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塔の先は天国か地獄か

カン……!


「—————!」


 近くを通っていた物体が音のした方に駆け寄る。だが、そこには金属片のようなものしか落ちていない。物体は一度周囲を確認するとまたもとの巡回経路に戻っていった。

 俺たちは少し遠くからそれを見つめて、安堵のため息をついた。


「ごめん……」

「大丈夫ですよ。おかげで彼らが音に反応すると分かりましたから。何かに使えるかもしれません」


足音を立てずに移動しながら通路を作っている物をよくよく見ると、金属製の物体が整然と並んでいるのが分かった。ときどき銃口のようなものがついている種類のものがあるので兵器なのかもしれない。


「ラフィム、これを見てください」

「縄梯子……だよな。上ってみるか?」


 その先をずっと進むと奥に吹き抜けがあった。二階からこの塔に不似合いな縄梯子が垂れている。もしかしたらビリーが上に進むために使ったのかもしれない。階段もないし、上る手段はこれしかないだろう。


「いえ、もうちょっと慎重に……」

「よっ、と」


 俺はここまでに拾ってきた金属片を何枚かバラバラの方向に投げた。高い音に反応した警備兵たちが各々、音の発生源に群がる。


「……慎重にって言ってるでしょう‼」

「ごめん。絶対止めると思ったから」

「だったら止めてください! ……あ、こら!」


 声をひそめて叫ぶレイスタさんを適当にいなして縄梯子を上る。数段上ったところで必死になって俺を下ろそうとしていたレイスタさんも罠ではないと分かったのか、ため息をついて上り始めた。


「上り終わったらちゃんと待っててくださいね。先に行ったら怒りますよ」

「……うん」

「本当に分かってます⁉」

「いやそういう意味で黙ったんじゃなくて。なんかいる」


 俺は上り終えると静かにレイスタさんを促した。レイスタさんが床の下から顔を出すと息をのんだ。蜘蛛のような形の四本足の上に乗った金属製の上半身には剣を持った片腕しかついていない。もう片方の腕はハルバードのようなものを掴んだまま床に転がっている。変わったゴーレムと言われれば納得してしまいそうな生気のない目だ。


 じっと座ったままの四つ足(仮称)の目が不意に赤く光る。カメラのレンズのような瞳が俺たちを捉えた。


「—————」


 四つ足が何か言葉のようにも聞こえる音を発すると、ものすごい速さで距離を詰めてきた。


「なんだよあれ!」

「分かりませんよ!」


 俺たちは慌ててフロアのあちこちにある機械のようなものの後ろに回り込んだ。


「おい、レイスタ! あれ!」


 俺が指さした先にはここまで上がってきたものと同じ縄梯子があった。だがあれを上るにはまず四つ足を倒さなくてはならないだろう。

 レイスタさんが指先をナイフで切った。


「火の鳥よ、その息吹で命なき者を焦がせ」


 床へと落ちるはずの血がふわりと浮き上がって掻き消える。熱いとさえ感じる風が過ぎ去った。


「——————!」


 余波でさえドライヤー並に熱いのにその風を正面からくらった四つ足はガタガタとたたらを踏むと煙を上げて停止した。オーバーヒートだろうか。俺たちは四つ足の動きが完全に止まったのを見て物陰から出た。


「あれが怪物ですか……」

「……レイスタ、ちょっとしゃがめ」

「? はい」


 さっさと縄梯子の方に行こうとしたレイスタさんを引き止めてしゃがませる。俺はレイスタさんのリュックから軟膏を取り出した。


「あの状況なら魔術使った方が早いのは分かるけどさ、もうちょっと自分の体大事にしろ」

「このくらい大したことありませんよ」

「あんたはそう思ってるかもしれないけど、自分で自分のこと切りつけるやつがいたら心配するだろ、普通」


 レイスタさんはあまり自分の魔術のことを話してくれない。自傷することでしか魔術を使えないらしいが、なぜ傷つけなければいけないのかという理屈は教えてくれないのだ。だからこうして手当てするしかできないのは不満だ。


 手当てを終えて縄梯子を上ると、そこは2階よりも雑然とした空間だった。よく分からない結晶や金属でできた何かが並んでいる。ほとんどがレイスタさんの背よりも高いので周りがよく見えない。


「ラフィム。この板に見覚えはありますか?」


 レイスタさんが見せてきたのは何かの設計図が書かれた板だった。板といっても黒板や粘土板のような材質ではなく、スマホの液晶に近い。そんなものが棚に無造作にしまわれている。俺は思わず放置されている結晶たちを見やった。


 やはり、明らかにこの世界の文明レベルに合わない。ファンタジーでよく見るような古代文明とも違う感じがする。古い神秘が宿っているのではなく、遥か未来の技術だけが取り残されているような。


「……知らないな」

「襲ってきた怪物といい、ここは何なのでしょうね。」


 宿屋を出るとき、ビリーさんの母親はこの塔の話のさわりだけ聞かせてくれた。なんでも、かつて天使と悪魔の戦争時にこの地に降り立った天使が、天使にふさわしい人間だけを招き入れ天国に連れて行ったらしい。話を聞いているとその人間は死んでしまったようにしか思えないが、街の人々にとってこの塔は信仰の対象だったそうだ。


「もしかすると、『天使の腕』にも関係があるのかもしれませんね」

「って言っても俺文字読めないしな……」

「いえ、これはおそらく古代文字の類だと思いますよ。こういう遺跡には大昔の人々、あるいは天使が使っていた文字がときどき残っているそうです」


 そう言ってレイスタさんは板を一枚リュックに入れた。


「持って行っていいのか?」

「旅費の足しに一枚くらいなら……ダメですかね」

「あー……じゃあ俺の分も入れよう。お一人様一枚で」


 レイスタさんと俺は板を一枚ずつリュックにしまった。この塔の持ち主がいたら大激怒だろうが、残念ながらここには俺たち二人しかいない。

 俺たちは若干後ろめたい気持ちで4階から垂れる縄梯子を上り始めた。


「にしてもビリーには全然会えないな」

「そうですね。2階で怪物の片腕を落としたのも、この縄梯子も彼女がやったのでしょうからここにいると思うのですが、中々追いつけませんね」


 そのとき、レイスタさんの動きが止まった。直後レイスタさんが慌てて縄梯子を上りだす。

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