視線の意味
意味不明の視線を感じながら、早くも学園生活は三年目に突入した。
「ねぇダグ、なんか令嬢方からの視線が怖いんだけど、何か知ってる?」
「…たぶん、これかと…。」
そう言って差し出したのは薄い本だった。エリーの描いた薄い本はとうとう王都にまで進出していたのだ。実はダグはだいぶ前に、『応援してるよ、頑張って!』といい笑顔でご令嬢にこの本を渡された。何をどう頑張れというのか。
「?なにこれ。」
そう言ってパラパラと目を通す。それは薄いにもかかわらず、半分以上裸の男の絡みが描かれていた。どうやら男どうしの恋愛のようだが、これが何故ギラギラした視線につながるのか。ちょっと顔を赤らめつつ、
「え、もしかして、僕とダグもこんな風に見られてるってこと?」
「……そのようです…。」
えー!?と思ったが、毎日必ず一度は抱きつく様子に、周りにはイチャイチャしているようにしか見えなかったので当然といえば当然であった。
そんなある日、事件は起きた。
授業も終わり、後はクリスを部屋に送るだけ、というところでダグは教師に呼ばれてしまった。その隙を逃さず、クリスは空き教室に連れ込まれてしまったのである。同学年ではあるが、クラスは違う男子に。
「…殿下、お可哀相に、怖かったでしょう。あいつが殿下を脅して側に置いていたのでしょう?平民のくせに!もう大丈夫ですよ、私がお守りします。…あぁ、ずっとこうしたかった…。」
そう言って抱きしめてくるが、クリスは寒気しかしない。
「離せっ!」
「あぁ、申し訳ありません、ですがもう少しだけ…このままで…。」
うっとりした口調に鳥肌が立った。本人的には暴れているのだが、全然効いていないようだ。だいたいこいつ誰だ!とクリスご立腹の中、壁際まで追いつめられ、体全体で抑え込まれて頬を両手で挟まれ顔を覗きこまれる。その目に情欲の色を見たクリスはゾッとした。キスされるっ!
「殿下、お慕いしております。きっとあいつよりも満足させてみせますから…。」
なんの満足だっ!離せバカ野郎!
もうクリスは声も出ない。涙目で腕を必死に突っ張るも徐々に顔が近付いてきた。
いーやーだー!誰かっ、助けてー、ダーーグーー!
そこへ駆け付けたダグがバキッ!と扉を蹴破り、「貴様!」と闇魔法を使って相手の視界を奪い、どこから取りだしたのか分からないロープであっという間に捕縛してしまった。
「クリス様、お側を離れ申し訳ございません。」
呼ばれてしまったとはいえ油断した、とダグは謝ったが、
「ううん、大丈夫。それよりそのロープどこから出したの?」
「ふふ、我々(暗部)の秘密です。」
この日から卒業まで、ダグの過保護が加速した。