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人を飲み込む塔

 俺はある程度の事情が分かってきた。ビリーさんは何かでここで起こっていることを知り、たった一人で街を守るために乗り込んできたのだ。流石にもう少し誰かに相談するなりしても良かったような気もするが。

 レイスタさんは完全にちんぷんかんぷんといった表情で尋ねた。


「そもそもここは何のための施設なのですか? 普通の街の近くにあんな危険なものを放置するなんて……」

「おばさんから聞かなかった? ここは『天使の塔』だって。古代戦争……天使と悪魔の大戦争のとき、ここは天使に守られてたの。天使は仲間を増やすために素質がある人をこの塔で天使に変えていたんだって。でも何かがあってこの塔だけがそのまま残された。迷惑な話だよねー」

「天使に……」


 レイスタさんの視線が俺に向く。『天使の腕』の窃盗容疑をかけられた俺としては若干気になるワードだ。

 ビリーさんの作業はまだ終わらなそうだ。俺は手持ち無沙汰になって周囲を見回す。やはり近未来感満載の空間だ。だが、ふと見覚えのあるものが俺を釘付けにした。


 『天使の腕』だ。俺が村で見たものとほとんど同じ篭手の図案がビリーさんの目の前にあるモニターとは別のスクリーンに映されている。


「なあ、これ……」

「ラフィム……? どうしたのですか?」

「あ、今この部屋たぶんスリープ状態にされる直前の状態で復帰したままだからあんま気にしないでねー。もうちょっとで終わるから」


 俺はふらふらとスクリーンに近寄った。やはりあの篭手は人が作ったものを勝手にありがたがって崇めていたわけではなかったのだ。人間でない者が何かの目的で作り出したものだったのか。


 呆然とスクリーンを見つめていた俺の手が何かに触れた。スクリーンの下に大きなカプセルが置かれている。銀色に鈍く光る表面のせいで何が入っているのか伺えない。

 突然カプセルが開き中を満たす青いスライムのようなものが俺を中に引きずり込んだ。


「うわっ……!」

「ラフィム!」

「えっ、ちょっと何⁉ もうすぐ終わるんだけど! 大丈夫⁉」


 ドプンと全身がスライムに埋まる。カプセルが閉じる音が聞こえた。カプセルの中で音声のようなものが響くが何を意味しているのか全く分からなかった。


「ん、んん……!」


 なんとか抜け出そうとしても体中にまとわりついて離れない。それどころかさらにスライムの中に押し込められる。俺の必死の抵抗を意に介さず、スライムは俺の両腕をきつく締め付ける。


「jjcrjdbvxc prwvsgjbys」


 俺に分かる言葉で喋れ! と怒鳴りたくても口を開けたらスライムが入ってきそうで開けられない。無理やり腕を抜こうとしたとき、信じられないほどの痛みが脳を貫いた。


「ぎっ……」


 痛い。それしか分からない。

 俺の意識は次第に遠のく。痛み以外に理解できたことはただ一つ。


 俺は何かに変えられようとしていることだけだった。



「ラフィム! 目を覚ましてください、ラフィム!」

「もう大丈夫だから! 起きて!」

「ん……ゲホッゲホッ」


 目を覚ました途端、口の中に異物感を感じて咳き込んだ。吐き出された青い液体を見て、何が起こったか思い出した。


「い、痛かった……」

「良かった、無事で……あの中に閉じこめられたときはどうしようかと思いました……」


 両腕がくっついていることが不思議なくらいの痛みだった。俺は涙目になっているレイスタさんの目を見てニコッと笑った。


「大丈夫だよ。引っ張られたときは死ぬかと思ったけど、大したことなかったし。それより作業は終わったのか?」

「それどころじゃなかったよー、ホント。とりあえずケガしてなさそうでよかった。もうほとんど終わったから後は……」


 モニターに近寄ったビリーさんの動きが止まった。キーボードを忙しなく操作しているがその表情は一向に晴れない。


「ウソ……なんで⁉ 9割方完了してたじゃん! なんで……?」

「どうかしたんですか?」

「強制破棄手順に移行してる! 戻せない!」

「……つまり?」

「あと120秒後にこの塔は爆破される! ここにいたら髪一本だって残んない!」


 俺たちは慌てて脱出できる場所を探した。だが、非常階段どころか窓一つない。120秒でこの塔を脱出するなんて不可能だ。

 ビリーさんが壁に向かって二丁の銃を構えた。弾数なんてお構いなしに撃ち込んでいくが、多少めりこむだけで貫通する気配は全くない。


「チッ……! これでもダメか」

「なら私が」

「ダメ! あの火柱みたい威力の出したら私たちが死んじゃう」


 ビリーさんが残り90秒を告げる。もう時間がない。


「こうなったらイチかバチか、縄梯子で降りるしかない。トゥボルがいるかもしれないけど極力無視で行くよ」

「それしかなさそうですね。ラフィム、立てますか? 無理そうなら背負います」

「待って」


 レイスタさんが座り込んだままの俺の手を引っ張り上げようとするのを制して、俺は床についた手に意識を集中させた。沼に引きずり込まれたときの感覚が、あのときよりも鮮明に蘇る。

 この塔は固く結びつけられたマナを網のように壁や床の表面と内部に張り巡らせることで強化している。それがこの塔が長い間存在でき、銃弾でも傷つけられなかった理由だ。どうすればそんなことができるのかはさっぱり分からないが、どうやればその守りを壊せるのかは分かる。


『接続』


 俺と細かい網目状に連鎖しているマナが繋がる。俺は目を閉じてマナでできた網の中心を意識した。幸い大元はこの部屋にある。マナの供給源を断てばいいだけだ。


『切断』


「……崩れろ」


 塔の内部を満たしていた、どこか息がしづらいような空気が消えうせる。構造の強化に使われていたマナが空気中に戻ってきたのだ。


「今、何を……」

「ビリー壁撃て! 時間がねえ!」

「はあ⁉ さっき無理だったじゃん!」

「いいから!」

「……ああもう! これでダメだったら普通に下りるからね!」


 ビリーさんが何発も速射する。壁に描かれた弾丸の円の中心を蹴りつけると夕焼けの空が顔を出した。


「ウッソ、本当に……」

「飛び降りますよ!」


 レイスタさんが俺とビリーさんを引っ張って壁の穴からダイブする。


「これ着地……」

「二人とも私の上に乗っててください。それならまだ……」

「ちょっとおにーさん、手! ジャマ!」

「す、すみません」


 ビリーさんはレイスタさんの手を強引にどけると、俺たちを自分ごと縄でひとまとめにした。ぎょっとする俺たちに構わず服の飾りひもを引いく。

 バサッと言う音が上から聞こえた。無理やり首をひねるとパラシュートが広がっている。


「なんですか、これ……」

「空気の抵抗で落下速度が緩やかになるの! 私の発明品! 一回試してみたかったんだよね」


 もしかしてそのために塔に持ってきたのだろうか。

 俺たちが着地した瞬間、塔が爆音とともに崩壊する。炎はほとんどでていないし無風なので街に被害はほとんどいかないだろう。ビリーさんは中にあった物全てを巻き込んで崩落した塔を見上げてポツリと呟いた。


「あーあ、燃えちゃったなあ……。もっと調べてみたかったのに」

「ビリー! ビリー、いるの⁉ いたら返事をして! ビリー!」


 遠くからビリーさんの母親の叫び声が聞こえる。声の方に向かうと街の人々が数人ビリーさんを探していた。


伏線という概念をちゃんと理解しないまま色々張ってますが、そのうち回収できる見込みです。

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