表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/38

第22話 父の事情とバーサーク

宜しくお願いしますm(_ _)m


神崎流という、剣の流派がある。


この異世界にとっての異世界剣術。

すなわち地球、日本……のとある町の隅で細々と営まれる、とある町道場に伝わる古流の剣術だ。

というか、ある意味で細々とは真逆で、ある意味細々すぎる。


町道場なのに

敷地面積が森林公園と呼んでいいくらいに広大で立派過ぎる門構え。

その管理維持のためなのか美男とか美女とか女将風な老婆とか執事風な老紳士とか和風モダンな美幼女(合法?)とかどう見ても外国籍な美幼年(合法??)とか全身タトゥーの虚無僧風な人(これは完全にアウト)とか多彩過ぎるお手伝いさんを十数人も雇っていて(というかお手伝いさんだとかいう無理があり過ぎるその設定を頑なに守っていて)

なのに総帥(そうし)以外の門下生はその総帥の孫一人という………

というわけでどのようにして経営が成り立っているのか?

………などという疑問は基本過ぎてスルーされてしまうレベル。

どれくらい昔からあの大森林のような町道場はあるのか?

つか門と塀以外建物らしきものが見えないんだけど本当に森じゃないのか?

あの異才過ぎて万能過ぎて一騎当千なお手伝いさん達はどのようにして集められたのか?


一切が謎に包まれているので、ご近所には胡散臭い、を通り越して気味悪い、怖い、と敬遠する人もごく少数だが、いる。

……いるが、その総帥なる老人がくだけた人柄の持ち主で

なのに荒事に滅法強く、

それでいておそろしく博識、

なおかつ人脈も恐ろしいほど多岐に渡り、

しかもそのどれもの分野で深部高度に至って顔が効く

というので概ねは頼りにされていて、もはや街のなんでも相談所か何かだと勘違いしてる人がいたりするほどだ。しかも多数。







というのは仮の姿。仮の名前。







この流派、真の名を『神裂流(かんざきりゅう)』という。


真の姿は、古流というより古代の剣術。

この流派はいつを起源とするかも忘れられるほど大昔からあるらしい。

そして時代遅れにも一子相伝かつ口伝という機密主義。

弟子が孫しかいないのはそのためだ。(その孫というのが雄字なわけだが。)


町道場というのは形だけだ。まぁバレバレなのだが。

というか町道場だと認識している人は殆どいない。

そして、

コチラはバレていないが、『祓い屋』というのが、本業だ。


ピンとくる方もいるだろうが、祓うといえばその対象は勿論、怨霊や妖怪や怪物や化物などの神秘系統(モノノケ)である。

人の枠どころか世の理から外れたモノたち全般。

裏の世界で『或れ神(あれがみ)(荒神)』と総称され表世界にはその存在を秘匿された者達だ。

ソレら或れ神の中でも世に害をなす者達を斬る流派。

『神を裂く流派』と書いてカンザキ流なる所以である。

実は国の保護下、そういった裏世界専門のバウンティハンターを家業とする人外一門というのは数多く有って、神裂流はその中の一つであるらしく、かなり高名でもあるらしい。



そうしたたった二人の剣士だけで体裁を保つ町道場(というか保つとかもはや無理なので完全に開き直っているだけなのだが)、その奥深くに有る稽古場でなにやらガガガガンと何かが打ち合わされる硬い音が鳴り響いていた。


鋼の如き筋肉で道着と黒光りする肌がはちきれそうになっている白髪ポニーテールの老人と、青い髪をした獣を思わせるしなやかさと強靭さを感じさせる体躯をした野生美溢れる青年。


