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最強硬度の聖剣の鞘は、死んだ事にされてしまった! 処刑される魔王のしもべと偽りの友情を結びました。  作者: 家具付
第一部分割掲載編 毎日投稿です

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九話

こんなやりとりを、誰かに見られたら、そりゃあ非難轟轟だっただろうけれど、結局結構な時間になっても、エリーゼさんは来る気配もなく、私は訳あり部屋を後にした。

何で来ないのだろう。私に丸投げとか、職務放棄だろうと思ったけれど、私と魔王のしもべの約束事を、誰にも知られないという意味では、都合がよかったのだった。





「となリにすわッてほしイ」


夕飯の時間までは、寺院のあれこれを手伝っていた私が、朝と代わり映えのない、というか悪化している気がする食事を持って、訳あり部屋に入ると、魔王のしもべはそう言った。

……いや、それはためらわれるのだが。

隣という距離では、いざという時もしかしたら、防御結界のネックレスが誤作動を起こし、私を守ってくれないかもしれないだろう。

……友達の夢が見たいというのなら、私を殺したりするつもりはないのか? そこの所はどうなのだろう。考えても相手の心理は読めやしないので、一度約束したのだから、私は腹をくくり覚悟を決めて、食事を持って、隣の床に腰かけた。

そこで、魔王のしもべの体中に刻まれていた、暴行の痕跡は欠片もなくなっている事に気が付いた。

自己再生力が、高すぎる。これが魔族になった人間の結果なのか。

回復魔法を使っている所を、戦闘時を含めて見た事がないから、回復魔法の心得があるとも思えない。

そうなると自己再生か。改めて、魔王の力はすごかったのだと思い知らされる気がした。


「傷はもう痛くないの」


私の問いかけに、魔王のしもべは、乱暴にスープを喉に流し込んでから答えた。


「あれハ ささイなけガだ」


「あれだけの出血量の怪我が、些細っていうのは……ちょっと信じがたい」


本人が些細だと言っているから、本人基準では些細のだろうけれど、はたから見れば相当な重傷だったはずだ。何せ訳あり部屋に運び込まれて、治療を施されたほどなのだから。


「あれくらイハ ずッとうけテきタ」


淡々とした、何でもなさそうな言葉の羅列に、おいおい、と思いたくなる。

魔王のしもべは、誰からも優しくされず、手当をされた事もなく、勇者たちの関門として戦い続けて来ていたのか。

そりゃあ友達の夢も見たくなるよな……と思う自分がそこにいた。

一人っきりで、ただただ戦う人生の最後に、友達との淡い思い出が欲しいと思うのは、それは、人間らしい感覚で、もう魔物になり果てているはずの、魔王のしもべに、似合わないけれども、それを否定できなかった。

うまく言葉にならなくなってきた私に、魔王のしもべはただ言う。


「ずっト」


いちいちが重たい。敵であり処刑される未来しかない、数多の勇者一行を屠ってきている凶悪な存在なのに、どうして私の胸は何処か痛むのだろう。

……ヘリオスが返してくれていないから、私の心臓である聖剣は、今やどこにあるのかわからないし、何なら神剣になったとかいう信じがたい事実もあるらしいのに、胸に存在していた痣も火傷で消え失せて、私がヘリオスの聖剣の鞘だった事実も信じてもらえなさそうなのに、胸は奇妙な程痛かった。

痛かったから、私は話題を変えるために、ばさりとある物を広げた。

それを見て怪訝そうな目をしている、魔王のしもべに、私はこう言った。


「昨日の新聞、もらって来たから、良ければ一緒に読もう」


それなら、隣の相手の様子を見ながらできる事で、もしも襲い掛かってきたら、対応ができる。

肉体的には驚くべき頑丈さの私なら、一撃で死ぬ事はきっとない、と思ったから、考え付いた暇つぶしだった。

でも、これは魔王のしもべにとって面白い試みだったらしい。


「うン」


そう言って、魔王のしもべは、私に少し体重をかけるような姿勢で、一緒に、昨日の新聞を読み始めたのだった。




三日もすれば、だいたい私がいつくらいにやってくるのか、予測できるようになっていたらしい。

訳あり部屋の扉を開けると、入口の近くで、魔王のしもべが立っていた。

まるで来る事を待ちわびていたように。

それにちょっと笑ってやる。友達だったら笑ってやるだろう。

だって、それ位楽しみにしているとか、友達相手だったら、


「お前そんなに楽しみに待ち構えてたのかよ!!」


というやり取りをするはずだからだ。

私が笑いかけると、魔王のしもべは全く分からない表情なのに、どこかいたたまれないような空気を醸すものだから、顔が見えなくても感情が分かる相手っていうのも、存在するのだな、と私は最近知った。

