三章 前編 全文掲載
ギルドの本部は大賑わいと言った状態だった。私にはそれが、普通の事なのかそれとも、このギルドがとても人気のギルドだからこう言う風なのか、いまいち見当がつかなかった。
いかんせん私の人生の結構な時間を、神殿での訓練に費やしていたから、こう言った場所に行く事なんて、なかったのだ。
それに訓練が終わったと思えば、もう、ヘリオスとともに魔王討伐の長旅が始まって、その道中でギルドに入る事なんて、なかった。
そのため私は、間違いなくギルド初心者と言っていいだろう。
そのせいか、あっちこっちを見回してしまう。
壁の一角に大量に貼り付けられた受注書。素材とか材料とかを換金している換金所。
お金を預ける銀行。人々の情報収集のために設けられていそうな、テーブルとイスがたくさんある場所。そこの角では厨房があり、ここで食事をする人も多そうだ。
依頼によっては怪我も多いからか、救護室もある様子だし、無論依頼の手続きなどをする受付もたくさん人が座っている。
ううん、はじめてみる場所だからか、すごいとしか言いようがない気がする。
「まさかあんたもギルドに入るのは初めてか。そっちの墓守はまだわかるんだが」
私があんまりにもまじまじといろんなものを見まわしているからか、セトさんがそう問いかけて来る。それに頷いて答えた。
セトからセトさんに呼び名が変わったのは、単純に彼の方が三つも年上だったから。
私はあまり、他人になれなれしい喋り方ができないのだ。主に神殿での暴力的な訓練の結果。何か言って、それが相手の気に食わなかった場合の、鞭打ちとか辛かったな。
「ギルドってものがないくらい、小さな村の出身で……そのあと魔王討伐の余波とかで、色々あって、やっと落ち着いた感じなので」
これを聞くと、セトさんが納得したように言った。
「あんたも、魔王討伐のから数か月後に頻発するようになった、魔性の襲来で故郷を失った口なんだな。そっちのフィロも、ギザも、出稼ぎにでかい街に来て、仕送りしまくってたのに、故郷廃墟になっちまった口だぜ」
「……そう、なんですか……」
私は剣士さんと術者さんの故郷が、そんな事になったという事実に、驚きしかない。
やっぱりダズエルで聞いていたように、各地で魔性の襲来が起きて、たくさんの村や町が無くなっているんだ。
……あの牛の魔人は、魔王が死んだ後、覇権争いのためにそうなったと言っていたけれども、それを伝えていい物か、わからなかった。
「気にしなくていい。家族は何とか大きな街に逃げ切って、今、商売を再建している真っ最中なんだ」
「うちも似たような物よ。ぎりっぎりで王国の軍隊が間に合って、救助されたの。でも町はもうだめだったわ。生きている人間の数よりも、死んだ人間の数の方が、上回りすぎているくらい、魔性どもは町の人を殺しまわったそうだから」
剣士さんの名前はフィロさん。そして術者さんはギザさんというらしい。そう言えば、自己紹介らしいものをちゃんとしてなかったな、とそこで思い至った。
「うちの母親、人が死にまくったから心を病んじゃってね。ちゃんとした治療を受けさせるために、セトみたいなお金にがめついケチと組んでるのよ」
ギザさんが鼻を鳴らしてそう言うと、フィロさんが小声で言った。
「セトのお金大好きっぷりは普通のケチとまるで違うからな」
「へえ……」
「俺んち笑えねえほど貧乏だったんだ。そのくせガキが多くて、動ける奴は食い扶持を稼ぐってのが普通でさ。まあ俺みたいに、盗賊の職業がこんなになじむ奴も多くねえだろ」
セトさんの言い方もさらっとしていた。この感じだと、貧乏だったって事に対してのあれこれは持っていないんだろう。
ただ、お金にとても執着する考え方になったというだけで。
「さて、あんたらの登録だな。シルヴァ! 仲間が増えたんだ、登録させてくれよ」