神裂流総帥、神崎龍路(りゅうじ)とその孫であり、一番弟子にしてたった一人の弟子でもある、雄字だ。

二人は木刀を手に取り間断なく打ち合っていた。


その一定のリズムだった打撃音が、突然に変調する。

龍路が技を使ったのだ。


神裂流ニの型。


十まで数えて在る神裂流奥義の二つ目、それを発展させた技。

と言っても放つ殺気に緩急をつけるだけのフェイント

……なのだが、原理は簡単なようでいて恐ろしい技だ。

雄字はこの技に対して苦手意識を持っていた。

突然叩きつけられては即座に消える膨大過ぎる殺気。

断続する殺気と気殺のあまりにあまりの落差に肉体が反射して翻弄され、脳は簡単に騙され勝手にただのフェイントである筈のそれに像を結んでしまうのだ。

雄字の目の前には龍路の実像と全く見分けがつかない分身が展開される。それも沢山。

龍路と瓜二つの分身を誤認して攻撃しようと剣を振れば空振り

龍路と瓜二つの分身を誤認して防御しようと剣を振れば空振る。

攻撃するにせよ防御するにせよ対するは自分が生まれる遥か前から達人魔人の名を欲しいままにしてきた御老怪だ。

それなりの圧力を剣に込めなければ通らないし、いなせない。

それが空振れば自然、身体が泳いでしまう。

そんなスキを見逃してくれるはずもなく、遠慮なく打ち据えられる。

打たれれば皮膚や肉が裂け骨は折れ……るはずだが

どうやっているのか解らないがそんな重傷にはならず、どころか傷一つ、あざ一つつかない。

その重傷に見合う痛みだけを身体に刻まれるという不思議で無限な親切地獄。これが神裂流のいつもの稽古風景だ。


「ホウ。ホウホウ。精神の力がかなり上がっておるのお。」


以前ならこれ程打たれればあまりの痛みに泡を吹いてぶっ倒れていたはずが今は耐えれている。それを感心されているのだろうが……。


「というよりよくこの痛みに耐えてられるのお!?」


珍しくもこのクソおジジが褒めた?と警戒すれば


「打ち据えるこっちが気持ち悪くなるわ。なにその粘着質。……気持ち悪いぞお主。」


このクソおジジが褒めるだけで終わるはずもなかった。

その平常運転に腹立ちながらも納得しつつ応戦に励む。


「肉体も精神も基本は万全……通り越して完璧……否、化物じみて身につけたようじゃが……その使い方があまりに未熟、下手すぎじゃわい」


だが応戦虚しく打ち据えられる。


「下手だから飲み込まれる。些細なキッカケで暴走するのじゃよ。」


打ち据えながら心配顔をする理不尽なクソおジジが本当に腹立たしい。


「それよりお主…………いい加減戻らなければ………もう戻れなくなるぞ?」


戻る?……?………どこに?


「そうなりゃあのレマティアちゃんやシンちゃんなどは…………。」


はあ?なんで地球にいるはずなこのクソおジジが異世界のこと知って………ん?

とさすがのガサツ大臣たる雄字もことの異常さに気がついた。


「ちょっと待て!なんで俺地球にいるんだ?さっきまで魔物と戦って………つか、ここ、本当はどこだよ……え?つか、あんたも()()なんだ?」


いとも容易く混乱する孫を残念そうに見やりながら龍路は答えた。


「心配せんでもお主は今も異世界におるし、そして今この時もきまいらあぐりげーととかいうあの或れ神とオートで絶賛戦闘中じゃ。

そんでワシは何者かと言えば、お主が心の中に生み出した幻影で、ちなみにこの精神世界にお主が来たのはこれでもう4回目じゃぞ?」


は?オートって何?幻影?精神世界?4回目?

