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はじめての街と近未来感あふれる塔

森を出て二十日と少しを過ぎたころ、俺たちはまだ旅を続けていた。ちなみに徒歩だ。


「なあ、本当に荷物持たなくていいのか?」

「もう持ってもらっているじゃないですか」


 レイスタさんが指さしたのは俺の分の水筒と例の機械だ。レイスタさんは俺に全く物を持たせようとしなかった。最初は俺の水筒と機械もレイスタさんのリュックに詰め込まれていたほどだ。


「そうじゃなくて、レイスタが背負ってるリュックの中身だよ」

「これは私の荷物なので大丈夫です」

「俺も使ってるし……」

「それは私のを貸しているからです。だから全部私の物です。よって私が持ちます」


 この暴論で俺の主張はいつもねじ伏せられてしまうのである。


「……あ、それより何か見えますよ!」

「なんだあれ? 灯台のてっぺんみたいな屋根だな」

「おそらく見張り台です。あの下が街なんでしょうね」


 丘の向こうに見えたのは真っ白く高い建物だった。へんぴな村にいたせいで一階建て以上の建物を見る機会がしばらくなかったからか、妙に懐かしく感じる。


「これでやっとベッドで寝られますね」

「やっとか……」


 ここまで野宿だけでなくいくつかの村で一晩を過ごしたが当然どこも農村なので宿屋どころか客用のベッドすらなかった。大体どこの村人も申し訳なさそうに納屋に藁を敷いたところに案内してくれるので色々な意味でしんどかった。


「お湯ももらえるといいですね」

「俺が好きなだけ出せればよかったんだけどなあ」


 あれから何度か試してみたが、結局あのときのように水をお湯に変えるようなことはできなかった。言葉にすると、もしかしたらあるかもしれない程度の能力のしょぼさが分かって悲しい。


「ていうかあんたお金持ってんの?」

「まあ、多少は……」

「ああいう大きい街って入るのにもお金必要なんじゃないか? 俺、銅貨一枚も持ってないけど」


 レイスタさんはちょっと得意げに胸を反らした。


「大丈夫です! 私たち二人分と宿一泊くらい、余裕ですよ!」




「うう……銅貨一枚も残っていません」

「だから言ったじゃん……お金払ってもらって言うのもなんだけど、もうちょっと見通し立ててから使えよ」

「おっしゃる通りです……」


 検問を通る人はかなり少なくスムーズに通れたが、肝心の検問税が高かった。田舎出身の俺には相場など分からないが、それでも高いと感じるほどだった。


「とりあえず宿屋を探してみましょう。もしかしたらツケにしてくれるところがあるかも」

「それ本当に大丈夫な宿か?」


 最終的な金額が実際の料金の倍以上に膨れ上がる気しかしない。そもそも街の大きさに比べて出歩いている人が少なすぎて、宿屋を見つけるところから難しそうだ。


「おにーさんとボウヤ、宿探してるの?」


 声をかけられて振り返ると赤い髪に赤褐色の瞳をした女性が立っていた。明るい笑顔が人のいい性格を感じさせる。


「そうなんです。できれば料金を後払いができるところがよくて……」

「あー、お金ないんだ。だったらウチ来なよ! 宿屋だからタダで泊めてあげる」

「いいんですか⁉」

「え、ちょ、大丈夫か⁉」


 女性は「この道を右に曲がって二つ目の曲がり角だから! ビリーの紹介って言えば大丈夫!」と言って去ってしまった。そのとき上着からちらりと覗いたものに一瞬気を取られ、気づいた時には見えなくなっていた。


「……どうする?」

「行くだけ行ってみましょうか」


 ビリーさんが言った通りに進むと確かに宿屋があった。年季は入っているがボロ屋というわけではなくまともなそうに見える。レイスタさんがドアを開けた。


「すみません、ビリーさんの紹介で来たのですが……」

「いらっしゃい! あらビリーの? あの子とはどこで知り合ったの?」


 出てきたのはほっそりした女性だった。ビリーさんの母親だろうか。急に詰め寄られて若干引いているレイスタさんが一歩後ずさる。


「あっちの大通りで……。あの、ビリーさんに勧められたと言えば泊めていただけると聞いたのですが」

「あの子ったらそんなこと言って……。じゃあビリーとは初めて会ったのね。今ビリーがどこにいるか分かる?」

「さあ……。でも街の門の方に行ったのは見ましたよ」


 それを聞いて女性の顔がさっと青ざめた。


「あの子、塔に行ったんだわ」

「塔ってあの白い建物か?」

「ええ。あの塔はずっと昔から誰も入れなかったの。でも最近、大きな音がしたと思ったら壁に穴が空いていて、ときどき怪物が出てくるようになったのよ。街の人はみんな怖がって外に出なくなった」


 街に入る人が少なかったのも検問税が上がったのもこれが原因だろう。商人はわざわざ危険な場所に行こうとは思わないし、街としては危険に備えるためには金が必要なのだろう。


「でも、それだけでビリーさんが塔に行ったと考えるのは先走りすぎではありませんか。そんな危ない場所に若い女性が一人で行くとは思えませんし」

「ビリーは一週間前から妙なことをしていたの。鉄の、大きな音が出るおもちゃを握って的に向かい合って……何してるのってきいたら『これがあれば怪物とも戦える』って」

「それは……心配ですね」


 俺は真っ青になって心配する女性に向かってにっこりと笑顔を見せた。


「じゃあ、俺たちがビリーを探してくるよ。見つけたら連れてくるから心配しないで」

「いやダメですよ⁉ もし街を出ていたら探す方も危険です」

「なら俺一人で行くよ」

「余計にダメです! ……分かりました。私も着いていきます。でも危ないと判断したらすぐに連れて帰りますよ」

「はあい」


 門の守衛に尋ねるとついさっき女性が一人「塔の方へ行く」と言って街を出ていったと分かった。十中八九ビリーだ。俺はこの期に及んで渋るレイスタさんと一緒に塔まで行くこととなった。

 塔は街の中からも難なく探せるほど目立っていた。街のどの建物よりも高いせいか近くで見るとより圧力を感じる。しかも周囲の景色から明らかに浮いているのだ。周りは中世ヨーロッパらしい石でできた家なのにこの塔だけが近未来的な未知の材質でできている。


ビリーさんの母親は遥か昔に造られたと言っていたが、この建物だけが未来からタイムスリップしてきたと言われた方が信じられる。そもそも、塔と呼ばれてはいるが実際には円筒形のビルといった方がしっくりくるほど円周が長い。この中に怪物の巣があってもおかしくはないかもしれない。


「どこが入口なんでしょう……」

「それは分かんないけど、ここなら入れそうだな」


 そこには大きな穴が空いていた。壁のめくれ方からして内側から無理やり開けたようだ。中は薄暗くてよく見えない。


「レイスタ、ランタンくれ」

「あ、はい……じゃなくて、私が先に行きます。ラフィムは私の後ろにいてください」

「はいはい」


 こういうときのレイスタさんはなかなか引かないのでレイスタを先に行かせて後ろに俺がつく。中に入ってすぐ、カタカタと硬いものを叩くような音がいくつも聞こえた。レイスタさんが黙ってロウソクの入ったランタンを掲げると、通路を何かが複数行ったり来たりしているのが分かった。だが、その影は明らかに人間や普通の動物のものではない。

 物陰に隠れながらこっそり移動していると、何かが靴の先に当たった。

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