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3.窮地で少年は。






 危ないと叫んだ時にはもう、遅かった。

 ミレイナの足元に、虫の息だが生存していた一体のアークデイモン。そいつが少女に向かって【ショット】と呼ばれる魔力の塊を射出したのだ。

 そして、それはミレイナの右脚に着弾した。


「きゃっ……!? ――――!!」


 おそらく骨をもっていかれたのだろう。

 痛みに顔を歪めながら、しかしすぐにミレイナは魔物にトドメを刺した。結果として断末魔を上げながら、最後の一体も魔素へと還っていく。


「大丈夫か、ミレイナ!?」

「ちょっと油断しただけよ。大げさに声を出さないで」


 俺が駆け寄ると、彼女はその場に尻餅をつきながら憎まれ口を叩いた。


「待ってろ、いま治癒魔法を――」


 だけど、そんなの真正面から聞いている場合ではない。

 なので俺は、すぐ準備に取り掛かった。骨は確実に折れているだろう。その上、下手をすればアークデイモン級の魔物の攻撃だ。喰らった部分から、組織が急速に壊死していってもおかしくない。だとすれば、今すぐにでも治療は必要だった。


「…………ちっ」


 渋々ながら、といった風にミレイナも納得したらしい。

 誰の力も借りない――そう言っていた彼女だ。もしかしたら誰かから処置を受けることも、気に食わないのかもしれない。

 その態度はたしかに、他の人々から反感を買うだろう。

 だけども俺は――。


「――――――」


 そこまで考えてから、気持ちを切り替えた。

 今は彼女の怪我を治すのが最優先。余分な思考は切り捨てる。

 柔らかな光が生まれて、ミレイナの右脚を包み込んだ。やはり『反転』した俺の治癒魔法は、並以上のそれとなっている。

 しかし他のことよりは練度が高かったためか。

 異常、と呼ばれるような治癒魔法にはなっていなかった。


「…………これで、ひとまず良し、と」

「ふーん。役立たずって割には、案外いい治療するじゃない」

「どういたしまして」


 そして、その結果。

 ミレイナの脚は、引きずりながらならどうにか歩ける、という状態まで回復した。切断もやむを得ない状態からの回復といえば、それは奇跡的とも言えるだろう。

 そのことに珍しく感心したらしい少女は、相変わらずの口調ながら褒めてくる。

 社交辞令的なそれを流すように受け取って、俺は彼女に手を差し出した。


「…………?」


 だが、その手を見てミレイナは眉間に皺を寄せる。

 これは怒っているのではない。単純に、その意味が分かっていないのだ。


「肩を貸すから、ほら」

「い、要らないわよ!?」


 なので、それを説明するとミレイナは顔を真っ赤にした。

 どうやらここでも、例の言葉が尾を引くらしい。仕方なしに、とりあえず少女がふらつきながら立ち上がるのを見守ることにした。



 だが、その時に事態は急変する。



「え、これって……!?」


 周囲に無数の気配。

 慣れない強力な治癒魔法を使うのに必死になって、気付かなかった。

 俺たちはいつの間にか、多くの魔物によって退路を断たれていたのである。数え切れないその大群に、俺は息を呑んだ。

 そしてミレイナもまた、そのことに気付いたらしい。


「ちょっとだけ、状況が悪いわね」


 右脚を庇うようにしながら、再び剣を構える。

 苦悶の表情は痛みからくるものだろうか。


「どうする……?」

「………………」


 俺が訊ねると、彼女はしばしの沈黙の後にこう言った。


「アンタは逃げなさい。突破口ぐらいは作ってみせるから」――と。


 それは、自分を見捨てろ、ということだった。

 俺はそれを聞いて――。


「行くわよ!」


 こちらの答えを聞くより先に、ミレイナはある一点目がけて駆け出した。

 そして、鈍い動きで剣を振るうのだ……。



◆◇◆



 ミレイナは痺れるような痛みに眉をひそめながら、それでも剣を振るった。

 自分のことは自分で守る。そう決めた彼女だが、それに他人を巻き込むのは別問題だった。まして、ここで彼――キーンを失っては、自分の名に傷がつく。

 だからここは、意地でも彼を生存させることを最優先しなければならないのだ。


「ったく、ふざけんじゃないわよ!」


 剣を振るいながら、少女は叫ぶ。

 元々を言えば、自分が挑発に乗ったのが始まりだった。

 あんな、中堅冒険者の提案なんて呑む必要はなかったのだから。それでも我慢ならなかったのも事実であり、それに乗ってしまった自分が愚かだった。


「ホントに、アタシは――」


 いつまで経っても、弱いままだ。

 そう口にしようとして、ミレイナは思いとどまる。

 そして目の前に開けた一筋の道を見て、ふっと息をついた。これだけの時間を稼いだのだから、キーンはきっと逃げ出せただろう、と。


 決して思い入れがあるわけではなかった。

 それでも、脚の治療について、彼女はキーンに義理があった。


「これで――」


 ひとまずは、目標は達成した、と。

 そう思って瞬間だけ、気を緩めた時だった。


「――――――!?」


 明らかな熱量が、自身に迫っていることに気付く。

 それは、おそらくドラゴン系の魔物が放った【ブレス】によるもの。直撃すれば、骨まで消し炭にされてしまう、恐ろしい攻撃だった。

 迫りくるそれに、しかしミレイナは身動きが取れない。


 彼女は思った――ここで終わりか、と。


 結局、自分は誰にも認められず。

 一人でこうやって死んでいくのだろう、と。


「ふ……」


 そこまで考えて、自嘲気味な笑みを浮かべ。

 『剣姫』と呼ばれた少女は、静かに終わりを受け入れた。



「え……?」



 だが、おかしい。

 いつまで経っても終わりは訪れない。

 それどころか、先ほどまでの熱量は消え失せていた。


「どういう――なっ!?」


 それを不思議に感じ、少女が目を開く。

 するとそこにあったのは――。



「キーン……!?」




 一人の少年が、杖を薙ぎ払ったように構えて。

 数多いる魔物に相対している姿だった。


 


次回の更新は19時頃!


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