セトさんはからっとした声でそう言って、受付で手が空いた人に呼び掛けた。
その人はシルヴァさんというらしい。彼はセトさんを見て、あからさまにげんなりした顔をしたのだ。
「セト、あんたのチームに入ってえらい目に合うギルドメンバーが何人いると思ってんだ。毎度毎度、あんたのチームがいつでも仲間を募集しているからって事、成績がそれなりだって事で加入する新人メンバーに、トラウマ植え付ける事ばかりしやがって」
「俺が悪いわけじゃねえだろ、俺はちゃんと、うちのチームはとんでもないぞって一番に説明してる」
……私達聞いてないんだけどな……それとも、私達というか、アフ・アリスのとんでもなさの方が上回ってそうだって事で、喋っていないのかもしれなかった。
私が疑いの目でセトさんを見ていると、彼を見たシルヴァさんがこっちを見た。
まず私みたいな、普通の女の子がいる事に何か考えた後、私のやや後ろにいるアフ・アリスを見て……目を見開く。
「おい、セト。漂泊の賢者でも連れてきたのか」
「本人曰く賢者じゃねえらしいぜ。古い墓守だったとか」
長い裾のウロボロス衣装をまとう効果が、そこに現れていたみたいで、もともと雰囲気が普通の人と違うアフ・アリスは、賢者とか勘違いされるみたいだ。
そして、墓守だというセトさんの言葉を聞いて、シルヴァさんが本気で言っているのか、と言いたそうに言う。
「古い墓守? 冗談じゃないぞ。そんな珍品連れて来て、揉め事が起きないと思っているのか」
「本人は起こす気ないから大丈夫だろ」
「……まあ、これ以上止める事は仕事上できないから、それでいいなら登録をするが。……そちらのお二人、こちらへ」
言われるがままに、私とアフ・アリスは受付に行く。
「こちらのチーム登録書に名前を。そうすればペンと登録書の魔力で、あなた方のギルド証が発行されます」
「へえ……」
「……」
そんなあっさりした方法なんだ、と感心しつつ、私は名前を書いた。アフ・アリスはしばしためらった後、シルヴァさんを見た。
「現代の文字ガ書けない場合ハ?」
「……あんた見た目若そうだけど、何歳なんだ」
「時ガ止まったよウな場所に長くいたから、経過時間は……数百年」
「まじもんの古い墓守だった。……まあ、あんたを現す文字なら、登録書は反応するから大丈夫」
「そうカ」
そう言われたアフ・アリスは、さらさらと流麗な模様に見える文字を、ペンで書いた。確かに、それは、どんな癖字とも違う文字で、現代の文字じゃないんだな、とわかるものがあった。
でも、それだったらどうして、新聞は読めたのだろう。
……読めるけど書けないだけかもしれない。そういう人はたまにいるし。
それにしても、セトさんが言ったように、訳ありの人も本当に広く受け入れるんだ、大きな街のギルドって。
だって、アフ・アリスが時が止まった場所で過ごしていた墓守って言う、とんでもない事を言っても、たいして気にも留めていないんだから。
事情がある人を広く受け入れる、それがギルドだってよく言われる話だけど、本当だったんだな、と改めて実感した。
そして名前を書いた後、シルヴァさんが後ろに置かれていた魔法道具をいじると、からんからんと二つのタブレッドが出て来る。
「……驚いたな、二人とも実力はあるのに無名なのか」
タブレッドを見て、シルヴァさんが感心したように言う。私はちっとも意味が分からないので、説明をしてもらおうとした時である。
察した様子のギザさんがこう言った。
「割と誰でも知っているだろうけど、名前には力が乗るの。魔術言葉に力が乗るのはそれもあっての事なのよ。だから、ギルド登録書に名前を書くと、登録書の魔法と書いた名前が反応しあって、ギルド証作成機械から出て来る、ギルド証が皆違ってくるのよ」
「違ってくるだけなのに、実力があるとかわかるんですか」
「タブレッドの色ね」
「へえ……」
