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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第三部 後編 分割掲載

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十話


「今回の依頼は成功した!! 犠牲として死んだ者もいない、これは大成功だ!」


と、アーチス将軍は大変にご機嫌だったらしい。セトさんが意識を取り戻さないから、報酬を代理で手に入れに行ったフィロさんが、そう教えてくれた。

将軍は撤退を指示した後、モノクルが壊れたから、あの場所で何が起きていたのかは、全く分かっていないそうだ。

でも依頼主ってそういうものだって聞いているから、おかしいとは思わない。

依頼主は依頼通りの事が遂行されたら、報酬を払う、それだけの関係なのだ。


「あの謎の光が、闇の水晶を破壊した事を、剛腕のベガは将軍に伝えなかった」


フィロさんは少し苛立った声で言う。それはアフ・アリスの功績をなかった事にしてしまったと言いたいんだろう。


「ベガは周りに口止めしたらしい。……それも道理だ、それが知られれば報酬が減る。もっとも功績を残したものに、より報酬を渡すものだからな」


フィロさんは苦い声だ。私達はそれを家で聞いている。


「誰も言わなかったの?」


ギザさんが確認する。フィロさんは頷いた。


「今回の合同チームの大半が、セトに恨みがある人間で構成されていたからな。セトに対してのあれを黙るために、アフ・アリスの光の弓矢も黙ったらしい」


「それで、いいだろう。私は目立ちたくナい」


アフ・アリスの穏やかな声を聞いて、フィロさんが呆れたという顔をした。


「目立つ目立たないの前の話だ、あんな事をどうして隠し続けていたんだ」


「まだ、使えるとは思わなかッた。……ずいぶんと昔に、失った力だと思って生きてきた」


「……そういう事だったのか……つまり、使えるかもわからない博打を打ったという事だな?」


「そうなる」


アフ・アリスはそれだけ言って、ギザさんが淹れてくれたお茶を飲む。

この穏やかな空気を感じていると、あの光の弓矢の、超強力な力は、何かの間違いだったんじゃないかと思ってしまう。

あれは普通の魔術ではなかった。誰も知らない魔術で、そこらへんの最上位魔術をはるかにしのぐ力を秘めている。


「使えて、良かっタ。セトを救えた」


アフ・アリスがそう言って微笑む。フィロさんはそれには同意した。


「確かに、あの時あの光が魔性達を軒並み消し飛ばさなければ、セトの回収はままならなかっただろう。そういう意味では、間違いなく命の恩人になるわけだ」


「私は、仲間として認めてくれたセトを、死なせる事は出来なかった。だから一か八かで、あれを使った。それだけの事だ」


アフ・アリスが柔らかい顔で笑う。


「あれは一体何の魔術なの? 何処の古代魔術を調べても、出てこないわ」


ギザさんが、依頼が終わった後から街の図書館に入り浸って、調べまくっていたのに、何にも情報が入らなかったから、彼に聞いた。

彼は少し考えた後に、答えてくれた。


「あれは……華の魔術と、古く言われてきた力、だ」


「華の魔術……? どの古代文献にも記載がないと思うんだけど」


「なくても仕方がない。あれは……」


あれは、と言った後、少し口ごもってから、アフ・アリスは信じられない事を教えてくれた。


「あれは、ウロボロス帝国の秘術だったかラ」


「ウロボロス帝国の!? あなたはそんなすごい物さえ扱えるというの!?」


ギザさんが目を見開いて言う。アフ・アリスは頷いた。


「私は、それの心得が少しだけある。あの系統は……修める事で一生を終えると言われるほど、手順が面倒な物ばかりで……それが少しばかり、扱えるというだけなんだ」


「その少しばかりでも、相当な効力を発揮するんじゃない。隠し玉を隠し過ぎよ、あなた」


