5.それぞれの役割
遅くなりました。すみません<(_ _)>
「ちっ……! このドラゴン、いったいどうなってるのよ!? 皮膚が堅すぎて剣が効果ないじゃない! 逃げ場はないし、このままじゃジリ貧よ!!」
「たしかに、このままだと不味いな。どこか弱点を突ければ……」
「そんなこと言ったって……!」
俺とミレイナは一歩引きながら、そう言葉を交わす。
あまりに肥大化したそのドラゴンには、普通の攻撃は通用しなかった。ミレイナの剣技をもってしても、俺の腕力をもってしても、その分厚い鱗に弾かれる。
ともすれば弱点を突く、それしかない。
しかしながら、一般的にドラゴンの弱点とされる柔らかい腹部も同様だった。そして目玉などの部位を攻撃しようにも、隙がまるでない。
「せめて、少しでも時間を稼げれば……」
そうすれば、あの首を切り落とすことも可能かもしれなかった。
唯一、刃が通りそうなのが細い首だからだ。だがしかし、そこまで移動する時間を確保しなければならない。そうなってくると、先に相手の視界を奪う必要があって……。
「いくら考えても堂々巡り、か。ミレイナは、なにか策はあるか!」
「ないわ! ――ったく、そもそもどうしてこの階層に、こんなドラゴンが……」
ドラゴンの攻撃を回避しながら、ミレイナはそう悪態をついた。
まだそんな文句を口にする余裕はあるらしい。それでも、互いに決め手を欠くのが現状といえるだろう。そうなると、こちらが圧倒的に不利だった。
――どうにかしなければ。
そう思った瞬間だ。
「え……?」
ドラゴンが、悲鳴を上げながらもがき苦しみ始めた。
首を上下左右に振り回し、暴れている。俺は少しだけ呆気にとられるものの、すぐにその理由――射手の存在に気が付いた。
ヴァニア――あの少女が、切り立った崖の上からドラゴン目がけて矢を放っている。そして、それは狙い過たずに剥き出しの器官、すなわち眼球を捉える。
その矢が直撃するたび、のた打ち回るドラゴン。
「ヴァニア! ――大丈夫なのか!?」
俺は思わずそう声を上げた。
すると少女は、震えた声色でこう返す。
「む、無理です! これ以上は私には出来ません!! だから――」
その場から、目にも止まらぬ速度で移動しながら。
「私は、私に出来ることだけをします! 逃げ回って、隙を作りますから! あとはキーンさん、お任せします!!」
そう言った。
つまりは、自分が囮になるからトドメを刺せ、と。
臆病な彼女、足の速い彼女――姿を隠しながら逃げ続け、注意を引き付ける才能。それがきっと、彼女に備わっている冒険者としての力だったのだ。
そして今、ヴァニアはドラゴンの注意を引き付けつつ、しかしトドメにはならない範囲で牽制している。命のやり取りには至らない、絶妙な範囲で。
その姿に俺は思わず――。
「すごいよ、ヴァニアは……」
賞賛の言葉を送った。
それはまさしく、彼女にしか出来ないことだった。
臆病風に吹かされるからこそできる、最高の囮としての役割。
「それじゃ、決めますか!」
俺は強く大地を蹴った。
そして、注意が散漫になったドラゴンの頭部に肉薄し――。
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