十五話
「へえ、面白そうな話をしているじゃねえか」
アフ・アリスが私の提案に同意した時、背後からそんな声がかかったのだ。
私はぎょっとしてそちらを見たけれども、アフ・アリスは彼……いいや、彼等……に気付いていた様子だった。
「面白いとは言えない話ダと思うが」
アフ・アリスは淡々とした調子を崩さずに続ける。
動揺していないのは、最初から彼等の接近に気付いていたからか、それとも、彼等くらいだったらあしらえる技量を持っているからか。
はたまた、もっと別の思惑があるからか……
私には見当がつかなかった。
でも一つだけ言えるのは、アフ・アリスは悪い事を進んでは行わないって事である。
そのため私は、彼等とアフ・アリスを交互に見て、会話を見守る事にした。
現れたのは三人の男女で、屈強な戦士風の装備の男性に、盗賊風の見た目の男性、そして術者らしき身なりの女性である。
全員、結構顔立ちが整っているから、所属しているギルドがどのギルドかは知らないけれど、人気の在りそうな三人だった。
アフ・アリスの驚くべき美貌の前では、路傍の石くらいのものになってしまっているのが残念だ。
そんな事を思っている間に、彼等の会話は進んでいく。
「面白いだろ? あんたは世界中の脅威を回避する方法ってのを知っているんだから。いい儲け話の匂いがするぜ」
「そうだな。人喰い街なんてものの話は、古今東西耳にした事がないが、地図上ではそこにあったはずのイニシエルの町が、何の跡形もなく消え失せているのだから、信憑性の高い何かってわけだ」
盗賊風の人が喋り、戦士風の人が続ける。術者の女性は黙っているけれど、彼女が無言のまま、術を展開しているのは私でもわかった。
きっと何かしらの利益のために、術を作動させようとしているんだろう。
「あんたらが、イニシエルの町を滅ぼした……ってわけじゃなさそうだからな。そうなると、超常現象的な何か、避けられない物が起きて、イニシエルの町は消え失せたって事になる」
「それも、魔法の力が一切作動しないでという事だな。そしてあんたたち……いいや、この場合はあんたが、その異常事態に対しての情報や対抗手段を持っているというわけだ」
「……」
アフ・アリスはそれをじっと聞いている。言葉を探しているのか、それとも彼等と会話をする気がないのか。
私には見当がつかないけれども、彼等の目的っていうのがいまいちわからなかった。
だから、口を開いてみた。
「あなたたちの目的は何? いきなり出てきてびっくりしたけれど、あなたたちが私達に絡む理由がわからないの」
「おおっと、そっちのお嬢さんの方が話が早かったか? ……簡単だ。俺たちとチームを組んでもらいたいって話だ」
「……チーム?」
アフ・アリスは怪訝な表情に変わった。かくいう私も似たような顔になっているかもしれない。
だって、誰かとチームを組んで行動するって事を、私も、たぶんアフ・アリスも考えてなかったのだから。
「私ト組んでも、うま味はナイと思うんだが」
「いいや、大いにあるね」
盗賊風の彼が少し身を乗り出す。どうやら……彼等の中で彼等をまとめているのは、屈強な戦士ではなく、細身の盗賊風の男性の様だ。
「あんたはこの世界で誰も知らないであろう、貴重な情報を大量に持っている。それに……俺たちは見たんだぜ? イニシエルの町の、ウロボロスの宝の鍵を、簡単に開けた現場をな」
つまり彼等は、昨日の日中に、イニシエルの町にいたって事なのに、どうして人喰い街の脅威から脱せたんだろう。
そんな事を思った私の表情に、その疑問が出ていたんだろう。戦士風の男性が言った。
「俺たちはこの近くの、夜にしか採取できない薬草と、魔法薬の材料になる動物の採取を行っていたんだ。夜、それもここの所真夜中にしか採取できない状況が続いていたからな。夕方にイニシエルの町を出て、一晩延々と採取に費やしていたわけだ」
「でな? 朝方になってイニシエルの町で体を休めようと思ったら、あんたらが門から出てきて、何かをしたと思ったら、イニシエルの町が跡形もなく消え失せちまったじゃないか! 俺たちはあんたたちがそこを去ったあと、イニシエルの町の痕跡だのなんだのを探していたが、一っつも見つからなかったってわけ」
「それから、あんたらの後を追いかけて、色々聞いて、うま味があるって思ったらこうして声をかけているのが今って事だ」
盗賊風の男性はへらへら笑っているけれど、笑う余裕がある事がすごい。
私は今も、笑えないっていうのに。
私が、アフ・アリスをちらっと見ると、彼は彼等をじっと見た後、こう言った。
「つまり、あなたタちは、俺がウロボロスの秘宝の鍵の開け方を知っているから、仲間になってほしイと言っているのか?」
「それだけじゃないぜ? あんたは俺たちが知らない事をたーくさん知っているみたいだからな」
「冒険者が、情報をたくさん持っている相手と手を組みたいというのは、何らおかしな話ではないだろう? チームによっては、優秀な情報通と組んでいる所もあるのが一般的な話だ」
「……」
アフ・アリスはどう思ったんだろう。少し考えたそぶりを見せた後、彼は静かにこう言った。
