十三話
荷物と言ってもそんなになかった。私とアフ・アリスの荷物はほとんどないから、荷造りをするのは他の三人で、三人は結構どたばたと荷物をまとめていた。
ここでわかったのは、雑過ぎるセトさんと、思っていたより几帳面なフィロさんと、面倒だから空間魔術で荷物入れを空間に作ってそこにどんどん投げ入れる、混沌極まりない荷づくりを決行するギザさんという、皆個性的な荷造りをするという事だった。
「皆さんなかなかですね」
「俺は壊れても困るものなんか持たないからな! 手持ちの武器が一番大事だぜ」
にしし、と笑ったセトさんに対して、呆れた顔で突っ込むのはフィロさんだ。
「それで気に入りの酒瓶を壊して、中身をだめにしたのはどこのどいつだ」
「俺だな!」
このあっけらかんとした感じから察して、ここに長居をする前にも、フィロさんとセトさんは、一緒に暮らして、引っ越しも経験しているんだろう。
二人の出会いは一体どんな形だったのだろう。普通に、ギルドで仲間を集って、馬が合ってという形だろうか、それとも何か、事件で共闘してとか……?
そんな事を思いつつ、私は実にあっという間に、荷物を異空間に皆送り込んだギザさんの方を見た。
「ギザさんは異空間使いだったんですね」
「いいえ、それほどでもないの。まあこれでも底辺くらいには異空間を操るわ」
「異空間使いって、結構貴重な術者だったと思うんですけど」
「異空間使いの中でも、腕利きと言われる人たちに比べたら、足元にも及ばないわ。彼等はいついかなる時でも異空間を支配できるし、多重展開も何のそのだし、実際に出会ってみると格がいかに違うかがわかるわ」
「という事は、ギザさんの登録は違っているんですね?」
「私は戦闘魔術使いという事になっているわ。ギルドでは、魔法使いや術者も、戦闘型と支援型に分けられるのは知っているわよね?」
「はい、ギルドのパンフレットに書かれていました」
「そう、読んでおいてくれてうれしいわ。それにある通り、私は支援型の術以上に、戦闘型の術を持っているから、登録としては戦闘魔術使いという事になっているの」
自分の事が不安になったら、タブレットを確認すれば書かれているわ、とギザさんに言われて、私はそこで初めて、自分のタブレットをまじまじと見た。
そこに書かれていたのは……
「後方支援系……って書かれてます」
「あなたはつまりそういう事なのよ。事実あなたは、何から何までできるけれど、突出した物はないでしょう? それはとても助かる事だけれど、売り込みには向かないわね」
「ちなみに……ギザさんはどういう経緯でセトさん達と組む事になったんですか?」
「それはセトの出しゃばりの結果よ」
「ぶわっはっはっは! ギザ、身も蓋もねえな!!」
これで爆笑するのはセトさんで、フィロさんが呆れた声で言う。
「事実だろう。お前がギザの護衛していた隊商が、魔性に襲われた時に、首を突っ込んで大怪我をしたのが始まりだろう」
「痛い事言うなよ、ギザも俺みたいな役に立つ奴と組めて一石二鳥になっただろ!」
「まあ、あなたくらいの技量の盗賊なんて滅多にいないから、儲けものかもしれないけれどね。ところで実家への連絡は終わったの?」
ギザさんの言葉に、セトさんが頷く。
「何人か仲間連れて帰るって言ったら、かあちゃんうれし泣きしてるらしい。若い男は働きに出ちまうから、村で力仕事をする奴が足りねえんだよ。フィロもアフ・アリスも村に着いたら村の護衛以上にこき使われっかも知れねえ」
「セトは使われないのか」
「俺ひょろいから、下手にあれこれ手伝うと、もっと役に立つ事しろって尻たたかれる」
……なんだかとても、村に対して不安があったものの、セトさんが育った村なのだから、そこまでとんでもない村でもないだろう。
少なくとも、私の生まれ故郷よりはクズじゃないだろうと信じて、私達は明日ここを引き払う事で意見が一致して、その夜を明かしたのだった。




