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第19話 激突!覚悟と狂気(2)





時間は遡る。刹那の前に。



敵により振り落とされ迫る鉄塊を見た瞬間、キマイラアグリゲートはかつて感じたことのないおぞ気に、身をブルリと震わした。

狂える本能が命ずるままにその時放ちうる全魔力を、原型を留めていた2本の腕に注ぎ込み、計6本の爪に集約、闇の魔力が凝縮された爪撃を解き放つ。


三条に並ぶ黒い三日月状の爪撃。その上からさらに✕字に交差して三条の三日月。


自身の前に指定して固定。防御のために展開する。


火力なら火。次に風

速度なら光、次に風。

汎用性なら水、次に風。

硬さなら土。


でら闇は?闇の属性の魔力にはどのような特性があるのか。


それは、広大な範囲性能、停滞性、侵食性。


速度はゼロに等しい。


闇の凶酸を吐き出す際、目にも止まらぬ程の速さで触手を振るのもそのためだ。

速度なき闇魔力に無理矢理速度を乗せるには多大なる魔力の消費を要する。

その多大なる消費を節約するために触手を振る。

魔力によって加速させるのではなく、触手を振ることによって物理的な加速を闇魔力に付与して射出しているのが、あの凶酸攻撃の正体だ。


逆に、速度を乗せなければ闇の魔力はそこに停滞する。

その特性を活かして任意の座標に固定することも指定出来る。

広大に広がりゆく範囲という特性にしても逆に制限し、さらに狭める、圧縮する方向に操作すれば、凝縮された闇魔力は強靭な硬さを得ることだって、強力な腐食機能を追加することだって出来る。


今キマイラアグリゲートは

全力の闇魔力を、速度を付与せずに自身を座標としてその前方に指定し、固定した。

範囲を捨て爪を依代として圧縮、排出。

斬撃型、つまり三日月状に凝縮して形成し、それをさらに交差させて置くことにより、計6条、黒い三日月で出来た網を張った。

キマイラアグリゲートは斬撃と腐食の性能を併せ持つ強固かつ攻撃的な結界として闇の魔力を展開したのだった。


狂える精神を凌駕する凶悪な防衛本能。

最適解を導き出す。


かくして雄字が絞り出した白い最善なる一の太刀と、それに合わせてキマイラが捻り出した黒い最適なる六条の三日月が、激突した。





剣撃と爪撃。

拮抗するその境界線上、魔力と魔力の闘争に巻き込まれた空間が悲鳴を上げた。永く。

大剣から狂ったように溢れ出る光。

爪撃から狂ったように漏れ出る闇。

光と闇という相克がまたたく間に両者の目に映る世界を席巻して

いく。

白と黒の色彩は混じり合わずにせめぎ合う。

そして膨大過ぎる魔力がノイズとなり

もはや互いの姿も、匂いも、魔力も、存在すら判別できなくして自分達が世界に溶け込んだかと錯覚させる。



永遠を思わす数瞬のち



キマイラアグリゲートの狂気に割って入る物があった。



それは戦慄。



この闇の爪撃を覚えてより今まで、この(わざ)で数々の危機を乗り越えてきた。


で、あるのに。戦慄。恐慌。

全ての感覚を狂わす魔力ノイズの奔流に晒される中、辛うじてだが感知してしまった。


不完全な発動であるとはいえ、キマイラアグリゲートにとって絶対の自信を持つこの闇の業に、雄字の大剣が食い込み、亀裂を生じさるのを。



マサカ、ヤブラレルトイウノカ。マサカ、クラオウトイウノカ。



アリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイありエなイアリえナいありえないありえないありえないありえない在り得ない!



戦慄に圧され、狂気が弱まる。

狂気ぎ収まった分、少しばかりの正気を取り戻す。

中途半端な正気はキマイラアグリゲートに混乱をもたらした。

それでもとキマイラアグリゲートは慌てて足掻く。

足掻きながら回顧する。そして拙くも分析を試みる。








住処とする森の最深部、その境界近くで、血の匂いを嗅ぎ、狂った。

そして嗅いだこともない、美味そうな肉の匂いに更に狂った。


血痕を辿った。

それが途切れればあの肉の香りを伝い、それさえ消えた時は魔力の痕跡を辿り……


来てみれば、この森で遭遇しことがない三体の生き物がいた。今まで喰らってきたどの二足歩行とも違う種属。

何やら不思議な力を使い身を護る。

どうやら自分を傷付けることも出来るらしい。

だが自分に対抗し得るとは感じなかった。

脆弱にすぎる。そう感じた。

敵にはなりえない。そう信じていたのだ。


だがその動きは思いの外速く、攻撃は多彩で重厚。

何度か不意を突かれ、肉体を多いに刻まれた。

だがそれでも我が命には届かない。

最後に喰らう側であるのは自分なのだと

この生き物は所詮、餌でしかないのだと。

本能はそう、告げていた。


だが。


その本能が今や叫んでいる。


この攻撃は危険。危険、危険!危険!!危険!!!

