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4.自分に出来ること。

ちょっと短め。






 ヴァニアの前に立ちふさがっていたのは、見上げることも疲れるほどに成長したドラゴンだ。俺はその間に割って入って剣を構える。

 すると不思議そうな声で、少女は俺に当たり前なことを問いかける。

 そして、それに答えるとまた目を丸くした。


「そんな、馬鹿げてます……!」


 次いで出たのは、そんな言葉。

 大粒の涙を流しながら、肩を震わせながら、ヴァニアは繰り返す。

 自分のしたことは許されることじゃないのに、と。逃げてごめんなさい、放っておいてくださいと、そう言いたげに俺の行動を否定した。


 だけど、俺には理解できない。

 何故なら――。


「まず、さ。逃げるって、そんなに悪いことか?」

「え……」


 この女の子が取った行動には、間違いがないと思えたから。


「まずは生き残ることを優先せよ――人間なんだから、生存本能があるのは当たり前だろ? 怖いなら、危険ならそれを避けるべきだし、不思議なことじゃない」

「それは、屁理屈ですよ……」


 冒険者の誓いを引用しながら意見を述べると、ヴァニアはうつむいた。


「結局、戦えないのなら意味がないじゃないですか。冒険者は強いから意味があるんですよ? ――お二人は強いから分からないかもしれないですけど、弱い人間はとにかく惨めなんです。足が速いだけ、弓が扱えるだけ、それじゃ駄目なんです」


 続けて己の弱さを吐露する。

 気が弱いこと、どうしても怖くなること。

 それらを欠点として『だけ』捉えて、思考の袋小路へと迷い込んでいた。だから俺は思ったことを口にする。それは決して、理解を示すではなく……。



「いいんじゃない? ――自分に出来ること、それだけやれば」



 本当に、当たり前のことだった。

 いよいよヴァニアは言葉を失って、ただただこちらを見つめる。


「私に、出来ること……?」

「俺よりも足が速くて、弓が使える。俺には出来ないことが出来る。俺はヴァニアにはなれないし、ヴァニアは俺の真似を出来ない。だったら――」


 考えると、自然に頬が綻んでいた。


「それを活かせばいい。無理なんて、誰もしてないんだからさ」



◆◇◆



『――無理なんて、誰もしてないんだからさ』


 ヴァニアは離れた位置から、キーンとミレイナの戦いを陰から見守っていた。

 不思議と逃げ出そうとは思わない。それでも、前に出ようとも思えない。そんな少女の頭の中にあるのは、先ほどの少年の一言だった。


「……私にできる、無理じゃないこと」


 繰り返し、考える。

 弓を握り締めて、深く息を吸いこみ吐き出す。

 自分は臆病だ。自分は、生き残りたいばかりの卑怯者だ。

 それだったら、それならば、そんな自分に出来る戦い方はなんなのか。ヴァニアは思考を巡らせて、やがて一つの結論に至った。


「………………キーン、さん」


 前方の二人を見る。

 ドラゴンに果敢に立ち向かう姿は、理想的な冒険者だった。

 そんな二人に、自分はなれない。それを知れただけで、十分だった。



「お手伝いします。どこまで、お役に立てるか分かりませんけど……!」





 自身を勇気づけるように頷いて。

 ヴァニアは、戦う二人とは異なる方向へと駆け出した。



 


次回の更新は、余裕があれば19時に!!

 →追記:更新は明日の昼になります(作者FGO周回のため(素直))

  →お詫び、本日休載でお願いします!(地元の野球応援)


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