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めまい

作者: 秋暁
掲載日:2022/08/11







 空模様が怪しくなってきた。


 朝の早い時間は、あんなに晴れて


 湧いている雲も


 まさしく夏と云う姿だったのに。


 風が止んだので


 家中の窓を閉めて冷房を入れる。


 設定温度は政府が勧めるより低い。


 二度寝をして


 目が覚めたのは、お昼の少し前。


 (カレンダー)は休日。


 これと言った用事も予定も無いこんな日は


 其れだけで、何だか嬉しい。


 スーパーの中に新しく出来たパン屋。


 先日、其処(そこ)で買ったクロワッサンを


 底が波なみになったフライパンに置いて


 ごく小さな弱火でじわじわと(あぶ)る。


 ちょっとの手間(てま)


 焼きあげのパリッパリの感じが戻る。


 クロワッサンはパリパリでなくちゃ。


 以前(まえ)に一度


 電子レンジで(あたた)めたら


 ふにゃふにゃになってしまって


 クロワッサンとパン屋さんに対して


 せっかく美味しく焼いてくれたのにと


 残念で申し訳ない気持ちになった。


 その事があってからは、ずっとフライパン。


 珈琲(コーヒー)もいいけど今日は紅茶の気分。


 硝子(ガラス)のポットに水を入れ瓦斯火(がすび)にかける。


 沸騰(ふっとう)して泡が踊り


 しゅんしゅんに()いた所に


 静かにティーバッグを落とし入れる。


 気高(けだか)いような琥珀(こはく)


 あの色が広がる瞬間(しゅんかん)の胸の(たか)ぶり。


 魔法が使えたら、こんな気分だろうか。


 熱々(あつあつ)の紅茶をカップに(そそ)


 そうだ! 蜂蜜を入れようと思いつく。


 固く()まった(びん)(ふた)を開けると


 甘い匂いが鼻腔(びこう)刺激(しげき)する。


   嗚呼(ああ)っ! 


   駄目(だめ)っ!


   くらくらする! 


 甘い匂いを()いだ一瞬(いっしゅん)


 私の身体(からだ)のすべての細胞が


 オンナに、メスに目覚めてしまう。


 男の人の、アノ匂いと同じなんだもの。


 好きで(たま)らない(ひと)を思い出して


 目を閉じて、思わず身を(よじ)らせてしまう。


 はぁぁぁ、と長いため息を()らし


 クロワッサンと紅茶の現実世界に戻ってくる。


 陶製の小さな(さじ)で蜂蜜を(すく)


 カップの中に垂らし、くるくる混ぜて溶かす。


   逢いたいなぁ…


 小さく ぽそっ とひとりごちる。


 あの(ひと)との甘い時間を思いながら


 ひとくち紅茶を(すす)る。


 勿論、音は立てずに行儀(ぎょうぎ)よく。


 外は蝉の声が()んで


 いつの間にか雨が降り出していた。 


 


     


 




 


 

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