ギザさんが呆れた調子で言い、アフ・アリスは困った顔になった。


「それに、……資格を失ったと思って生きてきたカラ。使えなくても仕方がないと、思っていたんだ」


「使えない魔術は穴の開いた鍋みたいなものだからね、それはわかるわ」


そのたとえがどう正しいのかは、わからなかった物の、ギザさんは納得した。


「さて……私たちの報酬は記載通りで、増減はないのね、フィロ」


「ないな。セトほど口が回れば、もっと増えたかもしれないが」


「そこでもめても面倒よ。セトはもめる隙も与えないでべらべらしゃべって、要望を通すけど、私達にその技能はないわ」


少なくともこれで、セトの入院費用はある程度稼げたわね、とギザさんが言って、フィロさんが言う。


「セトは意識不明で、あと何日目を覚まさないかも未定だ……早く目を覚ましてほしい物だが」


「爆発を受けた時に、思ったよりもあちこちにぶつかってたらしいからね」


「……」


セトさんは医療院に入院している。いつ目を覚ますかもわからない。至近距離で爆弾が爆発したっていうのはそういう事で、……やっぱり私は、それをした、セトさんの昔の仲間たちを許せそうになかった。

依頼の外で、バチバチに火花を散らしたり、嫌味を言ったり、何かするのは仕方ない。

でも命がけの依頼のさなかに、手柄を横取りするために、死ぬかもしれない事をするのは、許せなかった。屑でしかない。


「あとで、見舞いに行きたい」


アフ・アリスはそう言って、フィロさんとギザさんに笑いかけた。


「きっとセトは、すぐ目を覚ます」


その、なんとなく信じたくなる言葉を皆で聞いて、空気が柔らかくなった時だ。

外から、誰かが北という事知らせるベルが鳴り、ギザさんがそれに出た。


「いったいあなた方が何の用事!?」


出た瞬間にとげとげしい言葉が放たれて、誰だろうと首を伸ばすと、来たのは剛腕のベガだった。


「いいだろう、用事があっても」


ベガは、自分の仲間がセトさんに爆弾を投げた事を、悪いと思っていなさそうだった。

謝罪という物がないから、私にはそう映った。


「用事って何? 手短にしてちょうだい。あなたと話す事は、私達にはないのよ」


「まあまあそんな事を言わずに。……彼に話があってきたんだ」


ベガはそう言い、卓の端っこに座って、お茶の表面をじっと見て何か考えていたアフ・アリスに、こう言った。


「君、こんな先の昏いチームではなく、私達と仲間にならないか?」


それを聞き、アフ・アリスの顔が持ち上がる。静かな瞳は、異様な迫力をたたえてベガを見ている。

そして、整い過ぎている唇が開いた。


「断る」


「そうだよな、こんな貧乏パーティではなく……って、正気か? 君ほどの実力の持ち主なら、ギルドでも引く手あまた、もっと条件のいい、例えばうちのような所が皆欲しがるだろう」


「私の仲間は」


アフ・アリスの声は静かだ。静かで淡々としていて、そして強い。

その声が、不気味なほどの静寂をたたえて、言い切った。


「私が選ぶ。何か問題があるカ?」


部屋の空気が、異質なものに変わっている。これは……アフ・アリスが、魔王のしもべだった頃、勇者ヘリオスとその仲間達と向き合った時に放たれていた、絶対的強者の圧力が混ざっている。

こんなのに、普通の冒険者が勝てるわけがなく、その圧をまともに受けたベガは、わなわなと震えて、言葉も出なくなり、もごもごとした後に、慌てたように去っていった。


「セトは」


アフ・アリスが静かに優しい声で言う。


「戦わなくていい、と言ってくれた。それが、どれだけうれしいか、彼は知らないだろう」


「あなたは、むやみに戦いたくないものね」


魔王のしもべとして、彼は戦いに戦った。だから、もうそういう事を積極的にしたいと思わないのだろう事は、彼の経歴を少しばかり知っている私には、納得がいく事だった。

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