信じる信じないは個人の判断だろ?」
「自分の判断の狂いを、他人のせいにしたいのは、仕方のない事だ。誰しも、押しつけたい相手がいる」
「お前本当に、墓守だったから達観してんのか? それともその考えだから墓守になったのか?」
「思い出せないとしか、言えない。セト、危なくなったら撤退を忘れては、いけないゾ」
「さっさと闇の水晶破壊するっての。速さだけなら自慢だからな」
セトさんはそう言って大胆に笑った。それは自分の速さに対する自信ってものがあるからだろう。
実際にセトさんは信じられないくらい速いそうだし。
そして、色々な事を軽く決めて、私達は王宮御用達の転移装置で、北の山脈の、拠点に移動したのだった。
斥候部隊の報告により、闇の水晶は昼の方が輝きが鈍くて、魔性も若干弱いらしい。
そこを狙う、という事で、あっという間に作戦が始まったのだった。
そこからはとにかく大変だった。囮部門の人達は暴れまわり、怪我とかをしまくるから、補助の人達は手分けして回復薬とかを渡したり使ったりするし、じりじり前に出て行く彼等を追いかけて、前に前に、荷物を持って進むわけだ。
魔性達も、この大騒ぎで興奮していて、物凄く暴れている。
闇の水晶の力が弱まってこれだから、本領を発揮されたら、多分命がなくなるのはこっちのような気がした。
私は胴体をバッサリ切られた人に駆け寄って、回復薬を傷に垂らす。傷が綺麗になったと思ったら、彼女は前に飛び出していった。
アフ・アリスも同じように、怪我をした人、魔力が枯渇した人、とにかく戦えなくなった人に薬とかを飲ませたり渡したりして、忙しい。
そんな中でも、補助や囮部門の人たちに渡された魔術の入ったモノクルで、破壊部門の人がどれくらい闇の水晶に近付いたかが、分かるようになっていた。
そして、以下にセトさんの足が速いのかを、私は実感する事になった。
だってめちゃくちゃに速いのだ。他の破壊部門の人たちが追い付けないくらいで、いかにこの作戦が速度重視の物かを理解させられる。
早く闇の水晶を破壊できれば、その分被害も犠牲も少なくて済むのだから、セトさんが速く走るのも道理なのだ。
「セトさん速い、もう闇の水晶まで近付いた!!」
私は歓声を上げた。セトさんが破壊用の爆薬を、闇の水晶に投げつけようとしているのまで見て、そして。
信じられない事が起きて、絶句して足が止まった。
だって誰が信じられる?
セトさんに、後ろから追いかけていた破壊部門の人が、短剣を投げつけたのだ。
その短剣は、間違いなく殺意があった。当たったらそこは急所と言える場所だったのだ。
でも、新調した胸当てはその短剣をはじき返し、セトさんの足が止まる。そして振り返った彼に対して、他の囮部門の人が、爆薬を投げつけたのだ。
闇の水晶を破壊するための爆薬で、相当内力の物を至近距離で爆発させられて、セトさんはただじゃすまない。
とっさに頭を庇った彼は、爆風で吹っ飛ばされてしまって……そして、その騒ぎで、魔性達が……破壊部門の人たちに気付いてしまったのだ。
斥候部隊の人達の報告によると、闇の水晶は日中は廃墟に隠されているけれど、闇の魔の力を増幅させる時、空中へ上がるという。
魔性達が連携して、私達の手の届かない空中へ、日中だというのに闇の水晶を飛ばしたのだ。
そして闇の水晶の周りを、空を飛ぶ魔性達が守るように飛ぶ。
そこで私は初めて闇の水晶を見たけれど、背中が寒くなる、恐ろしい色をした水晶だった。
体が勝手にガタガタ震えて、膝をつきそうになる、本能的な恐怖を呼び覚ます水晶だった。
細かくカッティングされているその、一面一面が魔性達を照らし、力を増やしている。
そしてくるくる回り、闇が増幅されて、魔性達に降り注ぎ、囮部隊の人達と戦っていた魔性達が、歓喜の声を上げ始める。
「撤退だ!!」
モノクルから将軍の撤退宣言が出る。でも、撤退しようにも、背後にいつの間にか魔性達がいて、囮部門と補助部門は、挟み撃ちされてしまう。
「駄目だ、勝てない!! 闇の水晶さえ壊せれば、まだ戦いようがあるというのに!!」
囮部門の誰かが叫ぶ。絶望に彩られた声だった。
私達は魔の恐怖と、死の足音になんとか抗おうとしていて……そこでいっそう、闇の水晶が輝きを放ったのだ。
その圧で、皆膝をついてしまう。かくいう私も、立っていられなくて膝をついた。
起死回生の一手を探したいのに、探せない。
怖くて死にたくなくて、涙だけがぼろぼろ落ちているのは、私だけじゃないみたいだった。
魔性の群れは、一気に戦闘不能に陥った私達を見て、さあ殺そうと襲い掛かろうとして……動きを止めた。
誰もが絶体絶命で、絶望する中で。
……一人だけ、場違いなんじゃないかって位、静かに立っている人がいた。
「うそ、立てるの、この状態で」
私の側にいて、杖を支えに座り込んでいたギザさんが小さな声で言った。
”彼”は魔性達を静かに見回し、そして、空中に手を伸ばす。何時の間に持っていたのか、手の中には一輪の、白い花の咲いた蔦の植物。
その蔦の植物が、色々な法則を無視して、あっという間と言うほどの速度じゃないけれど、何が起きたかよくわからない速さで、彼の背丈ほどもある大きな弓に変貌したのだ。
弓に変貌した植物から、また蔦が伸びて、それは一本の矢になる。
「……」
見ている誰もが、何が起きているのかわからなかっただろう。魔法に詳しくない私は全く分からないし、詳しそうなギザさんも目を見開いている。
”彼”はそして、大弓と矢を構えた。
「”神はおらず”」
構えた彼の、美しすぎる唇が、言葉を唱えた。
「”祈りは届かず 愛は裏切られ 友は去り 名は地に堕ち なお私はここにある 射貫け黎明 暁を”」
それは言葉ではないのかもしれない。だってあまりにも神々しい。
