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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第三部 後編 分割掲載

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十四話

「ありがとうございます!!」


その日、医療院ではそんな声があふれかえっていた。

その言葉を言う誰しもが、かなわなかった家族との会話にむせび泣き、この奇跡に等しい回復を、喜んでいた。

だが、お礼を言われている医療院の関係者達は、素直にそれにたいしての答えを言えなかった。

それはそうだろう。なぜなら。


「いったい何をどうしたら、あんな事が可能なのだろう」


お礼を言う患者の家族達から離れた場所で、関係者達は言い合っていた。


「あんな言葉だけで、手の施しようがないと言われていた患者達を、軒並み平常な状態まで、蘇生させる事なんて、普通出来やしないだろう」


「だが、現実を見て見ろ。あれだけ、我々ではどうしようもなかった人たちが、会話を可能にして、日常に支障がでないほどに、回復しているんだぞ」


「解析担当は、なんて言っているんだ?」


「一切合切が不明、と言っているらしい。どうにも、解析を繰り返しても、何も出てこないのだとか」


「あり得ないだろう、あれだけの事をしたら、痕跡が残るに決まっているじゃないか。それなのに?」


「それなのに、だ。神の起こした奇跡、と言ってもいいくらいに、何も残らない」


医療院の関係者達は沈黙した。彼等は回復の事においては、一般魔法使い達を遙かにしのぐ技量を持つ。その凄腕、と世間一般に呼ばれている人々を遙かにしのぐ、奇跡をあの、嫌われ者のセトの関係者は起こしたと言っても過言ではないのだ。


「あれは何という系統の術だったのか、それもわからない。本当に、何も痕跡が残っていないから、解析のしようがないのだと言っている」


あちこちから、情報を集めている医療院の人間が、難しい顔でいう。


「ギルドの方からも、それだけの事ができる人間を、いったいいつ、雇い入れたんだと問い合わせが来ているんだ」


「問い合わせが来ていても、どうしようもないだろう……だって我々は雇っていないのだ」


「セトの関係者だと素直にいっていいものかどうか、今、上の人たちが会議を行っているという」


「ならば、私達は方針が決まるまでは、口に出してはいけない事だな」


医療院の魔法使い達はそう、意見を一致させて、各の職場に戻っていったのだった。






「くそっ!」


豪腕のベガは舌打ちをした。ここの所、武器の調子が良くないのだ。

どんな具合で良くないのか、といわれると答えに迷うが、一言で言うならばそれは、切れ味が落ちた、という事になるのだろう。

高名な魔法鍛冶屋に打ってもらった、とてつもなく切れ味のよいはずの魔法剣だというのに、ここの所、今までよりも切れ味が落ちているのだ。

刃の部分が欠けたのか、刃先がつぶれたのか、と研ぎ師に出して、最上位まで状態を整えているのに、切れ味は復活しない。

やれる事、手入れは全て行ってきたのに、どうしてか、ベガの魔法剣は新品の頃の切れ味を取り戻さないのである。


「いったいどうしてだ」


ベガは苛立った声を上げた。切れ味がよい事で、ベガの戦闘能力は格段に上げられており、それがいまいちとなると、今までは楽々倒せていた魔性にたいして、やや手こずるようになるのだ。

それはそうだろう。切れていた物が切れなくなれば、相手にたいして手傷を負わせる事も簡単ではなくなるのだ。

致命傷の一撃を、入れられなくなるのだから。

その事実の結果、ベガのチームは少しばかり、今までと同じ依頼をこなすのに時間がかかるようになっていた。


「ベガさん、やっぱり、剣を買い直した方がいいんじゃありませんか」


そう言ってきたのは、ベガと同じ剣士系統の職を持つ仲間だ。


「買い直すって言っても、これにいくら掛かったと思っているんだ。これと同じ物を買おうとすれば、信じられないくらいの代金を請求されるんだぞ」


「そうですか」


一生物だと言われたから、ベガはこの魔法剣を購入したのだ。それが数年でおかしくなって、いくら手入れをしても元通りにならないと言うのは、詐欺ではないかと思ってしまう部分がある。


「それに、わかっているだろう。魔性を倒すには、だいなりしょうなり、魔法が付与されている武器が必要だと」


「そうですね」


仲間もそれには同意する。勇者と聖剣の鞘の仲間以外が、魔性を倒すためには、武器にかすかでも魔法の力を練り込まなければならない。単なる刃物では、魔性に傷を負わせられないのだ。

……正確にいうと、傷を負わせられても、魔性の強力な再生力の方が上回り、傷がないものになってしまう、という事であるが。

魔法の力が宿った武器や、魔法で戦えば、魔性を弱らせる事が可能であり、結果勝利を収められるのである。

それを皆よくわかっているからこそ、それなりに資金を貯めて、魔法の宿った武器を購入するのである。

また、手持ちの武器に魔法を付与させる、付与師という職も、一般的名物であると言えた。


「いったいどうしてなんでしょうね」


「わからない……」


ベガが苛立った声で答えると、そうだ、と仲間が思いだしたようにこう言った。


「セトの仲間の独活の大木、変なこと言ってましたね」


「ん? 変な事?」


「ほら、ベガさんの剣が、疲れているとか何とか」


ベガもそれを聞いて、そういえば、セトの仲間の、異様な力を持った男が、そんな事をいっていたのを思い出した。


「剣が疲れ果てていいる、と言っていたな」


「それってどういう意味だったんでしょうね。事実として……ベガさんの剣の切れ味、落ちましたし……」


「もしかして呪ったのかもな。一度専門の人間に見てもらうか」


ベガはそういって、依頼にあるとおりの魔性の皮をはぎ取り、道具袋の中に入れた。

彼の魔法剣は、かすかな音を立てていたが、それには誰も気づかなかった。


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