成人前の講義
三年間の学園生活を無事終え卒業を果たすと、ダグは暗部へと配属され、クリスとの接点はほぼなくなってしまった。何故か胸にポッカリと穴が空いたような、ちょっと空虚な日々をクリスは過ごしていた。
社交界デビューは十六歳。それまでの約一年は各々準備する。ご令嬢方はドレスにダンス、礼儀作法と様々だ。貴族子息たちも準備に忙しいが、ここに最大の講義が組み込まれる。夜伽だ。
その相手はたいてい親が準備するが、クリスの場合は兄である王太子が手配していたが…
「クリス、そう落ち込まないで、最初からうまく行く必要なんてないんだよ。」
そう、クリスは勃たなかった。兄はそういうが、日を改め、相手を変えても勃たなかった。
「クリス、ちなみにだけど、勃ったことはある?」
その質問に一瞬言葉につまった。
「…うん、あるよ。」
だいぶ前、ダグに見せられた薄い本。他の男に抱きしめられた時は鳥肌が立ったが、相手をダグに置き換えてみると……
「…クリス、夜伽の相手は必ずしも女性でなくてもいいんだよ、試してみるかい?」
「えっ…で、っでも…。」
「大丈夫、この国では割と当たり前のことだしね。」
そう、後継者問題を防ぐため、貴族の嫡男は、正妻以外に妾を設けず男性を愛人にすることも多かった。
エリーの薄い本もあっさり受け入れられたのは、この背景があったりする。男性の愛人に対してどう接しているのか、女性達は興味津々だったのだ。
「希望があれば聞くよ、言ってごらん?」
しばらく迷っていたがクリスは覚悟を決めたようだ。
「兄様、僕…………だったら、ダグがいい………。」