第32話 不遇w
宜しくお願いしますm(_ _)m
魔人化という混沌の中で、雄字がどのようにして抗い、戦っていたのか、その詳細を知りえるはずもなかったシンは、思った。
(えー!?電撃で正気戻しちゃった?どんだけ電撃に馴染んでんだよつかこの夫婦の在り方マジ怖い。引く。)
……全身を使って電撃を堪能しながら、『いや〜、やっぱコレがなきゃ始まんないよね♪』と親指立てて上機嫌な雄字が思わず連想される…。その姿は何故かというかやはりの全裸。なるほど、うん。確かに。怖いし引く。
「ユウジ!戻ってきたのね!?」
だが電撃がきっかけとはいえ、
『ウガ』とか『ウゴ』とかゴリ風言語しか使えなかったはずが
何気ない感じで「よう!シン」とシンに声を掛けてくれたあと、若き私服刑事の殉職寸前の絶叫に近い「なんじゃあコレ」。
この感じ。
シンとレマティアは反射して確信したものだ。
『ああコレ、雄字だわ』と。
よほど嬉しかったのか。
レマティアが叫びながら駆け寄ろうとするが
「いや待って待って母さん!まだちゃんと戻ったわけでないから!ホラ見た目!見た目だってやっぱ重要だしっ」
「あっ……そうよ、ね。」
『う〜ん。まあ、多分大丈夫だと思うけど、ここは、念のため。』シンにしてみれはそんな感じで言ったのだろう、母レマティアの寝着の裾を引っ張り制しておく。
勿論、そんなシンの発言は雄字にしてみれば不服。
「なにこのセガレ?そりゃあ流石にフルチンでバトルとか自分でも『どーかなー』って思ったけどっ!?命賭けて闘ったんだぜ?そんな親父に向かってそれはないだろう!?フルチンだって家族の為に戦ったと思えばこう……なんかこう、神々しい感じとかして…ホラっ」
そりゃあツッコミたくてしょうがなかったが。
今はその裸族スタイルについて言及しているわけではない。
シンの薄情に抗議しながら自らの功績を讃えつつ情に訴えたプレゼンをするのは……
まっ黒焦げに炭化してヒビ割れつつも、そのフォルムは依然、魔人化したままという、雄字である。
もはや、不審とかいう範疇からかなり逸脱している。シンが疑うのももっともである。今の雄字は『人類の敵そのもの』な見た目なのだから。
まあ雄字自身は自分の姿に気づいていないようだったが。
雄字が喋る度にひび割れが進む口から吐き出される黒いススが煙状に舞う。恐ろしいはずの見た目だが、パッパフと吐き出されるススを見ているとなんだか妙な愛嬌を感じ力が抜ける。
そう思いながらも、レマティアはシンに従い雄字の抗弁をとりあえず無視し、警戒した。
『それはそうだ』と。見た目だけで判断するのもなんだか薄情な気もするが、シンが言うことだって正しい。
油断してはならない。
魔人化が完了した者は邪悪に向けて知性も進化すると聞く。
雄字のアレはコチラを騙す演技であるやも、しれないのだから。
だから。
レマティアは、スッ…と手をかざす。
そして……
「えいっ」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「えナンデええええええええええ!?」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「ううわっ!……えええ、ちょっ…母さん…っ!…え〜…またー!?」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「アばばばばばばばばばばばばん!!」バリバリバリババリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「え?なにー?聞こえないわシン?もっと大きな声で!電撃の音とユウジの声がうるさくってー!」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「いや母さん……コレはちょっといくらなんでも!」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「オぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼお!!」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「え?あー…だって本来のユウジなのかどうか判断むずかしいじゃない?ってゆーかシンが発起人でしょ?」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「はあ!?『ほっきにん』て!?……イヤイヤ俺電撃とか一切お勧めしてないからね!?コレ母さん独断の電撃だからね!!?俺の関与しない電撃だからね!!?だってコレ、モノホンの雄字だったら流石に可哀想だしね!!!?」リバリバリバリバリバリバリババリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「うアこレやべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべべええええええ!!」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「えええ〜〜ヒドーい。シンに裏切られたー。しかもそんなちっちゃいクセに一人称が『俺』とかなんか生意気〜。」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「いや非常時の今そこを言及しちゃう!?……そりゃあ、そのヘンの謎とかは俺だってどこでどう話そうかって気にしちゃいるけど……ゴメン……今はこのままスルーしててくれないかな?……また落ち着いた時にちゃんとするつもりだからさ。俺も。」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「うーん。わかったわー!全くしょーがないわねー!うちの男共は!」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「あはは〜…………スマセン……(……おお。すげーなこのヒト……。つか、雄字もすまん!とりあえず耐えれ!)」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「イびびびびびびびびびびびびびびびびびびびビビビビビい!!!!」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「……ていうか母さん!」バリバリ「なにー!?」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「コレどうなったら本物の雄字だって判定されるワケ!?」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「っあ……。」