私が昨日の古新聞を三種類持ってきて、さあ読もう、と先に床に座り込む魔王のしもべの脇に、座るのも、もう警戒心はかなり低くなった。

油断させて逃げ出そうとするなら、もうとっくにこの魔王のしもべは逃走している。

牢番にくわえられた怪我は全て癒えているのだから、逃げ出すのなら私が来る前に逃げているはずだし、それが出来ないほど弱体化しているのなら、私から何らかの情報を引き出して、行動に移しているはずだ。

それをしないのだから、この相手がもう、自分が死ぬ運命を受け入れていて、その最期に、私というかりそめの友人との思い出が欲しいのだと、判断するに至ったのだ。


「あんたは、物語みたいな新聞、結構好きなんだな」


私は、他の情報源みたいな、淡々とした新聞よりも、魔王のしもべがまだページをめくるな、と言わんばかりに紙を押さえているから、そう言った。


「おもシろいかラ」


三日も喋る相手になれば、多少ぎこちない喋り方でも、だいたいの意思疎通は出来るし、分からないなら繰り返し聞く事で、理解しようと思っている。

たまに頭の中で


この関係はよくない


という理性の声が響くけれど、今更辞めてしまったらそれは裏切りで、私は魔王のしもべという敵だった存在相手でも、裏切るという選択肢を取りたくなかった。

理由は一切わからない。ただ、きっと、私は長い間神殿で、誠実に生きろ、聖剣が聖なる剣であるためには、誠実に心正しくあらねばならぬ、と強要されていたから、もう、裏切るとか誠実じゃないとか、そういう風に考えるようになったというだけの話なんだろう。

例え敵だった相手を前にしても。

ただ、時折、肩と腕を密着させて、時折お互いの感想を言いあいながら、古新聞を読み漁るという時間が、もっと長く続けばいいのに、と思うようになってきていて、それに関してはいけない、まずい事だ、と思っている。

ルナさんの言った通りで、情が移らないようにしたいと思っていても、かりそめでも、まがい物でも、友達という枠組みとしてふるまっている間に、少しずつ、情に似た物が私の中に、芽生え始めている……といった所なのだろう。

私は、この魔王のしもべの首がギロチンで落とされたその時、友として涙を流すのだろうか、と思う事も、たまにある。

それでも、処刑されるという運命は覆らないし、それを拒否させる権限はないし、第一何物もその助命を納得しないだろう。

それだけ、この魔王のしもべは数多の勇者一行を殺してきた存在で、そうだと知らなくても、魔王のしもべだというだけで、皆から嫌われて憎まれる役回りになっているのだ。

その相手に対して、柔らかな時間が続けばいいと考える私は、すでに他の人々からすれば、裏切り者になっているのかもしれない……

こんな考えを持つな、と私は頭を振って新聞の記事に視線を戻す。

その記事は、勇者と悲劇の聖剣の鞘であるジーナの話が掲載されていて、はっきり言ってなんだこの偽物感満載な中身は、と当人だから思ってしまう。

ジーナは深く心の底から勇者ヘリオスを愛していたから、彼に生きてもらいたくて、何者にも代えられない純愛の結果、神剣となって彼を守っているとか、いや、生きているし。

私はヘリオスを、そんな深く愛しては……いなかったと思う。仲間たちの嫉妬からくる厭味とか嫌がらせの方にげんなりして、魔王討伐が終わったら、なんとか行方をくらませられないかと夢想する事も多かったし、いなくなりたいと相談したら、仲間たち、とくに権力者の娘である聖なる姫様が、伝手を使ってくれるんじゃないかとか、考える事もあったくらいだ。

