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ビリー、再会

「わっ、ちょ、揺れる! 揺れてるから!」


 レイスタさんは俺が叫ぶのも耳に入らないようでそのまま4階に上って行ってしまう。俺も急いで縄梯子を上った。一瞬耳鳴りがして、今まで聞こえなかった音が聞こえてくる。

 銃声と何かが作動する音。俺が床から顔を出すと同時にレイスタさんの怒号が飛んだ。


「ダメです! 下がって!」

「え」


 考える間もなく引っこめた頭の上すれすれをレーザービームのようなものが突っ切った。背後の壁が黒焦げになり、シュウシュウと黒煙が立ち上る。


「ああもう、離れろ!」


 再び銃声が響き渡る。


「キミ、上って! 早く!」


 声に従って上りきると、駆け寄ってきたレイスタさんに引きずられるようにして物陰に押し込まれた。


「いいですか、あなたはここでじっとしていてください。あれは私たちで何とかします」

「え?」


 それだけ言い捨てるとレイスタさんは銃声が響く方へ走っていく。俺は訳が分からないままその後を目で追った。ビリーさんとレイスタさんが何かと戦っている。相手は腕を伸ばせば天井まで届きそうなほどの巨体を持つ機械だった。2階で戦ったのとは違い、腕は太いワイヤーのようになっていて、その先には俺の体を鷲掴みできる大きさのかぎ爪が3つ付いている。


「装甲はガッチガチだけど結合部分はちょっと脆いよ!」

「私が囮になります! ビリーさんは隙を見て攻撃してください!」

「オッケー!」


 レイスタさんが炎で気を引き、ビリーさんは拳銃よりも少し大きいくらいの銃を手に縦横無尽に駆け回る。火柱が上がる度、青く光るレーザーが炎の根本を貫くが、そこには誰もいない。そのことを敵が認識し終えるより早く、ビリーさんの弾丸が撃ち込まれる。だが、硬い装甲に弾かれた。


「マジ……?」

「ビリーさん!」


 レイスタさんの叫びが届くより先に敵の視線がビリーさんを捉える。間に合わない。俺はビリーさんからあまりにも遠すぎたし、ビリーさんと敵はあまりにも近すぎた。


「これが、一週間の練習の成果だっ!」


 一週間しか練習してないの⁉というツッコミを置き去りにして、二重の銃声が響き渡る。やがて、ゆっくりと敵の巨体が前に倒れこんだ。


「あっ……」


 煙を上げるガラクタに押しつぶされそうなビリーさんを突き飛ばすようにして床を転がる。間一髪、俺たちはぺしゃんこにならずに済んだ。


「ラフィム! ビリーさん!」


 レイスタさんが俺たちを助け起こす。ビリーさんもレイスタさんの手を借りて立ち上がった。


「キミたち街で会った旅人だよね。助けてくれてありがとう。名前、なんていうの?」

「私はレイスタ。占い師兼魔術師です。この子はラフィムといいます」

「ラフィムくんかー。さっきはありがと。『当たった!』って思ったら気が抜けちゃって、もう少しでぺっちゃんこになるところだったよー」


 こーんな風に。ビリーさんがぺったんと両手を合わせた。さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えない気楽さだ。


「さっきは何をしたんですか? もう間に合わないかと思いました」

「ああ、あれはただ銃っていう最新の武器で2回、ほぼ同時にレーザーの射出口を撃っただけ。危ない賭けではあったんだけどイケるかなって思ったら大当たりだった」


 ビリーさんは、そう言って落ちていた二丁の銃を拾った。近くで見ると銃身やグリップのところに細工がしてあって、アンティークのようだ。この世界にこんなものを作る技術を持っている人がいるのなら、沼で見つけた機械のことも少しは分かるかもしれない。


「私たちはビリーさんのお母さまに頼まれてあなたを探しに来たのです」

「え、そうなの? でもあたし、まだここに用事あるんだよね」

「実は私もそれがずっと気になっていたのです。こんな危ない所になぜ一人で?」

「ここを永遠に凍結するため」


 不意にビリーさんの瞳が静かな光を燃やした。絶対に曲げないという決意に満ちた目だ。ほぼ初対面の俺たちにもその思いは感じ取れた。


「レイスタ、最後まで一緒に行こう。全部終わった後にビリーの母さんのとこまで連れて行けば約束を破ったことにはならないだろ」

「ですが、ここまでもかなり危険な目に遭いましたよ。この上なんて……」

「それは大丈夫。外から測った高さと一階分の高さ、使った縄梯子の合計の長さから見て次が最後だから」


 ビリーさんはさらっとすごいことを言うと縄梯子を上に投げて5階の床に引っかけた。

 最上階はそれまでとはかなり雰囲気が変わっていた。4階以下は研究室と倉庫だったがここはオペレーター室と言った方が近い。


「さきほどこの塔を凍結すると言っていましたが、こんな大きさのものを氷漬けにするなんて可能なのですか?」

「物理的に凍らせるんじゃなくて、なんて言うのかな……井戸を干上がらせるような感じ?」


 テレビくらいの大きさの板の下にはキーボードのようなものが設置されている。ビリーさんは勝手知ったるかのようにそこに何かを打ち込み始めた。


「はあ……。凍結するとどうなるのですか? 壁の穴が直るとか?」

「そんなことできないよー。ただ、防御機構と防御機構の自動修復を止めるだけ。怪物の話聞いた? あれって防御機構……ああ、一階の警備してたトゥボルが外の音とか様子を見に来た人に反応してでてきちゃったんだよね」

「そのトゥボルはみんなここから指示されて動いてるのか? だとしたら今までここで誰かがそれを操作してたんじゃ……」

「おっ、キミ飲み込み早いねー。でも惜しいな。本当はここ、ずっとスリープ状態だったの。でも何かの拍子に一部機能だけ作動しちゃったみたい。街の人の証言から考えると経年劣化で自爆型かなんかが暴発して大穴開けて、爆発で一部機能が損壊したトゥボルが暴走したんだと思うんだけど」

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