「私は、静カに暮らしたい」
「余計にいいじゃねえか! あんた訳ありって感じだが、冒険者なら悪目立ちしないぜ? 冒険者に訳ありがいるのは一般常識くらい当たり前だ!」
「私は仲間ト組んでいた事が一度モない。足を引っ張るダロウ」
……魔王のしもべが徒党を組むって話は聞いた事がないから、事実だろう。
彼が長い間行い続けてきた事は、孤独な戦いだったはずだから。
「別に、あんたに前線に出ろって言っているわけじゃねえよ。戦えるならそれに越した事はないけどな! 俺たちはあんたの頭の中にたっぷり詰まってる、情報が欲しいってだけさ」
「ツマリ」
アフ・アリスはゆっくりと確認した。
「あなたたちは、私の情報ガ欲しい。私ガ冒険者としてあなたたちとチームヲ組めば、過去を探られる事なく生活できる……という事を言いたいのか」
「そうだよ。どうだ、悪い話じゃねえだろ」
「セト。乗り出し過ぎだ」
盗賊風の男性は、セトというらしい。前のめりぎみのリーダーなんだろう。
この調子だと、お宝とお金が大好きな人種だと思われる。
アフ・アリスが考え込んだ後、私の方をちらりと見た。それに目ざとく気付いたセトが、こう言った。
「そっちのお嬢さんの方が心配か? だったらお嬢さんはうちの家政婦役をしてもらえればいい。見たところ、お嬢さんは戦う方法はあんまり持ってない、普通の家のお嬢さんとみえる」
ううん……戦う方法はたくさん知っているけれど、どれも平凡よりやや上程度までしか上達しなかったんだよね、とはさすがに言わなかった。
でも、私にとっては、家政婦っていうのは魅力的なお誘いだった。
積極的に戦いたくないし、普通の家で寝たいし、ちょっと訳ありでも、目立つ事なく暮らせるのは、色んな人が暮らしている、ギルドがあるような大規模な街だし。
悪い話じゃないな、と思った。
「ジルダ。どうする」
私が少し乗り気なのが伝わったんだろうか。アフ・アリスが聞いてきたから、私は答えた。
「そこまで悪い話ではないと思う。ギルド所属の人たちが、新しい仲間を登録する形で、あなたや私を街に入れてくれたら、その場で身分証とか発行できるって言うし。落ち着いて暮らすっていうのが目的なら、そこそこの条件って感じがする」
「……そうなのか。すまない、一人ガ長すぎて、街のあれこれハ詳しくないんだ」
「あんた、どんだけ孤独に生活してたんだよ……というか街で生活してたんでもないのかよ」
「古い墓守ノような事ヲしていた」
「は、墓守ぃ!?」
流石に、魔王のしもべをやっていて、魔王への最後の関門として戦っていたなんて言えないから、ぎりっぎり近そうな事を言ったアフ・アリスだったが、彼等は思いっきり目をむいた。
何故か? 古い墓を守る墓守ほど、単独で強い職業ってのは、もはや勇者くらいしかないためだ。
墓守は、文字通りお墓を守る事を仕事としているけれども、だからお金をもらうわけでもないし、墓を荒らそうとする盗賊とかを、単身で追い払わなくちゃいけないし、墓を狙う魔物をこれまた、一人で対処しなくちゃいけない、超不人気職業なのだ。
そして、一人でなんでもできるだけの腕前があれば、他の事をした方が楽だから、あえて墓守になるっていう人は、よっぽどの変人くらいというのが、一般的認識なのだ。
「なんだよ……古い墓守って……だからあんた、色々変な知識に詳しいのか」
セトはなんだか納得したみたいだ。墓守と言うと、世間と外れた生活をしているから、知られざる知識っていうのを身に着けやすいという事が言われているからだろう。
古い墓を守っていたから、ウロボロスとかそういう古代の事も詳しいんだな、という認識をされたんだろう。ありがたい勘違いだ。
「強さもそれなりというわけだな。立ち振る舞いから、只者ではないとは思っていたが」
戦士風の人が言う。立ち振る舞いから、只者じゃないとわかるのは、それなりに腕が立ち、相手の技量を読み取れる人と限られているから、彼も腕利きで間違いはないんだろう。
そんな彼等を見て、アフ・アリスは彼等の誘いに、こう答えた。
「私でよければ、喜んデ。私よりモ、彼女を大事にしてクれればそれでいい。……そして、一つダケ、条件ガある」
彼女、と言って私を示すアフ・アリス。そんな彼が出した条件は、彼等にとって目をむく発言再びって感じのものだった。
「私ガあまり役にタタナイという風にしてほしい。功績などヲ、あなた方の物にしてほしい」
「……あんた、名誉とか尊敬とか、そういうの、全然いらないのかよ」
セトが呆気にとられた声で言う。そこで、術者の女性が口を開いた。
「……目立つのが大嫌いなの?」
「目立つと」
アフ・アリスは目を伏せて、静かにこう言った。
「私が目立つト、いい事は何一つ起きないのが、経験上ノ事だから」
「ふうん、あんたも色々あったんだな。まあ、それなら簡単だな! じゃあよろしく、ええっと」
「アフ・アリス」
「ジルダです」
「アフ・アリスと、ジルダ! んじゃあ、さっそく俺たちの拠点の町に帰ろうぜ!」
こうして、私達は、セト率いるチームに途中加入する事になったのだった。