彼の言葉に呼応するかのように、蔦の植物から生まれた大弓に大輪の花が咲き始める。
彼が、力が強くなければ絶対に引き絞れない弦を動かして、狙いを定めている。
定めながら、誰の声も聞いていないそぶりで、言った。
「”裂け”」
限界まで引き絞られた弦から、矢が解き放たれる。
その矢が向かった先は、闇の水晶で。
矢は理解できないほど、痛いほどの光をまとって、闇の水晶を守る魔性達を光の圧だけで消し飛ばしながら、闇の水晶を、貫いて。
木っ端微塵に破壊して、欠片さえ光の力か何かで消滅させたのだった。
さらにそれだけでは終わらなくて、矢の輝きは目が見えなくなるほど辺り一面を覆って……目が見えるようになったら、周りには魔性が、一匹もいなくなっていた。
私は転がる勢いでアフ・アリスに近付いて、言った。
「あんな事をして大丈夫なの、あなたは」
「……ああ。私はマダ、こんな力も、使えルんだな」
華の咲き乱れる大弓は燃え上がって灰になって何も残っていなくて、だからさっきのあれこれが幻みたいなのに、魔性が一匹もいない現実が、幻ではなかったと伝えてきた。+++++++++++
+++++++++++
「今回の依頼は成功した!! 犠牲として死んだ者もいない、これは大成功だ!」
と、アーチス将軍は大変にご機嫌だったらしい。セトさんが意識を取り戻さないから、報酬を代理で手に入れに行ったフィロさんが、そう教えてくれた。
将軍は囮部門と補給部門の人達が使っているモノクルを使っていなかったから、あの場所で何が起きていたのかは、全く分かっていないそうだ。
でも依頼主ってそういうものだって聞いているから、おかしいとは思わない。
依頼主は依頼通りの事が遂行されたら、報酬を払う、それだけの関係なのだ。
「あの謎の光が、闇の水晶を破壊した事を、剛腕のベガは将軍に伝えなかった」
フィロさんは少し苛立った声で言う。それはアフ・アリスの功績をなかった事にしてしまったと言いたいんだろう。
「ベガは周りに口止めしたらしい。……それも道理だ、それが知られれば報酬が減る。もっとも功績を残したものに、より報酬を渡すものだからな」
フィロさんは苦い声だ。私達はそれを家で聞いている。
「誰も言わなかったの?」
ギザさんが確認する。フィロさんは頷いた。
「今回の合同チームの大半が、セトに恨みがある人間で構成されていたからな。セトに対してのあれを黙るために、アフ・アリスの光の弓矢も黙ったらしい」
「それで、いいだろう。私は目立ちたくナい」
アフ・アリスの穏やかな声を聞いて、フィロさんが呆れたという顔をした。
「目立つ目立たないの前の話だ、あんな事をどうして隠し続けていたんだ」
「まだ、使えるとは思わなかッた。……ずいぶんと昔に、失った力だと思って生きてきた」
「……そういう事だったのか……つまり、使えるかもわからない博打を打ったという事だな?」
「そうなる」
アフ・アリスはそれだけ言って、ギザさんが淹れてくれたお茶を飲む。
この穏やかな空気を感じていると、あの光の弓矢の、超強力な力は、何かの間違いだったんじゃないかと思ってしまう。
あれは普通の魔術ではなかった。誰も知らない魔術で、そこらへんの最上位魔術をはるかにしのぐ力を秘めている。
「使えて、良かっタ。セトを救えた」
アフ・アリスがそう言って微笑む。フィロさんはそれには同意した。
「確かに、あの時あの光が魔性達を軒並み消し飛ばさなければ、セトの回収はままならなかっただろう。そういう意味では、間違いなく命の恩人になるわけだ」
「私は、仲間として認めてくれたセトを、死なせる事は出来なかった。だから一か八かで、あれを使った。それだけの事だ」
アフ・アリスが柔らかい顔で笑う。
「あれは一体何の魔術なの? 何処の古代魔術を調べても、出てこないわ」
ギザさんが、依頼が終わった後から街の図書館に入り浸って、調べまくっていたのに、何にも情報が入らなかったから、彼に聞いた。
彼は少し考えた後に、答えてくれた。
「あれは……花の魔術と、古く言われてきた力、だ」
「花の魔術……? どの古代文献にも記載がないと思うんだけど」
「なくても仕方がない。あれは……」
あれは、と言った後、少し口ごもってから、アフ・アリスは信じられない事を教えてくれた。
「あれは、ウロボロス帝国の秘術だったかラ」
「ウロボロス帝国の!? あなたはそんなすごい物さえ扱えるというの!?」
ギザさんが目を見開いて言う。アフ・アリスは頷いた。
「私は、それの心得が少しだけある。あの系統は……修める事で一生を終えると言われるほど、手順が面倒な物ばかりで……それが少しばかり、扱えるというだけなんだ」
「その少しばかりでも、相当な効力を発揮するんじゃない。隠し玉を隠し過ぎよ、あなた」
ギザさんが呆れた調子で言い、アフ・アリスは困った顔になった。
「それに、……資格を失ったと思って生きてきたカラ。使えなくても仕方がないと、思っていたんだ」
「使えない魔術は穴の開いた鍋みたいなものだからね、それはわかるわ」
そのたとえがどう正しいのかは、わからなかった物の、ギザさんは納得した。
「さて……私たちの報酬は記載通りで、増減はないのね、フィロ」
「ないな。セトほど口が回れば、もっと増えたかもしれないが」
「そこでもめても面倒よ。セトはもめる隙も与えないでべらべらしゃべって、要望を通すけど、私達にその技能はないわ」
少なくともこれで、セトの入院費用はある程度稼げたわね、とギザさんが言って、フィロさんが言う。
「セトは意識不明で、あと何日目を覚まさないかも未定だ……早く目を覚ましてほしい物だが」
「爆発を受けた時に、思ったよりもあちこちにぶつかってたらしいからね」
「……」
