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第23話 妻で愛して覚悟は母で。

宜しくお願いしますm(_ _)m


レマティアは目を凝らし、見つめていた。


この魔の樹界が誇る超巨樹達の巨大な根が這いうねって天然でありながら、とても自然なものには見えない地面の凹凸。

それが妨げとなっていて、

元々視界は良好ではなかったし、

今は夜。

その上ある程度の距離が離れてしまっている。


その障害達と今結界に護られているという不自由を憎く思いながら、それでもレマティアは目を凝らし、見つめていた。


未だ詳細の全てを明かしてくれない、そのシルエットを。


レマティアは【望遠】や【千里眼】などの専門的なスキルを持ってはいなかったが、目に魔力を込め肉体活性を行使すればある程度は夜目も効くし、視るものの鮮明度も上げられる。

それでもやはり満足な鮮明さは得られないのだが、不鮮明は不鮮明なりに、徐々にだが、視えてきていた。


六本脚の巨獣の輪郭に果敢に立ち向かう二本足の輪郭。

それらが重なり合って蠢いている。

あれはキマイラアグリゲートと雄字が現在進行形で闘い、絡み合って生まれたシルエットだ。

両者もつれ合って次々に形が変わっていくシルエット。

あれは死闘のシルエット。

重なり合う二つの輪郭のうちそのどちらかはいつかは地に崩れ落ちることで分離する宿命(さだめ)

このシルエットの行く末は、どうなるのか?

……レマティアは見つめていた。


あの、世界を白と黒の魔力で埋め尽くすほどの総力戦。

結局、何が起こったのかは、、見えなかった。


しかし

死力を尽くしてなお、未だ戦闘が続いていることや、あのシルエットより大分手前の地面に所在無く突き立つ雄字の大剣など、可視可能な現状を前にしてしまえば解ることもある。


あの、空中での決戦。

どうやら、雄字は敗れた、らしい。

今雄字は、()()()剣を握っていない、らしい。

キマイラに弾かれたか何かして、どうやら剣を手放してしまった……まま、今は手に武器を持っていない、ようだ。

大地に刺さったまま()()()放置されたままの、あの大剣がその証拠だ。

死闘のシルエットにも剣らしい輪郭が振られる様子はうかがえない。


ということは今雄字は丸腰、どころか何も持たないただの全裸になってしまった、ということだ。



何故武器を()()しないのか……。



実際、元々の絶対絶命。

それが魔力が枯渇しかかっている現状、さらに追い込まれた形になっている、はずなのに。

何故かの更なる不利。無手。


その大劣勢を証明するかのように、先程は獣の如き絶叫で窮地を知らせてきた雄字であった、…はず、なのに、何故?


「ユウジ……」


まさかの事態……

   ……膝が崩折れたのだ。


崩折れたのは六本脚の方だ。

 


雄字は窮地を覆して、盛り返して、奮闘して、、

いや、アレは




蹂躙、している、のか?雄字が。




「ユウ……ジ?」



流石は…………、雄字。異世界から来た英雄。

流石は………、自分が唯一愛した男。

流石は……、我が夫。

流石は…、シンの父。

流石は、自分が信じた『優しい、最強』


やはり雄字こそが相応しい。かれこそは希望のシンボ……


 

 〈──おい、自分を誤魔化してんじゃねえぞ?〉



……ここに在るはずもない声。

聞こえた気がした。


 父の、声が。


父は自分以外には厳しい人であった。

それでいて自分は好き勝手生きてやるという気概に満ちていて、周りを振り回して当然としたその生き様は、常に周囲の人に理不尽を感じさせ、なのに結局許される、そんな人だった。


……だが今思えば、実のところあの父は、自分自身を誰よりも厳しく律していた人であったのかも知れない。

彼は誤魔化しが、大嫌いであった。

嘘はよくついていた。いたが、困難から逃げたり、自分を誤魔化すということだけは絶対にしなかった。

世界が無差別にばら撒く残酷すらも含めて、自身に降りかかる全てに対して『源は自分であるのだ。』と言い張って正面から対峙する。そんな覚悟を持って生きる人だった。



ああ、



無理と知っていても、

今、会いたい。

会って、教えて欲しい。 父さん……


父さん


雄字は今、戦ってるわ。

私達の為に。

でも多分負けそうだったの。多分死ぬはずだったわ。

でも、何故なの?