危険危険危険危険危険危険キケン危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険きけん危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険!!!!!!

認める!確認した!この生き物は餌ではない!



  敵だ!しかも、恐るべき!



キマイラアグリゲートはひび割れた砕かれようとする黒の爪撃を再生しようと、さらなる魔力を注ぎ込む。


一瞬、ひび割れた箇所がボコボコと泡立ちながら再生し雄字の大剣を押し返そうとしたが、


それは、無駄な足掻きだった。


大剣の侵攻は止まらない。

再生するならコチラはもう一度再現するだけだとばかりに、大剣は再び爪撃に食い込み、新たに亀裂を走らせ、それに満足せず、最終目標であるキマイラアグリゲートの命にむけて侵攻する。


バギン!


遂に雄字の剣は三日月の一つを破壊した。

破壊され飛び散る黒い破片が雄字の裸体を切り刻む。

だが雄字は意に介さない。

防衛に回すはずの魔力も全て、この一の太刀に注ぎ込んでいた。傷付くことは予測の範囲内だ。


バリイン!!


次は二つ同時に破壊する。残る三日月は3つ。

やはりそれらの破片達に刻まれる。

破壊した数が二倍なら雄字に刻まれる傷も二倍になる。

もはや血ダルマと化した雄字に向けて





「「「「ギュジャアェアアアアアア!!」」」」




絶叫を浴びせるキマイラアグリゲート。

その見た目に反し、今まで声らしい声を発しなかったキマイラアグリゲートが。

顔面に貼りつく全ての口が大きく開け放たれ発せられ一塊となったその音は物理的威力をすら伴う。

雄字の肉体と精神を揺さぶらんと音の暴力が打ち付けられる。


【嚇声】とは

対象の精神と肉体に異常を発生させるべく声に魔力を乗せ打ち付ける魔物特有のスキルだ。

この【嚇声】もキマイラアグリゲートの切り札の一つであったのだろう。

だから、このスキルを発動するまではと、今まであえて声を発することを封印していたのだ。



嚇声を受けた雄字。その頭髪は千切れ飛ばんばかりに後方へと逆立ち、その身体は、前面を中心にして全体へと波紋が広がるようにして皮膚と肉を波打たせた。

その際には身体全体に刻まれた傷口から大量の血が吹き出したはずだ。

しかしそれも白黒の魔力ノイズに阻まれたため、両者の感知下に映らない。


いや。

もはや雄字の眼にはキマイラアグリゲートの命しか映っていない。身体中の細胞、精神、その中心にある魂、それら全てフル動員して見るは、キマイラアグリゲートの命だけ。

破片による裂傷も、嚇声による出血も、構えていた無我で丸々と飲み込んで雄字は推し進む。

もはや雄字は剣を振り抜くだけ、

ただそれ一つのみをするためだけに生まれ、生きる獣と化していた。




その獣が叫ぶ。




()おおおオォおォおォぉ雄雄ぉおォオおォおぉぉ雄おぉオォォォォおおおオおおお!!!!!!!!!」



バリィイイイイィィィィィィィン!!!



  壊通。



残りの爪撃も全て斬り捨て、遂に、



   遂に。



 大剣は、遂に、振り抜かれた。








  大剣は










確かに振り抜かれた。








振り抜かれたが、しかし、


キマイラアグリゲートは



両断されずそこにいる。


死なず、無事な姿で。


いや、無事ではない。


脇腹から腹部中心にかけての大きな裂傷がまた開いている。


大量の臓物を垂れ流している。


それが落下により受ける風圧ににまかせ、宙空にはためいている。


だが、生きていた。




雄字の剣は届かなかった。




キマイラアグリゲートの命どころか

その身体にも触れられずに空振っていた。


そのまま、


互いにもつれ合いながら地へと落下していく


一人と一匹。


もつれ合う中、

落下していく中、

一匹の巨大な顔面には新たな三日月が。


キマイラアグリゲートの大口は、嗤っていた。


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