最初は訳が解らないでいたが質問し直そうとする前に思い出す。


ここを訪れたという、前の3回を。

思い出した雄字はその重大さに遅れて呻いた。



「…………ということは俺……、……また、魔人化したのか。」



分身とか作る前から元々その存在自体が幻だったというオチ……基い幻影であるらしい龍路がその呻きに答えてくれた。 



「そういうことじゃ。」




ーーーーーーー




雄字の腕に牙を食い込ませたままキマイラアグリゲートはソレを前に茫然としていた。


「アァァァ、アアァァァァウゥぅぅぅーー………」


雄字の口から放たれたその声は幼生が産まれ初めて発した声であるように儚くか細い。

しかしその声はこのキマイラアグリゲートをして世界の終わりを告げられているような不吉を感じてしまう、そんな魔性をはらんでいた。

その不吉を証明するように血走った赤で隙間なく染められた双眼がギョロギョロと左右非対照に蠢いている。

見えているのか、いないのか。

不揃いに動くその眼が探す相手が自分でないことを、キマイラアグリゲートは自分勝手にも切に願った。

そしてようやく思い出す。

くわえこんで口の中に在る目の前の敵の腕の存在を。

その腕から感じる体温が、天井知らずに急上昇していくのを感じたからだ。

その熱が原因であるのか、雄字の肌が血走らせた双眼に負けず劣らずの赤に染められていく。

その灼熱に耐えられないのか、苦悶に歪んだままの形で限界まで開いてなお開こうとする雄字の口端はミリミリと裂けていく。

ついにはバツンと音を立ててその顔の面積に不釣り合いなほどの大きさで弾かれたように開かれる口。

その反動で唇がズルリと歯茎の全てを露わにしてめくれあがる。

その口の中にあった歯は総てが鋭く長く、牙と呼んで相応しいものに変異して生え揃っており、鈍くも生々しい黄色に濡れ光っていた。


キマイラアグリゲートはその、雄字が変異していく様をただ感知することしか出来ないでいた。

狂化はまだ解けていない。

ただ狂気に飲まれたまま、

キマイラアグリゲートは恐怖にも飲まれていた。

いや、あまりの恐怖にさらされ、狂気を手放せずにいたのか。

そのようにして狂気と恐怖のタガがぶつかり合う拮抗で動けずにいたキマイラアグリゲートだったが、

半覚醒をもどかしくしながら、思い出す。


危険。


回避セネバ。

距離ヲ取ッテ。

ソノママ、


 ソウダ。 逃ゲヨウ。


モハヤ、コノ()()ハ、手ニ負エナイ。

ソウダ。何故、逃ゲズニ戦ッテイタノカ。自分ハ。

逃ゲナケレバ。

アアソウダ。

ソノ前ニコノ咬ミ込ンダ敵丿腕。

放サナケレバ。

放シテ。逃ゲナケレ……




………バ。




思い立った時にはもう遅かった。

大口を開けて雄字を開放しようとしたが、その雄字が、解放してくれなかったのだ。

口の中でトグロを巻いていたキマイラアグリゲートの舌を、雄字が掴み、離さない。

その力は先程までの消耗は何だったのかと思うほどに強く、ビクともしない。

ならば、とキマイラアグリゲートはその腕を噛み千切ることで逃れようとするも、


ガギン!


何故かの金属音が鳴り響く。


先程まで牙が食い込んでいたのが嘘であったかのように歯が立たない。

生物の肉としてはあり得ない堅い感触に、牙が跳ね返されてしまった。


気づけばキマイラアグリゲートの鋭敏過ぎる感知が追いつけない程の変貌がそこにあった。


雄字の肌は灼熱の赤を基調とした鱗のようなもので覆われていた。先程自慢の牙を肉に通さなかったのはこれが原因であるのだろう。

そして頭部からは不揃いに捻じれて生え伸びる禍々しい、3本の角。

いや、3本だけでも、頭部だけでもない。肩や肘や膝にも同様のものが生えている。

この森に住む二足歩行の中にはこのような者は居なかった。

このような魔物がいたのか。

見たこともない。

おぞ気に震えるキマイラアグリゲートは咄嗟に感知した。

自身の口内にある腕の(つがい)である自由なもう一本がゆっくりと振り上げられるのを。

その腕の末端、五本の指先にはこれもまた禍々しく歪に尖る爪が生えているのを。


「バあアハアアァァァアああアアアアア!」


雄字の大きく裂けた口から血生臭い呼気が長く漏れ出すのを感知し、

その呼気が沸点を超えた血液を思わす赤黒い魔力蒸気であることを感知し、

それら脅威を十分に感知したキマイラアグリゲートが十ニ分に畏怖したことを確かめたのか、

ランランとして赤く光る雄字の両眼が細く三日月を型取ったのを感知し、

それが残忍な笑みであることを理解し、

そして満を持してと自身に振り降ろされる爪を感知して、

避けることが叶わないそれを受ける瞬間、

キマイラアグリゲートは感知した。



   自身の肉が、爆ぜるのを。




ーーーーーーー




「『ミイラ取りがミイラに』か……全く……っ。異世界というのは恐ろしいのう。まさか神裂流の使い手を或れ神に変質させてしまうとはの。いや、この場合は神裂流の使い手だから………かの。」



そんな龍路の言葉を遠くに聞きながら、雄字は考えていた。

神裂流の本質、それはもはや、剣技と呼べるものではないのかもしれない……


『心技体』という言葉がある。


所と人が変わればその解釈も若干かわるが概ねは

『心と技と肉体はそれぞれ密接な関係が有るからして、どれか一つでも欠いた状態では人は真の力を発揮出来ない。』という意味で使われることが多い。

つまりこれは、『人である』ことを前提として語られる言葉だ。


しかし神裂流は違う。


『真の力と言っても、人知を超えないのならば高が知れている。まずは(わざ)を以ってして精神と肉体のタガを外せ。そして限界を超えろ。人を辞めて人を超えなければ人外である或れ神になど勝てるわけが無い。』という乱暴この上ない解釈の元、練り上げられてきた剣術が神裂流だ。


