第4話 名前
天界は何処も彼処も眩しく
小さな島が幾つも浮遊し、
その周りに帆のついた大きな船が浮かんでいる。
「君が消滅しなくて良かった」
「ちょと、絶対大丈夫って言ったよね!?」
「さてと、あそこが天界図書館だよ」
悪魔が天使に騙された!
虫かごと水筒を斜め掛けにして図書館へ入るのは
ひどくシュールな気もするが
天使は堂々とした態度で扉を開ける。
館内は丸いドーム型の建物ながら
隅々までビッシリ本が詰まっていた。
皆んな飛べるから階段は必要ないのだろう。
人間界や天界の本がコーナー別にされ、
見上げるほど大量な蔵書を前に
何処から手を付けていいのか全く分からない。
「ダメだ、気持ち悪くなってきた」
頼みの綱である天使はグロッキー状態。
私は大きな本のページをめくりつつ励ます。
「まだ数冊だけよ、頑張りましょう」
「読書は苦手なんだ」
「じゃあ何が得意なの?」
「う~ん、闘いかなぁ」
ぎゃああ~、危ない天使がいるよ!
本の上で震えていたら20~25才位の
茶髪クセ毛に緑目の青年が話しかけてきた。
「君が図書館にいるとは驚きだ。
地上へ行くと豪語していただろう?」
「いま帰ったところさ、じゃあな」
慌てて私を虫かごに入れる天使。
「待て、その紫色の物体は何だ?」
「地上で見つけた突然変異のオウムだよ」
「地上にはこんな面白い動物がいるのか?
私も捕まえてみたいものだ……
くくく、非常に珍しくて可愛い」
急いで帰り支度を整え、
何も返事をせずに退出する私たち。
そっと虫かごから覗くと
青年はずっと此方を見つめていた。
「危なかったな、奴はウリエル。
原始からの天使で断罪人であり預言者でもある」
「四大天使のウリエル様なの!?」
「へぇ~、意外と物知りだね」
どこかで読んだ知識だけどね、
ウリエル様と知り合いなら
この天使の正体も分かりそう。
「貴方は七大天使なんでしょ。
闘いが得意なら……カマエルかしら?」
「凄いな、君は一つのヒントだけで当てた!」
「だけど本からは何も得られなかったわ」
「そうでもないさ、
あのウリエルでさえ正体を暴けなかった。
つまり、君は悪魔ではないと証明されたんだよ!」
「それは嬉しいけど、じゃあ何者なの?
――もちろんオウムではないわよ!」
「チッ! 君は可愛くないな」
くだらない冗談を回避したら舌打ちされたよぉ~
悪い天使だわ! もう気を遣うのも馬鹿らしい。
「貴方のこと、名前で呼んでもいい?」
「別に構わないよ」
すんなり応じて拍子抜けしてしまう。
「ずっと名前を隠すから
絶対に呼ばれたくないと思っていたわ!」
「う~ん、特には……
ただ旅人気分で名無しがいいかなぁと」
私の気遣いを返して欲しい。
「ええと、君のことは――アクでいいか」
ちょっと、最悪のネーミングセンスだよ~
「それはイヤだわ」
「じゃあ、君が決めて」
「そうね……アコはどうかしら?」
悪魔の子、略してアコ。
うう~ん、私のセンスもパッとしないなぁ。
「アホでもいいな」
その名前だけは断固拒否する!
「アコに決定!! よろしくね、カマエル」
「ああ宜しく、アコ」
やっぱり名前があるとしっくりくるわ!
名無し同士なんてやっぱり他人行儀だもの。