セトさんは医療院に入院している。いつ目を覚ますかもわからない。至近距離で爆弾が爆発したっていうのはそういう事で、……やっぱり私は、それをした、セトさんの昔の仲間たちを許せそうになかった。
依頼の外で、バチバチに火花を散らしたり、嫌味を言ったり、何かするのは仕方ない。
でも命がけの依頼のさなかに、手柄を横取りするために、死ぬかもしれない事をするのは、許せなかった。屑でしかない。
「あとで、見舞いに行きたい」
アフ・アリスはそう言って、フィロさんとギザさんに笑いかけた。
「きっとセトは、すぐ目を覚ます」
その、なんとなく信じたくなる言葉を皆で聞いて、空気が柔らかくなった時だ。
外から、誰かが来たという事知らせるベルが鳴り、ギザさんがそれに出た。
「いったいあなた方が何の用事!?」
出た瞬間にとげとげしい言葉が放たれて、誰だろうと首を伸ばすと、来たのは剛腕のベガだった。
「いいだろう、用事があっても」
ベガは、自分の仲間がセトさんに爆弾を投げた事を、悪いと思っていなさそうだった。
謝罪という物がないから、私にはそう映った。
「用事って何? 手短にしてちょうだい。あなたと話す事は、私達にはないのよ」
「まあまあそんな事を言わずに。……彼に話があってきたんだ」
ベガはそう言い、卓の端っこに座って、お茶の表面をじっと見て何か考えていたアフ・アリスに、こう言った。
「君、こんな先の昏いチームではなく、私達と仲間にならないか?」
それを聞き、アフ・アリスの顔が持ち上がる。静かな瞳は、異様な迫力をたたえてベガを見ている。
そして、整い過ぎている唇が開いた。
「断る」
「そうだよな、こんな貧乏パーティではなく……って、正気か? 君ほどの実力の持ち主なら、ギルドでも引く手あまた、もっと条件のいい、例えばうちのような所が皆欲しがるだろう」
「私の仲間は」
アフ・アリスの声は静かだ。静かで淡々としていて、そして強い。
その声が、不気味なほどの静寂をたたえて、言い切った。
「私が選ぶ。何か問題があるカ?」
部屋の空気が、異質なものに変わっている。これは……アフ・アリスが、魔王のしもべだった頃、勇者ヘリオスとその仲間達と向き合った時に放たれていた、絶対的強者の圧力が混ざっている。
こんなのに、普通の冒険者が勝てるわけがなく、その圧をまともに受けたベガは、わなわなと震えて、言葉も出なくなり、もごもごとした後に、慌てたように去っていった。
「セトは」
アフ・アリスが静かに優しい声で言う。
「戦わなくていい、と言ってくれた。それが、どれだけうれしいか、彼は知らないだろう」
「あなたは、むやみに戦いたくないものね」
魔王のしもべとして、彼は戦いに戦った。だから、もうそういう事を積極的にしたいと思わないのだろう事は、彼の経歴を少しばかり知っている私には、納得がいく事だった。
++++++++
セトさんのお見舞いに行くと、治癒魔法使いの人達は皆、難しい顔をした後に、言い出しにくそうにこう言った。
「あなた方の仲間の、セトさんは……もう二度と目を覚まさないかもしれないんです」
「どうして!?」
「昨日までは、回復の兆候が見られただろう」
ギザさんがまさかの言葉に少し取り乱し、解せない、あり得ない、とフィロさんが続けて言う。
治癒魔法使いの人達は顔を見合せた後に、私達が知らなかった事実を教えてくれたのだ。
「確かに回復の兆候はあったのですが……回復を少し早めるために施した治療が、セトさんの体質とあわなかったためなのか、拒絶反応を起こし、やっと最低限の所まで持ち直したところなのです」
「そんな。セトはどんな治療も相性がいいんだって、あいつ笑ってたのに」
ギザさんが真っ青な顔で言う。仲間が二度と目を覚まさないって事は、やっぱり付き合いが長いだけあって衝撃が激しいのだろう。
フィロさんはもっと顔色が悪くて、ややあって……こう言った。
「二度と目を覚まさない……その場合、どうなるのでしょう」
治癒魔法使いの人が、厳しい顔で言う。
「……あちこちの国の街道が、魔性によって危険なものになった今、延命治療用の魔法薬を作るよりも、優先して回復薬などを作らなければならないため……延命治療用の薬の金額が、現在の八倍から十倍になると推測されています。それを、あなた方が支払えるかどうかという問題になってきます。……勘違いしてほしくないのですが、我々も見放したくないんです、でも、薬の原材料の値段が、日に日に尋常でないほど高騰しているため……」
「……一つお伺いしたいのだが」
そこまで聞いた時、アフ・アリスが口を開いた。周囲を気にした調子で、声を落して、治癒魔法使いの人に問いかけたのだ。
「セトはどこで眠っているのだろうか。最後になるかもしれないのならば、顔を見たいのだ」
「……見ない方がいいかもしれませんよ」
「どうしてだろうか」
「持ち直したばかりなので、死人のような見た目になっているからです。これを知らずに初めて見た人は大体、衝撃を受けます」
「それに関しては、なんとも。死人は腐るほど見てきた」
顔を見たいのだ、会いたいのだという姿勢を一切崩さなかったアフ・アリスを見て、治癒魔法使いの人は後悔なさらないでくださいね、と言って、案内のために歩き出す。
その人についていった先は、いかにももう、手の施しようのない、回復の見込みのない人がいれられる病室の一角で……そこにはまともな言葉を話せない人や、昏々と眠り続ける人、目の焦点が合わない人、おかしな言葉を並べ立てる人、といった、お見舞いに来る人も少なく、治療の代金もあまり支払われていない人があまた、寝台に括り付けられていた。
「括り付けるのは……」
流石に見ていられなくて言うと、治癒魔法使いの人は静かに言う。
