めまい
空模様が怪しくなってきた。
朝の早い時間は、あんなに晴れて
湧いている雲も
まさしく夏と云う姿だったのに。
風が止んだので
家中の窓を閉めて冷房を入れる。
設定温度は政府が勧めるより低い。
二度寝をして
目が覚めたのは、お昼の少し前。
暦は休日。
これと言った用事も予定も無いこんな日は
其れだけで、何だか嬉しい。
スーパーの中に新しく出来たパン屋。
先日、其処で買ったクロワッサンを
底が波なみになったフライパンに置いて
ごく小さな弱火でじわじわと焙る。
ちょっとの手間で
焼きあげのパリッパリの感じが戻る。
クロワッサンはパリパリでなくちゃ。
以前に一度
電子レンジで温めたら
ふにゃふにゃになってしまって
クロワッサンとパン屋さんに対して
せっかく美味しく焼いてくれたのにと
残念で申し訳ない気持ちになった。
その事があってからは、ずっとフライパン。
珈琲もいいけど今日は紅茶の気分。
硝子のポットに水を入れ瓦斯火にかける。
沸騰して泡が踊り
しゅんしゅんに沸いた所に
静かにティーバッグを落とし入れる。
気高いような琥珀。
あの色が広がる瞬間の胸の昂ぶり。
魔法が使えたら、こんな気分だろうか。
熱々の紅茶をカップに注ぎ
そうだ! 蜂蜜を入れようと思いつく。
固く締まった瓶の蓋を開けると
甘い匂いが鼻腔を刺激する。
嗚呼っ!
駄目っ!
くらくらする!
甘い匂いを嗅いだ一瞬で
私の身体のすべての細胞が
オンナに、メスに目覚めてしまう。
男の人の、アノ匂いと同じなんだもの。
好きで堪らない男を思い出して
目を閉じて、思わず身を捩らせてしまう。
はぁぁぁ、と長いため息を洩らし
クロワッサンと紅茶の現実世界に戻ってくる。
陶製の小さな匙で蜂蜜を掬い
カップの中に垂らし、くるくる混ぜて溶かす。
逢いたいなぁ…
小さく ぽそっ とひとりごちる。
あの男との甘い時間を思いながら
ひとくち紅茶を啜る。
勿論、音は立てずに行儀よく。
外は蝉の声が止んで
いつの間にか雨が降り出していた。