上記に則り簡単に説明してしまえば

神裂流奥義一の型とは、

業を以ってその身に眠る力を暴走させ肉体の限界を超えるという奥義だ。

次のニの型とは、その肉体の暴走に引き摺られ歯止めが効かなくなった精神を無理矢理強化し、自分自身の制御を取り戻す。

……と同時に精神の限界をもついでに超えるという奥義。

 

では三の型とは?大層な代わり映えはない。

ニの型により制御出来たはずの精神と肉体をあえて、更なる力を引き出すために暴走させる暴挙、もとい、奥義である。

これもニの型の強化版である四の型で鎮める……

……というのが、神裂流奥義の一連の流れだ。


奇数の型での肉体暴走。

偶数の型での精神無理矢理増強。

そしてやっとの思いで制御する。

その繰り返し。

つまりは節操なくリスクを払って強化に強化を重ね続け限界を超え続けるというのが神裂流の奥義の正体だ。


神裂流奥義に十の型までしか数えられないのも、伝えようにもこのような、自然に対する冒涜とも言える暴……奥義は、永い神裂流の歴史上でも十段階までが発動限界であっただけのこと。


……あまりにあまりの脳筋設計。

で、あるが、奇数の型の助けもあって雄字はあのキマイラアグリゲートのステータスに対抗出来たわけであるし

偶数の型はあの常軌を逸した覚悟を固める過程で一部役立ったわけなのであるが。


口伝が基本なので風化著しく今となっては正体不明となってしまった御開祖様であるが、一体、どのような人物であったのか?


実際、人間であったのかも疑わしい。


実際、その御開祖様の“血”には覗いてはいけない秘密が見え隠れするからだ。


神裂流が親族以外に弟子をとらず一子相伝なのも、神崎家の血縁者にしか奥義を発動出来なかったからで

その血縁者の中で一人だけに絞りこんで剣を教えるのも、この剣術が秘める力が強大すぎて、その強大さに相応しく危ういものであるからだ。暴走そる力に精神が引き摺られ力に魅入られるということは、やはりあった。

二人以上弟子を取れば、その力に魅入られたどちらかによって無用な諍いを必ず呼ぶことになる…過去には一族の掟を軽んじ弟子二人に剣を教えるという過ちを侵したことで血で血を洗う闘争が勃発したこともあるらしい。


神崎家の歴史は常に“物騒”という赤いニ文字で彩られている。


そんな神崎家に生まれた宿命であるのか、雄字はこの異世界に転移してしまった。宿命という言葉で片付けるのは、何が理由で転移したのか、その真相は未だ不明なままだからだ。


転移してのち、神裂流奥義を発動して雄字は絶句する。

ただでさえ強力だったその力に魔力が加わることにより、その力は強力過ぎるものになってしまっていた。制御不能な程に。


神裂流とこの異世界に存在する魔力という力は、相性が良すぎたのだ。いや、悪過ぎたと言うべきか……。


肉体や精神の暴走までは制御出来ていたのだ。


しかし、それに伴って起こる『魔力の暴走』は、全くの別物。


そう、全く制御出来ない恐るべき力……。

その力を使う度に感じるのは、禁忌。

『まるで自分が自分でなくなるような』という表現があるが、そんなものでは無い。生ヌルい。

『まるで、今までの自分とは全く違う生物に変身してしまうような』と表現するのが正しい。


この強化され過ぎた神裂流の発動結果と似ている点が多いことから、雄字なりに文献などからこれは『魔人化』という現象であるのかも知れない、と調べてみたのだが、それは恐ろしいものだった。先程の表現が比喩などでは無くなってしまうのだ。つまり、


