二話
タブレッドを見て、シルヴァさんが感心したように言う。私はちっとも意味が分からないので、説明をしてもらおうとした時である。
察した様子のギザさんがこう言った。
「割と誰でも知っているだろうけど、名前には力が乗るの。魔術言葉に力が乗るのはそれもあっての事なのよ。だから、ギルド登録書に名前を書くと、登録書の魔法と書いた名前が反応しあって、ギルド証作成機械から出て来る、ギルド証が皆違ってくるのよ」
「違ってくるだけなのに、実力があるとかわかるんですか」
「タブレッドの色ね」
「へえ……」
「一般的に最低クラスの鉄色。その上の銅。割と上位の銀。文句なしの金。飛び切りは白金よ。あなたたちは……銀なのね。確かに実力はあるのに無名って言われてもおかしくないわ」
ギザさんが、私とアフ・アリスに渡されたギルド証を見てそう言った。
「それに裏に番号があるでしょう? これは依頼を受注する時に必要な数字なの。まあ、チームナンバーと個人ナンバーがあるし、うちは基本チームナンバーだけで事足りるけれどね」
「……数字は、何百年経っても同ジなのか」
アフ・アリスが数字をじっと見てそう言った。数字は時代を超えて使用されているのだ。
きっと。
「さて、ついでにシルヴァ、こいつ依頼されてた薬草と素材な」
「セト! だからお前の不精は……ちゃんとあっちに並んで、手続きをしろ!」
「だってシルヴァだってできるだろ」
「順番ってのがあるだろう! さっさと並べ! そっちの新しい仲間たちはギルドの事を何も知らないんだろう? 手順を見せてやれ」
そう言われて、セトさんは鼻を鳴らして不満を表明した後、私達を見ていう。
「こっち、ついてきてくれ。換金用の受付なんだ」
「だから前から言ってたじゃない、セト。シルヴァさんがそういう審査も出来るからって、不精しちゃだめだって」
「言っても聞かないのがセトだろう」
なんかこう言う事を聞くと、セトさんって結構不精なんだな、と思わざるを得ない。
お金にケチで、不精。そして盗賊の職業がしっくりくる。
いかにも盗賊のオーソドックス感あふれている気がした。
私達はそして、換金用の受付に並び、そこでアフ・アリスが周囲を見回して、意外そうにこういう物だから、ちょっとずっこけそうになった。
「皆、私よりモ背が低イ」
「あんたでかいもんな。これであんたが大きな盾でも持ってたら、凄腕の聖騎士に見えただろうよ」
「身長があるだけだろう」
「いや、あんた服に隠れて見えないけど、かなり鍛えてる体してるだろう」
「……少シ、腕が立つだけダ」
「たった一人で数百年単位で、古い墓守してそれはない」
呆れた声で言ったセトさんに、一人の人が声をかけてきた。よくある田舎の村の格好の人だ。
「セト! 帰ってきてたのか! あっちの依頼書をもう見たか?」
「まだ見てねえよ」
セトさんは顔が広いのだろうか。まあ冒険者歴が長いと、顔も広くなるのかもしれない。
アフ・アリスは、新しい衣装のフードがお気に入りなのか、ずっとそれを被ったままだけれど、それはそれで特徴として認識されそうだとどこかで思った。
「王国からの依頼書だ」
「王国直々? なんだそれ、金の匂いがぷんぷんするぜ」
「だろうな。ギルド三つか四つに依頼をかけている依頼書だから、成功すればたんまりだ」
「面白そうな話じゃねえか、採掘系か? それとも採取? 討伐でそんな大量にギルドに依頼をかけたら、金が洒落にならない位出て行くから、ないだろうが」
「そうなの?」
私は何もわからないから問いかけると、セトさんが答えた。
「討伐は命がけになるから、その分採掘や採取よりも報酬の最低金額が高くなるものなんだ。だからいくつものギルドに依頼を出すのは、だいたい討伐以外のものになる」
確かに命あっての物種というくらいだから、それもある事なんだろう。私は納得した。
「で、スヴィン。依頼書の中身はどうなんだ」
「お前の予想を裏切って、なんと討伐だ」
「はあ? 王国らしくねえじゃねえか」
セトさんがさらに何か言おうとした時、受付の人がセトさんを呼んだ。
「次の方! 順を待っている人もいるんですよ!」
「おうおう、今行くぜ!」
セトさんがそう言い、荷物袋の中から素材を取り出す。アフ・アリスがそれを興味深そうにのぞき込み、セトさんに問いかけた。
「春の癒シの薬の素材か」
「なんじゃそりゃ」
「……知らナいのか? 季節によって、最適な薬は違うだろウ?」
「あんたほんっとうに、俺らの知らねえ事知ってんだな……」
そう言った後、セトさんやアフ・アリスを見て、受付の人が言う。
「新しい仲間ですか、セトさん。また前のように、魔性が跋扈する環境に、いきなり新しい仲間を引き連れていくなんて事、しないでくださいよ! あなたの洗礼はギルドで一番厳しいって話なんですからね」
「俺はちゃんと、俺のチームは厳しいって説明してるぜ」
「あなたの厳しいは段違いなんですってば。……よし、問題なくウォカ薬店の依頼のものですね! こちら報酬です!」
受付の人は呆れたような声を上げた後、セトさんの出したものを確認して、手に燐光をまとって何かを調べて、それからセトさんの出したギルド証を、宝石みたいな石の上にかざした。
「あの人は何をしたの?」
フィロさんに問いかけると、彼は私が何も知らないって事をわかっているから、教えてくれる。
「あれは”鑑定”という魔法だ。対象が何なのか教えてくれる便利な魔法でな。受付の人は皆”鑑定”を使えるものなんだ。そして、ちゃんと依頼に該当したものだと判断されたら、ギルド証に報酬が加算される」
「金貨とかじゃないの?」
「ギルド証に情報を入れて、銀行とかで硬貨に変えるんだ」
「へえ……」
「ちなみに、セトのギルド証で情報を入れたが、俺たちも銀行で換金できるぞ。チーム番号で依頼を受注したからな」
「ギルドって便利なんだ」
感心して素直に言うと、ギザさんが笑った。
「あなたは、本当に普通の田舎の女の子なのね。でもギルド証は銀かぁ……田舎ってどんな田舎だったの? やっぱり魔性がすぐそばまで来る感じ?」
「ええっと……色々あって、一通りの武術を叩き込まれて……でも才能がなかったのであんまり、上達しなかったんです」
「器用貧乏ってわけね。でもなんでもできるっていうのも、いざって時すごく頼もしいから、大丈夫よ」
……まあ、確かにそのおかげで、ヘリオスをぎりぎりで助けられたから、それも事実だな、何て私は思ったのだった。




