七話
そうして数日が経過して、私はチームの面々と一緒に、今回の依頼のための集合場所まで来た。
来るのはわかっていたし、それに対しての不安はなかったんだけれど……何だろう、先に集まっていた人たちの中に、こっちの顔を見て……いいや、セトさんの顔を見て途端に、顔をゆがめる人がそれなりにいるので、小声でギザさんに聞いてしまった。
「セトさん、何かやらかしてるんですか?」
「……ああ、見覚えのある人たちがそれなりにいると思ったら。こっちを見て睨んでいる人達は、前にうちのチームに入って、セトの、自分は出来るから他人も出来るだろう意識で、無茶ぶりされた人達よ」
「セトさんどんだけ無茶ぶりして、人の恨み買ってるんですか?」
「セトはね……自分が出来るのだから、他人もそれなりに使えるだろうっていう感覚がなかなか抜けない奴だからね。それで入って早々に、命の危機にさらされて、こんな所でやってられるかっていう感じで抜ける人多いのよ」
「セトさんが事前に知らせては」
「そりゃ知らせてるわよ、うちのチームは甘くないし、結構危険が多いって。でもセトがそんなに耐久性がありそうに見えないものだから、話半分って思って……後は察してって感じよ」
なるほど、と思うのは私がセトさんの事で命の危機に瀕した事がないからだろう。
セトさんを見ると、軽装で、いかにも盗賊って感じで、この身なりで命の危機って言われても、実感薄いだろうなって思うところがあった。
命の危機に瀕する回数が多い人たちは、結構がちがちに装備を整えているはず。
それは勇者一行も同じだった。皆がっつり上位装備って言われる装備でいたわけだし、ヘリオスはそれこそ、伝説に連なるような装備を使っていた。
セトさんを見て、読み間違える人が多かったんだろう。
アフ・アリスはそれも見て取ったんだろうか。
私は隣をゆっくりとした足取りで歩いて、物珍しそうに見回している男を見た。
彼は数多の冒険者たちがいるなかでも、結構目立つほど背が高くて、衣類で筋肉が目立たなくなっている事から、ひょろりとしたのっぽに見えているだろう。
弱々し気な風にも見えるかもしれない。まして、彼はセトさんお勧めの、それなりに強度のある皮で作られているフードを頭から深くかぶって、人相が分からなくなっている。
内気で、ひょろ長い男という印象を与えがちな見た目になっているのだ。
これで脱いだら相当だし、美貌は仕事の邪魔をしそうな位だとわかっているのは、私達くらいだろう。
そんな私の評価は置いておいて、セトさんを見て睨んでいる人たちの中から、一人の、経験豊かそうな人がこちらに近付いてきた。
その男の人を見て、あからさまにセトさんが嫌そうな顔になる。
「聞いたぞ、疾風のセト。お前はまた仲間に逃げられたらしいな」
「剛腕か。出ていくも行かないも、仲間の判断の結果だ。俺が意見する事じゃねえな、去っていく奴は去っていくに任せてんだよ、うちは」
「それで優秀な人材をことごとく他のチームに流している奴に言われてもな。どうせお前のリーダーとしての素質がない事が理由だろう」
「うちはそういうリーダー頂点にしたやり方じゃねえの。書類表記で面倒だから俺が仕切っているような書き方してるだけ」
セトさんはうっとうしそうだ。そんな様子を見てから、こっちの、私やアフ・アリスを見て、剛腕と呼ばれた人は、傍目から見てわかるほど、私達を馬鹿にした顔をする。
「なんだ、ついにセトのチームも堕ちる所まで堕ちたわけか。役に立つ仲間を嗅ぎつける能力だけは盗賊らしく高かったというのに。今ではあんな、ただの女の子や、ひょろ長いだけの男を仲間にするとはな」
「あいつらの実力は、俺らが知っているだけで十分だ。あんたらに披露する目的で、仲間引き連れてねえよ」
「……すまなイが、一つ尋ねてもいいだロうか」
セトさんと剛腕さんの空気は最悪というか、剛腕さんがセトさんや私達を馬鹿にしきっていて、セトさんがそれに対してとても不愉快っていう態度をしている。
そんな中に、空気を読まないような振る舞いで、アフ・アリスが割って入ったのだ。
「なんだ、ひょろなが」
「……あなたノ剣は、疲れ果てていル。あまり硬い魔性を切らない方がいいダろう」