「一般的に最低クラスの鉄色。その上の銅。割と上位の銀。文句なしの金。飛び切りは白金よ。あなたたちは……銀なのね。確かに実力はあるのに無名って言われてもおかしくないわ」
ギザさんが、私とアフ・アリスに渡されたギルド証を見てそう言った。
「それに裏に番号があるでしょう? これは依頼を受注する時に必要な数字なの。まあ、チームナンバーと個人ナンバーがあるし、うちは基本チームナンバーだけで事足りるけれどね」
「……数字は、何百年経っても同ジなのか」
アフ・アリスが数字をじっと見てそう言った。数字は時代を超えて使用されているのだ。
きっと。
「さて、ついでにシルヴァ、こいつ依頼されてた薬草と素材な」
「セト! だからお前の不精は……ちゃんとあっちに並んで、手続きをしろ!」
「だってシルヴァだってできるだろ」
「順番ってのがあるだろう! さっさと並べ! そっちの新しい仲間たちはギルドの事を何も知らないんだろう? 手順を見せてやれ」
そう言われて、セトさんは鼻を鳴らして不満を表明した後、私達を見ていう。
「こっち、ついてきてくれ。換金用の受付なんだ」
「だから前から言ってたじゃない、セト。シルヴァさんがそういう審査も出来るからって、不精しちゃだめだって」
「言っても聞かないのがセトだろう」
なんかこう言う事を聞くと、セトさんって結構不精なんだな、と思わざるを得ない。
お金にケチで、不精。そして盗賊の職業がしっくりくる。
いかにも盗賊のオーソドックス感あふれている気がした。
私達はそして、換金用の受付に並び、そこでアフ・アリスが周囲を見回して、意外そうにこういう物だから、ちょっとずっこけそうになった。
「皆、私よりモ背が低イ」
「あんたでかいもんな。これであんたが大きな盾でも持ってたら、凄腕の聖騎士に見えただろうよ」
「身長があるだけだろう」
「いや、あんた服に隠れて見えないけど、かなり鍛えてる体してるだろう」
「……少シ、腕が立つだけダ」
「たった一人で数百年単位で、古い墓守してそれはない」
呆れた声で言ったセトさんに、一人の人が声をかけてきた。よくある田舎の村の格好の人だ。
「セト! 帰ってきてたのか! あっちの依頼書をもう見たか?」
「まだ見てねえよ」
セトさんは顔が広いのだろうか。まあ冒険者歴が長いと、顔も広くなるのかもしれない。
アフ・アリスは、新しい衣装のフードがお気に入りなのか、ずっとそれを被ったままだけれど、それはそれで特徴として認識されそうだとどこかで思った。
「王国からの依頼書だ」
「王国直々? なんだそれ、金の匂いがぷんぷんするぜ」
「だろうな。ギルド三つか四つに依頼をかけている依頼書だから、成功すればたんまりだ」
「面白そうな話じゃねえか、採掘系か? それとも採取? 討伐でそんな大量にギルドに依頼をかけたら、金が洒落にならない位出て行くから、ないだろうが」
「そうなの?」
私は何もわからないから問いかけると、セトさんが答えた。
「討伐は命がけになるから、その分採掘や採取よりも報酬の最低金額が高くなるものなんだ。だからいくつものギルドに依頼を出すのは、だいたい討伐以外のものになる」
確かに命あっての物種というくらいだから、それもある事なんだろう。私は納得した。
「で、スヴィン。依頼書の中身はどうなんだ」
「お前の予想を裏切って、なんと討伐だ」
「はあ? 王国らしくねえじゃねえか」
セトさんがさらに何か言おうとした時、受付の人がセトさんを呼んだ。
「次の方! 順を待っている人もいるんですよ!」
「おうおう、今行くぜ!」
セトさんがそう言い、荷物袋の中から素材を取り出す。アフ・アリスがそれを興味深そうにのぞき込み、セトさんに問いかけた。
「春の癒シの薬の素材か」
「なんじゃそりゃ」
「……知らナいのか? 季節によって、最適な薬は違うだろウ?」
「あんたほんっとうに、俺らの知らねえ事知ってんだな……」
