第8話 変態
翌日、キラキラした瓶の反射を受けて目覚めると
カマエルが満面の笑みで挨拶をした。
「おはよう、アコ。とっても可愛いよ!」
そっと自分の手を確認……人間の指に戻ってる。
これなら身体も大丈夫ね、
そのまま目線を下にずらしたら――
嘘でしょ? 素っ裸じゃない!?
急いで下に敷かれた毛布を巻きながら
思いつく限りの罵詈雑言を叫ぶ。
「馬鹿、変態、淫乱、ド助平~!!!」
「あら、私達は裸でも気にしないのよ。
ほら、エンジェルで見慣れてるもの」
すかさずガブリエルのフォローが入る。
確かにエンジェルたちは皆んな裸で、
私の身体は見事にツルペタだけども――
「はは、カマエルがショックを受けてるぞ」
ラファエル少年が、楽しそうに肩を揺らす。
「うう、変態……」
「もう~落ち込まないでよ。
それより鏡を用意したの、アコも見たいでしょ」
ガブリエルが甲斐甲斐しく動き回る。
鏡がビンの前に置かれたので
毛布をしっかり持ち上げてから覗く。
黒髪ロングストレートに白い肌、小さいけど
年齢は13~16才で瞳が赤くややつり目だ。
「――悪魔令嬢って感じだな」
「馬鹿なこと言うな、ラファエル!」
「ええ~だけどさぁ、
黒目が赤くなるなんて……信じられないぜ」
ラファエル少年が不満気に私を見るけど
小悪魔の姿よりずっといい。
それに頭もスッキリして
冷静に物事を判断できる気がするわ!
「赤目でも構いません。ラファエル様
ガブリエル様、色々と有難う御座いました」
「まぁ優しい子ね。
ミカエルが寝ていて良かったわぁ~
彼は悪魔を見つけたら直ぐ殲滅するから」
あ、あ、危なかった~!
そうかミカエルは公正な天使だけど
誰よりも悪魔を憎んでる警吏天使だ。
「あの、ミカエル様は眠っているのですか?」
「ええ、私たちは定期的に寝るのよ。
長く生きる為には英気を養う必要があるの」
「ガブリエル、喋り過ぎだぞ!」
ワインを飲みながら説明するガブリエルに、
ラファエル少年はグラスを倒す勢いでテーブルを叩く。
「心配性ね、ラファエル。
アコなら大丈夫よ、清廉な空気を感じるわ」
「そうだとしても、生まれたばかりだ」
「時間なんて関係ないでしょう?
問題は清らかな心があるかどうかよ」
ガブリエルの言葉に納得できないのか
ラファエル少年は疑いの目を向けた。
「赤目は悪魔の色だろ? オレは信用しない」
「アコは誰よりも純粋だ。
見た目で判断するなんて天使失格だぞ!」
カマエルの指摘に口をつぐむラファエル少年。
「それにね、ラファエル。
アコは人間界から召喚された被害者なのよ?」
「嗚呼そうか、ごめん。
君は強制的に呼ばれて大変だったのに――」
「悪魔だったんですもの、疑われて当然です。
どうか気にせず、元気を出してください」
「有難う……これからはオレが君を守るよ!」
「待て、ラファエル。アコを護るのは僕だ!!」
「うふふ、私達のお人形さんで決まりね」
悪魔からペット、そして下僕にお人形さんか……
早く大きくなってそれらを払拭したいなぁ。
ビンの中には何故か、
ツノとハート尻尾が残っていたので
お守り代わりに持っておくことにした。