「ここに常駐できる人間がいればそうでしょうが、ここの人達は何をするかわからないんです。中には元々はすばらしい才能を持っていた人もいるため、魔力が暴発したり、うっかりでおかしな魔方陣を描かれたりしたら、この治癒院が吹っ飛びます。実際にそんな事件が多発した結果、この対応をしているんです」
……ここは、危ない人をまとめた場所なのだろう。……もしもの時はここだけが犠牲になるように、条件付きで発動する結界が張られているかもしれなかった。
私はちらりとアフ・アリスの方を見やった。彼は周囲を見回した後、セトさんが寝ているのだろう、カーテンで区切られた寝台に近付く。
その後を、真っ青な顔のギザさんとフィロさんが続く。
カーテンの中で眠るセトさんは、穏やかな寝顔で、呼吸もちゃんとしていたけれど、目は落ちくぼみ、顔はこけて、体の筋肉という筋肉が削り取られたような、骨と皮ばかりの腕をさらしていた。
やせ細った死人、というよく似た見た目になっていたのだ。
「こんな……」
「まさか……」
昨日、治療法が合わなかっただけで、ここまで悪化し、そしてなんとか持ち直した、何て言われても、到底信じられない見た目だけれども、ここは病室で、治癒魔法使いの人にたてついたら、この後セトさんが何をされるかわかったものじゃない。
だから、私はぐっと言いたい事をこらえた。
そんな時だ。
「……セトはいい寝顔で寝ているな」
そう言って、何を思ったのか、アフ・アリスがセトさんを括り付けているベルトを軒並み外して、赤ちゃんのようにシーツでセトさんをくるんで、軽々と抱き上げたのだ。
「動かしてはいけません! やっと持ち直したところなのですよ!!」
治癒魔法使いの人が鋭く止めようとしても、アフ・アリスはやめようとしない。
そして、セトを大事そうに両手で抱きかかえて、ゆっくり歩きだしたのだ。
「どこに連れて行くんです!! 治療を邪魔するのでしたら、ただじゃ済ませませんよ!!」
治癒魔法使いの人だって腐っても魔法使いだ。攻撃魔法もある程度可能だろう。
それゆえの警告だったのに、アフ・アリスは無視している。
無視してどこに向かったのかというと、それは青空がよく見える中庭だった。
「彼は何を?」
私なら何か知っているって思ったらしい、ギザさんが小さな声で言う。私もわからないから答えた。
「何をするのかはわかりません、でも彼が、セトさんにひどい事するのはありえないでしょう」
「……まさか、花の術という物に、セトを助ける術があるのだろうか?」
思いついたらしいフィロさんが言うけれど、中庭には花がほとんどない。花を使うから、花の術というのだろうから、違う気がする。
でも。
アフ・アリスはセトさんを抱きかかえたまま、フードに覆われた顔を空に向けて、ゆっくりと落ち着いた声で、何かを唱え始めた。
「空は蒼く 星は見えず 太陽は満ちる 手の中に命 死神は鎌を放る この手に溢れよ 魂の注がれる器へ」
やっぱり聞いた事のない言葉と語り口だった。でも。
私達は、奇跡が起きるのを目の前で見る事になったと言ってよかった。
彼が見ているように、空を見上げたら。そこには青空があるばかりのはずだったのに。
青空に、不思議な紋章が浮かび上がり、そこからきらきらとして、さらさらとした青い光が、私達がいる中庭と、中庭に面していた、回復の見込みのない人達が入っている建物に降り注いだのだ。
その中でも特に、アフ・アリスが抱えているセトさんに、光は降りまくっていて、そして。
呆気にとられたまま、紋章が消えるまでそれを見ていると、アフ・アリスの腕の中で、もぞもぞと、セトさんが動いたのだ。
「……ねみい……」
はっとして駆け寄ったのとほぼ同時に、セトさんの目が開き、あくびをして、とても眠たそうに彼がそう言って、続けてフィロさんに手を伸ばした。
「こいつ抱きかたへたくそ……フィロ抱っこしろ……」
枯れ枝のような腕がフィロさんに伸びて、フィロさんが泣き出しそうな顔になった後に、セトさんを慎重に抱っこして、アフ・アリスの方を見た。
「今のは」
「伝え聞いたところだと、星の術、と習ったものだ。詳しい事は……そこの生まれでないから、わからない」
そこまで言って、アフ・アリスは、血の気が引いて真っ白な状態になった治癒魔法使いの人を無視して、言った。
「帰ろう。セトも連れて」
自分が使った術に対しての気負いや誇りと言ったものは何もなく、ただ使えるモノを、当たり前に使った態度で、彼はそう言って、困ったように続ける。
「空を探して歩いたから、帰り路が分からない。フィロ、ギザ、案内してくれ」
「ああ」
「本当に、セトの見る目はめちゃくちゃ確かだったってわけね……」
フィロさんが大事そうにセトさんを抱っこしたまま歩きだし、ギザさんはぐしゃぐしゃに泣きそうな顔で、涙を拭きながら歩きだす。
私はそれを追うアフ・アリスの隣に歩いて、小さな声で言った。
「使ってよかったの?」
「花の術はあまたに見られた。今更星の術を隠してどうする。それでセトは救われないだろう」
秘密で、隠し通しておきたい術でもなかったって事だったのだろう。
アフ・アリスの生きていた時代には、ごくごく普通に使われていた術だったのかもしれなかった。
「腹が減ってしょうがねえんだよ!! おかわり!!」
「お粥とは言え、十杯近く平らげているぞ」
「胃に負担がかかるわよ。いくらお粥でも」
「んな事言ったって馬鹿みたいに減るんだよ!! アフ・アリスのお粥めちゃくちゃうめえ」
「星の術で回復した人は大体こうなる。体が一気に戻ろうとするから、食べても食べても追いつかない」
セトさんを連れて帰って、そして一晩みんな安心してぐっすり寝た後に、ギザさんと一緒に食卓に行くと、大鍋にたっぷり、妙な色のお粥が煮込まれていて、それをがっつがっつとセトさんが平らげている現場を見る事になった。
セトさんの、やせこけた頬が、食べていくにつれて肉を取り戻してく。
