第37話 最強バ家族の、今後。
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最終的にただのレマティア無双に見えたこの戦いの顛末であったが、あの強敵キマイラを倒すに至った要因はそれだけでは足らない。
『魔詛過剰』。彼女を苦しめていたその症状は、雄字が魔人化に抗った事で偶発的に起こった『魔炉のさらなる暴走による魔詛異常吸収』という現象が無ければ一時的とはいえ、解消されることはなかったらしい。でなければ、彼女本来の魔法行使を開放することだって、出来なかったはず。
その前段階で雄字の覚悟がキマイラに恐怖を植え付け、戦闘における思考力と機動力を奪い、行動の選択肢を大幅に狭めていた事も大きい。更には魔剣を体内にねじ込んだことで大幅かつ永続的という致命に等しいデバフを成功させてもいた。
そういった“封じ込め”がなければ流石のレマティアも『餓星崩誕』という、強力極まりないが、その代償として永い詠唱を必須とし、大きな隙をさらすことになる魔法を行使しながらの単独戦闘など、出来なかったはずなのだから。
そしてそんな雄字も、レマティアも、何度か諦めそうになり、死にかけ(もとい、殺しかけ)もしたが、助けられた場面が何度もあった。シンの半ばヤケクソでもあったが勇気ある行動(?)によってである。
三つの力。どれか一つでも欠けていたなら、この、勝利という結果は得られなかっただろう。まさに家族一丸というやつであった。
……と、半分は記憶が曖昧であったので、後でレマティアから聞いた話なのであるが、雄字はキマイラとの戦闘を振り返っていた。
振り返りながら、作業に没頭していた。
雄字は今、シンを守るための防具を作成しているのだった。
雄字は【中級道具作成】というスキルを身につけている。
戦いに明け暮れる日々の中、自分の中の何かが確実に削られていった。
連戦。削られる。連戦。削られながらも反対に当然として磨かれゆく強さ。またそれに反比例するように自身の中で芽生えてきえない無力感。そんな非日常が当たり前になってしまった日常を慰めようとして始めたのがこの、モノ作りであった。
こんな、後ろ向きなんだか前向きなんだかよく分からない動機ではじめたのだから、所詮は手慰み程度。手習い程度。という自重に自嘲を重ねつつも、性に合ったのか、元々そういった方面に才能が隠されていたのか、何気なくだが熱中していった。それがクセとなった頃にはスキルが生えていたのだ。
「まさかこのスキルがこんなトコで役に立つとはな……。」
まあ一応熟練の職人が持つと言われる中級スキルを所持している…と言っても、専門職の業……日々の精進の中で練磨して在るような腕前…などには勿論達していない。要点をおさえて『機能的には問題がない』ものが作れる……というだけで、その見た目にしても、細部に及ぶ気配りなども足らぬ所が多く見られる。つまり、飯の種になるような代物ではなく、洗練されたものでは全くない。
雄字は普段から、こういったスキル以外の要因で生まれる『差』、というものを重視している。同じレベルのスキルを持っていようが、明確に『差』というのは生じるものだと。スキルとは確かに便利で強力なものであるのは間違いないが、それだけを過信してはならない。この、雄字の道具作成の腕前がいい見本。
これは戦闘を専門とする者にもそのまま言えることだろう。
実際雄字が作成したその防具を本職が見れば、悪く言えば『これは十分使用に耐えるが、売り物としては不足』……と言われるレベルで、良い言い方をするなら『手作り感が溢れて味のある……』と言われるに留まる程度。当たり前だ。ただの『出来る』は『業』とは呼べない。
今、雄字は魔導倉庫にある予備の鎧の中で一番軽くて、上等で、状態の良い金属鎧を選んで引っ張り出し、解体し、その中で使えそうなパーツを、板金鋏やハンマーで切って叩いて形を整えていたところだった。
本当は火を使いたいところだ。だがそんな高温は生活空間では扱えないし、かといってレマティアの魔法で窯を作ってもらうことも、この迷宮では御法度。