すごいのよ。

いつの間にか

勝てそうなの。

あんな、“厄介さ”で言うなら龍属にも匹敵するかも知れない、




 あんな『化物』に。




しかも、たった一人で。

でも……おかしいのよ。

だっ、て……

鎧もなく、剣もなく、素手…よ?

装備無し。

笑っちゃうくらい無防備なあの姿で…。

勝ってしまう………

だって、だって裸なのよ?


………………………


なのに今は、倒してしまいそうなのよ………一方的に。




 あんな、『化物』に。




あり得ないわよね?あり得ない……

だって、鎧も、手甲も、兜だって……、?……してないのに、

……おかしいわよ…おかしい…

兜も鎧もないのにあれは、角?…え、、

手甲もないのにあれ、……爪?なんであんな伸びて……、……鎧も、手甲も、兜もしてないのに………あれ、……私……


   あれ?

 

ねえ、


   

  父さん



    ………アレは、なに?




 〈──あの『化物』はお前の旦那だ。〉




 何言って………その逆よ。その『化物』を倒そうとしてるのが私の夫で雄……




 〈──アレはもう手遅れだ。だから、お前が、殺すんだ。〉




 何をっ……そん……イヤよ




 〈──二度は言わねえ。殺すんだ。そうだ。二度は言わねえ。何故ならお前はもう分かってるはずだからだ。そしてもう決めてん…〉




レマティアは目を閉じた。

あの厳しい父は、幻の中ですら、甘えさせてくれなかった。




レマティアはなおも目を閉じる。

閉じた後も目を閉じようとした。

それでも足りず、ギュッと、ギュゥゥっと目を閉じる。

美しい眉間と鼻先をクシャクシャに、苦悩の形にシワ寄せて、歪めて。

同時にその受け入れ難い幻の助言を、皆までは言わせず、瞼に込めたこの力みで、歪めてそのまま、封印してしまおうと…。




〈──なんだ。まだ決めてないのか?なら決断しろ。今。〉




何故だ。封印出来ない。

聞く耳を持つべき内容ではないのに。

なのに─

コレは、幻の父が言った通りだからか。

自分は……




自分はもう、決めた


     ……?……


  のか?


        何を…?



暗闇の中解き明かしたくないその答えを危うく見つけてしまいそうになり、今度はあわてて目を開く。

目を開いても、その目の輪郭は歪んだまま。

『今の心』という題名の荒涼なる風景画を飾るならその額縁に相応しくレマティアの目の輪郭は歪んでしまった。


その歪んだ眼には、これもまた相応しく視界も歪んでしまって正常に映らない。涙など、溢れてないにも関わらず。


そう。瞳も。

    視界も。

      心も。

 今、自分は正常ではない。全てが…

  歪んで、歪んで、世界ごと全てが、丸ごと、歪んでいて……、


なのに─


 何故。今。


─残酷─


このタイミングで


  目が合ってしまう?


遠くに在るはずの、


  雄字の


あの、



   赤い 眼と。

 


あれは、赤くとも、雄字の目で、あるはずだ。


なのに、なぜこうも産毛が逆立つのか。

あれは、雄字の目であるはずなのに。

アレは、そう。

アレは自分にとっての希望の…シンボル。

その、雄字の目である筈なのに。

なぜこうも自分は無意識にも無機質な隔意を、敵意?を、返してしまうのか。


あの目は本当に雄字の目であるのか。

雄字からあのような眼差しを、向けられた覚えは、ない。

だか、何故だろう、覚えが在る。あの眼差しに……

あの目は……見慣れたモノでも、あったから。

何度となく対峙してきた、眼差しであったから。


アレは、

獲物を見つけた目だ。

見つけた瞬間にはもう、口内に溜まる予定の物を空想することに余念がない。そんな目だ。

血と肉。

それらを咀嚼し啜りあげて味わい尽くす空想を楽しむ目。

そんな、目……


アレは、今まで何度となく向けられてきた眼差し。

自分に向けられる度に、当然として即、滅ぼしてきた眼差し。


そう。



あれは、





   『魔物が、獲物に向ける眼差し。』





それを何故だ。何故雄字が自分に向ける?自分とシンに─?