そう言った後、セトさんやアフ・アリスを見て、受付の人が言う。
「新しい仲間ですか、セトさん。また前のように、魔性が跋扈する環境に、いきなり新しい仲間を引き連れていくなんて事、しないでくださいよ! あなたの洗礼はギルドで一番厳しいって話なんですからね」
「俺はちゃんと、俺のチームは厳しいって説明してるぜ」
「あなたの厳しいは段違いなんですってば。……よし、問題なくウォカ薬店の依頼のものですね! こちら報酬です!」
受付の人は呆れたような声を上げた後、セトさんの出したものを確認して、手に燐光をまとって何かを調べて、それからセトさんの出したギルド証を、宝石みたいな石の上にかざした。
「あの人は何をしたの?」
フィロさんに問いかけると、彼は私が何も知らないって事をわかっているから、教えてくれる。
「あれは”鑑定”という魔法だ。対象が何なのか教えてくれる便利な魔法でな。受付の人は皆”鑑定”を使えるものなんだ。そして、ちゃんと依頼に該当したものだと判断されたら、ギルド証に報酬が加算される」
「金貨とかじゃないの?」
「ギルド証に情報を入れて、銀行とかで硬貨に変えるんだ」
「へえ……」
「ちなみに、セトのギルド証で情報を入れたが、俺たちも銀行で換金できるぞ。チーム番号で依頼を受注したからな」
「ギルドって便利なんだ」
感心して素直に言うと、ギザさんが笑った。
「あなたは、本当に普通の田舎の女の子なのね。でもギルド証は銀かぁ……田舎ってどんな田舎だったの? やっぱり魔性がすぐそばまで来る感じ?」
「ええっと……色々あって、一通りの武術を叩き込まれて……でも才能がなかったのであんまり、上達しなかったんです」
「器用貧乏ってわけね。でもなんでもできるっていうのも、いざって時すごく頼もしいから、大丈夫よ」
……まあ、確かにそのおかげで、ヘリオスをぎりぎりで助けられたから、それも事実だな、何て私は思ったのだった。
換金が終わったセトさんが、さっき声をかけてきたスヴィンさんに教えられた依頼書を、すごい目つきで読んで居る。
そして顔をあげて、フィロさんとギザさんを手招きした。
「フィロ、ギザ。 アフ・アリスだったか? ちょっとこっち来い」
「なあに、命がけの依頼は受けたくないわよ」
「セト、この前の討伐依頼で、死にかけたのはお前だろう」
「わかってらぁ。でもこれ見て見ろよ! すっげえ金額が入るぜ? 受けなきゃ損だろ」
「……セト。金額ガすごいという事は、危険度も高イのでは」
アフ・アリスがさすがに言いたいという調子で言う。中身が何か私も見せてもらうと、そこに書かれていたのは、かなり大掛かりな討伐依頼だった。
王国は、魔王が倒された後の魔性たちの強さが上昇している原因を、突き止めたという事で、北西の荒れた山に、魔神の水晶という物があるらしい。
それは魔性たちが村とか街を滅ぼしていくごとに、邪悪な力を増加していき、魔性たちに加護を与えるとんでもない物なのだとか。
それを破壊すれば、魔性たちの力は激減すると調査の結果判明しており、王国の兵士たちからも精鋭を集めるが、ギルドにも協力依頼をかけたとの事だった。
魔神の水晶を守る魔性たちが、一個体でも相当強いからだとか。
「そんなの当たり前だろうが! 金の高い依頼はやべえなんてな、当たり前のこと過ぎるんだよ!」
「その当たり前の事をわかってても受けちゃうのがセトよ、アフ・アリス」
救えないという声でギザさんが言う。フィロさんはしげしげと依頼書を読み、セトさんに言う。
「セト。お前個人で受けるのか、それともチームか? チームなら、アフ・アリスとジルダは家に残した方がいいだろう」
「……チームの場合、全員参加以外認められてねえって印あるだろ。だから俺単独で受けるぜ!」
朗らかに言った彼の頭を、フィロさんとギザさんが容赦なく殴った。
えっと……あの? 殴るの普通なの……?
