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2.ハプニング!






「あの、ホントに私なんかが加わっても良かったんですか……?」

「大丈夫だよ。後方から攻撃できる人が良いな、って思ってたところだから!」

「こ、後方からの攻撃……。が、頑張りますっ!」

「うん、これからよろしく!」


 俺はウサ耳を生やしたヴァーナという獣人族の少女と、ダンジョン中層で話していた。円らな、やや垂れ気味な瞳をした彼女の名は、ヴァニア・アリアリス。

 桃色の髪を肩口で切り揃え、小柄なその身には装備というより、普通の服をまとっていた。緑を基調としたそれはどこか、森の中を生きる彼らの雰囲気を感じさせる。背中には小さな弓と矢筒。その出で立ちは間違いなく射手――アーチャーのクラスを思わせた。


 どうして俺とミレイナ、そしてヴァニアが一緒に行動しているのか。

 その理由は、今から数時間前にさかのぼる……。





 目の前で追放を言い渡された少女――ヴァニアは、大きくうな垂れてトボトボと談話室の方へとやってきた。そして空いている席に着席し、深くため息をついて突っ伏す。まるで、この世の全てに絶望したような様だった。


「あの……。ちょっと、良いかな?」

「……ふえ?」


 その姿が、どうにも少し前の自分を彷彿とさせたのだ。

 俺はミレイナの制止も聞かずに、ヴァーナの少女にそう声をかけていた。


「キミ、もしかして今フリーなのかな?」

「そうです、けど……」


 潤んだ瞳でこちらを見上げる少女。

 緑のそれはとても澄んでいて、だからこそ胸が締め付けられた。


「ちょっと、キーン。アンタ、もしかしてこの子を引き入れるつもりなの?」


 そんな感傷に浸っていると、やっとミレイナも追いついてそう言う。

 その言葉を聞いてキョトンとするのはヴァニアだ。


「そうだけど。――なにか、問題あるか?」

「もう少し考えなさい。今さっき戦力外通告された冒険者よ? なにか問題を抱えてる可能性があるわ」

「うぅ……!」


 ――いや、お前がそれを言うのかよ。

 俺は、思わずそんな言葉を口走りそうになった。

 しかしここでミレイナと言い合っても、てんで話は前に進まない。それに獣人族の少女は、あからさまに気まずそうな表情を浮かべていた。

 それも無視できないので、ひとまずは……。


「まぁ、一回くらい大丈夫じゃないか? 俺たちでフォローしながら、それこそ試用期間ってことで、本採用にするかはその後で決めればいい」


 そう提案した。

 するとミレイナも、言い返す言葉がないらしい。

 そうなれば決まりである。俺は改めて、桃色髪の少女に向き直った。そして、最大限の笑顔を浮かべながら、彼女にこう言うのだ。


「俺の名前はキーン。もし良かったら、俺たちと冒険してくれないか?」


 逡巡した後、少女はうつむき加減ながらも頷いた。

 そうしてヴァニアは、俺たちのパーティーに加わったのである。





 ――以上。

 そんな感じで便宜上、俺のパーティーは三人になった。

 そして今、ダンジョンの中階層に潜って手頃な魔物を探している。


「ちゅ、中階層は……。危険な魔物がいっぱい、ですよね……?」

「大丈夫だよ。こう見えても、このミレイナは『剣姫』って通り名があるくらい強いんだからな! それに、俺も少しだったら戦えるだろうし――」

「なんか、その言い方が皮肉に思えるのは、アタシの耳が腐ってるせいかしら?」

「え、どうしてそうなるんだ……?」

「…………ふん」

「……?」


 なにやら不機嫌にそっぽを向くミレイナに、首を傾げる俺。

 そんなこちらを、不安げに見つめるヴァニアという構図。微妙な空気が流れそうな雰囲気があったので、俺は一つ咳払いをした。


「それで、ミレイナ。この階層ならどんな魔物がいるんだ?」


 そして、そんな質問を投げる。

 するとミレイナは気持ちを切り替えたのか、顎に手を当てて思案。記憶を必死に手繰るようにしながら、こう言うのだった。


「アタシは基本的にもっと深く潜るから、ずいぶん前の記憶だけど。たしかこの辺ならまだ、コボルトやゴブリン、少し強くなるとリザードマン、って感じね」

「なるほど、な。それだったら、俺とミレイナなら安全に倒せそうだ」


 彼女の話に納得し、頷きつつ俺はちらりとヴァニアを見る。

 そこには弓を手に青ざめる、小動物系女子の姿があった。


「リ、リザードマンは危険ですぅ! 火をボーッて出すんですよ!?」


 こちらと目が合うと、ヴァニアは悲鳴に近い声を上げる。

 俺はそれを受けて少し考えてから、安心させるように少女の頭を撫でた。


「大丈夫だって。ヴァニアみたいな後衛を守るために、俺たちがいるんだから」

「…………うぅ」

「だから、安心してくれ。ほら、指切りしようぜ?」

「え、指切りですか……?」


 そして、右手の小指を差し出す。

 提案が意外だったのか、彼女は目を少しだけ見開いた。


「あぁ、ヴァニアのことは俺が守るから。――絶対に!」


 もうひと押しかな、と。

 そう思って、俺はニッと笑ってそう伝えた。


「守る、約束……」


 それを聞いて、ようやく少女は小指を出す。

 今だとばかりに俺は強引に、それを結ぶのだった。


「あ……!」

「よし、決まりだな!」


 そして、力強くそう口にする。

 ヴァニアを最大限に勇気づけるため――その時だった。


「キーン! きたわ、リザードマンよ!」


 前方に注意を払っていたミレイナが、そう声を張り上げたのは。

 俺は振り返り、たしかにそれを確認した。


 敵は二体。

 ヴァニアの実力を見るには、うってつけだ。


「よし、それじゃ――」


 そう思い、景気付けに声をかけようともう一度。

 ゆっくりと振り返った時、俺はそれを見た。



「頑張ろ……………………う?」



 文字通り、脱兎のごとく駆けていくヴァニアの姿を。


「…………」

「…………」



 俺とミレイナは、互いに顔を見合わせた。

 そして、しばしの沈黙が場を支配するのだった。


 


次回の更新は19時頃!


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