この結界の樹界では長時間火を扱うことは禁忌であるのだ。この森に群生する超巨樹達。その中にはトレントが混生している。勿論普通のトレントとは訳が違う。超巨大なトレントである。奴らを怒らせては、厄介だ。レマティアの極大の火魔法や雄字の威力全開の火属性魔法剣で倒せないこともないが、倒しきるまでに時間がかかる。時間をかければ超巨樹を身体としたトレント達が群れ成して襲って来るのだ。この迷宮に転移されて野営をした初日に味わったあの悪夢のような逃走劇は中々のトラウマものだった。
今は岩場を見つけてはその場所をレマティアの土魔法で改造し、それを仮設住居としている。キマイラに壊されたあの部屋も、今作業しているこの部屋も、そうして創造されたものだった。
とにかくそういった訳で火は使えない。切って叩いて成形する他ない。この後には裏に吸湿および除湿および緩衝材代わりとして魔物の毛皮でも貼り付け(と言ってもその毛皮も素材としては最高レベル)それらパーツを身体に装着するための革ベルトを鋲で固定するのだが、
その前に。
実際に装備する者の身体に沿って合うものでなければ意味がない。雄字は形整えた自作の金属パーツを手にとって、
ゴロゴロゴロゴロ……ゴン。
岩で出来た戸をくぐり抜け別室に移動。シンの身体に当ててみる。
「ありゃ?これじゃまだ小さいか……。つか、また身体デカくなってんじゃねえか?……このバカ息子」
軽く悪態をついてみる。あのシンなら、即『バカ親父』と悪態で返して来そうなものだが、
「……まあ、また直しゃいいんだけどよ……。」
息子は答えなかった。
雄字は寂しげなため息を混じらせた独り言を言って、一方通行の会話を終了させる。作り直そうとまた作業場に移動しようとする雄字。その背に声がかけられた。
「防具はシンが起きてから作ってもいいんじゃない?きっとまだ……成長するだろうし。」
レマティアだ。その声に雄字は振り返らずに答えた。
「……確かにそうなんだがな。」
答えはしたが、胸中にある全部は話さない。
(それじゃあ、間に合わないかもしれねぇだろ。)
シンはキマイラ戦後、すぐに昏倒してしまった。そのまま昏睡状態が続いてもう5日目だ。そして、前に昏睡した時と同じく身体を成長させている。前回と違うのは、時々唸り声を上げ、時には目や鼻や耳や口から血のようなものまで垂れ流しての肉体再構築であること。
なのに排尿や排便はない。体中のありとあらゆるモノを無駄なく燃料、材料にして再構築に充てられているのか…。とにかく身体全体を酷使しての再構築であろうことだけは、解った。
そんな、『見るに見かねる』という状況であるのだが、どう工夫しても、以前昏睡した時と同じで食も水も受け付けようとせず、なのに身体は大きくなる一方。どういった仕組みでこうなっているのだろうか。あのレマティアですら解らないでいる。
雄字がレマティアの顔を見ないで答えたのは、レマティアの顔が泣き腫らしていることを知っていたからだ。それはそうだろう。愛する息子が昏睡している上、さらにおそらくはこの世にあらざる苦しみを訴えているのに、打てる手は全くの皆無。ただ指をくわえて見ているしかないというのは、親としてあまりにも辛すぎる。
そしてもう一つ。雄字が振り返らなかった理由。それは、シンに対しても合わせる顔が無かったからだった。我が子にシンと名付けたあの日、雄字は言った。
『お前はどんな道だって選べるんだ。好きに選んで突き進んでいい。ただ願わくば、人を好きで、いてくれ。人を可愛いと、思ってくれ。そんな想いだ。そんな想いがギュっと詰まった名前だ。シン。』
なんと軽はずみな言葉であったか。そう思う。
子を授かるという歓びに浮かれた心が言わせたのか。
それともこの状況で子を授かってしまったという重圧を忘れようとして言ったのか。多分、その両方。
言った言葉に嘘はない。親ならみんなそう思うであろう。そんな言葉であった。そうあって欲しいと、真から願って言った言葉であった。だが、冷静に考えて、そんな願望が許される時でも、場所でも無かったのだ。
一時的に解消された魔詛過剰は、あれから数日も待たずして発症し、今もレマティアを苦しめている。おそらくはその寿命までも蝕まれ、やがては……。
そしてあのキマイラアグリゲートとかいう魔物。あのような強力過ぎる魔物から今後も継続して妻と子を守り続けることは……果たして自分に可能であるのか?
