九話
「うそ、立てるの、この状態で」
私の側にいて、杖を支えに座り込んでいたギザさんが小さな声で言った。
”彼”は魔性達を静かに見回し、そして、空中に手を伸ばす。何時の間に持っていたのか、手の中には一輪の、白い花の咲いた蔦の植物。
その蔦の植物が、色々な法則を無視して、あっという間と言うほどの速度じゃないけれど、何が起きたかよくわからない速さで、彼の背丈ほどもある大きな弓に変貌したのだ。
弓に変貌した植物から、また蔦が伸びて、それは一本の矢になる。
「……」
見ている誰もが、何が起きているのかわからなかっただろう。魔法に詳しくない私は全く分からないし、詳しそうなギザさんも目を見開いている。
”彼”はそして、大弓と矢を構えた。
「”神はおらず”」
構えた彼の、美しすぎる唇が、言葉を唱えた。
「”祈りは届かず 愛は裏切られ 友は去り 名は地に堕ち なお私はここにある 射貫け黎明 暁を”」
それは言葉ではないのかもしれない。だってあまりにも神々しい。
彼の言葉に呼応するかのように、蔦の植物から生まれた大弓に大輪の花が咲き始める。
彼が、力が強くなければ絶対に引き絞れない弦を動かして、狙いを定めている。
定めながら、誰の声も聞いていないそぶりで、言った。
「”裂け”」
限界まで引き絞られた弦から、矢が解き放たれる。
その矢が向かった先は、闇の水晶で。
矢は理解できないほど、痛いほどの光をまとって、闇の水晶を守る魔性達を光の圧だけで消し飛ばしながら、闇の水晶を、貫いて。
木っ端微塵に破壊して、欠片さえ光の力か何かで消滅させたのだった。
さらにそれだけでは終わらなくて、矢の輝きは目が見えなくなるほど辺り一面を覆って……目が見えるようになったら、周りには魔性が、一匹もいなくなっていた。
私は転がる勢いでアフ・アリスに近付いて、言った。
「あんな事をして大丈夫なの、あなたは」
「……ああ。私はマダ、こんな力も、使えルんだな」
華の咲き乱れる大弓は燃え上がって灰になって何も残っていなくて、だからさっきのあれこれが幻みたいなのに、魔性が一匹もいない現実が、幻ではなかったと伝えてきた。




