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2.『剣姫』――そして。






「でも、俺なんかで良かったのか?」

「なにを今さら言ってるの。アタシが良いって言ったんだから、良いのよ」


 俺とミレイナはダンジョンに潜りながら、そんなやり取りをしていた。

 それというのも、突発的な出来事とはいえ、評判の悪い俺なんかとパーティーを組んで良かったのか、ということ。彼女の実力ならば、引く手は数多だろう。

 あの冒険者の挑発に乗らずとも、どこかで拾ってもらえたはずだ。


 そう考えたのだが、次に飛び出したミレイナの言葉に――。


「アンタ、アタシの引き立て役にはもってこいだからね。もの凄く弱い仲間がいても、高ランクの魔物を狩るなんて、伝説に残りそうじゃない?」

「………………」


 言葉を失った。

 今になって思い知らされた。

 このミレイナという最強冒険者たる少女が、どうして追放されたのかを。


「なに? なんか文句あるっていうの?」

「……いや、別に」


 じろりとこちらを睨みつけ、あからさまな怒りをみせる彼女。俺は苦笑いしつつも、感情を覚られないように顔を伏せ、そう漏らすように口にした。

 とりあえず、面倒になるのは嫌だ。

 そんなわけで、俺はひとまずミレイナの機嫌を取ることにする。


「それにしても、この街の最強冒険者が俺とそんなに歳の差がないなんてね。それにはすごく驚かされたよ。やっぱり、才能が違うのかな?」


 無難に、素直に彼女に対する評を述べた。

 すると意外な反応があり――。


「……まだまだ、よ」

「え……?」


 少しだけ、声のトーンを落として言うミレイナ。

 その表情はどこか真剣なもので、悲しげにも感じられた。


「アタシはもっと強くならないといけない。誰にも頼らずに、誰の力も借りずに――アタシという存在を世界に認めさせなくちゃいけないの」

「ミレイナ?」


 そんな少女の変化に、少しだけ戸惑う俺。

 しかし、自身の態度の変化に気が付いたのか、ミレイナはハッと顔を上げる。そして、首を軽く左右に振って歩き出した。


「忘れなさい。アンタには関係のない話だから」


 そう口にして。

 俺はやや急ぎ足でその背中を追った。

 隣に並んで、ミレイナの顔を覗き込む。するとそこには、どこか複雑そうな表情が依然として浮かんでいるように思われた。


 なにか、事情があるのだろうか。

 俺はそう思ったが、彼女の言葉の一部に引っ掛かりを覚えていた。


「誰にも頼らず、力も借りず――か」


 小声で、聞こえないように繰り返す。

 でも、それがどのような意味を持つのかは、まだ俺は知らなかった。





 ダンジョンは地下に潜るほどに強い魔物が現れる。

 いま、俺たちがいるのは上級冒険者が訪れるような下層部だ。本来なら二人で足を運ぶような場所ではない。しかし、ここにいるのはミレイナだ。

 彼女は『アンタにアタシの実力を見せてあげる』と言って、聞かなかった。

 俺の中にはまだ不安があったが、それでも仕方ないだろうと、それに同意した。そんなわけで、いま俺たちの目の前には……。


「さぁ、かかってきなさい! ――アークデイモンさん?」


 上級クラスの魔物――アークデイモンが五体。

 筋骨隆々なその肉体に、鉤爪のような手を鳴らしながら、その赤い双眸でこちらを見つめていた。ゆらりと浮遊するような足取りで、奴らは徐々に迫ってくる。


 対するミレイナは剣を構え、不敵に笑った。

 俺は後方で杖を持ち、念のための治癒魔法の準備。


「行くわ!」


 そして、息をついた瞬間だった。

 まるで風のように。ミレイナはアークデイモンへと距離を詰める。一息に剣を振り払い、その胴を切り裂いた。血が噴き出し、甲高い悲鳴が木霊する。


 ミレイナの勢いは止まらない。

 彼女はあたかも止まった時の中にいるかのような、滑らかな動きをみせた。

 そうして、一体、また一体と、アークデイモンを屠っていく。しかし血飛沫を浴びることはなく、まるで舞うように、踊るように。


「あぁ、そっか。ミレイナにはもう一つ、名前があったな」


 『剣姫』――まるで舞踏するかのように敵を倒していく。

 その姿を見て、他の冒険者はそう名付けたのだという。俺はいま、その名に相応しい戦いをただただ見つめていた。

 そして、最後のアークデイモンが倒れた時。

 ミレイナは剣を仕舞い、長い髪を宙に波打たせた。


「――――――」


 言葉はない。声もない。

 その戦いは美しい、その一言に尽きた。

 魔素へと還る魔物の光の中に、一人の少女が立っている。


「………………!」


 俺はそれを見て――。





「危ない!?」





 とっさに、そう声を上げた。



 


次回の更新は、明日の12時に予約投稿しておきますね。


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