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「はあ?ちょっと待て!今『っあ……。』って言った?母さん!?『っあ……。』ってソレ……マジかー……で?どうするつもりなの母さん?」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「……………………………………………。」バリバリハバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「イヤ聞こえないフリだよねソレ!?ねえどうするの母さんコレ!?」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「…………………………………………。」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「ぐうう。駄目だコノヒト。……………雄字スマン。ガンバレー。」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「オイイイイイイイイイイイカゲンニギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギイイウうえエエあああぁぁぁああバらバなはあああああーーーーーん!!」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「ああ…なんか叫び声がいよいよヤバイ感じに……。」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「……そうね……。」リバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「……ってやっぱ聞こえてんじゃん!?『……そうね……。』じゃないでしょもしかして引っ込みつかなくなってない?コレ多分ヤバイよ?マジヤバイヤツだよ!?もうハッキリ言っちゃうけど雄字死んじゃうよ?」バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリババリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ「…………………………………………………………………。」バリバリバリバリババリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバ「また黙っちゃった!?」リバリバリバリバリバリバリバリバリリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ
パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
「…あ……………………………………。」
まさかの展開。雄字は、
「…ぇ……………………は?………………。」
パアン!と、破裂した。
「「………………………………………」」
バラバラと飛んでくる雄字の破片が胸や肩や頬や頭頂に当たるのを感じながら呆然としていたレマティアとシンであったが、同時に我に返る。
『流石にこれは洒落にならない』と。
「「ユウジ(雄字)イイイイイイイイイ!!!」」
そして絶望。絶叫。
だがしかーーーーし。
「いてて……。なんなんだよマジヒデーよお前らよ〜~……」
「「ええええっ?」」
ドッコイ雄字は生きていた。奇跡的に。
……とゆーか。シンとレマティアがなんか驚いているが、ここまでの色々をここまで台無しにしといてそれはない。
もう台無しすぎて『奇跡的に』とかいう形容が勿体ない。
『勿論のこと』、雄字は、『当然にして』、生きてる。
あのガサツの神がこんな死に方、するはずないのである。
先程破裂して弾け飛んで見えたのは、雄字本来の身体表面を覆っていた魔人化部分、その残骸であったらしい。
めでたく脱皮?完了した雄字は元のスッポンポンなスタイルで健在を示し……いや、思いの外のダメージによる目眩を、頭を振ることで散らしながら、なんとか、倒れ伏さずに立っていた。ちなみに頭が振られる度にブラブラしている股関のアレは二人共見ないようにした。
他にも、頭髪がチリヂリになって逆立っていることとか、所々焦げたように肌が黒ずんでいたりとか、なんか耳穴からヤバそうな汁が漏れてたりとかそんな諸々も見なかったことにして、シンとレマティアは雄字の帰還に心底安堵するのであった。(……とゆーかズブッズブに真っクロな容疑者が棚からぼた餅的無罪をなんでか勝ち取ってしまった風に安堵した。)
……だがまだ終らない。
「うわ痛えええええええええ!なんっっっじゃあこりゃあああああああああああああああ!!!!!」
当然のように雄字の受難は続く。
そうである。
毎度毎度忘れてしまいそうになるがコチラもどっこいしぶとく生きてたキマイラアグリゲートさんなのである。
わりと究極生命体な感じで登場したはずの彼であるが、今も雄字の片腕を二の腕中程まで咥え込んだまま、グッタリ絶賛昏睡中である模様。
昏睡状態ではあるのだが『気が付けばガッツリ噛みつかれていた』雄字にしてみればたまったものではない。
どうやら雄字は噛みつかれてより前後の記憶がマルっと抜け落ちているようで、お得意の『覚悟』とか固める隙も与えられずの不意討ちであったこともあり、その激痛もヒトシオであるよう。
こうなると戦士としての心構えである常在戦場もへったくれも無い。そんな慌てよう、痛がりよう。
……なのであった。
…………ともかく。
色々な『残念』は否めないが……
まあ
否めないなりに?
この愛すべき漢は無事(?) 魔人化という超級困難からの生還を果たし、愛する家族の元に戻ってきた。ただ、
『…………なんか雄字、かわいそう』という視線を送らざるを得ないシンなのだった。
『あんなに頑張ったのにね(笑)』というやつだ。
これはつまり、
ヒーローには『不遇』というものがツキモノで……
………というお話。
『あんなに頑張ったのにね(笑)』
という『めちゃくちゃ頑張った見返りがささやかすぎる』場面がよく見られるのは
ヒーローもそうですが……両さんあとルパン三世w
特に顕著www
あの人達の場合は自業自得というアレな感じもしますが、宿命としてウン億ウン兆単位を稼ぎ出した瞬間破滅が約束されてて、
みんな思ってましたよね。
『あ〜あ〜ダメだよソレ稼ぎすぎだ。』と。
子供心に思いました。
『アレ全部これから失うのか。可哀想すぎる。
でも、というか、だから、……好きだ。』とも。
そして案の定のもとの黙阿弥状態を見て思う
『あーほら。言わんこっちゃない。』
そんな感じですかね。
古き良き不遇属性。