……お粥に一体どんな薬効があるんだと疑いたくなる速さの回復だ。
「しかし、確かにアフ・アリスのお粥は体に染みわたるし、元気になる気がする」
「私は」
お粥を彼等に渡して、私やギザさんの分まで取り分けたアフ・アリスが、大した事じゃないって調子で言う。
「一人で素早く回復しなければならない局面が、とても多かった。だからこう言うお粥をそれなりの数知っている。大量の穀物を持ち運びは出来ない事が多かったから。薬草粥ばかり極める事になった」
「うめえ……おかわり」
そう言って、フィロさん曰く十二杯目のお粥を平らげたセトさんは、ふああと欠伸をした。
「食ったらねみい」
「子供か。いや、お前は子供と同列の部分が多かったな」
「あんた、アフ・アリスに死ぬほど恩があるんだからね、心しておきなさいよ」
「感謝はしてる。めちゃしてる。こいついなかったら俺たぶん、死神に連れてかれてたわ」
死神に手を引っ張られる夢を見てた、とセトさんは食卓に頬杖をつきながら、眠たそうに言う。
「結構長い事手を引っ張られて歩かされてたんだけどよ、急に空からきらきらした雪みたいなのが降ってきて、死神っぽいのが、こっち見て、運がイイな、っていって手を放して、そしたらアフ・アリスにへたくそに抱っこされてた」
「それって本当に危なかったって事じゃない……間に合ってよかった」
ギザさんが心底安心したって調子で言う。フィロさんも無言でうなずいた時だ。
「この町でもう、仕事できねえだろうから、どっか別の町拠点にするぞ」
セトさんは、思いもしなかった事をさらりと言ったのだった。
++++++++++
「何を言い出すかと思えば。ここは依頼も多くて稼ぐのにちょうどいいと言っていたじゃないか」
思ってみなかった事をあっさりと言い放ったセトさんに、フィロさんが何を言い出すんだという思いがはっきり浮かんだ顔で問いかける。
それの答えはまた、実に簡単な調子でセトさんから知らされた。
「ん、俺は恨まれ過ぎた」
「今更?」
こいつ今更何言ってんのよ、と言いたそうなギザさんの突っ込みは切れ味が鋭そうだけど、セトさんには欠片も通用しないみたいだ。
これも仲間内のやり取りの一つの形なんだろう。
……また、ヘリオス達の事を思い出した。こんな風にやり取りできるくらいに、ちゃんと私が向き合っていたら、結末は大きく変わっていたんだろうか。
私はまだ、あの仲間達の事を、取り戻したいと思っているのだろうか。
そんな馬鹿な。ヘリオスはどうだか知らないけれども、他の美女三人は、私を追い出したくてたまらなくて、何を思ってなのか、私を魔物扱いして殺すつもりだったのだ。
そんな彼等を取り戻したいと思うなんて、あり得なさすぎる。
……ただ、こんなにもお互いを知りあっているチームを見ると、記憶の扉が開くんだろう。きっとそうだ、それ以外にあり得ない。
セトさんは何杯目か数えるのも馬鹿らしいくらい、お代わりをしたお粥を飲み込んで、ギザさんの言葉に対する答えを言いはじめる。
「俺のやり方が気に入らないだの、俺の事を恨むのだのは勝手だと思うんだけどよ、仕事中にそれ表に出して、その他大勢の命を危険にさらす奴まで出て来てんだ。これが町中で似たような事をしないかって言われたら怪しい。別に俺は恨まれるのなんかは気にならねえし、やり返されるのもまあしょうがねえんだろうなっては思うけどな、その他大勢を巻き込む事はしちゃいけないんだ。あいつらはここを拠点にしたいからここから移動しないんだろうし、なら俺が他の拠点探して出ていく方が綺麗な終わり方だ」
「そこまで考えなくても。町中でいきなり切りつけてきたりはしないわよ」
「どうだか。大勢の命かかってる局面で、手柄の順列だけで、短期決戦が最善の状況忘れて、爆弾投げてくる奴らだぜ」
セトさんははっきりとそう言った。そしてまた欠伸をして、皆を見回して言う。
「俺はひと眠りしたら支度して、ギルド行って、どっか遠くに行く仕事ねえか探すわ。お前らも自由にしろよ。俺のとばっちり一緒に受けなくていいだろ」
「俺も行くぞ」
フィロさんの言葉は即答だった。それに続いてギザさんが言う。
「そうね、私もついていこうかしら。新しく仲間を探すのが面倒だわ」
「ここもセトさんが借りてるところですし、私もついていきます」
私もそれに続いた。セトさんが出て行った後も、ここに居られるわけがない。収入源という物がある。ここに私だけで暮らせるほど、いい収入の仕事が見つかるとも思えない。
それにセトさん達が、家政婦替わりをすればいいというから来た街だし、また何かの例えば仕事の手続きをした際に、元の仲間達に見つかってしまって……逃げられなかったら大惨事だ。
「おそらくだが、セトの仲間だったという事だけでいらぬ恨みを買いそうだから、私も」
お粥の大鍋を覗いて、中身がほとんどないな、と言いつつ大匙で残りをこそぎ取って、お皿にうつしていたアフ・アリスが言う。確かにそんな事もあり得そうだ。
セトさんの仲間ってだけで、変に恨まれる可能性は否定できないと思えた。
「お前ら物好きだな」
セトさんは、ここにいる全員が一緒に行くという物だから、物好きな変人ばっかりだって顔をして、まだ体が万全じゃないんだろう、ねる、といって よろめきつつ寝床に戻ろうと立ち上がる。
でも扉を開けようとして力尽きそうになって、フィロさんが小脇に抱えて扉を開けていた。手慣れているから、よくやっている事なんだろうな、と思う物があった。
そうして、セトさんとフィロさんが食卓から出ていって、残された私は、ギザさんに問いかけた。
「セトさんって、そこまで恨まれるほどやらかし過ぎてたんですか? 傲慢な事とか、最低な態度とか……見ててそんな人って感じはしないんですけど」