答え合わせをするなら『不可能』だ。
頭の隅に去来しては封印するを繰り返していたが……
この状況は、ハッキリ言って、『詰んでいる。』
いや、『この森に転移させられた時点で既に詰んでいた。』と言うのが適切か……。
だが今、いや、今更な光明……見えてしまった。意地悪くも、今更。
シンの『心身における急激なる異常成長』が、そうだ。
この森の外ではきっと心配の種でしかなりえなかったであろうこの異常なる成長に、都合よく乗っかり、縋ろうとしている自分がいる。勿論迷ってもいた。父としてそれは、どうなのかと。だが……
『自分一人で妻と子を守る』のと、
『自分ともう一人、強化された息子とで協力してレマティアを守る』のとでは、
家族の生還率は極倍に上がるのだ。上がってしまうのだ。
そう、雄字はシンを戦士として、いや魔法使いでもいいが、戦える者……感情差し挟まず冷えた言い方をすれば……戦闘要員として今すぐにでも育てようと、もう既に決意している。
雄字はそれを自責しているのだ。
だからシンに合わせる顔がない。
防具を作っているのだって、シンの身を守るため……でも勿論あるのだが、本当は、シンを即席にでも『戦える者』にするためであるのが真相だ。
『間に合わない』という言葉を飲み込んで防具作成を急ぐのは、昏睡という苦しみからやっとの思いで帰還した我が子に、すぐ要請出来るようにする為だ。
『戦う宿命を背負う』ことを。
なんと身勝手な親であるのかと。自分が、憎くさえ、なる。
(だけどよ──。)
雄字は覚えていた。
シンは自分をこう読んだのだ。
『雄の字』と。
(俺のことをそう呼ぶのはあいつしかいねえ……なあ、そうなのか?シン。お前……“あいつ”なのか?なら、それなら………。)
『────助けて、欲しい。』
助けるとは思っても、助けて欲しいとは雄字は思ったことが無かった。この世界では──。なぜなら、
『情けは人の為ならず。』
人を助ける心を持ち、それを行動に移せる自身であって初めて、助けてくれる人が現れるものだと、雄字は信じてきたからだ。
この厳しい世界では、他者の生死に関わりすぎては命がいくつあっても、足らない。そういう風潮は確かにある。
だが、そんな世界に人外なる力を授けられ転移したなら……いや、だからこそだ。これは自分が人であり続けるためには忘れてはならない信条であるとし、自らを律して生きてきた。
だが、『彼』が相手なら、話は別だ。
遠慮なく送らせてもらう。心からの救援要請を。
「シン…シン?早く、起きて?また、聞かせて?あなたの声を。言葉を。もう、話せるんでしょ?話をしたいわ。沢山。たくさん……。母さんなら、大丈夫。全然平気よ?だから遠慮はいらないわ。だから……早く起きて。シン……。」
………ゴロゴロゴロ、ゴン
レマティアの我が子への問いかけ。
いつになく、いや初めて聞いたその弱りに弱りきった愛する妻の声を、背中越しに聞きながら、しかしそれでも慰めるということをせず、雄字は部屋をあとにした。
妻は…母は、待っている。愛する我が子の帰還を。
それは、父もだ。
父も待っていた。
いや、渇望していた。
子の覚醒を。
友との再会を。
馬鹿げていると思えるほど、向こう見ずで、それに耐えられる力と、絆の強さを持った愛すべき、この、素晴らしき家族。
自分にとっては唯一無二な『大切』となってしまったそれを生き延ばすためには、何が必要となる?なんでもいい、とにかく、打開となるナニかを。そう。自分は待って………………………………………………
(は……。)
雄字は心の中で、自嘲して笑う。
『ナニか』などと……。誤魔化しだ。今更の。
必要なモノは、もう、決まっている。
シンには、
なってもらわねばならない。
何に?
それは、
修羅。
そうでなければきっとこの森では生き残れない。
では、修羅を育てると言うなら、自分は何にならねばならないか……それも決まっている。
「鬼……だろうな。」
雄字はそう呟きながら、手に持つ鎚を振るった。
このような拙い道具作成とは話が違う。
シンを鍛える。
自身が唯一として得意とするこの、『戦いの業』を、生まれたばかりの息子に、叩いて焼き込むというのだ。
それをする者は鬼以外の何者でもないだろう。
どのような方法を選んでも、それが壮絶なものになるのは、もう解っているのだ。
舞い散る火花が去来させる苦い思い。
それを叩いて潰すようにして
雄字はまた鎚を振るった。
何度も。
第一部『異世界に生まれて』
第一章『生誕』完。
次章、『成長』。 つづく。
2章解禁まで少し時間を頂きます。
2章からシンくんメイン……?
まあ、結局いつも大変な目にあうのは決まってるんですが
やはり主人公!
活躍もします!
お楽しみに!
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