2.ハプニング!
「あの、ホントに私なんかが加わっても良かったんですか……?」
「大丈夫だよ。後方から攻撃できる人が良いな、って思ってたところだから!」
「こ、後方からの攻撃……。が、頑張りますっ!」
「うん、これからよろしく!」
俺はウサ耳を生やしたヴァーナという獣人族の少女と、ダンジョン中層で話していた。円らな、やや垂れ気味な瞳をした彼女の名は、ヴァニア・アリアリス。
桃色の髪を肩口で切り揃え、小柄なその身には装備というより、普通の服をまとっていた。緑を基調としたそれはどこか、森の中を生きる彼らの雰囲気を感じさせる。背中には小さな弓と矢筒。その出で立ちは間違いなく射手――アーチャーのクラスを思わせた。
どうして俺とミレイナ、そしてヴァニアが一緒に行動しているのか。
その理由は、今から数時間前にさかのぼる……。
◆
目の前で追放を言い渡された少女――ヴァニアは、大きくうな垂れてトボトボと談話室の方へとやってきた。そして空いている席に着席し、深くため息をついて突っ伏す。まるで、この世の全てに絶望したような様だった。
「あの……。ちょっと、良いかな?」
「……ふえ?」
その姿が、どうにも少し前の自分を彷彿とさせたのだ。
俺はミレイナの制止も聞かずに、ヴァーナの少女にそう声をかけていた。
「キミ、もしかして今フリーなのかな?」
「そうです、けど……」
潤んだ瞳でこちらを見上げる少女。
緑のそれはとても澄んでいて、だからこそ胸が締め付けられた。
「ちょっと、キーン。アンタ、もしかしてこの子を引き入れるつもりなの?」
そんな感傷に浸っていると、やっとミレイナも追いついてそう言う。
その言葉を聞いてキョトンとするのはヴァニアだ。
「そうだけど。――なにか、問題あるか?」
「もう少し考えなさい。今さっき戦力外通告された冒険者よ? なにか問題を抱えてる可能性があるわ」
「うぅ……!」
――いや、お前がそれを言うのかよ。
俺は、思わずそんな言葉を口走りそうになった。
しかしここでミレイナと言い合っても、てんで話は前に進まない。それに獣人族の少女は、あからさまに気まずそうな表情を浮かべていた。
それも無視できないので、ひとまずは……。
「まぁ、一回くらい大丈夫じゃないか? 俺たちでフォローしながら、それこそ試用期間ってことで、本採用にするかはその後で決めればいい」
そう提案した。
するとミレイナも、言い返す言葉がないらしい。
そうなれば決まりである。俺は改めて、桃色髪の少女に向き直った。そして、最大限の笑顔を浮かべながら、彼女にこう言うのだ。
「俺の名前はキーン。もし良かったら、俺たちと冒険してくれないか?」
逡巡した後、少女はうつむき加減ながらも頷いた。
そうしてヴァニアは、俺たちのパーティーに加わったのである。
◆
――以上。
そんな感じで便宜上、俺のパーティーは三人になった。
そして今、ダンジョンの中階層に潜って手頃な魔物を探している。
「ちゅ、中階層は……。危険な魔物がいっぱい、ですよね……?」
「大丈夫だよ。こう見えても、このミレイナは『剣姫』って通り名があるくらい強いんだからな! それに、俺も少しだったら戦えるだろうし――」
「なんか、その言い方が皮肉に思えるのは、アタシの耳が腐ってるせいかしら?」
「え、どうしてそうなるんだ……?」
「…………ふん」
「……?」
なにやら不機嫌にそっぽを向くミレイナに、首を傾げる俺。
そんなこちらを、不安げに見つめるヴァニアという構図。微妙な空気が流れそうな雰囲気があったので、俺は一つ咳払いをした。
「それで、ミレイナ。この階層ならどんな魔物がいるんだ?」
そして、そんな質問を投げる。
するとミレイナは気持ちを切り替えたのか、顎に手を当てて思案。記憶を必死に手繰るようにしながら、こう言うのだった。
「アタシは基本的にもっと深く潜るから、ずいぶん前の記憶だけど。たしかこの辺ならまだ、コボルトやゴブリン、少し強くなるとリザードマン、って感じね」
「なるほど、な。それだったら、俺とミレイナなら安全に倒せそうだ」
彼女の話に納得し、頷きつつ俺はちらりとヴァニアを見る。
そこには弓を手に青ざめる、小動物系女子の姿があった。
「リ、リザードマンは危険ですぅ! 火をボーッて出すんですよ!?」
こちらと目が合うと、ヴァニアは悲鳴に近い声を上げる。
俺はそれを受けて少し考えてから、安心させるように少女の頭を撫でた。
「大丈夫だって。ヴァニアみたいな後衛を守るために、俺たちがいるんだから」
「…………うぅ」
「だから、安心してくれ。ほら、指切りしようぜ?」
「え、指切りですか……?」
そして、右手の小指を差し出す。
提案が意外だったのか、彼女は目を少しだけ見開いた。
「あぁ、ヴァニアのことは俺が守るから。――絶対に!」
もうひと押しかな、と。
そう思って、俺はニッと笑ってそう伝えた。
「守る、約束……」
それを聞いて、ようやく少女は小指を出す。
今だとばかりに俺は強引に、それを結ぶのだった。
「あ……!」
「よし、決まりだな!」
そして、力強くそう口にする。
ヴァニアを最大限に勇気づけるため――その時だった。
「キーン! きたわ、リザードマンよ!」
前方に注意を払っていたミレイナが、そう声を張り上げたのは。
俺は振り返り、たしかにそれを確認した。
敵は二体。
ヴァニアの実力を見るには、うってつけだ。
「よし、それじゃ――」
そう思い、景気付けに声をかけようともう一度。
ゆっくりと振り返った時、俺はそれを見た。
「頑張ろ……………………う?」
文字通り、脱兎のごとく駆けていくヴァニアの姿を。
「…………」
「…………」
俺とミレイナは、互いに顔を見合わせた。
そして、しばしの沈黙が場を支配するのだった。
次回の更新は19時頃!
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