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アルシュタット王国

「ここがアルシュタット王国の冒険者ギルドか。」


 初めてこの国のギルドに来たが、なかなか人が多くて賑やかな良いギルドだ。気に入った。


 ギルドは掲示板に仕事の依頼票が貼っており、それを受付に持っていって仕事を受注する。顧客との信頼度が高い冒険者は受付に行くと直接の指名されていることもある。


 まあ、この国では仕事は初めてだし、S級といえどもさほど知られていないだろう。冒険者ランクは平民であればF級スタートで、貴族であれば魔力量にしたがってA級からC級に分けられる。貴族と平民には厳然たる才能の壁が存在する。平民はA級が成長限界とされている。しかし、貴族にはさらに上のS級が存在し、世界に数人いるSS級とSSS級は一騎当千の精鋭であるとされる。貴族は趣味で冒険者のバイトをすることがあるが、平民の場合は命がけで依頼をこなす。悲しいことに、どれだけ平民が努力をしたところで貴族の力を上回ることはできない。生まれながらの血統がすべてを決してしまう。


 私は週に1回ほどのペースでもS級になれたので、本気を出せばSSS級になれるのではないかという希望を抱いている。SSS級は歴史の教科書に名を残すことができ、別名「勇者」と呼ばれる。その権力は絶大であり、女神の祝福だの伝説の剣だの最強といった様々な逸話が作り出され、吟遊詩人によって後世にまで名前が伝わる。私はそもそもは王妃ではなくて勇者になりたかったのだ。スレイン様の件は、色々と後味が悪い結果になってしまったが、彼は自ら婚約を破棄したし、私に責任はない。


 この先、私は全力を出して勇者を目指す。伝説のドラゴンや邪神を滅ぼし、必ずなってみせるのだ。


 まずは依頼表の中から難易度の高い依頼を見つけ出し、受付に持っていく。タイガー盗賊団の討伐の依頼があったので、肩慣らしに受けることにした。


「すみません、こちらの依頼を受けます。」


 琥珀色の目を持つ亜麻色の髪をしたスリムな女性が受付をしていた。見た目からすると平民ではなく貴族のお嬢さんがバイトをしているように見える。そこそこいい魔力だ。魔力の質が良い人は貴族が多い。まあ、どうでもいいことだ。


「何名様で依頼を受注しますか。」


 この質問は毎度私のメンタルをブレイクしに来ている。


「一人です。」


 落ち着いて答える。私は孤高のソロ冒険者だ。


「一人と言いましたか?」


 怪訝そうな顔で見るな。ぼっちの冒険者だっているんだ。


「お一人様ですが、何か?」


 一人で何が悪い。


「ふざけているのですか?これは一人でこなせるような依頼ではありません。出直してください。」


「ふざけているのはあなたです。私からすればこの程度の依頼は大したことないです。」


「おい、今の聞いたか?かなりのお馬鹿さんがここにいるぜ?」


 後ろから私のことを嘲笑う3人組のチンピラがやってきた。


「てめえは随分とビッグマウスだな。仲間もいない癖に態度がでかいじゃねぇか」


 いかにも弱そうな3人組だ。おそらく新人潰しだろうな。私の体の線が細いから舐めているのだろう。


「お前を少し可愛がってやるぜ、ついて来な。」


 親指でくいくいとドアの方を指している。私をぼこぼこにして金を巻き上げる魂胆だろう。冒険者は素性の知れない者も多く、犯罪に巻き込まれても国の兵士も動かない。冒険者同士のいざござは殺人以外は一切国は関与しない。


 弱肉強食の世界。だからこそ、思う存分暴れることができる。今の私は貴族の令嬢ではなく、冒険者だ。冒険者の私は感情に蓋をしない。


「悪いがお前のような醜男に用はない。失せろ。」


 かかってこい。見せしめにしてやる。


「調子に乗るなよ三下!」


 いきなり殴りかかってくるが、私は軽く手をかざして無詠唱魔術で目の前を爆発させる。


「あついあついあつい!」


 髪の毛が燃え、熱さに悶えている。地面に転がって見苦しく三人の大人が転がっていたので、大気の水分を魔法で実体化させて鎮火してやった。


「てめえ、よくもやってくれたな。まあ、今日のところは見逃してやる。」


 がっかりだ。弱すぎて話にならない。この程度では私がすごいかどうかさっぱり周りに伝わらない。この国で私の勇名を轟かせねばならんな。まあ、それは次の機会に考えよう。


「腕の一本でも貰おうかしら?」


 剣を取りだし、既に負け犬の面をした三下に剣を突きつける。私の国では強盗の腕を切り取るのは量刑としてはむしろ甘い。強盗は死罪でもおかしくはない。私は甘いな。


「許してくれ、すまなかった。」


 泣きながら許しを請われても、私は一度決めたことを変えるつもりはない。


 量刑通り、正当な裁きをこの場で下す。


「貴方はいままで許しを請われた時に助けたのかしらね?」


「え?」


 私は剣を振り下ろし、彼らの片腕を次々と切り落とした。ギルド内はこの光景に沈黙し、唖然としていた。


「ぎゃぁぁぁ」

「ぎゃぁぁぁ」

「あああああ」


 口ほどにもない。フェリア家の精鋭部隊であれば治癒魔法で傷口をふさぎ、そのまま逆襲してくるだろう。そして、私であれば腕を再生させて、隙を見せた相手に切りかかる。


 私は雑魚のことは忘れて、受付に向かった。


「任務を受けたいのだけれど、本当に断って良いのか?」


 私は機嫌が悪い。この令嬢に敬語は使わない。


「え、は、は、」


 口をパクパクさせて、応答がない。


「質問に答えろ。てめえの脳ミソ大丈夫か?」


 ヘルメットを着けているときの私は生粋の冒険者だ。口が悪くなる。それに、好戦的だ。私は受付嬢の頭を撫でて、魔法を行使する。そして、洗脳魔法で望む答えを喋らせる。


「申し訳ございません。是非とも任務を受注してください。」


 この受付嬢は私の実力も見抜けないし、人を不快にさせるダメな受付だ。人事異動だな。


「ギルドマスターに伝えろ、S級冒険者がこの町にやってきたとな。」


 私はそのままギルドを出て、盗賊討伐に出掛けた。と見せかけて、ギルド内に使い魔を飛ばして盗聴し、冒険者としての私を知るものがいないかチェックした。


「おい、あれは誰なんだ?小便をチビったじゃねえか。」

「思い出したぞ。あいつは、鮮血の虐殺騎士(ジェノサイドナイト)の異名を持つS級の化け物だ。奴の正体は一説には人の肉を食らう魔物であるとも言われている。」


 ギルド内で私のことを知るものが口を開き、周囲に私がS級であることも伝えた。もっと早く言っておけば、無駄な犠牲は出なかったのに、残念だ。


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