「セトは誰も死なせてないわ。死にそうな新米の事を命がけで助けて、日常的に魔性だの山賊だのに吹っ飛ばされてた男だから。でもそれを、仲間に無茶ぶりし過ぎるブラック野郎って思う冒険者は一定数いるのよ。……前も教えたでしょ、セトは自分達が荒っぽい集団だって教えるけど、話半分だと判断する人が多いって」
「どうしてでしょう」
「セトがひょろひょろした盗賊で、そんな盗賊がチームのリーダーだからっていうのは大きいわ。盗賊という、打たれ弱い生き方をしているのがトップのチームの荒っぽさなんて、程度が知れているって思われやすいの。実際は噂に聞く、格闘王とか剣聖とかのチームと並ぶんじゃないかなって位、荒っぽい事多いんだけどね」
ギザさんはそう言い、お粥を口にした。
そして真顔でこう言った。
「アフ・アリス、あなたお粥のお店でひと財産作れるわよ。魔力回復の作用があるお粥なんて、高級料理屋でも出してくれないものよ」
「煮込む手間だけがやたらかかるものなだけだ、誰でも作れる」
「作れてもえぐみが酷くて、一皿だって平らげられないわ。でもこれはするする喉を通っていくもの。あなた……何かできない事ってあるの?」
「世界を救う事は出来ない」
「あら、あなたでも冗談を言うのね」
私は黙ってお粥を口に運んだ。これはきっと、冗談でも何でもないのだろうと、心の中で思いつつ。
「お前立って歩けるくらい回復したのかよ!!」
遠くに拠点を移すための仕事を、ギルドの酒場に探しに来たセトさんを見て、シルヴァさんがあり得ねえという思いを前面に出した顔で言った。
「シルヴァ、見ての通りだっての。で、俺らちょいと遠くに拠点移す予定なんだけどよ、ここと提携しているギルドで、この町から割と遠い所の仕事紹介してくれねえ?」
「……お前があり得ない頑丈さなのか? それとも医療院に、天才的な回復方法を生み出した治癒魔法使いが入ってきていたのか? どちらも聞いてないぞ」
「俺は相変わらずの体だぜ。回復できたのは運が味方したんだろうよ。で、仕事ねえの、あるの? 俺らは拠点映すのが第一の目的だから、この際賃金は多少妥協するぜ」
「……お前の言う事を信じるならば、驚くべき奇跡が起きたんだろうな。さて……遠くに拠点を移すような仕事は……ちょっと待ってろ」
「おうよ」
セトさんがにやにや笑いながら、該当しそうな仕事を探し始めてくれたシルヴァさんに返事をして、酒場の壁紙に貼られた依頼書を、やっぱり興味深そうに見ているアフ・アリスを見た。
「あいつ、視線が集中しててもびくともしねえのな」
「もしかしたら居たたまれないかもしれませんよ」
「そうだとしても、それを表に出さないってのはなかなかだぜ」
「セト。彼の経歴を考えれば、こう言った場所は飛び切り珍しい物に溢れているだろう。依頼書なども面白いはずだ」
「揉め事を起こさないなら、そっとしておくのが一番よ。一通り見たら戻ってくるわ」
ギザさんの言葉は事実だろう。アフ・アリスは依頼書をまじまじと見て、高い位置にあるものも見上げて、自分の知らない世界のものを面白がっている風だった。
そして、十分くらい待っていただろうか。シルヴァさんが数枚の紙を持って戻ってきた。
「このギルドと提携しているギルドの紹介で、遠くに拠点を移す仕事というとこれ位だな。お前の割と、は、相当と同じような意味だと判断して、吟味した結果だ」
「おう、ありがとうよ。……ってここ」
セトさんがその場所を読んで沈黙する。そしてあーあ、とぼやいた。
「ここ俺の実家がある村じゃねえかよ」
「セトの実家?」
「あんたの実家がある村、このご時世でもまだ残ってたのね」
「らしいな。まあうちの家族は逃げ足めちゃくちゃ早いだろうから、村が無くなってたら俺の事頼りに来るだろうから、まだあるんだろうよ。でも何でうちの村がギルド所属の連中を欲しがって……ああ、なあるほど」
そんな事をぶつぶつ言いつつ、セトさんは中身を読んで、ひょいっとフィロさんとギザさんに回した。
「これ、王国直々の依頼書じゃない」
驚いた声を上げたのはギザさんで、それらを一読して私にすぐ回してくれたのはフィロさんだ。
私は、いつの間にか戻ってきていたアフ・アリスと一緒にそれを読む。
その依頼書は王国直々の依頼書で、依頼の中身は、村の警護という物だった。
今までは見受けられなかった類の依頼だろう。ギルドの人達に、村の警護を頼む依頼って、聞いた事が一度もないのだから。
昔私のいた村にも、そんな人達がいなかったのは間違いない。
「……魔性の数が増え、個体の強さも上がったから、王国の兵士団だけで守れなくなったから、王国にあるギルドに、村や町の警護をある程度頼む仕事が生まれたのか」
アフ・アリスが淡々とした声で言う。そう、彼の言う通りの事がそこに書かれていて、魔王が死んだ後なのに、魔性の数が増えて、それらの力も上がって、更に町にも村にも容赦なく親友して来るようになったから、王国の兵士団の団員だけでは手が回らなくなってしまったようなのだ。
そのため、王国は国にあるギルドの構成員達を相手に、小さめの村や町の警護を王国の依頼として出し始めたらしい。
そしてシルヴァさんが持ってきた依頼書は、セトさんの故郷の村だったみたいだ。
「あの村面白い物なんか、なんにもねえ村だったけどな……あれでも故郷なんだよなあ……どーすっかなぁ」
セトさんがぼそっと言った時だ。シルヴァさんがこの依頼書を用意した理由を教えてくれた。
「ここは小さすぎて、手をあげる構成員がいないんだ」
「そりゃ、王国から支給される賃金が、少なめだからだろ」
「小さな村まで、大きな街と同じだけの賃金を支払えるわけもないからな。だから他の割と大きな街や村の依頼はかなり埋まっているが、ここは誰も手をあげないんだ。そんな時に、ここが故郷のお前が、この町から遠くで、賃金少なくてもいいと言い出すからな、これは都合がよさそうだと思って紹介している」
