第1話 小悪魔
なんで悪魔に転生してるの?
しかもとても小さな魔物だ。
ガラスに映った姿は紫色で瞳は黒。
おでこに一本のツノがあり、
コウモリ羽根と黒い尻尾が付いている。
周りにいる悪魔も皆んな同じ姿、ただ
私の尾は矢印が逆になっていて可愛いハート型。
ええと、私は日本人だったよね?
名前は記憶は……ダメだ思い出せない。
だけど人間だったことは間違いないのよ!
サラリーマン風の黒スーツを着た
名札に『回収課 悪魔課長』とある上司が口を開く。
「今年の新人は粒ぞろいだな!
さて、君たち悪魔諸君には――」
七三分けに黒縁メガネを光らせ
色々説明しているが全く頭に入らない。
「あのぅ、私はなぜ此処にいるのでしょう?」
記憶はないけど基本情報は持っているなんて
我ながら不思議……ともかく現状把握よね。
「はは、緊張で記憶が飛んだか?
大丈夫、初めは皆んな新人だった。
思い出すなぁ、俺も最初の頃は――」
自分語りが始まりそうなので慌てて遮断、
手のひらサイズの身体を触りつつ。
「どうしたら人間サイズになれますか?」
「新人は皆んなこの大きさだぞ?
人間に変化するには数百年かかる。
……しかし、お前の尻尾は可愛いな」
私の尾を繫々と見つめる課長。
まあ綺麗なハート型だからね、
それより数百年って、どんだけぇ~!
「さぁ、初仕事だ!
魂を回収しない限り、帰ってはダメだぞ!!」
なにそれ、厳し過ぎでしょう?
「いいか、ノルマは必ずこなせよ!」
悪魔にノルマがあるなんて聞いたことない。
「人間を堕落させる為の本は
魂を1個持って来てから渡すからな。
それじゃあ、全員で正面にある《悪魔規律》を唱和しろ!」
同僚達が額に入っている悪魔会社の規律を読む。
一、 魂の回収は絶対です
二、 魂集めに心血を注ぎます
三、 死んでも魂を離しません
どれだけ魂狩りに必死なのよ~この悪魔会社!
夢ではないかと何度も頬を抓るが痛いだけ。
「よ~し! では、空に円陣を映す!
此処に入れば人間世界へ行けるぞ~
魂を狩れば自動で戻れるから心配するな。
用意はいいかぁ?――さあスタートだ!!」
悪魔課長の合図で同期たちが一斉に飛び出す。
結局、他の仲間と会話も出来なかったなぁ……
取り敢えず、私も窓から羽ばたく。
おお、小さい羽根だけど飛べるのは嬉しい。
だけど魂の回収か……命を刈るなんて絶対イヤ!
ここはエスケープ一択でしょ、
誰かが追いかけてきたら迷ったと誤魔化せば良いよね?
今は人間界の森にでも隠れよう! そして私は
空に浮かぶ円陣に入り、人間世界へと旅立ったのだ。