八話
「まったく、あの死にぞこないったら、どこまで行ってもしぶといったらありゃしないわ」
機嫌が悪い、という顔で言うウテナ。彼女は苛立った顔を隠さず、仲間たちを見やった。
「あの状況下で、よくまあ脱走する根性があったものですよ」
苦々しいという表情をして、シンディが空っぽの牢を眺めて、探索魔法で何か出てこないか調べている。
彼女たちは、今、魔王のしもべとジーナを放り込んだ呪いの牢屋に来ていた。
呪いの効果が出るまで数日はかかる、という事だったが、彼女たちはジーナがどういう条件で生き延びたかはわからない物の、魔性ではない事を誰よりも知っていた。
そのため、ジーナが数日たっても生きていたら、自分達の判断が間違いだったとダズエルの住人たちにも知られ、結果ジーナ生存をヘリオスに知られると考えたのだ。
魔王のしもべは弱体化もしくは衰弱するだろうが、ジーナは人間の割にしぶといというか、訓練の結果しぶとくなったというべきか、とにかく一般市民というには間違いがある位には頑丈なのだ。そして根性もあるし、身体的耐久性で言えば、剣聖のウテナを超えるものが実際にはある。
だが、一日飲み食いさせず、牢屋にぶち込めば弱るだろうし、何も反撃できずに、今度こそ殺せる、と彼女たちは判断していたのだ。
魔王のしもべと何かのつながりがあるのは間違いなく、いざとなれば魔王のしもべが、愛する魔性を楽にするために、手をかけたのだとでも言えば、“魂を食らう女の魔性”が偽りの情報であると知らないダズエルの住人達も、無論ヘリオスも信じさせる事が出来るだろう、と彼女たちは想定したのだ。
それはある意味世界だろう。彼女たちが嘘を言ってまで、聖剣の鞘であるジーナを殺したい理由など、ダズエルの住人には全く分からないのだから。
そしてヘリオス自身にも、気付かせないでいる自信が彼女たちにはあった。
そのため、呪われた牢屋に来たものの……彼女たちを待っていたのは、空っぽで、どこにも逃げ出す場所のない牢屋だった。
唯一の出入り口である鉄格子は壊された形跡もなく、何かの魔法が使われたのか、とシンディが調べても、結果は白という状態。
だがここから、彼女と魔王のしもべが逃げ出したのだという事は明白な事実であり、リリーシャたちは苦い顔をしたのだ。
「この状態からどうやって逃げ出すというのです」
「今調べているけれど、魔法的な技術はないはず。あるなら……どっちかが、優秀な鍵開けの才能を持っていたという事になるわ」
「ジーナは器用だったよ。これ位の錠前を開ける事も出来たかも」
ウテナが錠前が頑丈だが、割と古典的である事を指摘する。リリーシャは聖姫の振る舞いに似合わない舌打ちをし、シンディは持っていた杖の先を石の床にたたきつける。
どちらも相当に苛立っていた。
「……とにかく、まずは二人が逃げ出した事を、急いで伝えなければ。魔性の軍団を引き寄せるとでも言えば、追手をつけられます。……ただ、死んだ事を目の前で確認しなければならないので、生きたまま捕獲して、と指定する必要がありますけれど」
「まったく、何て言う生きぎたなさなんだろう。魔王の居城で死んでくれてありがたかったのに」
「そうですよ。あそこで綺麗に終わってくれれば、こんな事しなくて済んだのに」
彼女たちがそう言って、数分これからの事を話し合い、牢屋の在る地下から上がってきた時だ。
彼女たちが目にしたのは、ダズエルの外壁を叩き壊し、数多の魔性が再び、無辜の民を襲いだす光景だった。
「! 信じられない! 撤退してすぐに来るわけ!」
ウテナはそう言い、近くにいた魔性を剣で切り捨て、襲われた人を助ける。
「いよいよ、普通では考えられない事が起きているという事になりますね」
魔術を精密に計算し、魔性だけを攻撃するように指定して、高温の火球を叩き込むシンディ。
リリーシャは神へ祈りを捧げ、彼女たちの能力が底上げされるようにする。
さらにできる限りの結界を張り、人々を守れるようにする。
彼女たちは、ジーナに対する扱いは悪いが、勇者の仲間であり、無辜の民が悪戯に殺される事を、喜ぶ人間でも、見捨てる人間でもなかった。
自分達の恋敵で、どうしたってかなわない部分が出てきてしまうジーナだけが、彼女たちにとって憎たらしく忌々しい相手であるだけなのだ。
そして、彼女たちの行動で、人々は勇者の仲間の美姫たちが、自分達を助けてくれると感じ取り、我先に、結界の中に入りだす。
ウテナは剣をふるい続け、シンディは魔法を行使し続ける。
「雑魚を切っても切ってもきりがないよ!!」
「リリーシャ姫!! 最も魔性の気配が強い場所は何処!! そこを叩く!」
「……見えました!! 寺院に近い広場です!!」
「分かった!! リリーシャ姫、あなたは遠方から援護して!! 魂の炎が揺らいだら回復お願い!!」
「あなたも死なないでね、リリーシャ姫!」
そう言って、。ウテナとシンディが走り出す。リリーシャ姫は深く集中し、神への祈りを純化させ、結界の強度を上げ、範囲を広くする。
生中な魔性は、これでリリーシャの結界には近寄れず、入る事など到底できない状態になったのだった。
「どんだけ多いのよ!」
ウテナは疲労が見え始めた顔で言う。同じように、いいやそれ以上に疲労した顔で、シンディが答えた。
「系統が違うわ。昨日来た魔性たちは、息系統を操るやつが多かった、でもこの魔性たちは、武器を操るやつばっかり! あしらいにくいったらありゃしない!」
それは事実だった。昨日ダズエルを襲った魔性たちは、武器を持つ数以上に、炎の息や氷の息と言った、息の全体攻撃を得意とする魔性が多く、その息を減退もしくは無効か出来れば、かなり勝率が上がる魔性だった。
だが今襲ってきている魔性のかなりの割合が、武器を持ち、ウテナやシンディにとって相性が悪い魔性だった。
「リリーシャ姫を連れてくればよかった!」
「駄目よ、リリーシャ姫には人々を守ってもらわなくちゃ! でも結界を使える彼女の方が、相性がいいのは事実ね!」
言いつつ、二人も魔性の血まみれ、魔性の灰まみれで進む。
そしてやっと、息も絶え絶えになる頃、彼女たちは、それを見たのだ。
「……へりおす……?」




