2話 料理研究部の異世界
「パーティ『リョウリケンキュウブ』様。
申し訳ありませんっ!また、モンスターの大量発生が出てしまったのです」
冒険者ギルド、コーリア支部の長、キルアは召喚された四人に向かって頭を下げた。
「……毎回毎回召喚した後、頭を下げなくてもいいんだが」
「うん、僕も同じこと思ってた」
「まぁ、仕方のないことなんだぜっ」
「だな、こんなんはさっさと諦めるに限る」
四人は四者四様の反応をした。
「本当に申し訳ありません…」
キルアは、手に持っていた書類を胸に抱いて縮こまった。
「もう謝る必要はねぇから。んで支部長、今回は何が大量発生した?」
勇火は話を進めるためにキルアに問う。
「はい、今回は5000匹ほどのワイバーンが確認……」
勇火の質問にキルアが答えている時、
突然。
「おうっしゃああああああああああ。
肉じゃぁああああああ」
奏多が吠えた。
「「サイレント」」
「「ディフェンス」」
キルアと夜哉は無音結界を、
勇火と真は物理防御結界を、とっさに奏多の周りに張った。
「?……○○○○○○!?」
奏多は驚いて何か言っているらしいが、無音結界に阻まれ、こちらには聞こえてこない。
「うるさいからそこで聞いとけ」
「……静かになったら解放してやる」
「奏多、ごめんね」
そして四人は奏多を放って、話を再開した。
「今回、大量発生したのは5000匹のワイバーンというのは話しましたね?」
キルアは三人に確認を取る。
「ああ、聞いた。でもワイバーン5000匹位なら、わざわざ俺らを召喚する必要なくね?」
「そうだよね。この街にいるAランクの人達で勝てますよね?」
勇火と真は少し不思議そうにキルアに質問した。
「実は、そのワイバーンなのですが……情報によると皮膚が赤いとのことで……」
「……上位種か」
夜哉が呟いた。
「はい、確認によりますと上位種の様です。ですのであなた方、異世界からのの来訪者パーティ『リョウリケンキュウブ』様をお呼びする必要があったのです……」
キルアは視線を落とした。
「今回は追加報酬もありますので、どうかよろしくお願い致します」
「……どういう風の吹き回しだ?追加報酬があったことなど、これまで一度もないぞ?」
夜哉は追加報酬という言葉に、不信感を持ったらしくキルアに問いかけた。
「冒険者ギルドとあなた方が所属する、ガッコウとの契約ですが…余りにもあなた方を働かせてしまって、とても申し訳ないと思ったので、今回は追加報酬を付けさせていただきます。本当に……申し訳ありません」
「いや、そんな謝らなくても」
真は頭を深く下げたキルアに声をかけた。
「いえ、前に私が召喚についての書類を見直した時、やっと気付いたのです。昔は一ヶ月に一回だった召喚が、最近は2日に一回になってしまっているではありませんか!私はアホですっ。馬鹿ですっ。最っ低の人間ですっ。書類を見直すまでその事に気づかなかったなんて……支部長として失格です……」
「……支部長ってこんなキャラか?」
「いや、違ってたはずだと俺は思う」
「僕も違う気がする」
キルアが俯いて自分を責めている間、三人はキルアに気づかれないように、こそこそと話していた。
「支部長、どうすりゃいいよ?」
勇火は二人に問いかけた。
「……お前がどうにかやれば、
大丈夫だろう?」
「夜哉の意見に賛成」
夜哉の意見に真が賛成した。
「お前ら、もしかして、自分でどうにかするのが面倒なだけじゃねぇか?」
「……そうだが?」
「そうだけど?」
「はぁ…………はいはい、了解。俺が行ったらいいんだな」
勇火は諦めて、自分がキルアを止める、という事に了承した。
「支部長」
勇火がキルアに呼びかけた。
「………………どうされましたか……」
キルアは涙目で勇火を見上げた。
「うっ」
勇火はそれを見て何故か呻いた後、夜哉と真に目配せをする。
夜哉と真は、勇火の意図を汲んで、静かにしている奏多の結界を解除した。
「支部長がそんなに気にする必要はないんですよ」
勇火は敬語を使い、優しい声でキルアに伝える。
「支部長はよく頑張ってくれていますよ。……今日の追加報酬も自分の収入から出そうとしたんでしょう?」
「えっ!?何で!」
「分かったのかと?そりゃあ、そういう書類を持っていたら分かりますよ」
「えっ?あっ」
キルアは持っていた書類を背中に隠す。
「隠しても無駄ですよ。書類の内容はもう読みましたから」
勇火は少しからかうような声色を出した。
「そんな……でも……」
「大丈夫です」
勇火はそう言って奏多を見た。
奏多は感覚で、勇火の考えを読んで、
「ワイバーン肉だぁああああああ!大量のワイバーン肉じゃああああああああ」
また、吠えた。
「あいつは報酬が少ないとか、召喚が多くて疲れる、なんて考えてないと思いませんか?」
「はい…………」
「でしょう?そして、実際考えてないんです。」
勇火は目を細めて、奏多を見る。
「この世界のお金などあっても、俺たちのいる世界では使えないですし、召喚が多いということは、この世界の食材を沢山もらえるということですから」
優しくゆっくりと勇火は話す。
「『料理研究部』としては、本望です」
キルア支部長はその言葉が本当に、皆の総意なのか確かめようと、皆の表情を見る。
真は爽やかに笑みを浮かべ、
夜哉は小さく頷き、
奏多はニカッと笑い、
勇火はふわっと微笑んだ。
「ですから……だから……キリアが気にやむ必要はねぇんだ。だから、そんな落ち込まないでくれ」
勇火は悲しそうな顔をした。
「キリアには……笑った顔がよく似合うから」
「えっ」
声をかけあげたのはキリアか、はたまた勇火の後ろで固まった三人か、それとも
どちらもが、声をあげたのか。
「だから、……笑ってくれねぇか?」
「……………………はい」
キリアは、とても幸せそうに笑った。
勇火がキリアの頰に手を伸ばして触れようとした瞬間。
「……ごほん」
夜哉が咳払いした。
キリアが顔を真っ赤にさせて、勇火の手から逃げる。
勇火は不機嫌そうな顔をして夜哉を見た。
「……ワイバーンの上位種が攻めてきてるんじゃなかったのか?」
「あっ。そうでした」
キルアは手で頰をパチン、と叩き、素早く顔をキリっとさせて四人に向き直り、いつもの様に声をかけた。
「皆様、今回はワイバーンの上位種という、ちょっと強いモンスターですが、
煮て、焼いて、喰って。
ーーー料理しちゃってくださいっ!!!」
「「「支部長の仰せのままに」」」
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