第3話 正体
金髪パーマ青目の美少年は大体13~16才位、
服装は白シャツと黒いスラックス。
華奢なのに疲れを知らないようで
一日中歩き続けることもしばしば。
山に登って木の実や果物を集めたり
湖を散策したあとハンモックで休憩など。
常に虫かごを持って出掛ける為、
美少年の動向が粒さに見えてきた。
彼は独りぼっちで誰も訪ねて来ないし、
食事も果物だけで満足してるみたい。
不思議な子だわ~、お腹空かないのかしら?
「何故ここにいるの?
貴方は果物だけで、お腹も空かないの?」
虫かごから出された私は彼を見上げて質問した。
「君には本当の事を言おうかな。
ふふふ、僕は人間じゃないんだよ」
齧っていたリンゴを置いて微笑む美少年
……何だかイヤな予感がしてきたわ。
「あ、貴方は何者なの?」
まさか同じ悪魔、それとも――
「僕はね……実は天使さ! どう、驚いた?」
て、て、天使!? ライバルじゃない!
目眩がして盛大にひっくり返る。
「わわわ! そんなにビックリしないで!」
「はあはあ、どうして天使が小屋にいるの?」
私を起こしつつ肩を竦める美少年。
「天界は退屈だから地上へ遊びに来たのさ」
落ち着け、彼は悪魔で私を騙しているのかも。
「本当に天使なの?
白い翼も輪っかも見えないけど」
「もちろん隠してるさ!
地上で羽根なんか見られたらお終いだよ」
「そうよね……」
う~ん、天使か悪魔か判断がつかない。
どちらにしてもマズいよね、
この美少年が天使なら私を抹殺するだろうし、
悪魔なら逃亡者として捕まってしまう。
「あのう、縄を外して欲しいの。
自由に飛ばないと直ぐに死んでしまうわ」
嘘だけど彼が天使なら願いを叶えてくれる筈。
「嫌だよ、君がいなくなったら僕は一人きりだろ。
此処は素敵な場所だけど退屈で死んじゃうよ」
――こんな身勝手な奴は絶対天使じゃない!
「ちょっと、退屈では死なないわ!
いいから外して、こっちはピンチなのよ!!」
「君は噓吐きだ!
何日も虫かごにいたのに、ピンピンしてるだろ!」
うっ、悪魔なのに嘘が下手なんて三下だ。
「あ、貴方こそ噓吐きだわ!
本当は天使じゃないんでしょう!?」
「僕は天使だ! 証拠を見せてやる!!」
そう言って指をパチンと鳴らすと
金色の輪っかに真っ白な複数の羽根、
目映いばかりの装飾と白いローマ服を着ていた。
本物だ――神聖な空気をビンビン感じるもの。
「あばばば! お、お許しを~」
慌てて平伏す私に彼が言葉を紡ぐ。
「ごめん、ムキになり過ぎたね……」
「いいえ、信じなかった私も悪いの」
グズグズ泣き出すと
美少年は元の姿に戻り謝罪する。
「そんなに泣かないで、僕が悪かった」
「謝らなくて良いわ。
涙が零れるのは此処で殺されるから――私は悪魔なの」
急に肩をガシッと掴まれ、激しく揺すられた。
「そんな馬鹿な!
君が悪魔なんて嘘に決まっている!!」
「あわわ! やめてぇ~本当に悪魔なのよぉ~」
頭がグラグラする、うう気持ち悪い。
「ああ、ごめん。悪気はなかったんだ」
慌てて手を離し水筒から水を注いでくれた。
「でも、やっぱり信じられないよ。
君からは悪魔の気配を全く感じない、
良ければ身の上話を聞かせてくれない?」
本物の天使だもの、もう全て話そう。
私は悪魔に転生してからの日々を語った――
「それは大変だったね、人間に戻りたい?」
「今更そんなこと思わないわ。
日本人だった記憶も曖昧だし……
このまま自由に生きられれば良いのよ」
彼は椅子に座ったまま足を組む。
「ええと、君は悪魔なんだろ?
悪事を働かないと死んじゃうかもね」
「嗚呼~、きっとそうだわ!
私はなんてお馬鹿なんでしょう!?」
なんたる悲劇、
空っぽの脳味噌を呪いたくなってきたわ。
「落ち着いて、まだ決まった訳じゃないよ。
何より君は悪事に向いてない間抜けだし……
転生の時に手違いがあったのかもしれない」
今、間抜けって言わなかった?
ズビズビ鼻を啜りながら彼を睨む。
「ほ~ら、大事なことを聞き逃す。
君がお馬鹿で間抜けな証拠だろ?
それより調査だよ、僕と一緒に天界へ行こう。
あそこなら知識が集約されてるからね」
「無理よ、私は消滅してしまうわ!」
「平気さ、君からは悪魔の気配がしない。
天使の僕が騙されたんだ、絶対大丈夫だよ」
どうせ死ぬなら足搔いてみようかな……
「そうね、天界へ連れて行って。
それと、この縄も外してちょうだい」
「逃げたりしない?」
「初めての天界で、逃げる方が危険でしょ?」
「うんうん、その通りだ。
よし! 僕は君の主人だから頑張るよ」
いつ主人になったのだろう?
彼が満面の笑みで指を鳴らすと
またもや白い沢山の羽根が出てきた。
やはり三対六枚の羽根か
……その数は高位天使で間違いない。
「貴方の羽根は随分と立派ね、
とても普通の天使とは思えないわ」
「そう? 天界では皆んなこんなもんさ。
さぁ君はもう一度虫かごに入ってくれ、
これから天界まで一気に飛ぶからね!!」
上手く言い逃れた天使は、
籠を斜め掛けにして高い空へ舞い上がった。