 人間が、魔物の如く『進化』する現象。

それが、この『魔人化』の正体だった。


この世界には『魔詛(まそ)』というものがある。

この世界に漢字はない、というより地球にあるどの言語ともおそらく違う。

だが何故か転移直後には、すでに読み書きは出来ていた。

その異世界版語彙力を以って漢字に興すなら

マソは魔素ではなく、魔詛。

この単語は『魔の元素』ではなく、『魔の(呪い)』だと意味を解釈して理解するのが正しいらしい。

本来、生命にとっては毒にも等しい、この世界特有の大気成分である『魔詛』。

その毒に適応する過程でこの世界の生命体は体内に『魔炉』という器官を作り出すことで生き永らえたという説がある。

この世界の生物はその『魔炉』という器官を使って、魔詛を吸収し『魔力』というものを生成するようになったらしい。


どういうメカニズムでそうなるのかはいまだ解明されていないらしいが、この世界では斃された者の魔力は空気中で魔詛に分解され、斃した者に吸収されるようになっている。


その際には『魔炉』が強化され、魔力が強化され、肉体までもが強化される。

そうしてステータスの強化、つまりはレベルアップという現象が起こるのだ。

つまりレベルアップとは、『魔炉』の成長により起こる現象であるらしい。

皮肉過ぎたことに、このレベルアップという現象は人が魔物を斃す、もしくは魔物か人を斃すことだけで起こるのてはなく、人対人、魔物対魔物でも起こる。


『魔の(呪い)』とは良く言ったものだ。


やはりこの世界は呪われている。

なにせ、この異世界の祝福とは『殺し合え』と同義であるのだから。


話を『魔人化』に戻すが、

何らかの原因で魔力暴走が起こった場合、脆弱な存在である人間は死に至るのが殆どであるのだが、時に例外とも言える強者に至っては『魔炉』を成長させるどころか、無理矢理『進化』させることで生き延びた者もいたらしい。


だが、先に述べた通り、本来『進化』と呼べる現象は、魔物特有のものであるはずだ。それを人間が受け入れてしまえばどうなるのか、悪い結果が待ち受けるのは想像に難くない。


『進化』を受け入れた結果、

その人間は魔物の如き邪悪に向けてその肉体と精神を変質させてしまったらしい。それが、『魔人化』だ。


雄字は今回を除いて、今まで三度、魔人化したことがある。

いや『しかけた』というのが正しいか。

神裂流奥義を発動したことで魔力が暴走し、肉体と精神も歪に向けて暴走し続けた。

その際、何の力がどのようにして影響したのか解らないが雄字の自我はこの『精神世界』と龍路が呼ぶ場所を作り出しその中に避難することで事なきを得てきた、らしい。

……らしい。というのは、

(やはりこれも、どういう理屈でそうなるのか解らないが)

この精神世界から『外』の世界に戻る度に、雄字はこの精神世界のことを忘れていたらしいのだ。

そしてこの精神世界に舞い戻る度にそのことを思い出す。

そんな仕組みであるらしい。


(余談としてナビゲーターが最愛の妻レマティアではなく最悪の祖父龍路であるのは最高に皮肉が効いた仕様だと思ってしまう雄字なのであった。)


……ともかく、だから、先程気づけたのだ。この精神世界に自分がいるということは、今、自分は魔人化の真っ最中であるのではないかと。


「なあじいちゃん。『外』が今どうなっているか、分かるか?」


雄字のその問いに対して珍しくも言い難そうにして龍路の幻影は答えた。


「……うーむ。ワシにも解らんよ。『外』が今どうなっているのかはな。そもそもワシってお主が作り出した幻影じゃよ?お主が知らぬモノを知り得るはずもない。」


『そうなのか。……ってじゃあ何の為のナビゲーターだよ?』とノリツッコミしたい気持ちを必死で抑え込む雄字なのであった。


「……ただ感覚的に解ることもある。今回の“まじんか”はじゃな。……うーむ今までと違うぞ?多分全くの別モンじゃ。今回のは、不味い。……あのきまいらあぐりげーととかいう或れ神はおそらく倒せるんじゃろうが………。」


雄字はこの上なく不吉を感じた。

雄字が知る龍路は性悪極めた怪老ではあったが、果断の人でもあった。

自分が作り出した幻影であるとはいえ、いや、だからこそ、このように言い淀むということは考えられないことだったからだ。


「なんだよ……らしくねーな。随分と歯切れの悪い……。」


雄字はその不吉に耐えきれず聞き直した。

それに応える龍路の声はやはり、重く。


「……うーむ。レマティアちゃんとシンちゃんの命の話じゃよ。このままでは、、うーむ……。」


ぐ。言え。早く。


「“まじんか”が進んでトチ狂ったお主に殺さ…「それを早く言えぇ!!」」


雄字は声を張り上げながら思った。

今ならこのクソジジイ倒せるんじゃねーかと。

それ程に力の高まりを要する危機が、知らず目前に迫っていたのだ。



というわけでキマイラよりヤバイの登場。

その名も魔人、ユウジ。


魔力とか。

わけわからない上に、なんらかの現象を物理法則ぶっこ抜きで引き起こす以上、相当なエネルギーなはずですから。

使いこなしに不備があったら必ず致命的不具合があって当たり前だと思います。


だから雄字くんが変身しちゃうなんていきなりも、あると思います。

次回。

キマイラがしつこいんで家族問題はとりあえず雄字の魔人化の方にシフト。

レマティア離婚の危機。シンくんの親権はどちらに?

転生早々色々大変だなシンくん。頑張れ。


スミマセンm(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