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クリスマスって25日の夕方までらしいけど、ギリギリ間に合ったかな?

軽くサクッとお読み下さい。オチ? そんなの無いよ?



 「へーぶしぃっ!! あ~、寒いぃ……」


 黒い革ジャケットの襟をぎゅっ、と手繰りながらブルッと身体を震わせて、ホーリィは裏路地を歩いていた。


 さっきまでの良い気分が霧散する寒さに、勢いで薄着のまま寝ぐらを飛び出してきた我が身を呪ってみても、後の祭りである。



 いつもの面子(ローレライ乗組員達)と飲みに出掛けた時は、まだ穏やかに暖かい日差しも差していたが、夕陽が沈むと同時にキリリと刺し込まれるような寒さが飲み屋の外で待ち構えているとは……思っていなかった。


 「ちっきしょう……こんな事なら早々に切り上げてさっさと帰るんだったなぁ……」


 世間は年の瀬がどうのと騒いでいるが、温かな家庭とは無縁なホーリィには関係ない。おまけに珍しく季節外れな昼間の暖かさは何処に消え失せたのか、日が暮れてからの冷え込みは尋常でなかった。路肩に酔い潰れて横たわる連中すら、通り掛かった者が無理やりにでも叩き起こして連れ去る位の寒さである。


 「あー、ヤバい……こんな時に限って……マジでマジぃ!!」


 だが、やっぱりしっかり一杯目はビールで乾杯な習慣が災いしたか、ホーリィのホーリィな箇所がエルメンタリアしそうなのである。


 やや内股気味で先を急ぐが、こんな時に限って気安く入れて用が足せそうな店は皆無で、店内に入るだけで席料がどれだけ取られるか想像も付かない高級な門構えだったり、得体の知れない怪しげな雰囲気に二の足を踏む店先が続くうちに裏路地へ辿り着いていた。


 こうなったら意を決して人目に付かぬ場所を選んで……等と考えて物陰に目を向けると、【二時間銅貨三十枚】の文字が記された上に《本日はX'masにて半額!!》と書かれた紙が貼り付けられた看板が有り、その脇にピンク色の扉が鎮座していたのだ。


 我が身に迫り来る生理現象の波に飲み込まれ、少しだけ理知的な判断が出来なくなっていたホーリィは、


 「うしっ!! 行ってみっか!!」


 《本日は……()()()()》の文字の後ろだけしっかりと理解して、ドアノブを握り締め、回しながら扉を開けて中へと踏み込んで行った。




✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️




 「……あやしいね、おにーちゃん……」

 「……まぁ、昨日までは無かったなぁ」


 ピタは兄と二人並びながら、炭焼小屋の壁に現れたピンク色の扉を眺めていた。


 幼いながらも魔導の心得も有り、お母さんからしっかりと指導も受けて来ている彼女から見ても、その扉は誠に怪しいモノだった。


 「おにーちゃん、これはどうみても「うし、開けるぞ!!」はわわわぁっ!?」


 ……だが、兄は全く気にせずピタの手を握りながら勢い良く扉を開け放った!! さすが脳筋おにーちゃん!!


 「おにーちゃんッ!! ダメだからぁ〜っ!?」

 「わあぁ……って、何だよ普通じゃん」


 一足先に色々と諦めて泣き笑い顔のピタと違い、スンスンと鼻を利かせながら赤い絨毯が敷き詰められた廊下を躊躇無く進むおにーちゃん。


 「ち、ちょっと待って!! おにーちゃん!!」


 咄嗟に杖を使いながら、おにーちゃんに追い付く為に前に進もうとするピタを、きちんと振り向いて待ちながら、


 「外よりあったかいから、心配いらなそうじゃん!! さ、行ってみよーぜ!」


 手を差し出して、杖を使わない左手を握り締めてから、おにーちゃんはピタを伴って歩き出す。廊下の先に見える新たな扉に向かって……。




✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️✳️




 がぶっ、と弾力に富んだ肉を噛みちぎり、ゆっくりと咀嚼する。ぶつふつと犬歯から臼歯へと運びながら噛み砕かれる肉は、十分に加熱されていながら焦げ過ぎぬ絶妙の焼き加減。そして、過去に味わった事のない甘く、そして塩味と香ばしさが同居した一風変わったソースが絡み、舌と鼻腔を刺激する。


 だが、味覚を刺激するのはそれだけではない。片手に握り締めた骨付き肉から口を離すと同時に、なみなみと注がれた黄金色の液体を透明のジョッキから飲み込むと、先程まで口中を支配していた旨味を洗い流すかの如き鮮烈な刺激が訪れ、意識を一気に引き絞る。


 「……くうううう〜っ!! たまんないねッ!!」


 感極まった唸りと共に言葉が漏れ、そしてまた繰り返す。


 がぶっ、もむもむ……ごきゅっ、ごきゅっ……がぶっ、もむもむ……



 ホーリィは交互に骨付き肉、ビール、そして骨付き肉、と繰り返しながら、やがて放心の溜め息を、ほぅ……と漏らす。



 「いやぁ〜、一時はどーなるかと思ったけどよ! まさかアンタの店だったとは思わなかったぜ?」

 「ですよねぇ……まだ一度もココには来た事有りませんよね?」


 空になったジョッキを新しい物に変えながら、真っ赤なサンタ服姿のハルカが答える。


 スナック【まほろば】にいざなわれたホーリィは、ギリギリのタイミングで危機を脱し、安堵と共に極上の骨付きチキンを味わっていた。


 「それにしても、今日は何だか賑わってんじゃねぇの?」

 「うーん、クリスマスって言っても判らないでしょうね……まぁ、そーゆーイベントって思って貰えばいいですから、今夜は楽しんで行ってください!」


 そう言葉を交わしながら、ハルカは隣のテーブルに座った幼い兄妹に近付くと、


 「今夜はお祝いだから、小さなお客様は特別サービスよ? お金の心配とか要らないから、楽しんでいってね♪」

 「えっ!? お、お金要らないのかな!?」

 「もっちろんよ! おねえさん、嘘つかないわよ?」


 恐縮しながら訊き返す妹らしきコボルトに微笑みながら、ハルカは手にしたシャンメリーを差し出して、


 「お兄さんも遠慮しないでね? さ、これ飲んで!」

 「そうなの!? ピタ、だったら遠慮無く頂こうぜ!!」


 心配そうな顔の妹を励ますように話し掛ける兄に、やや戸惑いながら差し出されたグラスを手に取り、怖々と口を付けてひと口飲んで、


 「……あ、これ美味しいから!!」


 思わず呟く声にハルカは安堵し、二人のテーブルに持っていた骨付きチキンを置きながら、


 「帰りはちゃんと同じ所に送るから、ゆっくりして行ってね!」


 やがてホーリィと同じように夢中で食べ始める二人から離れて、新たな料理を運ぶ為にハルカは厨房へと入って行った。







 クリスマスもあと僅か。今夜も異世界スナック【まほろば】は、やっぱり気紛れに人々の前に姿を現すのだけど、もしかしたらあなたのすぐ傍にピンク色の扉があるかもしれませんよ?


 

今年もお世話になりました!! また来年も宜しくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギリギリ25日ですが、そのタイトルつけたらもうクリスマスではない感ですね! クロスオーバー的な。 異世界スナックも懐かしい感じですねー。
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