「……どうする、お前ら」
「私は別段構わないぞ。まあ、出稼ぎをしている身の上としては、賃金が少ないのは多少痛いが……それはこの村の近くにある大きな街で、出稼ぎ用の依頼をたまに受ければ問題ないだろう」
「娯楽がないのはつまらないけど、いらないやっかみだのなんだのを受ける生活よりはましでしょ。それに小さな村の警護で、これだけ王国から支給されるって、なかなか好待遇よ」
フィロさんとギザさんが各々の意見を言う。セトさんが私達を見るから、私は素直に言った。
「ここに未練があるわけでもないですし、私もかまわないです」
さて、アフ・アリスはと彼を見上げると、彼はセトさんに問いかけた。
「この村の近くは、どんな風なんだ。荒野か、森か、湿原か」
「ああ、森と湿原に挟まれてんだ、割と湿っぽい季節が多いぜ」
「……乾燥地帯は馴染みがあるが、湿原はあまり経験がないから、興味がある。私も問題ない」
「んじゃ、満場一致でこの依頼受けるぞ! ま、移動の前に実家に連絡するから、ちょっと待ってほしいけどな」
「あんたの実家に何を連絡するのよ」
「先に知らせておくべきだろ、寝床を誰かに紹介してもらう時に、実家からも連絡あった方が何かと都合がいいんだよ」
村親戚って奴だな、とあっけらかんと言ったセトは、さらさらと依頼書に署名する。
「じゃあ、セトの顔を見る事もしばらくなくなるわけか。お前の騒々しい声も、聞けなくなると思うと少しはもったいないな」
「表情が言葉と一致してませんよ……」
私はぼそっとシルヴァさんに突っ込んでしまった。やかましいのがいなくなってせいせいする、という顔をシルヴァさんはしていたからだ。
でも、それでも、セトさんとかは気にするつもりもないみたい。
「さて、荷物まとめるぞ! これから忙しくなるぜ!」
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荷物と言ってもそんなになかった。私とアフ・アリスの荷物はほとんどないから、荷造りをするのは他の三人で、三人は結構どたばたと荷物をまとめていた。
ここでわかったのは、雑過ぎるセトさんと、思っていたより几帳面なフィロさんと、面倒だから空間魔術で荷物入れを空間に作ってそこにどんどん投げ入れる、混沌極まりない荷づくりを決行するギザさんという、皆個性的な荷造りをするという事だった。
「皆さんなかなかですね」
「俺は壊れても困るものなんか持たないからな! 手持ちの武器が一番大事だぜ」
にしし、と笑ったセトさんに対して、呆れた顔で突っ込むのはフィロさんだ。
「それで気に入りの酒瓶を壊して、中身をだめにしたのはどこのどいつだ」
「俺だな!」
このあっけらかんとした感じから察して、ここに長居をする前にも、フィロさんとセトさんは、一緒に暮らして、引っ越しも経験しているんだろう。
二人の出会いは一体どんな形だったのだろう。普通に、ギルドで仲間を集って、馬が合ってという形だろうか、それとも何か、事件で共闘してとか……?
そんな事を思いつつ、私は実にあっという間に、荷物を異空間に皆送り込んだギザさんの方を見た。
「ギザさんは異空間使いだったんですね」
「いいえ、それほどでもないの。まあこれでも底辺くらいには異空間を操るわ」
「異空間使いって、結構貴重な術者だったと思うんですけど」
「異空間使いの中でも、腕利きと言われる人たちに比べたら、足元にも及ばないわ。彼等はいついかなる時でも異空間を支配できるし、多重展開も何のそのだし、実際に出会ってみると各外貨に違うかがわかるわ」
「という事は、ギザさんの登録は違っているんですね?」
「私は戦闘魔術使いという事になっているわ。ギルドでは、魔法使いや術者も、戦闘型と支援型に分けられるのは知っているわよね?」
「はい、ギルドのパンフレットに書かれていました」
「そう、読んでおいてくれてうれしいわ。それにある通り、私は支援型の術以上に、戦闘型の術を持っているから、登録としては戦闘魔術使いという事になっているの」
自分の事が不安になったら、タブレットを確認すれば書かれているわ、とギザさんに言われて、私はそこで初めて、自分のタブレットをまじまじと見た。
そこに書かれていたのは……
「後方支援系……って書かれてます」
「あなたはつまりそういう事なのよ。事実あなたは、何から何までできるけれど、突出した物はないでしょう? それはとても助かる事だけれど、売り込みには向かないわね」
「ちなみに……ギザさんはどういう経緯でセトさん達と組む事になったんですか?」
「それはセトの出しゃばりの結果よ」
「ぶわっはっはっは! ギザ、身も蓋もねえな!!」
これで爆笑するのはセトさんで、フィロさんが呆れた声で言う。
「事実だろう。お前がギザの護衛していた隊商が、魔性に襲われた時に、首を突っ込んで大怪我をしたのが始まりだろう」
「痛い事言うなよ、ギザも俺みたいな役に立つ奴と組めて一石二鳥になっただろ!」
「まあ、あなたくらいの技量の盗賊なんて滅多にいないから、儲けものかもしれないけれどね。ところで実家への連絡は終わったの?」
ギザさんの言葉に、セトさんが頷く。
「何人か仲間連れて帰るって言ったら、かあちゃんうれし泣きしてるらしい。若い男は働きに出ちまうから、村で力仕事をする奴が足りねえんだよ。フィロもアフ・アリスも村に着いたら村の護衛以上にこき使われっかも知れねえ」
「セトは使われないのか」
「俺ひょろいから、下手にあれこれ手伝うと、もっと役に立つ事しろって尻たたかれる」
……なんだかとても、村に対して不安があったものの、セトさんが育った村なのだから、そこまでとんでもない村でもないだろう。
