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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第二部前編 分割版

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四話

理解したから、今この場で、魔王のしもべを裏切る事も出来なくて、相手の言葉に返事だけをして、私達は進み始めたのだった。

幸いな事なのか、道は一本で、脇道とかそういう物もない。ひたすら、魔王のしもべの手のひらの光を頼りに、進んでいく。

いったいどれくらい歩いただろう? 体感的に数時間も歩いている。魔王のしもべはその間一言も喋らない。私も、干からびた喉が痛くてあまり言葉を言いたくない。

先もわからない道は、唐突に終わって、私は目にした光景に、目を大きく見開いた。




そこは、水を貯めている貯水池のような見た目で、でもすっかり干上がっていた。

便宜上貯水池といいたくなるそこの中心には、錆び一つない剣がささり、それに、魔王のしもべの手のひらの光を反射して、怪しい紫と黒に輝く蔦状の植物が這っていたのだ。

そして剣がささっている床にも、その蔦状の植物はそこを埋めるように這いまわっていて、なんかこう言うと変だけれど、紫光りする黒い塊の様になっていた。


「もっと近づこう」


とても気になるから、私は魔王のしもべの腕を掴んで、先に歩き出す。

どんどんその蔦状植物に近付くと、剣がささる地面から、じわじわ、と水が出ていて、それが一瞬で、湧いたそばから植物に吸い込まれているという事も、見て取れた。

これは一体。

聖水を吸い込む植物なんて、今までの人生で聞いた事もないし、存在も知らなかったのに、その事実だけで、その蔦状植物が、とんでもなく禍々しいんじゃないか、という気がして来た。


「魔王の指、ダ」


何かよくわからない物だから考えていた私の背後で、魔王のしもべが、ぼそり、と記憶を掘り起こしたようにそれの名前を告げた。


「……魔王の指?」


「昔、そう呼ばれテいた。井戸ヲことごとく、涸ラすから」


それはきっと忌み嫌われた植物だったんだろうな、と口ぶりから察せられた。

そして、魔王のしもべがさっき言った事を組み合わせると、ある事実も予想できた。


「この草どうにかしたら、ダズエルに、魔性は来なくなる?」


「あァ」


「……んじゃあ、引きちぎろう」


そう言って私は、その蔦状植物を掴んだ。水を吸い込むし、黒くて紫光りしていて、堅そうな外見の割にとても柔らかい。

そして、ぶちぶちと引っこ抜いたりしていくと、剣が刺さった場所から、どんどん、水が広がっていくのだ。

これが結構面白い。

……聖水だから、魔王のしもべにとって嫌な物……だったりする?

はっと我に返って魔王のしもべを見やると、相手は疑問のある顔をしていた。


「ダズエルを助ケるのかい」


「ダズエルだから助けるんじゃなくてさ」


どうやら嫌がる様子はない。だったら抜こう。そう思いつつ、私は魔王のしもべの疑問に答えた。


「助けてくれた人達がいる。その人達を助けたい。つまりあなたと似たような結論」


「……!」


私の言葉が何に引っかかったのか、魔王のしもべは目を見開いた後、その、際立って透明度の高い翠の目を、緩めた。


「いっしょ、ダ。……手伝ウ。二人デ、やれバ早い」


「そうだね」


そこからはもう、延々とぶちぶち、魔王の指という蔦状植物を引っこ抜き、端っこに積み上げた。積み上げつつ気付いたのは、魔王の指が、魔王のしもべの光が近いと、瞬く間に干からびて、燃え上がって、消え去っていく事実だった。


「……あなたのその明かりの術を、一気に魔王の指に向けたら、あっという間じゃない?」


「……やって、ミよう」


私が指摘して、二人で、魔王の指が実際に燃え上がって消え去るのを、黙ってみた後、魔王のしもべは、手の中の光に、息をふうっと吹き込んだ。

息を吹き込まれて、風船みたい煮膨らんだ光のたまが、強く強く光りだして、そして、魔王の指はその光の強さに耐え切れなくなったのか、引っこ抜く作業が無駄だったと思うとんでもない速度で、燃え尽きて、消え去って行った。


「……」


「……っ、く、あっはっはっは!! わー、気付くのおそかった! 作業にかかった時間無駄だった!! あー、おかしい!! 笑える!!」


それが、笑い出したくなるくらいあっという間過ぎて、吹き出したら、笑いが止まらなくなって、私は喉が痛いのも忘れて笑い声をあげた。

そんな風に、笑い出したこっちを見て、びっくりした顔の魔王のしもべが、唇だけで、笑った。

優しい笑い方だった。

そしてさらにすごい事が起きて、結構な音を立てて、剣が刺さる場所から、聖水であろう水が、水路を満たそうというのか、一気にあふれて流れ出したのだ。


「飲むトいい。聖水ハ力がわく」


「うん。あー、一日と半分ぶりの水だ!!」


そういって喜んで、その水を飲むと、体中に染みわたって、歩いて疲れていたのとか、そんなのも一気に薄れて、がんばった甲斐が十分にあった、と思えた。

魔王のしもべも、手で水をすくって飲んでいる。


「聖水、飲んで、大丈夫なの?」


問いかけた後、あ、聞かない方がよかったかもしれない、と思ったのだけれど、魔王のしもべは頷いた。


「もう魔王ガ、いないカラ」


魔王がいないから、供給されていた魔王の闇の力がなくなったから、平気なのだろうな、きっと。

そういう風に納得して、さて、ここからどうする、と今後を聞こうと思って、私は気が付いた。

魔王のしもべと、この先も行動しようと思っている自分に。

偽りじゃなくて、一緒に行動する友達だと、自分の中に位置づけているという事実に。

……あー、あー。やっぱり、ルナさんの言う通り、情は移ってしまったのだ。

そりゃそうだ。穏やかで優しくて、命の危機に、約束だからと、自分の事も顧みずに助けてくれて、比べれば弱い私を、気遣ってくれる。

勇者の仲間の彼女たちよりも、ずっと普通の扱いをしてくれる相手を、毛嫌いしたり、出来るわけがなかったのだ。

情が移った。うん。もう情が移ったままでいい。もう、ちゃんと友達になろう。

そのためには。


「ねえ、これからの事を相談する前に。あなたの名前を教えて欲しい」


「……なゼ?」


「友達の名前を、知りたいと思ったから」


私がそう言うと、魔王のしもべはこぼれんばかりに目を見開いて、それから顔を覆って、数秒黙った後、手を離して、静かに、名乗ったのだった。


「私ノ名前は」




アフ・アリス



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