純愛物語みたいな事を、私は欠片もしていない。

純愛っぽい思いを抱いていたのは、ヘリオスの手の甲の痣と、私の胸の痣の形が一致していて、神殿の聖なる祭壇の前で、対面した時くらいだ。

あの時はもう、こんな素敵な人と運命がつながっているなんて、ととても夢みたいで、ちょっと大団円の物語の姫君のようだと思って、うれしかった。

しかしそんな思いは、彼の仲間たちが、私が逆立ちしてもかなわない麗しい見た目をしていて、私がどうあがいてもかなわないほど、魅力的で、実力にあふれていると知らされるまでだった。

何度も何度も、彼女たちに


「あなた程度に、ヘリオスの相手が務まると思ってはいけないわ」


「あなたくらいの見た目の方はいくらでもいらっしゃるのよ。ヘリオスの隣に並ぶとなんてみすぼらしいのでしょう」


「あなたみたいな頑丈さしか取り柄がないなんて、ヘリオスの聖剣としてどうなのよ」


と呪いのように言われたこの身はもう、ヘリオスと並ぶと見劣りし、色んな意味で役に満たないと知っているし、納得しているし、理解しているのだ。

これで、純愛物語なれる方がおかしい。

大体、純愛物語になってしまったら、私よりもヘリオスを思っている、あの三人の仲間たちが絶賛悪役になってしまうじゃないか。

彼女たちは私を総合的に見て、相応しくないと客観的に判断した。

それは誰がどう見ても理解できる部分で、私の聖剣はひたすらに頑強で頑丈で、馬鹿みたいに耐久性があったから、意地でも折れない聖剣として、重要視されただけ。

本来ならば、仲間たちの力を増幅させ、一層聖なる力の付与が加わるのが聖剣なのに、それが一切ないのも、また、私の聖剣の問題な所だったのだ……


「ゆうシャは」


不意に、魔王のしもべが言葉を発した。あまり自主的に喋らないのに。

何を言いたくなったんだろうか。

私が相手を少し見上げて、言葉の続きを待っていると、魔王のしもべは続けた。


「あいしテいタのだろウか」


「……それは当人しかわからない心の機微じゃないかな」


私は煮え切らない言い方になった。ヘリオスが誰を愛していたのか、愛しているのか、それはヘリオスの心だけが知っている事で、でももうヘリオスは、聖なるお姫様と結婚し、他の見目麗しい仲間を側室として迎え入れる事が決まっている。

そしてその結婚式は、この魔王のしもべが処刑された翌日で、ヘリオスたちは正午の処刑を見届けたのちに、天馬の馬車に乗り、特急で都に戻り、支度をすると、いろんな人たちが噂していた。

結婚前に来てもらえてありがたいという意見が、圧倒的に多かった。

結婚した後は、貴族たちとの盛大な宴が都にあり、一層ダズエルに来てもらえる確率が減るからだと、私くらいでも簡単に耳に入る噂が流れるほどだ。


「ヘリオスが、心の底から、この聖剣の鞘であるジーナを愛していたら、死体が見つかるまで、結婚なんてできっこないと思うよ」


だって。


「愛している人が、生きているかもしれないのに、他の女性と結婚できるとしたら、それは純愛でも心の底からの愛でもないじゃない」


この魔王のしもべは、私がその聖剣の鞘のジーナだとはわからないだろう。

最後の関門として立ちはだかった時、私は後方に隠れて、ヘリオスが持つ私の心臓と、この魔王のしもべが振るう業剣がぶつかり合うたびに、胸を走る激痛に体を丸めて、叫ばないように歯を食いしばっていたからだ。

この魔王のしもべは、私が勇者一行の仲間だとは知っていても、聖剣の鞘のジーナだとはわからないはずだ。

だから、私がさも知ったように、持論を唱えても、ふうん、そうなのかという感じでいてくれるだろう。


「あいハ」


私の考える純愛とか、心の底からの愛とかの考え方を聞いた魔王のしもべは、静かに、まるで愛を知っているかのようにこう言った。


「ほんにンのりくツをこえル」


「……え?」


私が思ってもみなかった言葉の連なりに、目を丸くして相手を見ると、もう魔王のしもべは新聞の記事の方に集中していて、突っ込んで聞く事は叶わなかった。

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