少なくとも、私の生まれ故郷よりはクズじゃないだろうと信じて、私達は明日ここを引き払う事で意見が一致して、その夜を明かしたのだった。
「ありがとうございます!!」
その日、医療院ではそんな声があふれかえっていた。
その言葉を言う誰しもが、かなわなかった家族との会話にむせび泣き、この奇跡に等しい回復を、喜んでいた。
だが、お礼を言われている医療院の関係者達は、素直にそれにたいしての答えを言えなかった。
それはそうだろう。なぜなら。
「いったい何をどうしたら、あんな事が可能なのだろう」
お礼を言う患者の家族達から離れた場所で、関係者達は言い合っていた。
「あんな言葉だけで、手の施しようがないと言われていた患者達を、軒並み平常な状態まで、蘇生させる事なんて、普通出来やしないだろう」
「だが、現実を見て見ろ。あれだけ、我々ではどうしようもなかった人たちが、会話を可能にして、日常に支障がでないほどに、回復しているんだぞ」
「解析担当は、なんて言っているんだ?」
「一切合切が不明、と言っているらしい。どうにも、解析を繰り返しても、何も出てこないのだとか」
「あり得ないだろう、あれだけの事をしたら、痕跡が残るに決まっているじゃないか。それなのに?」
「それなのに、だ。神の起こした奇跡、と言ってもいいくらいに、何も残らない」
医療院の関係者達は沈黙した。彼等は回復の事においては、一般魔法使い達を遙かにしのぐ技量を持つ。その凄腕、と世間一般に呼ばれている人々を遙かにしのぐ、奇跡をあの、嫌われ者のセトの関係者は起こしたと言っても過言ではないのだ。
「あれは何という系統の術だったのか、それもわからない。本当に、何も痕跡が残っていないから、解析のしようがないのだと言っている」
あちこちから、情報を集めている医療院の人間が、難しい顔でいう。
「ギルドの方からも、それだけの事ができる人間を、いったいいつ、雇い入れたんだと問い合わせが来ているんだ」
「問い合わせが来ていても、どうしようもないだろう……だって我々は雇っていないのだ」
「セトの関係者だと素直にいっていいものかどうか、今、上の人たちが会議を行っているという」
「ならば、私達は方針が決まるまでは、口に出してはいけない事だな」
医療院の魔法使い達はそう、意見を一致させて、各の職場に戻っていったのだった。
「くそっ!」
豪腕のベガは舌打ちをした。ここの所、武器の調子が良くないのだ。
どんな具合で良くないのか、といわれると答えに迷うが、一言で言うならばそれは、切れ味が落ちた、という事になるのだろう。
高名な魔法鍛冶屋に打ってもらった、とてつもなく切れ味のよいはずの魔法剣だというのに、ここの所、今までよりも切れ味が落ちているのだ。
刃の部分が欠けたのか、刃先がつぶれたのか、と研ぎ師に出して、最上位まで状態を整えているのに、切れ味は復活しない。
やれる事、手入れは全て行ってきたのに、どうしてか、ベガの魔法剣は新品の頃の切れ味を取り戻さないのである。
「いったいどうしてだ」
ベガは苛立った声を上げた。切れ味がよい事で、ベガの戦闘能力は格段に上げられており、それがいまいちとなると、今までは楽々倒せていた魔性にたいして、やや手こずるようになるのだ。
それはそうだろう。切れていた物が切れなくなれば、相手にたいして手傷を負わせる事も簡単ではなくなるのだ。
致命傷の一撃を、入れられなくなるのだから。
その事実の結果、ベガのチームは少しばかり、今までと同じ依頼をこなすのに時間がかかるようになっていた。
「ベガさん、やっぱり、剣を買い直した方がいいんじゃありませんか」
そう言ってきたのは、ベガと同じ剣士系統の職を持つ仲間だ。
「買い直すって言っても、これにいくら掛かったと思っているんだ。これと同じ物を買おうとすれば、信じられないくらいの代金を請求されるんだぞ」
「そうですか」
一生物だと言われたから、ベガはこの魔法剣を購入したのだ。それが数年でおかしくなって、いくら手入れをしても元通りにならないと言うのは、詐欺ではないかと思ってしまう部分がある。
「それに、わかっているだろう。魔性を倒すには、だいなりしょうなり、魔法が付与されている武器が必要だと」
「そうですね」
仲間もそれには同意する。勇者と聖剣の鞘の仲間以外が、魔性を倒すためには、武器にかすかでも魔法の力を練り込まなければならない。単なる刃物では、魔性に傷を負わせられないのだ。
……正確にいうと、傷を負わせられても、魔性の強力な再生力の方が上回り、傷がないものになってしまう、という事であるが。
魔法の力が宿った武器や、魔法で戦えば、魔性を弱らせる事が可能であり、結果勝利を収められるのである。
それを皆よくわかっているからこそ、それなりに資金を貯めて、魔法の宿った武器を購入するのである。
また、手持ちの武器に魔法を付与させる、付与師という職も、一般的名物であると言えた。
「いったいどうしてなんでしょうね」
「わからない……」
ベガが苛立った声で答えると、そうだ、と仲間が思いだしたようにこう言った。
「セトの仲間の独活の大木、変なこと言ってましたね」
「ん? 変な事?」
「ほら、ベガさんの剣が、疲れているとか何とか」
ベガもそれを聞いて、そういえば、セトの仲間の、異様な力を持った男が、そんな事をいっていたのを思い出した。
「剣が疲れ果てていいる、と言っていたな」
「それってどういう意味だったんでしょうね。事実として……ベガさんの剣の切れ味、落ちましたし……」
「もしかして呪ったのかもな。一度専門の人間に見てもらうか」
ベガはそういって、依頼にあるとおりの魔性の皮をはぎ取り、道具袋野中に入れた。
彼の魔法剣は、かすかな音を立てていたが、それには誰も気づかなかった。