見てはならない見てはいけない見てはいけなかったもう見たくない──!




くしゃり




アレには希望の欠片もないアレには雄字の何も残っていないアレにはもう──絶望、しか……




レマティアは今一度苦悩の形にシワ寄せ、目を閉じる。強く。

今一度の拒絶。




 〈──目を、反らすな。決断しろ─〉




      だが許されなかった。




やめて!聞きたくない!そうよ分かってる!

目を閉じれば逃げられるというものではもはや無いことも。

──アレハ魔人化〈──やっぱ分かってんじゃねぇか。〉

聞こえてしまうこの忌々しい助言だってきっと、きっと自分を言い聞かせるために自分で──!

この世界で生き抜くなら!現実であるなら!絶望ですら迎え撃たなくてはならない!そんなことは分かってる!

分かってるの!分かってても……っ─でも─父さん、、もう、言わな……。




  ───助けてよ……




〈──息子はどうなる?〉

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!



ズタズタに引き裂かれるような想い。

耐えられず、誰にも知られず、迸らせた慟哭。心の声。





「ユウジイィィィィィィィィィィィィ!!!!」





誰にも知られない孤独に耐えられなかった心が、

その慟哭を絶叫へとカタチ整え、世界に向けて問い投げ掛ける。


その内容はシンプルにただ一つだけ、「ユウジ」と。


これで十分に解ってくれるはずだ。

自分にとってこれ以上に万の意味と同義する言葉はない。

万感込めた救援要請。


しかし……。




世界は答えない。当たり前だが。

奇跡など起こらない。それが当たり前だ。




世界にただ一人残されたような孤独に心を蝕まれながら、

『ただ一人ではない。シンがいる。』という僥倖なる重責に押し潰されそうになりながら、


その母は愛する人に初めて抱かれたあの日、想ったいくつかを

『もう離れない。』

『もし死ぬなら、その時は一緒がいい。』

その言葉達を、静かに握りつぶす。


その行為はかつて夫だった者へ手向ける予めの献花のつもりだったのかもしれない。

何故予めかというと、




彼女は、これから、


       彼を『殺す』からだ。




殺した後に何を慰みとして贈ろうとそれはただの言い訳になってしまうから。だから。


(雄字)には

父の覚悟があるように、


(レマティア)には






母の覚悟があった。







そう、“やることは、決まってしまった。”のだ。







その前に、



「シン、目を、閉じてなさ……」



母が父を殺す残酷な現場を見せるわけにはいかないと、愛する我が子、シンへと顔を向け…………
























    え?




















     あ……













   …………いない。















    シンが。え………














 この結界は強力だ。


 そして狭い。


 だから。


 何処にもいけないはず。


 視界から消えるなんてことあるはず、ない。




 そのはずなのに…………。






















 シンは……あれ?


       なぜ居ないのか。














レマティアは視線をさまよわす。


















     












    あ。



















      いた。























   シンは、

















  走っている。


 彼が向かう先には、変わり果てた雄字の、姿。





















   シン、大爆走。

























走る。シン。走る。



キマイラアグリゲートとセットで魔物な感じのアレになった魔人版ユウジに向けて、、、…………………………………………、、、……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、?……………………………………………………………………………………………………って






   はああ??






「ウソでしょおおおおおおおおおおお!!???」






レマティアのこの絶叫にも、

   

    世界は、やはり、応えてくれるはずもない。





  しかし





レマティアの、苦悩。

 誰にも 

   気づかれていないわけが、

            なかった。



子というものは、親の全てに敏感だ。

  

   

   気づいていた。



        シンだけは。



今ここ。この瞬間に始まる。


  雄字、レマティア、そしてシン。


   彼ら、一家の正念場。


  さあ。




    ………奇跡よ……



        

 

         起きるか。

      



レマティアも人の子であったのだった。

な話。


次回!

いよいよシン、動く!


………わちゃわちゃと。


っていうことで、どういうことで?とにかく、

明日土曜日は2話投稿します!


1投目は昼13時!

2投目は夜17時!

宜しくお願いしますm(_ _)m

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