びっくりして固まった私と、理解しがたいという顔をしているアフ・アリスを置いて、フィロさんとギザさんが言う。
「お前は盾になるのがいないと、攻撃できないだろう! 一個体が強力だという事は、お前の短剣の間合いではなかなか成功しないって事だからな!?」
「私の術で素早さを増加させて、戦っているおバカがなぁにを馬鹿な事言うのかしら」
「死にに行くわけじゃねえのに」
「あんた単独だと死ぬって言ってんの」
「よく考えろ、セト。他に受注するだろうギルドメンバーは、恐らくチーム単位か、個人でなんでもこなせる奴だろう。お前は一人では何でもできないだろうに」
二人に突っ込まれて、ぐうの音も出なくなったセトさんが、私達の方まで見て、言う。
「じゃあ、チーム全員で受けていいのかよ」
「いざという時は、アフ・アリスとジルダは補助要員という事で、逃がしてもらえばいいだろう」
「個人の能力だけで見たら、あんたも補助要員側って事を忘れないでね、セト」
そして三人が私達を見る。
「受けてもいいか?」
「補助要員だってわかっていれば、前線に出なくて済むし」
「チームに補助要員がいるのは、ごくごく一般的な事だから怪しまれないぞ」
それを聞いて、私は、なんか入れてもらう時とちょっと話違うな、と思いつつも、逃げればいいとわかっているなら、直ぐ逃げようと心に決めて頷いた。
「危ない事はこれっきりですからね」
「……」
私が言うと、アフ・アリスも頷いた。
こうして、私達はその討伐依頼を受ける事になったのだった。
「……お前、薬の調合も出来るのかよ、真面目になんでもできるんだな」
「……一人が長いと覚えルものだから」
討伐依頼を受けたら、すぐに現地に向かうというわけでなく、集合日時は決まっている。だからそれまでの間に、必要な準備を皆整えるわけで、アフ・アリスが始めたのは、何と薬の調合だった。
物凄く慣れた手つきで、安い薬草とかをすりつぶしたり、千切ったり水をくわえたり、色んな事をして、薬を作っていく。
あんまりにもなめらかな作業だから、セトさんが感心した顔で見ている。
場所はギルドの調合部屋と言われる部屋で、ギルドメンバーが薬を調合したい場合に使える部屋だ。
何でこんな部屋があるのかと言えば、薬屋では扱わない薬とかがあったりするから。
民間療法と言われている、全国的に広まっていない調合の薬は山のようにあって、それを作りたい人っていうのは一定数いるそうだ。
だから、普通の家でやったら煙がすごくて苦情が来るとか、失敗したら大きな音が出るとか、問題もある薬の調合という物をしたい人が、使用する部屋なのだ。
そこでアフ・アリスは、せっせせっせと何かを量産している。
「あんたが作っているのは何の薬だ?」
「セト達が、逃げる時に、役に立つ薬ダ」
「そんなものがあるのか?」
「魔性の目くらましニなる。数分は動きを止められる」
「おいおい……なんかすごいのだな」
「後、春の癒しの薬だナ。今の季節に一番、よく、効ク」
「聞いた事がない薬なんだが、それも古の薬なのか?」
「ウロボロス時代、よく使われていた物だ。効果は……てきめんダな」
「古い墓守ってのはいろいろ詳しいんだな」
セトさんが、心底感心したという声で言う。アフ・アリスはごりごりと材料を潰し、煮込み、出来上がったものを小瓶に入れていく。小瓶は格安で販売されているのを買ったものだ。
そうして出来上がったものはなんと十本にもなり、それだけの量を数時間で同時に完成させる手際の良さは、際立ったものに違いなかった。
「セトはこれ。目くらましの方ダ。フィロは春の癒しの薬。盾になると言っていたかラ。ギザは両方。術者は逃げる事も癒す事も必要になル」
三人はそれぞれ頷き、懐にその薬たちをしまった。
余った一本を、アフ・アリスは私に渡した。
「目くらましだ。君は逃げる方が大事だから」