「はあ? 何を言い出すのかと思えば。この剣は貴重な魔法剣だぞ? 鍛冶職人たちにもきちんと見てもらっている。問題はないとお墨付きだ。変な事を言う奴だな」
剛腕さんは変な事を言い出す奴だ、とアフ・アリスを見て、馬鹿に仕切った笑みを隠さずに言った。
「こちらに対して文句をつけて、手柄を減らそうという魂胆は丸わかりだぞ、馬鹿な仲間だな、セト!」
「アフ・アリス。お前は前に出るな。……お前は補助だ。分かってんだろ」
「セトがそれで構わないなら」
アフ・アリスはほかに何か言いたそうな雰囲気になったけれども、セトさんがそれ以上相手と関わらない方がいいと態度で示すものだから、彼はフィロさんの方に寄った。
そこで私は、セトさんに対しての他の人たち……つまりセトさんのチームから抜けた人たち……の態度が、とても悪い事、不快感を示している事に気付いた。
セトさん嫌われまくってるんだな。この場合は、事前通告を軽く受け止めて、その結果命の危機って奴に襲われた事が起因していそうだ。
セトさんはそういう危ない事を黙っているっていう事は少ないみたいだし、一応危険は教えているみたいだから、なんか違うな、と内心で思った。
だって文句があるという事は、彼らは命の危機にさらされても、生きているという事で、それは……セトさん達が、彼等を守ったか何かして、命を救ったという事になるのだ。
「ギザさん、セトさん、仲間の命の危機のたびに、前に出ている人だったりします?」
「察しがいいわね。セトは仲間のために前に出るの。それでじゃんじゃん吹っ飛ばされているから、宙を吹っ飛ぶって時の受け身の仕方に特化しているの。だから余計に、軽い装備を好むんだけどね。……まあ、庇われても、仲間になったばかりの人たちは、こんなに危険だと思わなかった、詐欺だって言って、すぐにチームを抜けるのよね」
「でしょうね……」
アフ・アリスはフィロさんの剣を何か調べている。そして、フィロさんが目を離したすきに、フィロさんの剣の柄頭にある飾りの宝石かガラス玉かに、一度唇に当てた親指をあてがって、短い何か言葉を口にしていた。
余りにもさりげない動作だったから、誰も変な事しているって思わなかっただろうし、顔も隠れたアフ・アリスはあまりにも、目立たない。
そのためか、本当にひょろ長い空気みたいな男って感じだ。
擬態するの上手なんだな……と思ってしまうほどだ。
ただ、見ていた私は、フィロさんの剣の柄頭の飾りに、何か白い光が宿って消えたのをばっちりと見ていた。
彼は何をしたんだろう。後で聞いても罰は当たらないだろう。
「可哀想な人たち」
「きっとセトの口車に乗せられたんだ」
「死にそうになるって思ってないんだろうに」
「誰か教えてやれよ」
「えー、こっちまで飛び火したら厄介じゃない」
「セトがまた、仲間に逃げられればいい気味でしょう」
……結構私とアフ・アリスは同情されているな……何てそこで、周りの声から気付いてしまったのだった。
でも私達は補助で、一番後ろにいる面々なので、命の危機になるとしたら他のチームの補助の人たちも命の危機になるから、そこまででもない。
私は、今はちょっと普通よりもいろいろな武術を使える程度の女の子で、逃げ足だけは、装備品が軽い事もあって、かなり早い。
それに、勇者の肩書とかもないので、逃げるが勝ちだと思ったらすぐに逃げる予定だから、そんな怖いとは思わなかった。
「……セトは嫌われているな」
いつの間にか私の脇にいたアフ・アリスは、心底不思議だという調子でそう言った。
「納得がいかないの? あっちのチームの人達も、そっちのチームの人達も、セトさんの仲間になった後に、命の危機に瀕した人達なんだってさ」
「瀕しても、命があるならば、恩人かもしれないだろう。セトからは、死人を出す臭いがしない」
「なんかよく分からない判断材料ね」
「仲間がどんどん死んでしまう人間は、独特の匂いをしている事が多い。たまにいるのは、死神を憑りつかせている人間ダ。憑りつかせてしまっていたら、どうしても死なせてしまウ」
「死神なんて概念を言われても……」
「死神は、イる」
「……」
アフ・アリスは強い声で言い切ったから、彼の知る世界の中では、そういう何か、魔性とも違う物がいるのだろう、と納得する事にした。




